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RHYME RIGHT!!! -US HIP HOPリリック大解剖特別編 - 2012年パンチライン10選

文:小林雅明

“GIMME MONEY feat. NICKI MINAJ”/ESTER DEAN


“Lobster sushi rolls with a side of soy sauce
Chopsticks, you know we don't give a fork"
(お寿司のロブスター・ロールには、醤油とお箸、フォークじゃないよ)--NICKI MINAJ

 いやあ、ニッキー、こういうベタなギャグ、好きですなあ。昔から地道にやっていたし……もちろん、寿司はフォークではなく箸を使って食べるのが一般的。ただ、彼女の本音はこうだったのだろう。「そんなの関係ないわ=I don't give a ファック」。フォークだって構わないでしょ。ファックをフォークに置き換えても……。
 
 
“EAT YOUR VEGETABLES”/CHILDISH GAMBINO


“Baby drinking Goya, girl put your shades on/ Man, I die for my hood -- Trayvon,”
(赤ん坊が飲むゴヤ、ギャルがかけるサングラス、オレは自分のhoodのせいで死ね、トレイヴォン)

 
 旬な話題を巧みにライムに組み込むセンスも、ラッパーには求められる。ただ、GAMBINOがいくらテクニシャンとは言え、これは非常識だ。Trayvonとは、今年の二月、フロリダで自称自警団員のジョージ・ジマーマンに、フードをすっぽりかぶっていたことから「怪しい」とにらまれ、追跡され、もみあいになったすえ、“正当防衛”を理由に彼に射殺されてしまった当時17歳のトレイヴォン・マーティンのこと。そこから、フードをかぶった、“hood on”のまま、フードのせいで“for my hood”死んでしまったTrayvonということで、前の“shades on”とは敢えて普通に韻を踏まずに、ハッシュタグ・ラップのスタイルを応用して(本来なら入るべきlikeを言わず、かわりに一呼吸おく)、“I die for my hood -- Trayvon”としている。“for my hood”からは、結果的に、彼がフッドのせいで死んでしまった、というニュアンスも受け取れる。ライムの技術以上に複雑な思いにかられるパンチラインだ。
 
 
“WILD BOY (REMIX)”/MGK feat. 2 CHAINZ, MEEK MILL, MYSTIKAL, FRENCH MONTANA, YO GOTTI & STEVE-O

“Yeah bitch, yeah bitch, call me 2-Chainz
Eat your girl, wear my necklace, call it food chain”

(イエー、ビッチ、イエー、ビッチ、俺の名を呼んでくれ、2 CHAINZと
食っちまうぜ、お前のオンナ、俺のネックレスをつけさせて、呼んでやる、フード・チェーンと)--2 CHAINZ
 
 バカですねえ~、2 CHAINZ。と思わず口をついて出てきそうになるほど、ナンセンス。自分の名前が2 CHAINZだし、チェーンをつけたオンナを食い物にするから、フード・チェーン(食物連鎖)、なのだと。他にも、”She got a big booty so I call her Big Booty”とか、裏読みも何もできない、というか、裏読みする余地を与えないほど、ひねりがないような、あまりにベタ過ぎるライムがウケている。例えば、PUSHA Tは、KANYE WESTと共演する際、たびたび、とにかくアホなライムで頼む、とリクエストを出されたという。今年に入ってから、KANYEが2 CHAINZと共演を重ねている理由も、このあたりにありそうだ。
 
 
“SOULSTICE 4”/SOUL KHAN

“Let me elevate how the modern dude raps
All I need is one bar like "Allahu ak-"”
(俺が今どきの連中のラップのレヴェルを上げてやるよ
1小節もらえれば十分、偉大なる神となる)

