日本を代表するHIPHOPサイト! Amebreak[アメブレイク]
  • INTERVIEW
  • KNOWLEDGE
  • NEWS / REPORT
  • COLUMN
  • RECOMMEND
  • MEDIA
  • EVENT / LIVE INFO
COLUMN[コラム] RSS

2015年国産HIP HOP振り返り座談会(前編)

談:DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH!/Mr. BEATS a.k.a. DJ CELORY/SEX山口/MC正社員(戦極MC BATTLE)/高木“JET”晋一郎/伊藤雄介(Amebreak)
文:高木“JET”晋一郎


【2015年の日本語ラップ雑感】
 
伊藤「今年も年末座談会にお集まり頂き、ありがとうございます。皆さんから頂く個人チャートですが、今年はアルバムや曲という作品に加え、印象深かった出来事や事象なども勘案して組み込んだ『個人的トップ10』を作成して頂きました。その意味では“トピック”を挙げて頂いたということになると思います。そして、その参加者の挙げたチャートの中から、重複していたり共通したトピック/事象を、やや強引ですが抜き出してみたので、まずは皆さんとそのキーワード/トピックについてお話できればと思います。その前に、大掴みなところで2015年の雑感から話していければと思うんですが、個人的には、大きなムーヴメントやトレンドという部分では、寂しい一年だったと思いました」

DJ NOBU「そうだね。俺もそういう印象」

DJ CELORY「全体的な流れとして、2014年の延長の上にあるって印象だよね。特別大きな何かが2015年に起こったというよりは、2014年やそれ以前から起こってることが継続したり、増幅した感じというか」

SEX山口「ただ、1月1日に『梔子』をリリースしたという部分も含めて、やっぱり今年のキーパーソンとしてパッと思いつくのはKOHHかなって」
 
伊藤「なるほど。では、今も話題に上ったKOHHについてまず話していければと思います」
 
 
 
【若きトップ・ランナーとしてシーンを変革するKOHH】
 


 
伊藤「セク山さんが仰ったように、今年の最重要人物と言えば、昨年同様、やはりKOHHが挙げられると思います。2014年の『MONOCHROME』で、他の若手とは一段違う評価や存在感を確立させて、そこで掴んだ勢いで1月に『梔子』、6月に『YELLOW T△PE 3』、10月に『DIRT』と、リリースだけでも本当に活発で、攻めた一年だったなと。しかも、DJ RYOWのミックスCD『THE MIX TAPE VOLUME #2 -RAP CITY 2015-』では、アトランタ・トラップの重要人物でKOHH自身も影響を受けたと公言しているOG MACOと一緒に“BUCHIAGARI feat. KOHH & OG MACO”を制作していて。また、2015年の正月に、KEITH APE“It G Ma feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh”にも参加して、そこで海外からの注目度も大きく上げましたね」
 
高木「YouTubeのアクセス数が桁違いなのは、海外からのアクセスが多いということもあるでしょうね」
 
DJ NOBU「注目されるべくして注目されるようなアプローチをしてるよね」
 
正社員「2014年の座談会で、バトルにもKOHHフォロワーみたいな人が増えてるって話したんですけど、今年はラップだけじゃなくて、ファッション/立ち振舞/タトゥーまで真似してる子がいたり」
 
伊藤「タトゥーという引き返せない部分まで(笑)」
 
DJ NOBU「地方に行っても『KOHHのフォロワーだろうな』って子をよく見かけた」
 
伊藤「その意味でも、日本のHIP HOPの流れを変えている存在だと思うし、日本のHIP HOP史の中で見ても、有数の“ゲーム・チェンジャー”になったと思いますね」
 
DJ NOBU「SCARS以来じゃない?ここまで影響が強いのって」
 
伊藤「もっと影響力が大きいと思うんですよね。それこそ90年代中盤に、Zeebra/RINO/TWIGY/Mummy-Dみたいなカリスマたちが与えていた影響力の大きさに匹敵するとさえ、僕は思っています。スタイルの更新という意味では、ここまでの影響力を感じさせるラッパーは、ここ10年登場してきてなかったんじゃないかなって」
 
