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2014年国産HIP HOP振り返り座談会(後編)

談:DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!/Mr. BEATS a.k.a. DJ CELORY/SEX山口/MC正社員(戦極MC BATTLE)/高木“JET”晋一郎/伊藤雄介(Amebreak)
文:高木“JET”晋一郎


【前編はコチラ

【2014年の“レーベル”ゲーム】
伊藤「2014年の大きなトピックとしては、複数のアーティストを抱える形のレーベルが多く登場したことだと思います。去年の座談会でも、R-RATEDやOYWM、DREAM BOYを例に、そういったレーベルの重要性については語られていて、ここ1〜2年のシーンを語る上でひとつのキーになっていると思います。今年は、avex傘下にANARCHY「NEW YANKEE」をリリースしたCLOUD 9 CLIQUE、Zeebra主宰のGRAND MASTER、レーベル自体は既存のモノでしたが、9sari groupとBLACK SWANが合流し、実質的に新レーベルとして動き出しました」
 
DJ CELORY「9sariとかGRAND MASTERって、個人で出来ることはほぼやり尽くした、やるべきことをやってきた経験のある人たちの集まりだと思うんだ。それは、アーティストもスタッフも」
 
伊藤「NOBU君が所属してて、今年は新加入メンバーの発表が話題を呼んだBCDMGも、業界での経験が長い人が多いですよね。NOBU君は、こういった流れが起きてきたのは何故だと思いますか?」
 
DJ NOBU「BCDMGに関して言えば、ここ数年は色んなレーベルや自主制作などで出し方や売り方を経験させてもらって、無駄だった動き/強化すべき動きとか、自分たちのやるべきことがかなり定まってきたから、あとは目標を実行して次のステージに行くためにも、新たな動きを展開するという意味で、今回のメンバー増やしたりとかの動きに繋がるのかな。今年、色んなレーベルやプロダクションが動き出したのは、タイミングが来てるからだと思う。キャリアあるアーティストや、業界の人たちが裏方としてもゲームに参加するのは、すごく良いことだと思う」
 
伊藤「だから、立ち上げた人たちがヴェテランなケースが多いのかもしれませんね。複数アーティストを新たに抱える以上、実績やプロップスも必要だろうし」
 
DJ NOBU「うん」
 
伊藤「あと、HIP HOPシーンの中で、90年代後半〜00年代前半のバブル期を担っていた人たちから、更に下の世代に主流が移ったたことで、かつての“メジャー幻想”みたいなモノがアーティストの中に存在しないというのもある。メジャーで出したからって有名になれるワケじゃないし、予算の規模もインディと大して変わらなくなってるっていう、現実的な考え方も大きいですよね」
 
DJ NOBU「自分たちでコントロールすれば、無駄なところに予算をかけなくていいというのはあるね。実入りもいいし」
 
伊藤「かつてのメジャー・レーベルがインディと比べて有利だったのは、流通の広さと宣伝力だったはずなんですけど、今はメジャーもいち作品にかけられる予算が少ないから、宣伝もそんなに出来ないですよね。流通力に関しても、そもそもCDショップ自体が少なくなってるから、そこのメリットもなくなってきてる。だからこそ、ANARCHY『NEW YANKEE』のプロモーション規模の大きさは異例だった」
 
高木「フィジカルを回す意味合いや必要性も、以前よりは確実に希薄になっているよね」
 
DJ CELORY「俺も昔はFUTURE SHOCKに所属していたけど、それはSOUL SCREAM単体で動くより、FUTURE SHOCKだったからこそのマンパワーというか、集まったからこそ新しいモノを生み出せるんじゃないかっていうっていう思いがあったからなんだ。そういった、『レーベル発のインパクトがもう一回必要だ』という意識の下に、GRAND MASTERや9sariっていうレーベルが生まれてきたのかなっていう感じがするね」
 
伊藤「GRAND MASTERは、当然Zeebra氏のFUTURE SHOCK時代の経験が反映されているでしょうしね」
 
DJ CELORY「ここからまた色んなアーティストが合流することで、また新しい見え方が生まれると思うし」
 
伊藤「当時、SOUL SCREAMが実際にFUTURE SHOCKに入って感じたメリットって、具体的に何でしたか?」
 
DJ CELORY「当時近くにいたのは雷みたいなハードコア勢だったけど、俺ら自体は彼らとはまた違うニュアンスがあったり、音楽性的に特殊だったと思うんだ。でも、FUTURE SHOCKに加入したことで、UBGがいて、SOUL SCREAMがいて、OZROSAURUSがいて、般若も入ってっていう、そういういろんなメンツが揃ってたことで、『レーベルとしての見せ方』が出来たと思うし、それは俺らにとってもプラスになったと思う。方向性は違うけど、みんな一流だったし。そういう、単体だと生まれにくいブランディングが出来たのが、一番のメリットだったかなって思うね」
 
