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年末特別座談会!2010年US HIP HOPシーンを振り返る(前編)

昨年に続き、今年も2010年のUS HIP HOPシーンを振り返る特別座談会を敢行!座談会参加者で選んだ2010年トップ10アルバム/ミックステープも併せて掲載されていますので、買い逃がし盤があったら今すぐゲトるべし!

談:小林雅明/高橋芳朗/渡辺志保/伊藤雄介(Amebreak)
文:高橋芳朗

Amebreak 2010 US HIP HOP TOP 10 BEST ALBUMS & MIXTAPES
(選:小林雅明/高橋芳朗/渡辺志保/伊藤雄介)

01.「MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY」/KANYE WEST
02.「SIR LUCIOUS LEFT FOOT」/BIG BOI
03.「THANK ME LATER」/DRAKE
04.「TEFLON DON」/RICK ROSS
05.「FLOCKAVELI」/WAKA FLOCKA FLAME
06.「PILOT TALK」/CURREN$Y
07.「KUSH & OJ」/WIZ KHALIFA(MIXTAPE)
08.「HOW I GOT OVER」/THE ROOTS
09.「THE STIMULUS PACKAGE」/FREEWAY & JAKE ONE
10.「ALBUM OF THE YEAR」/BLACK MILK
 

伊藤「全体的な印象として、2010年のUS HIP HOPはどうでしたか?」

小林「盛り上がりましたよ。いろんなものが出てきて、ますます面白くなってきた」

伊藤「2010年のリリースをリストアップしていくと、なんか地味な印象もあるんですけどね……それはここ数年そうなのかもしれませんが」

高橋「cocaineblunts.comの“BEST RAP 2010”なんかはわりと平均的なセレクションだと思うんだけど、これを眺めてると楽しい一年だったなって気はするかな?」

渡辺「こうしたウェブサイト発のヒットとは別に、クラブ・ヒットやビルボードのチャートはどんどん差が開いているように感じました。フリーのダウンロードなんてセールス・チャートには全く加味されませんし。だから、ヒットの矛先が見えなくなってきたっていうのは雑感としてはありますかね」

伊藤「DRAKEとかKANYE WESTとかEMINEMとか、チャート上で成功を収めてるアーティストに関しては、もうHIP HOPってことで聴かれてないような気がしますね。まあ、良い悪いじゃなくて」

小林「極端に言うと、ポップ・ミュージックという大きな枠で手に取られたのがかつてはHIP HOPと呼ばれていたものだった、みたいなね」

伊藤「そうそうそう。そういう感じじゃないですか?」

渡辺「NICKI MINAJのブレイクなんかはまさにそういう感じですよね」

高橋「やっぱりさ、VADOの『SLIME FLU』とか話題になってるようでぜんぜん売れてなかったりするんだよな。それはCURREN$Yの『PILOT TALK』にしてもそう。BILLBOARDチャートでも100位以下なんだよね」

伊藤「うーん、なにが流行ってるのかわかりづらいっていうか……」

小林「CDの売り上げ自体がダウンしてるわけだから、チャートを基準になにかを考えることができなくなってきてるのかもしれない」

伊藤「所謂洋楽リスナー的な視点で聴いてるHIP HOPリスナーは、下手したらKANYEやDRAKEみたいなどメジャーな人しか聴いてないかもしれませんよね」

高橋「でも、さっきのcocaineblunts.comのチャートを見ても、2010年は比較的みんな見ていたところが似ていたような印象はあるけどね。実際、このAmebreakの年間ベスト・チャートも10枚中9枚は3人が挙手したアルバムなわけだしさ」

「MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY」
KANYE WEST

伊藤「確かに。KANYEの1位もすんなり決まりましたからね。みなさん、そんなにKANYEのアルバム好きですか?もうHIP HOPがどうのって世界でもなくなってきてるっていうか」

渡辺「アルバムに対しての愛はすごく感じましたね」

伊藤「あー、パッケージで出す意味のあるアルバムって感じはするよね。意味づけを無理矢理してるようなところもあるけど。アルバムの神格化っていうか」

渡辺「曲数や収録時間もわりとタイトでしたよね」

伊藤「でも、HIP HOPアルバムの全体的な傾向からすると曲数は少なくなってるんじゃないの?」

小林「音に統一感のあるアルバムが多かったね。特にここで選んだ10枚はその傾向が強いかな。そういうところでは共通点があると言えるよね。いろんなプロデューサーを入れて全方位型のアルバムをつくるようなことはやらなくなってきた」