DJ NOBU「『DIRT』は単純にクラブでかけやすかったのもあるし、DJによってかける曲が違ってたのも面白かったね。俺は“Dirt Boys feat. Dutch Montana & Loota”とかよくかけたけど、人によっては全然違う曲プレイするから、50 CENTの1stアルバムが出たときを思い出した。あのアルバムも、シングル・カットとか関係なくいろんな曲がクラブでかかってたし」
 
DJ CELORY「確かに、人によって推す曲が違ったかもね」
 
高木「その意味でも、『DIRT』はトラップがサウンドの前提にありながらも、ヴァラエティに富んだ作品だったということですね」
 
SEX山口「トラップにチャレンジするアーティストが増えてきているけど、KOHHはその中でも突出してる感じがあるよね」
 
伊藤「単に技術力が高いって部分を超えた何かがあるんだよなあ、彼には」
 
SEX山口「ダンスが上手い、しかもフリースタイルのダンスが上手い人を観てる感覚があるんですよね」
 
高木「KOHHがHIP HOPリスナーを超えて評価されているのは、その部分かもしれないですよね。『足が超速い』っていうのと一緒で、単純に常人離れしてるから、理屈を超えて凄いと思わされるというか」
 
DJ NOBU「“TOKYO”も、ほぼ『TOKYO』しか言ってないのに聴けちゃうのも、そういう部分かもね」
 
伊藤「ただ、KOHHフォロワーが増えてくることによって、日本語ラップ全体がどう変化していくのかには、少し不安がありますね。やっぱり、彼はバックグラウンドからスタイルまで独特で独自だから、彼に影響を受けたラッパーが出てきたとしても、KOHHと同じクオリティのモノが出来るのかは疑問で」
 
SEX山口「ビート・アプローチも相当なセンスが必要でしょうし」
  
DJ NOBU「USの流行りを消化しきれないままアウトプットしてる人が多いからね、最近」
 
伊藤「例えばJinmenusagiのアルバム『ジメサギ』はトラップ -- 彼はKEITH APEに影響を受けたからエイジアン・トラップって言ってるけど -- の影響下にあって、それを上手く日本語ラップとして落とし込んだアルバムだと思います。だけど、KOHHが与えた影響力の大きさから、日本語ラップの枠内では『KOHHフォロワー』みたいに捉えられかねないな、とも思って。KOHH自身に非はまったくないんだけど、KOHHの功罪というか、『KOHH以降』っていう括りが生まれることによって、やりづらくなる人も出て来るだろうなあ、って」
 
DJ NOBU「Jinmenusagiの技術は凄いよね。アルバム聴いてビックリしたもん。すげえレヴェルでラップしてるなって」
 
伊藤「Jinmenusagiぐらいラップに対するリテラシーが高くて、スキルのある人間じゃないと、あのスタイルを日本流の形で制作するのは難しいのかなって。それかA-THUGぐらい振り切れてる人か(笑)」
 
SEX山口「現場で会う諸先輩方で『最近はKOHH聴いてるよ』って言ってた人は多かったですね」
 
DJ NOBU「へー、面白い」
 
伊藤「ヴェテラン世代の人たちがKOHHに刺激を受けているのは興味深いですね。USの一部ヴェテランみたいに、『今の若いモンはけしからん!』みたいにならない(笑)」
 
 
 
【マルチ・クリエイターとしての才能を爆発させたPUNPEE】
 

 
伊藤「皆さんから頂いたチャートでは、PUNPEEの名前や関連仕事が多く挙がっていました」
 
高木「RHYMESTER『Bitter, Sweet & Beautiful』への大幅な参加、RAU DEF『ESCALATE II』のトータル・プロデュース、ISSUGI & DJ SCRATCH NICE『UrbanBowl Mixcity』のエンジニアリング、LIBRO“Mileage Club feat. PUNPEE”などの客演……と、動きの一部を抜き出してもこれだけ多岐に渡る仕事を手がけていて」
 
SEX山口「tha BOSS“SEE EVIL, HEAR EVIL, SPEAK NO EVIL”のトラックも良かったですね。絶妙なところをサンプルするよね〜、って思いました。あのビートをサラッと使っちゃう身軽さは、彼ならではかなと」
 
伊藤「自身がアーティストとして出した曲が、企画色の強い加山雄三“お嫁においで 2015 feat. PUNPEE”だけだという(笑)」
 
DJ CELORY「それでも名前が挙がっちゃうのが、PUNPEEの凄いところだよね」
 
SEX山口「DJとしても、去年とは比べ物にならないぐらい人を呼べるアクトになってると思いますね。それから、音像的な部分もあると思うんですが、HIP HOPを聴かなくなってた人が戻ってくる入り口が、P君だったりしますよね」
 