伊藤「今のシーンで言うと、SUMMITもPUNPEEとSIMI LAB、OTOGIBANASHI'Sって、音楽性はみんなそれぞれ異なるけど、それを“SUMMIT色”というカラーで提示できてますよね。まったく違う個性でも、ひとつの固まりとして見せることで、ブランドとして認識されやすいというのは今の時代でも同様ですね」
 
高木「その意味でも、9sariとBLACK SWANは兄弟レーベルのような立ち位置だけど、同じタイミングでレーベル毎にカラーの違うEPを出すことで、それぞれのブランディングを確立しようとしてるなって」
 
伊藤「とは言え、今挙がったようなレーベルは、今年は始動開始の年という印象なので、彼らの真価が問われるのは来年以降の話でしょうね」
 
 
 
【“ラップ・ゲーム”と“ゲーム・ラップ”の違いが露わになった2014年】

伊藤「今年は、ネット上/音源上で展開されたディスやアンサー合戦も話題を呼んだ年でした。具体的に印象的なモノを挙げるとすると、大阪のラッパー:MOMENTが仕掛けた『#FightClubJP』や、dodo vs. サイプレス上野、NORIKIYOが発表したディス曲がありますね。『#FightClubJP』は、BIG SEAN “CONTROL feat. KENDRICK LAMAR & JAY ELECTRONICA”でKENDRICK LAMARが多数のラッパーをネーム・ドロップするという挑発的なヴァースが、数多くのアンサーや反響を生んだことを踏まえ、その日本ヴァージョンとして、同様にいろんなMCの名前を挙げたことにより、名前の挙がった人や、直接的には関係ない人からもアンサー曲が発表されました。また、『dodo vs. サイプレス上野』は、rev3.11所属のラッパー:dodoが、サイプレス上野に対して“サ上死ね”というディス・ソング/MVを発表して、翌日にサイプレス上野から“サ上、死んだってよ。”というアンサー曲が発表されましたね。NORIKIYOの場合は、『花水木』に収録の“Go Home”などで、Zeebraを筆頭に、HIP HOPシーンに対する苦言を呈し、『雲と泥と手』でもそれに関連したヴァースを収録していました。そういった中で、特に印象に残ったものはありますか?」
 
DJ CELORY「俺はNORIKIYOかな」
 
DJ NOBU「自分のアルバムにディス曲を入れてるっていうので、今挙がった他のディス曲とは意味合いが違うよね。ネットでのビーフって、なんとなく逃げ道が作れたりしちゃって、どうしても分散しちゃうところがあるけど、アルバムに入れるっていうのは、なかなかの覚悟を感じるなって。『#FightClubJP』は、ネットでの小競り合いっていう印象があって、正直あんまり興味を惹かれなかったんだよね、スポーツ感覚すぎて。KOJOEのアンサーはカッコ良かったんだけど」
 


 
DJ CELORY「NORIKIYOに関しては、自分はラッパーでないとはいえ、多分彼が苦言を呈した世代に俺も当たると思うんだよね。でも、彼自身にも伝えたけど、ああいうことを言ってくれたことで、俺はすごく刺激を受けたし、オッサンたちももっと頑張らなきゃ/やれることはまだたくさんあるなって思わされた。それは、彼の曲からリスペクトも感じたからなんだよね。本人にも直接この気持ちを伝えたしさ」
 
高木「だから、攻撃だけじゃなくて、失望にも立ち位置があるんですよね。『ガッカリする』っていうのは『尊敬があるから』っていう構成が、ちゃんとリスナーに伝わるようになってる」
 
伊藤「先日掲載したNORIKIYOのインタビューで彼自身も語っていますが、彼の中には『日本のHIP HOPはスゲェ』っていう前提があるんだけど、世の中的にはいまだにそれがナメてかかられているという状況がある。そして、それに対する不満がある一方、シーン側の人間がナメられるような隙を作ってるんじゃないのか?というのが、一連の楽曲で訴えたかったことのようですね。なので、“責任感”がベースにあるという意味で、個人的な感情や確執が動機になる、一般的な意味でのビーフやディスとは異なる。でも、彼の意図がちゃんとシーン内に伝わったのかっていうのに関しては、ちょっと疑問があるんですよね。どうしても、ゴシップ的な側面だけがひとり歩きしちゃったんじゃないかなって」
 
