THA BLUE HERB |
DATE : 2012/05/11 |
インタビュー:高木“JET”晋一郎
「俺らは、日本のHIP HOPと共にじゃなく、俺らは、最初からTBHのHIP HOPの歴史として生きてるんだ。だから、その歴史に恥じないような音楽を作ろう、歴史に恥じないライヴをやっていこう、そのためにもっと上手くなろう、もっと良い曲を作ろう。それだけだよね」——ILL-BOSSTINO
2007年の「LIFE STORY」以来、5年振りとなる4thアルバム「TOTAL」をリリースするTHA BLUE HERB(以下TBH)。この5年の間には、『STRAIGHT DAYS / AUTUMN BRIGHTNESS TOUR '08』をはじめ、文字通り“日本中”でライヴを展開し、その生身としてのTBHをリスナーの目前にさらしてきた彼ら。その新作はILL-BOSSTINOとO.N.Oだけで構築され、彼らの間に響く「THA BLUE HERBの音」に溢れた、まさにTBHでしか感じられない音楽“体験”を感じる一枚だ。
■今作から“PHASE 4”に入られるわけですが、今から振り返られて3rdアルバムから今作までの“PHASE 3”はどういった期間だったでしょうか。
ILL-BOSSTINO(以下B)「俺らの年齢的なものなのかわからないけど、俺や仲間も家族を持ったり、そういうことがたまたま集中してたね。だから、人生的なところで増える変化というか、広がっていく時期だったなと思う。そして、そういう感覚はおのずと作品に反映されてたのかもしれない。広がったという意味で言えば、1枚目、2枚目とは違って、日本中の色々な街でライヴすることが初めてじゃなくなって、色んな人と会う機会も、中には何度も会う人が増えて。その広がりの中で、僕らの音楽を理解してくれてる人たちとも沢山出会って、面白い奴とも出会って。そうなってくると自然と街ごとの境目がなくなっていくし、普通に友達になっていく。そういう意味でも、広がっていった時期だったのかな。常に感情や考えは変化してるし、それが自然の流れだと俺は思ってる」
O.N.O(以下O)「“PHASE 3”は本当に開けていった時間だったよね。俺も新しい音、作り方みたいなものを発見して。加えて、それを活かしてソロとして制作やライヴを展開したし、自分にとってはひとりで色々やりこむ時期でもあったかな」
■僕の勝手なイメージなんですけど、“PHASE 3”の時期ってTBHが“肉体”を持った時期なのかなって感じたんですね。やっぱり1st、2ndの頃は、TBHは神秘性を帯びたグループだと感じてたんです。それを自分たちのひとつの材料にしていたとも思うし、そこによって生まれる言葉/音楽/イマジネーションがあったと思うんです。そういった精神性の強さに、“PHASE 3”に至ると肉体が被さってきて実体化して、よりリスナーと距離が近づいた時期だったのかなと感じたんです。
B「それは初めて言われたな。でも、そうかもしれない。俺らも変化するし、そちらから見た景色っていうのも変化していくわけで。だから『意外と会ってみたら普通の人っすね』なんてよく言われたもんだね。『ギャグとか言うんですね』とか(笑)」
■でも、まさにそこですね。
B「そういうのを若いラッパー連中によく言われるんだけど。でも、そんなの札幌じゃ全員知ってるわって感じだよ。でも、俺たちが近づいてきたのかもね。さっき言った精神性に肉体が付いてきたっていうのも、どう見てもそちら側の景色だもんね」
■そうですね。
B「たまたま遠い街に住んでて、そういう情報が届かないところからいきなり来たから、そちら側からはそう見えたかもしれないけど、俺たちは普通に、昔から人間臭い仲間たちと人間臭い夜を過ごして、笑いと共にここまで来たぜっていうのはあるんだけどね。でも、活動初期に関して言えばそのズレが与えた影響はあったと思う」
■“PHASE 4”を「STILL RAINING, STILL WINNING / HEADS UP」からスタートさせましたが、そのキッカケは?