伊藤「確かに。一枚でひとつのムード、みたいな。90年代のバブルの頃のアルバムの作り方と全然違いますよね」

高橋「P.DIDDY/DIRTY MONEYの『LAST TRAIN TO PARIS』は最近のトレンドの音からさらに一歩踏み込んだようなところがあったけど、あれも統一感のある作りだったな」

伊藤「話をKANYEに戻しましょう。『MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY』をHIP HOPアルバムとして高く評価するならどういうところなのか、という」

渡辺「ラップに焦点を置くなら『LATE REGISTRATION』以降で一番良かったんじゃないですかね」

小林「意味不明なところも多々あるけどね」

高橋「“DARK FANTASY”のRZAのループとMIKE OLDFIELDのコンビネーションとか、“RUNAWAY”のピアノとMPCとか、音楽的強度を高めながらもHIP HOPのいびつさはちゃんとキープしてると思ったけどね。最後の“WHO WILL SURVIVE IN AMERICA”で結論をすべてGIL SCOTT-HERONのサンプリングに言わせたりするのもHIP HOP的なカッコ良さだと思うし」

小林「いびつさを維持したまま、ほかのジャンルに入り込んでいこうとしている感じもある。越境というか突破というか」

伊藤「そういった意味ではHIP HOP的な軸は失ってないですよね……話題性と商業的成功が両立したアルバムとしては、KANYEの他だとEMINEM『RECOVERY』、DRAKE『THANK ME LATER』、NICKI MINAJ『PINK FRIDAY』、RICK ROSS『TEFLON DON』、B.O.B『THE ADVENTURES OF BOBBY RAY』あたりですかね。こうして見ると、RICK ROSSのアルバムがやけに硬派なHIP HOPアルバムに思えてくる……」

渡辺「硬派っていうか派手ですよね。ギラついてるっていうか……」

「TEFLON DON」/RICK ROSS

渡辺「ある意味、90年代後期のHIP HOPを今やってるのがRICK ROSS……」

伊藤「バブルをひきずってるとも言える……景気良いねー!って言えるアルバムはRICK ROSSぐらいだもんな」

高橋「でもRICK ROSSはよくここまで上がってきたよね」

伊藤「50 CENTのネガティヴ・キャンペーンを乗り越えた唯一のラッパーかも」

小林「デビュー当時からやり方を決めてたのかもしれないよね。全部借り物のイメージだけど、常にリアルだって言い続けるっていう」

伊藤「意外とそれでリスナーはオッケーなんですよね」

高橋「そうなんだよ。普通だったらさ、看守時代の写真が出回った時点でアウトでしょ。でも、この人のキャリアはむしろそこから上がってきてるからね。だから、YOUNG JEEZYなんかは本当にこの状況が面白くないだろうね。あれで“B.M.F.”みたいな曲出して支持されたらたまったもんじゃないよ」

小林「俺のほうがBIG MEECHと仲良かったのに!って思ってるでしょ」

高橋「お前らなにを聴いてるんだよ!って感じなんじゃないかな。だから、そういうRICK ROSSみたいな人が今一番イケてるラッパーになってるっていうのはすごいことだよね」

小林「RICK ROSSは、昔に白人層がギャングスタ・ラップにイメージしていた黒人像を体現してるようなところもあるかもね」

伊藤「だけど歌ってる内容はディープじゃないんですよね。『TEFLON DON』はギャンスタ・ラップとして聴くと薄い」

渡辺「だけどそれがいいんじゃないですか?DIDDYが後ろ盾にいるっていうのもうまく作用してると思うし」

伊藤「そうなんだろうね。ラジオ・フレンドリーというか」

小林「そうやってネガティヴなこと言われても頑張ってるのはWAKA FLOCKA FLAMEもそうでしょ」

高橋「あー、OFWGKTA(LAのHIP HOPクルー。ミックステープ・アルバムや数々のYouTube動画で2010年大きな注目を集めた)のTYLERが『I LOVE WAKA FLOCKA. I HAVE FANS THAT HATE HIM, AND LOVE "REAL HIP HOP". I HATE THEM』ってツイートしてましたよ。こういう議論は結構行われてるみたいですね」