高木「それって、特にTwitter以降の現象って気がする。多分、『NORIKIYOがZEEBRAをDISった件について』みたいに、ワードと現象だけがタイムライン上に流れて、曲自体を聴かないでそこで判断しちゃうっていう」
 
SEX山口「まとめサイトでまとめられちゃったりね」
 
高木「そうですそうです。そういう字面で判断された部分もあるんだろうなって。しかも、フィジカル盤に収録されてた曲だから、野次馬的な人は、買って聴いてまでは判断してないだろうし。アルバム全体を聴けば、彼の意図まで考えることが出来ると思うんだけど、“Go Home”の“まとめ”だけがひとり歩きしてた部分もあるのかなって」
 
MC正社員「そうなると、不確かな情報に尾ひれが付いたりもしますしね」
 
SEX山口「『如雨露』に収録の“密会”で、SUGAR SOUL feat. Zeebra“今すぐ欲しい”を曲の雰囲気にバッチリ合わせてリリックに入れてたりするし、NORIKIYO君の一連の動きを見れば判断は誤らないと思うんですけどね」
 

伊藤「ちなみに、『花水木』リリース直後に『ラップのことば2』という本でNORIKIYOの取材をしたのですが、その際にも『初期に影響を受けた人』として真っ先にZeebra氏の名前が挙がってましたね。『#FightClubJP』に関しては、僕はKOJOEとISH-ONEのアンサーが際立ってたと思っています。彼らがアンサーを返したことによって、“ラップ・ゲーム”と“ゲーム・ラップ”の違いについて改めて考えるきっかけになりましたね。意外とそのふたつを混同して考えているラッパーやリスナーが少なくないっていうのは、『#FightClubJP』で感じたことなんです。『ゲームとしてラップすること』と『ラップ・ゲームに身を置いて、その中でムーヴする』というのは、まったく性質の異なることだと思う。しかも、その価値観の違いってメチャクチャ大きいと思うんですよね。MONENTは、あくまで『ゲームとして』『#FightClubJP』を仕掛けたと思うし、そこを理解するMCたちとは比較的健全なやり取りが生まれた一方、KOJOEは『ラップ・ゲーマー』としてこれまで現場に身を置いてきた人だから、『#FightClubJP』をパーソナルに受け取ったんだろうし、だからこそあれだけ辛辣なアンサーを返したんだと思うんです。でも、それって多分、MOMENT自身はあまり想定してなかったことですよね。一方、ISH-ONEは“ラップ・ゲーム”性も“ゲーム・ラップ”性も両方備わっているタイプのラッパーだから、良いバランスでリリカルなアンサーを返せたんだと思います。『dodo vs. サイプレス上野』も、dodoはこれまでインターネット上でのみ音源を発表してきて、且つ10代ということもあり、現場での場数がほとんどない人だろうし、一方のサイプレス上野は現場叩き上げのラッパーだから、今話したような構図に当てはまる。そうなっちゃうと、噛み合いづらいよなあ、って」
 


 

 
DJ CELORY「dodoってこの件で初めて名前を知ったんだけど、名前を上げるのが目的かなって思っちゃったし、それも不健全だなって」
 
DJ NOBU「本人がピュアにやったんならいいけど、裏で絵を描いた人が見えてしまってたらまた印象も変わっちゃうよね。まあ、何が正解かは分からないけど、熱くはなれない」
 
DJ CELORY「情報が見える分、いろいろ事情も見えちゃうし」
 
伊藤「それも思います。90年代後半にTHA BLUE HERBが当時のシーンに噛み付いた頃は、音源上でしかリスナーはその事情を知ることが出来なかったし、それ故にファンタジーが生まれ、ひとつのスリルになったと思うんですけど、今は何でも可視化されてしまう時代だから、90年代的感覚を引きずったままディスやビーフを捉えるのも違うと思う」
 
高木「dodo君の場合は、あの一連の動きがポジティヴな形で決着したとは決して言い難かったから、『あのビーフの人ね』っていうイメージになってしまった部分があると思う。YouTubeやSoundcloudなどにアップされてる他の彼自身の作品については、興味深い部分もたくさんあるのに、ビーフのイメージだけが付いちゃうと、古い話だけど、CANIBUSみたいにそれが今後のキャリアの障害にならないといいけどって、老婆心ながら思ってしまう」
 