 
 日本語で平易な言葉で訳出してみると、なんということはないように見える。が、ここで注目すべき言葉は“one bar”である。もちろん、”1小節”という意味がある。ちなみに、ここで取り上げたラインは全てのヴァースの一番最後の部分に当たり、この曲では最後の“アラウーアク(Allahu ak-)”という部分にエコーがかけられ、リスナーの印象に残るようになっている。ところが、Allahu ak-などという言い回しは存在しない。あるのは、アラビア語の“Allahu akbar”(神は偉大なり)だけだ。つまり、SOUL KHANが、Allahu ak-に「barという単語ひとつ」=one barを加えるだけで、今どきのラッパー連中よりも高い位置にバーが上がり、と同時に、ラップの神としてますます偉大な存在になるというわけである。そこでone barだけあれば他はいらない、とライムしているわけである。
 
 
“BET "THE BACKROOM" FREESTYLE”/KENDRICK LAMAR

“I walk down the street with no heat and run into beef when I'm just a vegan
Reeking the scent of a saint -- sinner smell it, then start squeezing"
(丸腰で歩くストリートで遭遇するビーフ、だが、俺はヴィーガン
聖人の香りを放ち、その悪臭を嗅いだ罪人たちは、その場で、引き金を引き始める)

 出歩くときは必ず銃を持つのが常識とされるようなコンプトン。KENDRICK LAMARはそこで生まれ育ったのだが、銃も持たず、ビーフ/牛肉に目もくれない。そんな自分を、まるで植物性の食品しか摂取しないヴィーガンに喩えている。そして、この先のラインでの彼の佇まいは、神々しささえ漂わせているのだが、注目すべきは、言葉の選び方だ。ライン全体を通じてsで始まる単語ばかりを連ねているのである。ちなみに、このラインの直前に“A good kid in a mad city, slightly annoyed”(いかれた街の善良な子供、ちょっとウザい存在)とあり、2012年を代表する傑作アルバムの内容とも呼応している。そのアルバム収録曲は曲単位はもちろんリリックのライン単位でも、相互に複雑に結びついていて、容易にパンチラインを抜き出すことができないほどであることも付け加えておきたい。
 
 
“OTIS FREESTYLE”/RIFF RAFF


“I live the life of a Tampax tampon
Go to sleep leave the lights on”
(俺の人生は、タンパックス・タンポンの一生/寝るときは灯りをつけたまま)”

 
  いきなり、こう言われても?????それならばと言って、この前後のラインをつなげて考え直しても?の数は増えるだけだろう。一応、直前のラインにTrackとかAmtracksが出てくるため、閃いたのがTampaxなのだろうし、そこからtamponとlights onで押韻……いずれにしても、果たしてコレはまったく無意味なのか否か。そのギリギリのところでパンチラインが出てくれば上出来、とばかりに、口から出まかせ勝負でひたすらライムし続ける(よって、新録がひっきりなしに発表されている)のが、RIFF RAFFのスタイルなのだ。一応、ここでのニュアンスは「タンポンのようにオンナの中に入って(は棄てられ)るのが彼の日常、ついでに、暗くしないでそうする主義」といったところか。奇抜なルックス以上に、シュールな言語感覚を、はてしなく披瀝している。
 
 
“BITCH BAD”/LUPE FIASCO

"But bitch still bad to her if you say it the wrong way
But she think she a bitch, what a double entendre"
(bitchって表現は、彼女にとってはいまだにbad な意味になる、使い方を間違えた途端に。
それなのに、彼女は、彼女のことをbitchだと思ってる、ひどいダブル・アンタンドルだな)

 
 まず、ダブル・アンタンドルとは、ラップのテクニックを表わす専門用語で、いわゆるダブル・ミーニングを持たせたライムを綴る手法のこと。LUPEは、この曲では、bitchの使用法を分析しまくっているが、ここに出てくるタイトルにも含まれるbadに既に、相反する二つの意味がある。そこに来て、男性が考えるbadなbitchと、女性の憧れの対象である、特に男性R&Bスターが歌い描き、女性が憧れるようなbadな bitchは別物である。上のラインでは、何度も“彼女”という表現が出てくるが、例えば、母親の代と娘の代でも、bad なbitchの解釈が異なっている。つまり、ここでは、彼女を誰に設定するかによって、badもbitchも意味合いがまったく変わってしまう。そもそも、“bad bitch”という表現そのものが、ダブル・アンタンドルである上に、この言葉を考察しようとするだけで、様々なダブル・アンタンドルに出くわすわけで、そもそも、これは本質的にラップ・ソングで問題視するにはうってつけの題材、だというわけである。
 