渡辺HIPHOPDXのアワードでもちょっと揶揄されてましたよね」

伊藤「そういった意味では、WIZ KHALIFAやCURREN$Yはオタクからもストリートからもバランスよく支持されてたんじゃないですかね。あと、EMINEMの『RECOVERY』は海外のHIP HOPサイトの年間ベスト選では軒並み上位にランクインしてますけど、Amebreakのチャートには入りませんでしたよね?2009年の『RELAPSE』は高評価だったのに、あれだけ売れた『RECOVERY』が入っていないのは何故なんでしょう?」

渡辺「簡単に言ってしまうと、毒が抜けてしまっている……」

伊藤「まあ、『RECOVERY』ってぐらいだからね」

小林「なんで『RECOVERY』がイマイチに聴こえてしまうかというと、そのあとでまたSLIM SHADYキャラでラップしてたりするからなんだよ。NICKI MINAJの“ROMAN'S REVENGE”とかね。『RECOVERY』の後に録った曲は、前のEMINEMに戻ってるところがあるからさ」

渡辺「リード・シングルになった"NOT AFRAID"に顕著な様に、メッセージ性は彼のアルバムの中でもかなり強かったほうだと思いますけど」

伊藤「なんか良いことを言いたいんだろうね……でも『RECOVERY』は本当にスタジアム・ロックならぬスタジアムHIP HOPっていうか、アリーナで合唱するような曲が多いですよね。JAY-Zの『THE BLUEPRINT 3』も曲によってはそういうところがあったと思うんですけど、向いてる方向は近いかなと」

小林「『RELAPSE』はスタジアムで合唱できないもんね」

伊藤「保守的なHIP HOPファンの意見かもしれないけど、JAY-Zの今年のSUMMER SONICのライヴとか観ていると、ああいう場ではHIP HOPで押し通すことをあきらめちゃってるような気がしちゃうんですよ。やってる曲はともかく、アピールの仕方が。『THE BLACK ALBUM』のときの引退コンサートぐらいまでは、まだそのへんのこだわりがあったと思うんですけどね。今のJAY-ZやEMINEMを見ていると、もう受けるのならロックになっちゃってもいいやって感じがうかがえるんですよ」

高橋「もう曲の作り方がそうだもんね。EMINEMだったらBLACK SABBATHネタの“GOING THROUGH CHANGES”とかがそうだし、JAY-Zだったら“EMPIRE STATE OF MIND”なんて典型的なスタジアムHIP HOPだよね。JAY-Zは2009年のグラストンベリーのヘッドライナーを務めたときがひとつのターニングポイントになってるんじゃないかな?U2の“SUNDY BLOODY SUNDAY”のビートでラップしたりさ」

伊藤「それ、SUMMER SONICでもやってましたよね。あれは複雑な心境で聴いてたんですけど……そういえばKID CUDIもバンドでしたよね? あ、B.O.Bもそうか。ライヴで稼ごうっていう今の音楽業界の風潮に音楽の内容自体が寄り添っていってるっていう。それが良いか悪いかはともかくとして、そういうのを前提とした音作りになってる気もしますよね」

高橋「B.O.Bはミックステープとアルバムで露骨にスタイルが違うからな。それでこないだ出したミックステープのタイトルが『NO GENRE』」

小林「あれはミックステープの内容じゃなくて、自分のデビュー・アルバムに対して言ってるっていうのが変だった」

「PINK FRIDAY」/NICKI MINAJ

伊藤「あと2010年を象徴するアーティストっていうと……NICKI MINAJ?」

渡辺「輸入盤だけですでに数万枚売れてるらしいですね」

高橋「それは立派な数字だよね」

渡辺「NICKIの『PINK FRIDAY』に関しては、ラップが上手いのが伝わりにくいアルバムになってしまったのは残念でしたね」

小林「“ROMAN'S REVENGE”みたいな曲が他になかったからね。先にアレを聴いてしまうと、どんなのが出てくるのか期待しちゃうから」

高橋「KANYEの“MONSTER”のヴァースも然りですよね。

渡辺「でも女性ラッパーでこれだけ売れた例はもうずっといなかったし、シーンを押し広げたって意味では評価したいんですけど。ここまで同性にアピールした女性ラッパーはいなかったわけですし」

伊藤「日本は分かんないけど、やっぱりアメリカでは女の子が支持してるのかな?」

高橋「ググってみればわかるけど、私設ファンサイトみたいなのがいっぱいあるんだよ」

伊藤「あんなジャケットのアルバムをゲットーの黒人男性が買ってるのはあんまりイメージできないですもんね。ハナからターゲットが違うっていうか、白人の女の子とかが聴いてるんだろうな」