DJ NOBU「USだと、ビーフはある程度前提となるHIP HOP IQがある人が戦うわけで」
 
伊藤「そうなんです。無意識に共有してる前提やルール/モラルが、USの場合はどんなにストリートな奴でもあると思うんですね。もちろん、超ストリートな人はそんな理屈はお構いなしにギャング的な攻撃を仕掛ける人もいるけど、リスナー/世論もその違いを分かってるから、その上での楽しみ方が出来る。でも、これは自分が10数年、何百人とラッパーを取材してきたからこそ分かるのですが、日本の場合は各ラッパーが『HIP HOPとは』的な定義からしてバラバラだし、ビーフ/ディスに関しての定義/スタンスも十人十色です。だけど、それぞれのラッパーは基本的に自分と思想の近い同業者と交流が深い場合がほとんどなので、自分のクルー以外のラッパーがどんな考え/主義を持っているか、意外と知らなかったりする。過去にも『TERIYAKI BEEF』とかがそうでしたが、“ルール・ブック”が違う人同士がやり合おうとすると、本当に噛み合わないんですよね。ディス曲の内容の優劣以前に、『どっちのスタンスが正しいか』という話から入らなくちゃいけない。そういう意味では、USシーンより複雑だな、と」
 
DJ NOBU「でも、危ない現象だと思うよ、ホントに。取り巻きの人もいっぱいいるんだから」
 
伊藤「ストリート性の強いアーティストを攻撃対象にしちゃうと、いつヴァイオレンスに巻き込まれるかというリスクは、常にありますよね。僕はもちろん、暴力を決して肯定しないけど、当の本人とは関係ないところで“暴発”しちゃう可能性もある。そのときに『ゲームのつもり』っていう言い訳は通用しないですよね」
 
高木「相手のプロップを下げさせたり、揶揄するようなことで、相手の『シノギの邪魔』をすれば、それは遊びじゃ済まなくなる可能性は多分にあるわけで。『ビーフでHIP HOPが活性化する』論もあるけど、発展に寄与したビーフは“結果論”としてそうなっただけで、その途中、どう転んだかなんて分からないのも多いわけだから、その部分は考えた方がいいなって」
 
伊藤「よく、『ビーフはHIP HOPの文化だ』的なことを言う人がいるけど、僕は違うと思うんだよなあ。HIP HOPが元来持つ競争原理/バトル性に付随して、産まれてしまった“副産物”がビーフなんだと僕は解釈してます」
 
DJ NOBU「“ビーフ”と“バトル”は全然違うからね。例えばビギー vs. 2PAC、LORD FINESSE vs. PERCEE Pを例に取っても、バトルっていう部分では同じかもしれないけど、まったく意味合いが異なるから」
 
MC正社員「これはあるラッパーと話してたんですけど--そんなこと絶対にあっちゃいけないんですが、これは日本語ラップの中でビーフがあったとき、それがきっけけで誰か死なないと、もう分かんないのか、って話をしてましたね」
 
DJ NOBU「そこまでの話になるの(笑)?」
 
MC正社員「MOMENT君も、爽やかに『ルールを決めて戦いましょうよ』って始めたかもしれないけど、そのルールが伝わりきらなかったら、包丁持って入ってくる奴がいてもおかしくないわけで。その周りからブロック投げ込んでくる奴もいるだろうし」
 
伊藤「ただ、『#FightClubJP』がもっと美しい形で成立してたら、ムーヴメントとしてもっと素晴らしいモノになったかもしれないし、あの件をきっかけにMOMENTやJinmenusagiといったラッパーも注目/評価を高めたのも事実だと思うから、収穫はゼロではない。でも、そこから見えた現実もあったというのは、ここで記しておきたいですね」
 
 
  
【2014年のMCバトル・シーン】

伊藤「今年のMCバトル・シーンにおいては、一番大きいニュースと言えば9sari group/BLACK SWAN合同記者会見で、MC漢たちが『ULTIMATE MC BATTLE』の内部事情を告発したことだと思うんだけど、その影響は実際にどの程度あったんだろう?」
 
MC正社員「人によってまちまちだとは思うんですけど、あの一件で『ULTIMATE MC BATTLE』に出ないラッパーもちょっとはいたと思うけど、そこまでラッパーに大きな影響があったとは感じないですね。それよりも、オーガナイザーや運営する側が、結構気にしてたと思います」
 