B「3枚目のアルバム作って、ライヴに出て、持ち曲の中でのライヴ表現っていうのを3〜4年かけて180ヶ所近くやって、今の弾で出来ることはやり尽くしたから、次の弾を作ろうかって、そこが動機だね」
■ちなみに、新しい“PHASE”を始めるときには、どのぐらいのイメージを固めるんですか?
B「いや、まったくないね」
O「互いに思うところはあるけど、全体像を考えるなんてことはない」
B「今だってこの“PHASE”がどうなるかなんて、分かっちゃいねえよ。アルバムは出来たけど、これからライヴに出ていくわけだからさ。とにかく『自分らの信じるカッコ良い曲作ろうよ』っていうのが原点っていうか、それが全てだね。とにかく曲を作っていって、納得できる曲が出来たらそれを並べて、『この曲間が飛躍しすぎてるから、繋ぐために一曲作れば流れがスムーズになるよな』とか、『こういうトピックは今までなかったから書こう』っていうことをやっていく内に、自然とアルバムが出来ていくっていうかね。だから“PHASE”の意味づけは、作り終わってライヴを経た上で思うことであって、やってる最中は意味合いなんて考えてないよ。思想が体系づけられるっちゅうのはもっともっと後の話で。ライヴをやって、色んな人に聴いてもらって、感想をもらっての中で、曲自体が鍛えられていく。で、俺も歌いこむ。そうやってドンドン成長していくわけで、今はまだ考えられる段階じゃないね。まだもっとこの二人だけの、もっとミニマムな、1対1の世界だよね」
■なるほど。
B「ただ、前まではリリックと音をぶつけてみて、ぶつかったときの火花がどういう形になるのかだったり、多少の不協和音もひとつのスリルとして提示してたんだよね。1stや2ndはほとんどそういう考えだった。でも、その手法はやり尽くした感もあって、それが3rdぐらいから変わって、俺だったらO.N.Oの出すビートに、どう気持ちを合わせていくかとか、お互いの役割のベストを尽くしながら、更にどう整合させて音楽を作っていくかってことを考え出した。そして、今回はそこを徹底したって感覚がすごい強いね」
■その意味では、偶然にミラクルを起こすんじゃなくて、ミラクルが起こる状況をちゃんと作るというか。
B「曲作る過程っていうものは、やっぱりミラクル待ちの部分があることはあるけど、それでも開けてみたらどうなるかっていうよりかは、お互いの中でちゃんとヴィジョンがあって、それに向かってお互いがどう進めるかってことをしっかり考えてる。はっきり言ってその方がミラクルよりも良いものができる可能性は高い」
■「STILL RAINING, STILL WINNING / HEADS UP」を聴いて思ったのは、原点回帰とも違うけれども「この二人だったらどういうメッセージが出せるか/どういう音を出せるのか」をもう1回見つめ直そうとしてるのかなって。
O「シングルに関しては俺はファースト的なイメージがあったね」
B「テンションはそうだったね。原点回帰じゃないけど『感情を沢山入れる』って気持ちはすごい強かったし似てたと思う。加えて、まずは自分たちのやってきたことや、今の自分たちだとかっていうことをちゃんと整理して次に行こうって感覚があった。だから、その中でだんだん作りこんでったっていう感覚が強いね」
■では、このアルバムで一番最初に録った曲は?
