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茂千代

“OWL NIGHT”やILLMARIACHI“YOUNGGUNZ”など、90年代の日本語ラップを通過しているヘッズにとって、茂千代が残してきたヴァースの数々は特別な意味合いを持っているはずだろう。数年のブランクを経て近年再び活動を活発化させていた彼がDJ KENSAWとのタッグで作り上げたアルバムが「NIWAKA」!このアルバムが熱くないワケがないでしょ!

インタビュー:浦田 威

『俄』って小説があるんですけど、
その中の「人生はまるで一場の俄のようなものだ」ってフレーズがあって、
このアルバムには自分の人生を詰め込んでるし、
自分への景気づけって意味もあって。
精一杯の言葉遊びで、喜怒哀楽を入れて
自分の名刺代わりになるものを作りたかったですね

 90年代の熱気の渦の中にいたヘッズにとって、茂千代とは、間違いなく大阪HIP HOPシーンがこれまでの歴史の中で産み出した最高のMCのひとりである。そして、彼を全面的にサポートする真っ赤な眼をした梟、DJ KENSAWもまた然 り。言わずもがなのレジェンドだ。しかし、今回リリースされた「NIWAKA」は、そんなレジェンド2人が過去の名前に寄りかかっただけの作品とは決定的に違う。情熱、苦悩、希望、あらゆる感情がドープ極まりないトラック上で交錯する本作を聴けば、彼らの全盛期がここから始まることがお分かり頂けるだろう。

■まず、久しぶりのインタビューだと思いますんでバックグラウンドから教えてください。
「中学の頃からダンスをしてて、高校に上がってATSUに出会ってHIDAやんを紹介してもらってつるむようになったり。その頃、NHKの深夜番組でMICROPHONE PAGERが1曲だけ出てきて、他とは全然違うラフなやり方がカッコ良くて、すぐCD買ってHIDAやんとか、皆に聴かせたりしてハマってました。そこから遊びでリリックも書くようになって、クラブに行ったらたまたまDMCのラップ部門の予選に誘われて、ひとりでは心細いからATSUも誘ってダイナモ(茂千代/ATSUから成る2MCのグループ)として曲作ってエントリーしたんです。そしたらいきなり大阪予選通って、東京ではRHYMESTERと雷がゲストで、僕らはDJもいないカセット・テープのままでライヴして、全然あかんかったけどRHYMESTERにデモ渡したら『ナイトフライト』でかけてくれて、そこから大阪のDJ DOUBLE Kが僕らをプッシュしてくれるようになったんです。その後、大阪のBAYSIDE JENNYでやってた『証言+α』ってイヴェントに出たんですけど、そこでKENSAWさんに会って『今度“OWL NIGHT”ってのをやれへん?』って誘われて、KENSAWさんは知り合う前からミックス・テープも買ってて、僕の憧れやったから……大きなきっかけはそこやったですね。ちょうどDMCの予選にKENT君(KENT WILD)も出てて仲良くなって、音楽の趣味も合うから一緒にやるようになって、DJのBENKEIさんとも知り合って……僕はDESPERADO結成のきっかけってハッキリとは覚えてないんですけど、とにかく自然な流れで……落ちるまではナンも考えてなかったんかも(苦笑)。DESPERADOは僕がMAGUMA MC'sにやられて、京都に行きたいってなって、KENT君は大阪に残ったからFUTURE SHOCKの次の話もあったんですけど結局解散してもて、その後京都に行ってからはMAGUMAのクルーで活動してたんですけど、SWIZZ BEATZやDMXが出てきて、自分の好きなHIP HOPとズレが生じたり、精神的にへこんだ部分とか色々あって、結局HIP HOPの現場を離れてもて、関西を離れて音楽も一切やめて九州で働いてた頃、たまたまTHA BLUE HERBがライヴで来てて、『久しぶりにHIP HOP観にいこかな』って行ってみたらそこでワケ分からんくらい、滅茶苦茶にヤラれまくって、またHIP HOPがやりたくなったんです。実家に帰ってからはHIDAやんも『茂千代またライヴやろうや!』って連絡くれて、韻踏の『ジャンガル』に参加したり、DJ AK君とも再会してBONSAI RECORDSから音源出したりしてたんですけど、しばらくして僕が結婚してまたライヴは出なくなって、その後仕事を辞めて2ヶ月休みが出来たときに、『今KENSAWさんと本気でやらな絶対に後悔する』と思ってKENSAWさんに電話したら、会って話を聞いてくれて、『二人で作ろうや』って言うてくれて、アルバムを作り始めたんです」