DJ NOBU「鎖グループはこの件に関してもアウトプットがしっかりしてたよね。『9SARI STATION』とか『9SARI HEAD LINE』で、『出場するラッパーは気にしないでほしい』っていうアピールを漢君自身がしてたし。あれがあったから、ラッパー側に大きな混乱がなかったのかもしれないし、アナウンスがあるとないとじゃ全然違っただろうね」
 
伊藤「ちなみに、正社員君は今年どれくらいバトルを観た?」
 
MC正社員「多分、生では500試合ぐらい観てると思いますね。配信とかを含めたら、もっと観てると思いますけど」
 
DJ CELORY「すげぇ!」
 
DJ NOBU「アーカイヴァーだな(笑)」
 
SEX山口「末期症状!」
 
高木「そこから見えた2014年のMCバトルの印象は?」
 
MC正社員「去年から思ってたんですけど、やっぱり『高校生RAP選手権』の影響は本当に大きいですね」
 

 
高木「『高校生RAP選手権』が盛り上がったことで、バトルに来る客層は変わった?」
 
MC正社員「メチャクチャ変わりました。もう、明らかに若い人が増えたし、来る人の数も増えた。だから、僕は『高校生RAP選手権』に感謝しかしてないです」
 
高木「それによって、質や空気感に変化は?」
 
MC正社員「僕はあまり思わないんですけど、古くからのバトル・ファンの中には、やっぱりああだこうだ言ってる人もいますね(笑)」
 
DJ CELORY「やっぱりそういうのあるんだ(笑)」
 
MC正社員「『昔はこんなんじゃなかった』とか。そういうのがYouTube動画のコメントとかでも増えてるんですよね。それから、近年すごく感じてたんですけど……今年特に感じたのは、バトルのシーンが固まってしまったなって。これはあんまり良いことだと思ってないんですが、バトルの中だけでバトルが盛り上がってるんですよね。だから、ここにいる皆さんが審査員をやったとしたら、普段のバトルとは違う勝敗が出ると思うんです」
 
高木「具体的にはどういうこと?」
 
MC正社員「バトルは昔だったら基本的には、自分のスタイルと相手のスタイルをぶつけるスタイル・ウォーズだったと思うんですけど、今は、バトルの中でドラマが出来過ぎちゃって、『お前はこの前あいつに負けたよな』とか、そういう内容で盛り上がるんですよね。スポーツ化というかドラマ化っていうか(笑)」
 
高木「内輪受けになってるんだ」
 
MC正社員「外側の人が見たら、なんなのか分からない内容も少なくなくて。『ULTIMATE MC BATTLE』でも、『高校生RAP選手権』の話が出て来て盛り上がったりするから、『分かる人向け』の戦いになっちゃってるんです。その『内側向け』の面白さも、もちろんあるから、それを否定だけするんじゃなくて、それをもうちょっとポジティヴな方向に僕は持って行きたいなと思ってて」
 
SEX山口「それだけシーンと固定ファンがいるってことだから、良くも悪くもって部分はあると思うんだけど、そういうことによって、逆に広がりにくくなりそうですね」
 
MC正社員「それをちょっと危惧してます。それから、HIP HOP/日本語ラップさえも聴いてなくて、MCバトルだけを観てるって人も増えてるんですよね」
 
伊藤「HIP HOPヘッズじゃなくて、日本語ラップ・ヘッズでもなく、MCバトル・ヘッズが増えてる、と」
 
MC正社員「だから、DJタイムでみんな棒立ちになったり」
 
DJ CELORY「それは、俺もこの前『ULTIMATE MC BATTLE』のブレイクDJをやってすごく思った。HIP HOPじゃなくて、MCバトルっていう“スポーツ”をみんな観に来てるのかなって。それもあって、MCバトルに出てるMCって、どこを最終目標に置いてるのかも分かりづらかったんだよね」
 
MC正社員「昔だったら、バトルで名を上げて、アルバムを出して、ライヴで回って……っていうのがひとつの流れだったと思うし、今でもそういう人はいるんですけど、それこそ今は、『ULTIMATE MC BATTLE』の決勝の舞台に立ったり、『戦極MC BATTLE』の公式YouTubeで配信されるのが目標みたいな人も増えてきてると思います。だから、バトルのスキルを磨くことに命をかけて、音源とかは作らないっていう」
 