B「“WE CAN...”。アルバムでも実質1曲目だよね。俺のリリックが7〜8曲ストックあって、O.N.Oのトラックがもっとあって。そこで、O.N.Oにトラックを聴かせてもらう中で、このトラックに最初にピンと来て、“WE CAN...”のリリックを合わせていったんだよね。それぐらいゼロから始めてる。『ここからテンションあげてくか!』っていう、そういう感覚」
O「トラックの段階でも手応えあった曲だし。これで1曲目で作ったから、作っていく上で勢いついたよね」
■「いよいよ本番だと思ってます」ってリリックにそれは象徴されるかもしれないですね。
B「本当そう思ってる。やっとお互い作りたい音楽を、イメージ通りに作れるときがきたっていうか。お互いがスキルも手にして、昔みたいな初期衝動で作っていくのとはちょっと違う、目標に辿り着くために作ろうっていうことが出来るようになった。だから『俺たちが作りたかった音楽を作ろう、鳴らそう』っていう感覚がすごい強い。二人の間にある『TBHの音楽』を作るためにベストを尽くすっていうかね。シンプルなんだよ。もっと良い曲を作りたい、もっと上手くなりたいっていうだけだよね、相変わらず。もちろんそこには金も絡んでくるし、妬み僻みも絡んでくるし、お客に褒められたりダメって言われたり、そういういろんなことがある。当たり前のように。でも、俺たち二人になったときに話すのは、やっぱりカッコ良い曲を作ろう、良い音楽を作ろうっていうことなんだよね。だからそこはずっと変わってないっちゅうか。そういう感じだね」
■その意味では、お二人とも、ソロや様々なプロジェクトと、幅広い動きをされていますが、それらの最終的な着地点はTBHということになりますか?
B「今の段階ではそうだね。俺は毎回自分の作る曲に、今まで学んだこととか知ったことを投入するつもりでやってるよ、それの一番大きい形が、TBHかもしれないね。長くやってるし、歴史もある。だから俺にとっては本流かなって。TBHのために生きてるよ、俺は。年がら年中TBHを名乗ってライヴをして、この看板を背負って生きてるわけで。この15年間、別にアルバムのためにTBHになってるわけじゃなくて、ライヴの間だって、ずっとTBHとして生きてるっていうか。そういう感覚はすごいあるね」
O「俺もTBHに向けて色々な行動をしてると思う。でも、音作りに関しては、ソロでやってるのはそれはそれで別の感覚かな。もう作り方が全然変わっちゃう。リリックが乗るってことからしてそうだし、やっぱりTBHで作品を作るってことは、この二人の思考を合わせるっていうことだから」
■今作に「TOTAL」と名付けられた訳は?
B「本当は3rdのタイトル候補の1つだったんだけど、2007年の段階では『TOTAL』と付けるにはまだまだだなって保留にしたんだ。でも、今回は二人だけで総力戦だよ。もう、お互い持ってるものを全部出すっていう。ゲストもいない、他の奴には誰も頼らないでこの二人だけで完成させてやるっていう意志が強かった。だから、総決算っていうか総力戦という意味で、そういうタイトルにしたって感じだね」
O「ずっと二人だけでやって来たから、他に逃げ道もないし、誰のせいにも出来ない。だから、自分らのやってきたことだとか考えてきた事っていうのを全部詰め込まないと。だから、そういう意味じゃお互いの才能を引き出すために随分苦労した。そういう意味でも総力戦だったし、ここでやっと総力戦が出来るようになったんだなって感慨もあった」
B「それに、さっき肉体性って言葉があったけど、昔ほど俺らに対して神秘的なものはないと思う。普通の人間だよ。だから、てめえの経験であったり性格であったりで勝負せざるをえないっていうか。もうブラフなんてなにもねぇよ。本当にもう隠すもんなんて、なんもねえ。今も全部さらけ出してるし。そういう感覚になって作ったアルバムなんだよ。そういう意味でも『TOTAL』って名づけていながらも、めちゃめちゃ狭い世界のことだよね。たった俺とO.N.Oの二人の人間だよ。すごい小さいものかもしんないけど、『これが俺ら』みたいな。そういう意味でも『TOTAL』だよね」
■ただ、お互いを引き出すと言う意味では、やっぱり15年以上タイマンで作品作りをすると、もう引き出せないって感覚に陥ることはないのかなって思ったりもするんですね。でも、このタッグなら引き出し続けられると思えるのは何故なんでしょう。
O「実際出てくるからね」
B「でも、ひとつの区切りは付いてるって感覚はあるかな。やっぱり毎回作品を作る度に、もう引き出せないだろうって思う。でも、その間に時間をおいてライヴをして、今回だったらこの5年の間に、色んな経験をして、また新たな引き出しをお互いに作ってると思うんだよね」
■トラックについてもお伺いしたいんですが、今回のトラックはほぼ打ち込みですか?