■DJ KENSAWさんとは、茂千代君にとってどんな存在ですか?
「KENSAWさんは……HIP HOPですよね。HIP HOPにも色々あると思うけど、KENSAWさんのクラブ・プレイとか話し方とか全て、DJ TANKOさんも含めてLOW DAMAGEに一番刺激を受けて。今でも常にKENSAWさんやTANKOさんがコレ聴いたらどう思うんかな?ってのは考えてるし、 僕の身体ってのは、もうそこのフィルターを通さんと、HIP HOPとしては見られへんようになってるんです。多分、KENSAWさんに出会ってなかったら、全然違う方向に行ってたとは思います」

■DESPERADO解散後、リリックの傾向が明らかに変わりましたよね?個人的に、僕はみんなが“全盛期”と言うDESPERADOの頃の茂千代君はあまり好きではなくて、BONSAI以降、初めてリリックがすんなり入ってくるようになったんですよ。
「それは……自分でも分かってて、人間的に成長した部分を聴かせられるようになったんやと思います。怖いもの知らずな若造がイケイケでやってたのが、DESPERADOも解散して一からやろうってなって、イベントを支える人とか色々見て、初めて自分は甘かった、ホンマに色々苦しみながらHIP HOPやってる人もおる。オレの言葉には重みがなかったんやってのが見えたんですよね。その反動で“0-START”の頃は、『言葉遊びなんかフェイクや』って思ってたけど、BONSAIの頃には余裕も出来て、YOUTHなんかも『昔の茂千代のスタイルが好きや』て凄い言ってくれたりもして、自分の芯の部分は変えずに、あえてまた言葉遊びをやってみようってのがあって、自分にしか出来ひんことをやろうってとこに戻れたんです。けど、DESPERADOの頃のアーティスティックな部分、言葉をフロウさせて、凄い自由に楽しんでた部分ってのは今、逆に見習わなあかんのかなってのもありますね」

■復帰してシーンを見て感じたことは?
「DESPERADOを聴いてた大阪の奴らは、皆アーティストとして一線になってる。昔から知ってる人が声援をくれてるのは嬉しかったけど、メインストリームの音も全然変わってるし、今の新しいリスナーに自分のラップは全然通用してないなって温度差は、正直感じるときもありました。けど、それがあったから逆に太くなって、自分の時間を与えられたら笑われても盛り上げてもいいから興味を引こう、周りに合わせるんやなくて自分の持ってるものを貫き通して、流行りじゃなくずっと聴いてもらえるものを作ろうって意識にはなりましたね」

■今回のアルバム・タイトル「NIWAKA」ってのは“新喜劇”とかの意味もありますよね?
「そうなんです。タイトル曲は僕の中では面白いトピックやったから、誰かに先を越されないうちに、前からやりたいと思ってた。『俄』って小説があるんですけど、その中の『人生はまるで一場の俄のようなものだ』ってフレーズがあって、このアルバムには自分の人生を詰め込んでるし、自分への景気づけって意味もあって。精一杯の言葉遊びで、喜怒哀楽を入れて自分の名刺代わりになるものを作りたかったですね」

■リリックでは普遍的なメッセージも多いですが。
「昔はHIP HOPの人としか付き合いがなかったけど、ここ数年は普通に生活してる人とつるむ時間の方が長いから、その中から生まれてきた感情ってのが“汗とホコリにまみれ”とか、やっぱり仕事場で若い子が悩んでる多くは恋愛のことやったり、僕は今、そういう中で生きてるから、そこに伝えようと狙ってはないけど、自然とそうなりますね。その中に自分がHIP HOPから得たアイディアをプラスして、今回みたいに喩えを使いまくってラヴ・ソングを書いてみたり、今後も色々やっていきたいですね」