 
“CARTOON AND CEREAL”/KENDRICK LAMAR feat. GUNPLAY

“Nobody can mute me/but I never said nobody can’t shoot me”
(誰も俺を黙らすことはできない/でも、俺を撃てないとは言ってないからな)--GUNPLAY

 
 ファースト・フードや安っぽいTV番組だけを摂取してると、体制の奴隷に成り下がるぞ、というのがこの曲の大きなテーマなので、共演のKENDRICK LAMAR主導の一曲と思われがちだ。確かに、破天荒な自分の凄さを「俺は人間LA暴動だ」などとライムしてしまうGUNPLAYに対しては、超ハイパーなイメージが強い。それが、ここではコカイン中毒上がりでもある元売人の彼の視点で、人権や(表現の)自由などについて切々とライムしている。その流れで出てくるのが、このラインだ。本当の自由などあるのか、と言わんばかりだ。もちろん彼を撃つのはストリートの人間に限らない。それは体制そのものであるかもしれない。そう捉えると、タイトルの“Cereal”には“See REAL”の含みもあるように思えてならない。こうした側面もあるのがGUNPLAYの強みだ。これは、間違いなく2012年を代表する一曲、傑作だと思う。
 
 
“9-24-11”/ACTION BRONSON

“Her name was Jeta from the former Yugoslavia
She grew a bush like a baby plant
Still I ate, just think of it as bucatini razor clams”
(彼女の名はイェータ、出身は旧ユーゴスラヴィア
彼女は繁みを育んでいた、植物を育てるように
それでも、俺は口に含んだ、考えてもみろよ、ブカティーニとマテガイだぜ)

 既に一部で知られているようにブロンジーノは元シェフ。そのため、彼のライムには、実に多彩な食材や料理の名称がたびたび引用される。となると、どうしても、食に関心のあるリスナーのほうが彼のリリックに親しみやすくなるのだが、生活に密着しているとも言えるし、他のラッパーとの決定的な違いにもなっている。例えば、ここに出てくるブカティーニはパスタの一種だが、ちょうどストローのように”穴"があいている。そして、マテガイは縦長の”貝”。で、彼女は繁みを育んでいた、つまり、毛の処理をしてない状態だ。それでも、彼が顔をうずめたのは、肉厚の身を持つ美味しそうな貝が口を開けるのを我慢できなかったからだろう……こういった想像力を働かせるラインを随所に盛り込んで聴かせるのが彼のラップの特徴のひとつだ。ちなみに、彼女が旧ユーゴ出身なのは、近隣の国アルバニアの人たちの血を、ブロンジーノ自身が引いているからだろう。
 
 
“CHUM”/EARL SWEATSHIRT


“Time lapse, bars rhymin' heart's bottomless pit
Was mobbin deep as 96 Havoc and Prodigy did”
(時が過ぎ去り、ライムで探る、心の中の底なしの落とし穴
猛然と深みに突き進む、96年にHAVOCとPRODIGYがしたように)

 
 一聴した段階で、振り子にまつわる様々なイメージがかきたてられた曲だが、どうやらエドガー・アラン・ポーの短編小説『落とし穴と振り子』に触発されて書かれたようだ。2ndヴァースの出だしにあたる、このラインでも落とし穴(pit)、や落下(lapse)、深さ、深みのイメージに満ち溢れている。EARLがリスペクトしてやまないHAVOKとPRODIGYの二人のコンビ名と96年当時の彼らの古典からも“深み(ディープ)”を取り出している。こうして彼が自分の心の奥底をのぞこうとしているのは、この曲の最大のテーマが、かつて、TYLER THE CREATORも取り上げた「父親の不在」であるからだろう。2012年も様々な曲が発表されたが、その中でも有数の、リリックのどこを切っても、濃くて、深い曲だといえる。