高木「KOHHとも繋がると思うんだけど、ポップ・アプローチというか、非HIP HOPリスナーにも分かりやすく届くキャッチーなセンスを、ちゃんと作品に込められるのが強いですよね」
 
DJ CELORY「それは重要だよね」
 
高木「HIP HOPリスナーにも届くアプローチもしっかりあるし、その『サービス精神』が共通してると思います」
 
伊藤「曲単位で言えば、“お嫁においで 2015”は本当に衝撃でした。HIP HOP的なリミックスという、お題に対する大喜利としても完璧な回答だと思う」
 
DJ CELORY「“お嫁においで ”には“IMPEACH THE PRESIDENT”が合うっていう発見も凄いよね。加山雄三にあのブレイクビーツがあんなにハマると思わなかった(笑)」
 
伊藤「彼は、そういう“ブレイクビーツ感”も重視するじゃないですか。それが心地よさを生むし、HIP HOPを聴かなくなったリスナーが彼を通じてHIP HOPに戻ってきてるんだとしたら、それも理由のひとつかもしれないですね」
 
DJ CELORY「当然、産みの苦しみはあるんだろうけど、彼自身の存在感や作風も含めて、軽やかにポップに見えるし、そう聴けるのがスタイルとしていいよね。だから、楽に聴くことが出来る」
  
 
 
【セルフ・コンテインドなアーティストの活躍】
 

 
伊藤「ちょっと強引な章立てなんですが、プロデュースもラップもひとりで手がけるというアーティストのアルバムが今年は充実していたというのも、皆さんのチャートから読み取れると思います」
 
高木「Amebreakでインタビューとして取り上げただけでも、MASS-HOLE『PAReDE』、菊地一谷(ex-QN)『CONCRETE CLEAN 千秋楽』、WATT a.k.a. ヨッテルブッテル『栞』、LIBROの諸作、今回はラップしていませんが、KOYANMUSIC a.k.a. KYN (SD JUNKSTA)『prelude』も、キャリアを踏まえるとそう言えますね」
 
伊藤「OMSB『Think Good』や5lack『夢から覚め。』も傑作でしたね。ただ、セルフ・コンテインド且つミニマムな形で作品を作る、つまり『自分で全部出来ちゃうこと』に充実を感じてる人が多いと思うので、それをムーヴメントとは呼びづらいと思うんですが、それでも、そういったアーティストの作品に良作が多かったのは、事実として挙げられるかなと」
 
DJ CELORY「しかも、サンプリングを基調にしたアーティストが多いのが面白いよね。その意味では、サンプリングっていうアートフォームの方が、自身を表現するのに適してたという人が多いのかなって。トラップがメインストリームでは注目されてるけど、そのカウンターとしても、存在感がある気がするんだよね」
 
伊藤「出来上がった音はサンプリングの切り取り方に世代感が出てますよね。jjjやOMSBのサンプリング・トラックからは、そういった部分でフレッシュさを感じるんですよね」
 
DJ CELORY「JJJが手掛けたKID FRESINO“Special Radio feat. IO”とか面白かったよね。作り方が興味深くて、俺も思わずネタを引っ張り出して、あの曲が組み立てられるようにチョップしちゃったもん(笑)」
 
伊藤「懐古主義的なサンプリング解釈じゃないことに、希望が持てますよね」
 
 
 
【「クルーという単位」が来年のキーワードに?】
 

 
高木「KANDYTOWNを筆頭に、BAD HOPやYENTOWNなど若手を中心に構成されているクルーが注目を集めたのも、今年の注目点なのかなと」
 
DJ NOBU「その三組は本当に面白いと思う。たまたま同じタイミングで注目されてるんだろうけど、そういったクルーの波が同時に来てるのが興味深いし、しかも三組ともスタイルもトピックも全然違うんだよね」
 
SEX山口「BAD HOPは僕も育った地域 -- A-THUGとかとほぼ同じエリア出身なんですけど、やっぱり、こういう子たちが出てきたなって。VICEのドキュメンタリーでも出てきましたけど、空の色もグレーだし、なかなかの地域で、それ故にHIP HOPに向かってる部分もあるのかなって」
 