O「そうね、ほぼっていうか全部そう」
■それがO.N.Oさんにとって、今のTBHに必要な音ということになりますか?
O「そうだね。それがリリックとはまた別の方向で、曲をコントロールしていくことに繋がるっていうかね。その作り方が1番合ってるなと思ってるし。自分の感情を音として伝えるのには、そうやって作っていくのがベスト。でも、同じ打ち込みでも、今までとは違う作り方を探って、それが形になった感じかな。BOSSの感情をどう持っていくか、どう流れをつけるか、どうすればリスナーを惹き付けて飽きさせないかを考えたら、今回のような作り方になったね。“PHASE 3”で俺はステージに立たないでライヴを客席から見てたことで、一層フロアーを意識したんだ。それ故に、お客さんの心を離さないように如何に引っ張っていけるかという部分を、どう曲の中で作るかを考えた」
■今回“LOST IN MUSIC BUSINESS”で、「代わりはいくらでも控えてる」ってニュアンスのリリックがありましたが。
B「だって、沢山良いラッパーいるじゃん」
■TBHって、自分たちがナンバー・ワンであることを強烈に打ち出すグループだから、そのメッセージはちょっと意外だなって。
B「いや、でも『捨てれるもんなら捨ててみろ』って感覚だよ、もちろん。『捨てられるんだったら捨てろよ、捨てれる?』っていう感覚」
■ある種の逆説というか。
B「もちろん。でも『代わりはいくらでも控えてるぜ』っていうのは嘘じゃない。本当に良いラッパーは沢山いるし、良いプロデューサーも沢山いるし、良いアルバムも良い曲も、昔と比べると、比べ物にならないくらい、充実して豊かになってると思う。だから俺らもちゃんとやらねえとってマジで思ってる。それは事実としてリリックに落とし込んでおこうって。でも、基本的にシーンって中で俺らがどう見られてて、何をしていくかっていう意識はまったくない。俺らは俺らの歴史で生きてるし、シーンがどうなんて昔から構っちゃいねえ。シーンが広がろうが衰退しようが、俺たちはライヴをやり続けていくんだよ。俺らがもっと年寄りになって、TBHなんてとっくの昔にもう過去のものになって、もうheavysick ZERO(東京・中野のクラブ)に10人も集まらないような状況になったとしても、俺らはライヴをやってくわけだ。なぜなら、俺らには歴史があるから。それは深いぜ。そのときに歌う“HIP HOP 番外地”なんて、絶対に超深いよ。今と比べものになんねえ。そういう長い歴史の中で、俺らは生きてる。俺らは、日本のHIP HOPと共にじゃなく、俺らは、最初からTBHのHIP HOPの歴史として生きてるんだ。だから、その歴史に恥じないような音楽を作ろう、歴史に恥じないライヴをやっていこう、そのためにもっと上手くなろう、もっと良い曲を作ろう。それだけだよね」
Amebreak伊藤「ただ、そうすると、昔からのファンは共有できているTBHの歴史から断絶したリスナーも、恐らくこれからどんどん出てきますよね」
B「間違いない」
Amebreak伊藤「それについてはどう感じます?」
B「でも、はっきり言って1stの頃から俺らのことをずっと肯定し続けてる人なんて、もうそんなにいないよ。そんなに多くはない。2ndから合流してくれた人だって、その当時は新しいファンと言われてたけど、今となっちゃ相当古いファンだからね。しかも全員今も残ってくれてるかと思えば、1st同様全員ではないと思う。常に現われては去っていくものだと思ってる。もちろん、最初からファンでいてくれる人もゼロではないし、有り難いことだよ。いつだって感謝してる。でも、今回新しく聴いてくれる人にも、当然カッコ良いって思わせる作品になってるつもりだし、俺らを聴くのが遅かったね、なんて思わないよ。ここからまた始まるんだ。遅くはない。そういう感じだね。みんな現われては去っていくよ。去ってったり現われたりまた戻ってきたりさ。取り巻く状況ってのはこの15年そういうもんだった。でも、俺らはいつも今の俺らを楽しんでいるし、楽しんでほしいと思ってるよ」
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