伊藤「そうなると、ホントにスポーツ選手的だね」
 
DJ CELORY「あと、もうひとつ思ったのが、みんな一緒に聴こえちゃうってことなんだよね。言葉を小節に詰めてっていう、スタイルがみんな似てるなって。昔の方がもっと個性があったと思うんだけど、今はただただ言葉を畳み掛けてるって印象で。だから、果たしてこれがエンターテインメントなのかな?って思う部分もあって」
 
MC正社員「やっぱり、晋平太とR指定のふたりが強すぎた故に、その基準を作ったと思うんですよね。だからあのスタイルが良しとされるというか。本当はもっと変なこととか、面白いことが出来る人もいると思うんですけど、バトルに勝ちたいから、あのふたりをなぞったような、『勝ちやすいスタイル』になってしまうというか。もちろん、あのふたりはオリジナルなスタイルだし、ライヴも音源もヤバいラッパーなんですけど。表面的な部分を真似てるだけのMCはすごく増えましたね」
 
DJ CELORY「お客さんにとってもそれがいいのかな?違ったスタイルやフロウでバトルを仕掛けるMCに対して許容範囲が狭かったりするのかな?」
 
MC正社員「そんなことはないと思うんですけどね。でも、安全なのはみんなが知ってる『勝てる』スタイルだから、そっちに進むのかなって。だから、僕の運営する『戦極MC BATTLE』も、出場MCは主催者による選抜制にして、自分が選ぶときはスキルももちろんなんですけど、キャラだったり、スタイル・ウォーズになるようにセッティングしたりしてます」
 
DJ NOBU「エンターテインメントとして考えるなら、そっちの方が観たいよね」
 
MC正社員「でも、“スポーツ化”に関しては、決して悪いことだとも思ってなくて。『一般化した』ってことだと思うんです。ダンスとかもそうだし。M-1とかでも勝ちやすいネタとかあるじゃないですか。そういうことだと思います。晋平太さんについてはMCバトルに関しては一種のカリスマだし、今のMCバトルの流れを作ったのは晋平太さんなんで、僕は応援したいですね。実は晋平太さんのバトルとかは、全然スポーツ的じゃないし。ライムもフローもアンサーも全部できるから、そういう印象を受ける人が多いけど、魂のこもったバトルをしますよね。でも、同時に色んなタイプのバトルがあればいいなとも思います」
 
伊藤「実際、晋平太やR-指定は、めちゃくちゃ上手い上に、言ってることも頓智が効いてたりしてて、個性もあるからすごく面白いよね。でも、テクニカルな部分だけがどうしても普及してしまうんだろうなあ」
 
SEX山口「『ULTIMATE MC BATTLE』に鎮座DOPENESSが出てきたときの異物感と、驚きみたいなのも観たいですけどね」
 
高木「『観客が審査する』っていうことの隘路っていう部分もあるのかなって、今の話を訊いて思ったりもしたんだけど」
 
伊藤「でも、かつての『BBOY PARK』のMCバトルでの審査員方式に対するカウンターが、『ULTIMATE MC BATTLE』での観客による審査方式だったわけだし、観客にも結果に対する責任を持たせるというのは、それはそれで意義あることだと思うけどね。自分も、今年はいくつかバトルを観た中で、やはりもっとスタイルが幅広い方がいいな、という思いがあるので、だからこそUZIさんみたいな個性的なヴェテランや道(TAO)君のようにレコーディング・アーティストとしてキャリアがある人がバトルに出ていたのが嬉しい」
 
MC正社員「『核MIX』のMCバトルで、UZIさんとDARTHREIDERさんの対決があったんですけど、『前はこういう戦いがもっとあったな』って思ったんですよね。若手のハングリーさがカッコ良い瞬間も、もちろん沢山観てるし、それも素晴らしい光景なんだけど、同時に、UZIさんとかダースさんみたいな人を引っ張り出すような大会があってもいいなって。あと、もっとストリート感のある人が出る大会とかも増えてほしい。ブレス式主催の『As One』とか『THE 罵倒』は、そういう部分があると思うんですけど」
 
高木「今年、印象に残ったバトルは?」
 

 
MC正社員「パッと思いついたのは、『戦極MC BATTLE』でのSIMON JAP vs. Mr.Smileとか、サイプレス上野 vs. CIMAですね。CIMAが『お前の時代は来ない』って上野さんに言って、それに上野さんが『時代は来ない、ならば10年はラップはしない』って返すシーンがあって、そういうカッコ良さだったり、SIMON JAPさんとMr.Smileの価値観や生き様のぶつかり合いだったり、そういう生き様が見えるバトルがやっぱり印象に残ってますね」
 