高木「KANDYTOWNで言えば、外側から見るとIO/菊丸/呂布はまったくタイプが違うように感じるけど、実は同じクルーだっていうのが面白いなって」
 
DJ NOBU「スタイルも個々で全然違うし、フッド感もあるし、ライヴもクルー感が丸出しで良い……見てて単純に『面白そう』って思わせる存在だよね」
 
伊藤「KANDYTOWNの洗練されている感じと、BAD HOPのラグド/ラフさ。でも、どちらもHIP HOPだっていう。サウンド的に洗練されているのはKANDYTOWNなんだけど、韻の固さやストリクトリー・ハードコアHIP HOPなマナーはBAD HOPの方に強く感じる」
 
正社員「KANDYTOWNもBAD HOPもメンバーがMCバトルに出てるから、それも嬉しいですね」
 
DJ NOBU「来年はこの三組に加えて、他のクルーにも動きがあるだろうし、それがひとつのムーヴメントになるかもね。個人的には、BACKYARD(SMITH-CNらを擁するユニット)に作品を出したほしい」
 
 
 
【円熟とフレッシュさを併せ持ったヴェテラン勢のアルバム】
 

 
伊藤「今年はヴェテラン・アーティストたちによる、安定、且つクオリティの高い作品のリリースが多かったように思います」
 
SEX山口「スチャダラパーの『1212』はリリックがとにかく面白かったですね。政治や社会、情勢をリリックに落とし込みながらも、それがちゃんとスチャダラらしい着地点になっていたし、とにかくリリックが強かったです。それから、ECD『Three wise monkeys』での、あのBPM帯でガッとラップする姿勢にもやられましたね」
 
高木「政治的な理念に対する評価は人それぞれだと思いますが、スチャがSEALDs系の集会に登場したり、ECDがそれ以前の国会前デモからリベラル層と連携していたり。そういった社会問題に対して、高踏的に評価するんじゃなくて、直接行動としてアプローチしているというのが、とにかく素晴らしいなと思いました。特にスチャは、これまでのAmebreakのインタビューで語っていたような社会に対する見方、デモに対する見方がまったくブレてないことを証明したと思います」
 
伊藤「ヴェテラン・アーティストは、アルバムのコンセプト作りがやっぱり上手いですよね。特にRHYMESTERのコンセプト作りの相変わらずな上手さは、やはり感心させられました。それから餓鬼レンジャー『祭事』の、ホントに『餓鬼レンジャーでしかない』内容には喰らいましたね。キャリアを重ねて、歳を取ったからこそより素っ裸になれるというのは、やはりヴェテランならではだな、と」
 
DJ NOBU「ズルムケだよね」
 
伊藤「tha BOSS『IN THE NAME OF HIPHOP』も、あの歳でここまで丸出しになるかっていうズルムケなアルバムだったと思います。一方、東京弐拾伍時みたいに、『ニトロのメンバーがこんなにオトナなリリックを書くんだ』っていう変化も興味深かった」
 
SEX山口「タマフルに東京弐拾伍時が出たときのライヴもすごく良かったんですよ。全員マイク・スタンド立ててラップをしてて、それがめちゃくちゃクールでカッコ良かったし、DABOさんがやっぱり遅刻してくるっていうのも、裏切らないなと(笑)」
 

 
DJ CELORY「今年、一番聴いた曲は“時間ヨ止マレ feat. MURO & PUSHIM”だったな。DJ HAZIMEと一緒にフットサルをやってるんだけど、そのグラウンドに向かう移動のときに、レコーディング直後の“時間ヨ止マレ”を聴かせてもらったんだ。そしたら、曲が良すぎて、しばらくサッカー出来なかったもん(笑)。それぐらい素晴らしい曲だった。あと、HAZIMEが『MICROPHONE PAGERの“病む街”を、もうみんな知らないんだよね』って言ってたんだけど、でも、だからこそ“LUCIFER'S OUT feat. AKLO”で、それをネタに使うのは意味があると思った。とにかく、ヴェテラン勢の作品は安心して聴けるよね。積み重ねた上での作品作りが出来てるし、それがすごくいいなって」
 
高木「DJ KRUSH『BUTTERFLY EFFECT』も、特に今回は『KRUSHの音』という部分が強かったので、同じようにヴェテランならではな部分を感じる作品でしたね」
 