小林「でも、ポップポップって言われてるわりにはポップ・アルバムとして中途半端な気がしちゃうんだよね」

伊藤「それはNICKIがまだアーティストとして完成されてないところなんじゃないですかね……彼女ってDRAKEみたいにプロダクション・パートナーがいるんでしたっけ?」

高橋「現状いないね」

伊藤「そう考えると、好みは置いておいても、DRAKEの『THANK ME LATER』はデビュー・アルバムなのにすごいちゃんと作ったなーって思うんですよね。最初のアルバムであんなに落ち着いた感じで作れたのは立派だな、と」

高橋「まあ、あのトーンは『SO FAR GONE』の流れを汲んだものなんだけどね」

渡辺「レコード会社的にはもっと色をつけたかったんじゃないかなって思うんですけど」

高橋「1曲目、“FIREWORKS”だっけ?新人ラッパーのデビュー・アルバムであんな曲で始まるのはちょっと異例だよね。だっていきなり浸っちゃってるんだからさ。デビュー・アルバムのど頭から感傷にふけてる新人ラッパーって!」

「FLOCKAVELI」/WAKA FLOCKA FLAME

伊藤「確かにそうですよね。あと、チャートで活躍したラッパーでめぼしいところだと……さっきもちょっと話題になったWAKA FLOCKA FLAME」

小林「『FLOCKAVELI』は狂った良いアルバムでしたよ。あのエネルギーは一体どこから出てきたんだっていう。まあ、ギャングスタ・ラップの新しい形って言っていいと思うんだけどね。てか、ポストLIL JON時代のクランクって感じ!」

渡辺「“O LET'S DO IT”は2010年上半期の一番のクラブ・バンガーだって言われてましたよね」

小林「でもあれって踊れるの?」

高橋「踊るというよりは騒ぐって感じじゃないですか?それは“HARD IN DA PAINT”なんかも含めて。そういった意味ではLEX LUGERの曲は誰でも盛り上がりやすいのかもね」

渡辺「BRICK SQUADはこれからどうなっていくんでしょうかね?」

高橋「GUCCI MANEの『THE APPEAL: GEORGIA'S MOST WANTED』のなんともテキトーな出し方はなんなんですかね?それはLIL WAYNEの『I AM NOT A HUMAN BEING』にも同じことが言えるのかもしれないけど」

小林「とりあえずこのへんで出しておくかって感じがあるよね」

渡辺「出所直後っていうのもあるんですかね?」

高橋「もちろんもちろん。にしても……ねぇ?」

小林「LIL WAYNEのスキル的な部分での手抜きはないんだけどね。ただ、アルバムとしてああいう形であのタイミングで出してどうするんだって印象はある。GUCCIのあのアルバムも明らかにミックステープの『MR. ZONE 6』をベースにして作ってるし」

高橋「GUCCIはこのあともずっとこういうペースでやっていくのかもな」

小林「うん、もしかしたらそうかもしれない」

伊藤「でもLIL WAYNEのアルバムに関しては“つなぎ“のアルバムであることをみんな認識しているようなところがあるじゃないですか」

高橋「まあね。ただアルバムをクッションとして普通に使ってくるのってすごくない?」

渡辺「もう感覚的にはミックステープと代わらない?」

高橋「あのアルバムに関してはそんな感じなんだろうね。もちろん『THA CARTER IV』はもっと作り込んでくるんだろうけど」

伊藤「本当の勝ち組のひとたちはそういう使い分けが出来るということですね」

小林「逆にYOUNG JEEZYなんかはアルバムを出すタイミングが分からなくなってきちゃってるんだろうね。早く次のアルバムを出したいんだけど、様子見るためにミックステープたくさん出してる感じでしょ」

高橋「“LOSE MY MIND”は全米R&B/HIP HOP年間チャートで19位となかなか健闘したんですけどね。それだけのヒット曲を出しているのにアルバムに繋げられなかった……」

小林「方向性に迷ってるんでしょ」

渡辺「2010年5月に出したMALCOLM Xみたいなジャケットのミックステープ『TRAP OR DIE 2』はシリアスな内容でしたよね」

伊藤「でもシリアス路線で勝負するのもなんかねぇ。どんどん出しづらくなってきてるような……」