SEX山口「マイクに血が通ってる感じですね。『ダサいヤツのバック転よりイケてるヤツのでんぐり返り』っていうZOO先輩たちが残した言葉があるんですけど、まさにそこだよなあ」
 
MC正社員「そういう意味でも、『高校生RAP選手権』はそういう部分を演出で見えるようにするじゃないですか。それがあの番組の強さでもあるなって」
 
伊藤「エンターテインメント寄りの『高校生RAP選手権』もありつつ、本流としてストイックな『ULTIMATE MC BATTLE』もありつつっていうのは、形としては健全だと思いますね。故に、商標権の問題でUMBが今後どうなっていくのかは非常に気になる」
 
 
 
【2015年の展望や希望】
伊藤「最後に、2015年の展望や希望などを伺えれば、と」
 
DJ NOBU「『日本のHIP HOPがこうなってほしい』っていう希望に、年々近づいていってると思う。それは、大きな規模のワンマン・ライヴが増えたり、クラブで日本語ラップがかかったりということからも。だから、この流れを止めないまま行ければな、っていう感じで、他に希望はないかな。同時に、新人がもっとバズを作れるような環境が出来ると嬉しいなって思う」
 
DJ CELORY「MCバトルとかに出てる子たちに、どんどん作品とか作ってほしいよね。あとは、近いところではあるけど、DJ中にサイドMCをガンガンやってる奴が、もっと作品でファンを獲得するような状況になってほしい。BULLとかね」
 
SEX山口「来年以降は、RED BULLのCMにPUNPEEやZEN-LA-ROCKが登場したように、もっとそういうところにどんどん出ていけるHIP HOPアーティストが生まれるといいなって思います。ゴールデン・タイムにZEN-LA君の、年末のアメ横みたいな景気の良いダミ声が流れたのは痛快だったし、PUNPEE君の『水曜日のダウンタウン』でのBGM作りとか、そういう関わり方が出来る人が増えると面白くなるのかなって思いますね。そうしたらもっと一般の人に自然とHIP HOPが届くと思うし」
 
MC正社員「HIP HOPが流行り始めてると思うんで、バトルに出てる子たちをもっと引っ張っていける状況が出来るといいなって思います。今の仕組みだと、MCバトルって運営サイドしか儲からないと思うんです。そうじゃなくて、MCバトルに出てる人の面倒もちゃんと見れるシステムを作りたいなって、個人的には思いますね」
 
高木「SANABAGUNやAUN BEATZとか、バンド+ラップなんだけど、いわゆる初期THE ROOTS的なのとは違う、ちょっと変わった感じのHIP HOPバンドがちょこちょこ出てきてるんで」
 
SEX山口「どついたるねんとかもそうですよね」
 
高木「彼らもそういうニュアンスがありますね。そういう動きはHIP HOPリスナー以外にも訴求しやすいと思うし、HIP HOPシーンにも刺激になると思うんで、そこが広がると面白いなって。その頂点はやっぱり韻シストだと思うんですけど。そういう外部訴求が出来そうな存在としては、TOKYO HEALTH CLUBとかカタコト、水曜日のカンパネラみたいなタイプも、もっと出てくるとカオスになるし、個人的にもそこで起こる波を知りたい。それは、アイドル・ラップに関してもそう思いますね。ただ、ラップ曲は増えたんだけど、グループとしては、lyrical schoolとライムベリーの二強なんで、もっとそういう存在が出てくると面白いなって」
 
伊藤「僕は、やっぱり、もっといろんな人がブレイクスルー=“一点突破”していく様を見たい。その意味ではKOHHにすごく期待してるし、ブレイクスルーの可能性は、現状は彼に一番感じるかな。でも、彼みたいな存在が、あと何人かいれば、NORIKIYOが言っていたような『日本語ラップってヤバいだろ』ってことを分かりやすく外部にも言えるタイミングになるのかなって。そういう“変革”を生めるようなアーティストが出てきそうだったら、それをしっかり活動初期からフォローできるように、メディアの人間としては頑張らないといけないところですね」
 
 
PERSONAL CHART 2014
DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!