伊藤「今回名前が挙がった人は、その人たちなりのサヴァイブの仕方、そのアーティストなりの武器に関してすごく自覚的ですよね。且つ、それを作品として提示できていることに、希望を感じるんですよね」
 
DJ CELORY「シーンの年齢層や、出来ることの幅が広がるのは本当に良いことだよね」
 
 
 
【ブームを起こす『フリースタイルダンジョン』】
 

 
伊藤「『フリースタイルダンジョン』は、個人的な印象だと思っていた以上の反響ですね。北川景子やカンニング竹山が観てるっていう話もあるし(笑)。皆さん、観てますか?」
 
SEX山口「一回も観逃さずに見てますよ(笑)。すっごい楽しんでる。でも、マイ・ワイフはアーティスト名にルビ振ってほしいって言ってました」
 
正社員「確かに、読みづらい名前は多いですよね」
 
DJ CELORY「Zeebraさんに言っときます(笑)」
 
SEX山口「お願いします(笑)」
 
正社員「個人的な話ですが、僕が会社を辞めてMCバトルを運営する会社を作るって親に言ったとき、家庭内で問題になったんですよ。婆ちゃんや母ちゃんからも泣いて止められて(笑)。MCバトルのシーンに対する説明をしたんだけど、親父には『シーン云々より家族を守れ』って言われて。だけど、テレビでコンテンツとしてそれが始まると、『こういうことだったのか』って分かってもらえるようになったんですよね。ただ、一方で『お前、出ねえのか』って煽られるっていう(笑)」
 
DJ CELORY「いろいろ大変だな〜(笑)」
 
正社員「ACEとか街でめっちゃ声かけられてますね。『山下新治さんですよね?』って。山下新治としての仕事オファーもあったり(笑)」
 
高木「ACEというラッパーとしてじゃなくて、山下新治として仕事が創出されたんだ(笑)」
 
正社員「このブームで思ったんですけど、MCバトルって、唯一アメリカとは違うタイプの流行り方をしてると思うんですよね」
 
伊藤「アメリカにもMCバトルは今でもあるけど、確かにこういう感じの盛り上がり方ではないね」
 
正社員「だから、MCバトルだけはUSの流れと断絶してるのかなって。その意味では、HIP HOPの流れを超えて、TV番組/コンテンツとして『フリースタイルダンジョン』は新しかったんだと思うし、HIP HOPリスナー以外もMCバトルを楽しんでると思うんですよね。だから、“MCバトル”っていうひとつのジャンルが成立して、楽しまれてるのかなって。ラップとして、話芸として、音楽として、ショーとして見せることが出来ているのは、大きいなって」
 
伊藤「民放の壁なのかどうかはTV業界の人間じゃないから分からねいけど、演出など、細かい点で『もっとこうしたらいいのに』と思うところはあります。だけど、そういうことよりも、登場するMCや審査員が『ちゃんとした』人たちだったっていうことが重要だと思うんですよね。完全に畑違いの人がいるわけではないっていうのが、HIP HOPサイドから見ると安心材料として大きいし、TVでそれを成立させたことで、ほぼ必要な条件をクリアしてると思うんですよね」
 
高木「とは言え、『TV bros』の読者投稿で『何故あの人たちは互いに向かって戦うんでしょうか、テレビなんだからカメラの方を向かなければ』みたいな投稿があって」
 
正社員「あー、ちょっと話題になってましたね」
 
高木「ハッキリ言って、送る方も採用する方も、ことごとくダサい!そういう冷笑系の物言いは、今の時代ホントにダサいし、いまだにHIP HOPはそういう冷笑と戦うのかって、ぞっとしましたね」
 
正社員「まあ、あれはネタだと思いますけど、そういう非ラップ・リスナーからの反応が知りたいですよね。たまたま観た人、ラップに興味がない人が、フリースタイルについてどう思ってるのかなって」
 
SEX山口「確かに、そういう人でもカッコ良いと思って観続ける人もいるでしょうけど、もっとその層を増やすには、『マイクとトラックの音量バランス』がもうちょっと良くなってほしいですね」
 
伊藤「現状、声が立ち過ぎちゃってますよね」
 
DJ CELORY「そう、トラックが聴こえづらくて『これ、オレのトラックなのに!もうちょっと音大きくしてよ!』って思うよ(笑)」
 
SEX山口「あのバランスによって、臨場感がちょっと足りない感じがあって、ちょっと惜しいなって思うんですよね」
 
伊藤「今は『フリースタイルってスゴいね!』って評価になってると思うけど、『音楽としてカッコ良いね!』まで持っていくには、そういう配慮が必要なのかなって思いますね」
 
 
【D.Lの逝去と『D.L PRESENTS HUSTLERS CONVENTION NIGHT』】
 

 
伊藤「今年はD.Lという、日本のHIP HOP史上最重要アイコンのひとりが亡くなってしまったことが、本当に大きな損失だと感じました」
 
DJ CELORY「個人的な話になっちゃうけど、最初にD.Lさんに出会ったのは『HIP HOP NIGHT FLIGHT』だった。それから、BUDDHA BRANDや自分のプロモのレコードが出来たら、ジャケットにタギングして俺にくれたり。訃報を聞いて、そういう事柄が走馬灯のように思い出されたね。生きてれば、さっき挙がったヴェテラン勢の名前の中に、D.Lさんやブッダのアルバムが登場する可能性は、ゼロではないワケじゃん。だけど、もうそれが叶わないっていうのは、本当に残念だし、寂しい」
 
DJ NOBU「HIP HOPアーティストのあるべき姿を、MUROさんとD.Lさんに見てた部分が俺は強くて。プライヴェートでD.Lさんと遊ばせてもらったことはないんだけど、初めてオフィシャルのミックスCD(『SPACE SHOWER TV presents BLACK FILE THE BOMBRUSH! SHOW』)を出したとき、そのリリース記念の対談相手にD.Lさんを指名させてもらって、ふたりで色んな話が出来たのは、本当に自分の糧になった。昔、リアルタイムでライヴを観たときの衝撃も覚えてるし、宇宙的な発想を持ち、しかも『こんなにもズルムケでいいんだ』っていうのを、当時教えてくれた特別な人。だから、その姿をもっと見ていたかった」
 
SEX山口「何年か前のレコード・ストア・デイのときにDJで一緒になったんですけど、プレイ後に気さくに声をかけてくれたりして嬉しかったです。D.Lさんって、リリースされる作品も当然気になるんですけど、読んでる本とか今まで観てきた映画とか、食べてるものとかが、なんだかすごく気になる人でした」
 
正社員「バトルに来るラッパーは、基本的に若い子が多いんで、あまりクラシックを知らなかったりするんですよね。クラシックを引用しても、そのリリース時に生まれた子たちだったりするから、ポカンとされちゃったり。でも、D.Lさんが亡くなったときは、どのMCバトルでもブッダやD.Lさんの曲が使われて、決勝は“人間発電所”っていうのが、どこのバトルでも行なわれてましたね。だから、『こんなに影響を与えてるのか』って、改めて感じました」
 
伊藤「MAKI THE MAGICもそうだったけど、知識量とか見てきたものとか、形に出来ないものをメチャクチャ持ってた人じゃないですか。そういう人がいなくなるっていうのは、そういう無形のアーカイヴも失なわれるってことだから、アーカイヴを記述する立場からすると、メチャクチャ損失がデカいんですよね。その情報や知恵、経験はGoogleでは絶対に得られないから。D.Lさんは自分で書かれた原稿やインタビューを通しての発言や表現が多かった人だから、文章や言葉として残っているものが少なくないのは不幸中の幸いだとは思います。だけど、こういう存在がひとりでも欠けるのは、歴史の一部が丸々なくなったのに等しい気がします」
 
DJ CELORY「D.Lさんの追悼パーティ(『D.L presents HUSTLERS CONVENTION NIGHT』、渋谷VISION)は、とにかく熱量が凄かった」
 
伊藤「開場してすぐ入場規制っていうのもすごいことでしたね。D.Lさんの影響力の凄さを改めて感じました」
 
DJ CELORY「酸欠と湿気でライターが点かないみたいな状況は、昔の現場そのままだったね。俺自身もTシャツがビショビショになっちゃったし、この熱量のライヴはもっと観たいなって思わされた。楽屋もピースだったし、久々に自分がヘッズだった、後輩だった時期を思い出したよ(笑)。そういうイヴェントが、追悼っていう形じゃなくて、もっと行なわれるといいよね」
 
【後編はコチラ