「MONOCHROME」/KOHH
「NEW YANKEE」/ANARCHY
「THE SEASON」/Febb
「SICK TEAM II」/Sick Team
「如雨露」/NORIKIYO
「OMBS」/OMSB
「blacknote」/KOJOE x Olive Oil
「紅桜」/紅桜
「The Arrival」/AKLO
「KOLD TAPE」/KANDY TOWN
(順不同)
 
 チャートはよく聴いたアルバム、DJでかけた曲やアルバムを中心にセレクトしました。来年はHIP HOPゲームが更に活発になりそうな予感がしてます。
 
 
MC正社員(2014 MC BATTLE BEST BOUT)
戦極MC BATTLE 第九章(2014/04/13)
SIMON JAP vs. Mr.SMILE
価値観の違いをぶつけるバトル。
 
THE罵倒2014 《Round3(核MIX)》(2014/06/07)
DARTHREIDER vs. UZI the 9mm
ネーム・ヴァリューの期待に応えたビッグ・ネーム
 
戦極MCBATTLE外伝 2014東阪ツアー OSAKA 8MOJI杯(2014/08/09)
TAKUMA vs. Dope J
10代無名若手同士のぶつかり合い。成り上がるとは何か
 
ADRENALINE 2014(2014/08/24)
アスベスト vs. GOLBY
太華さんの「今日一番の子供の口喧嘩」って言葉が全てを物語ってると思います。
 
As One(2014/08/30)
DOTAMA&ACE vs. サイプレス上野& DARTHREIDER
新機軸のルールでここまで出来る4MC。凄い。
 
第6回高校生RAP選手権(2014/10/04)
MC☆ニガリ vs. 言xTHEANSWER
高校生RAP選手権のレヴェルを一段階上げた試合。
 
戦極MC BATTLE 第十章(2014/10/19)
晋平太 vs. GIL
無敵の王者のカムバック戦。MCバトルのドラマ化を象徴する試合。
 
MC BATTLE “THE罵倒2014”GRAND CHAMPIONSHIP(2014/11/04)
輪入道 vs. はなび
今年最もハラハラした試合 殺す気でやってる。
 
UMB 2014 大阪予選(2014/11/15)
R指定 vs. KBD
R指定のモンスター振りが分かる。引かないKBDも流石。
 
UMB 2014 リベンジEAST(2014/12/23)
GOLBY vs. NAIKA MC
年末の敗者復活戦に見せた奇跡。16小節×2本なのも見所
 
※この記事を書いた時点で
12/30 UMBグランドチャンピオンシップ、12/30 As One、12/27 核MIX団体戦MC BATTLEは観ていません

(順不同)
 
 2014年のMCバトルの10試合を選べということだったんですが、正直100試合は選びたかったです。なので、かなり正統派な試合/なるべくマストなベスト・バウトを選びました。バトル回りの動きで言えば、今年は昨年より更に若いMCが増えた一方、UZI/OMSB/Jinmenusagi/HAIIRO DE ROSSIなどのレジェンド/リリース_アーティストの参戦、R指定/KOPERU/孔雀などのMCたちの音源リリース、『As One』など多種多様な大会の浸透で、更に面白くなったと思います。今が一番盛り上がってるMCバトル、コレを知らないのは人生の半分損してます!是非チェック!
 
 
高木“JET”晋一郎
「MELLOW」/BASI
「VIVID」/CAMPANELLA
「VG+」/GAGLE
「THE SEASON」/Febb
「YACHT CLUB」/jjj
「MONOCHROME」/KOHH
「Page2: MIND OVER MATTER」/SIMI LAB
「死んだらどうなる」/stillichimiya
「HEALTHY」/TOKYO HEALTH CLUB
「KIDS RETURN」/餓鬼レンジャー
(順不同)
 
 相変わらずの優柔不断順不同ですみません……他にもHATANAI ATSUSHI「S.O.S.A.I」、SKY-HI「TRICKSTER」、MVJIMOB「THE BOONIES」、NAGMATIC & MILES WORD「INPOSSHIBLE」、LAF from PRIDE MONSTER FAMILIA「Give Yourself A Break」、YURIKA「ADIANTUM 」、AKLO「The Arrival」、三島(a.k.a. 潮フェッショナル)「金と女と大東京」、KID FRESHINO「Shadin’」、ROMANCREW「トラジコメディ」、lyrical school「FRESH!!!」、DJ松永「サーカス・メロディ」……改めて、今年は良作がホントに多い年だったし、もうベストを選ぶなんて俺には出来ません……ホント。が、一番聴いたのはキエるマキュウのベスト二枚だと思います。個人的に、今年一番喰らったパンチラインは、ライムベリー“IDOL ILLMATIC”の「清く正しくイルマティック/それがアイドル稼業」でござんした。