■音楽をやる上で支えになってるものは?
「家族や仕事場、HIP HOPとは全く別の、普段の生活ですね。これまではHIP HOPで落ちたら落ちっぱなしやったけど、今は落ちたままではやっていけない、戻るべき場所があって、そこで良い意味で白紙にしてくれる」

■では技術面について伺います。茂千代君にとってフロウとは?
「DESPERADOの頃はREDMANみたいに滅茶苦茶に見えても、最後はちゃんと着地するみたいな、変態的なフロウが好きでしたね。けど、“0-START”の頃からは、ストレートなOLD SCHOOLのスタイルが好きになって、当時は BUSTA RHYMESとか聴いてるとうっとうしくなって(笑)。激しいラップがキツく感じるようになってましたね」

■O.Cみたいな正統派のラップが好みですか?
「勿論好きなんですけど、僕の中ではO.Cのフロウも、NASもそうなんですけどクセあるんですよ。僕が好きなのはもっとシンプルなハメ方でRAKIMとか……もっと言えばPETE ROCKのラップとか(笑)」

■韻に関しては?
「ないと書けないですね。普通に作文とか書いたら本当ダサいし、全然ラップできない。韻という遊びありきで、自分の感情をどれだけ込めれるか、そうやって作ったら僕の場合はHIP HOPになると思うんです」

■所謂サッカーMC的なトピックは昔から得意ですよね?けど、茂千代君は会って話した人には分かるけど、まったく攻撃的な人ではない。特定の対象はいないんですか?
「昔から『オレのラップはヤバい』ってトピックは単純に好きやし、そこまで言ってる以上自分がおかしなマネはできないって意味もあって、自分自身が歪まないためにやってますね。だから対象となるMCはいなくて、ただダサいことに対して闘うってだけなんです」

■ストレートなHIP HOPを感じさせる比喩について、USの曲名の引用とかに関しては?
「ついやってまう(苦笑)。アメリカの映画とかもそうやけど、HIPHOPの対訳を見て、喩えが凄い多くてカッコいいと思ったし、純粋にそういうのが好きやから普段聴いてる音楽の中から自然に出てくる。そこに色んな掛け方をしたり、みんなに伝わってるかどうか分からないですけどダブル・ミーニングとか、2小節分の意味を持たせてるとこもあるし、自分の中で色々使いこなせるようになったかなってのはあります」

■ラップに関しては、あまり卓上でいじったように聴こえませんでしたが。
「いくつかおかしい部分は修正してるんですけど、素材を声として録って後はKENSAWさんにすべて任せて、上がったものには100%満足してます。曲でいうと、“CHANCE”は頭から最後までフックもすべて一本録り、自分では凄く気に入ってますね」

■綺麗に整えすぎることでヴァイブスが薄くなる?
「RAWな感じが好みなんですけど、今回はメジャーな音が好きな人にも聴かせたかったから、KENSAWさんにもらった色んなトラックの中でも、自分にしっくりくるものを選んだんですけど、KENSAWさんのダンサブルなノリってのは自分も好きやから、そのトラックがあってはじめて引き出されて、“MIRACLE”みたいな曲も書けたんやと思います」

■茂千代君のラップが今のメインストリームの音に乗ったらどうなるか?って興味もあるんですが。
「KENSAWさんからもレーベル・オーナーとしての視点で、『別にオレとばっかやらんでもええんやぞ、もっとオマエのやりたいことやれ』とは言われてて、今の音がダサいとか全然思ってないし、自分も興味あるんで、機会があればやってみたいですね。ただ、自分のアルバムとなると、僕の中で未来予想図があって、そのコンセプトの中で上手く活かせればいいんですけど。客演に関しては、『僕でいいんやったらいきますよ』って感じですね」

■最近、気になった同業者はいましたか?
「僕はそんなにチェックして一杯聴いてるわけやないんですけど、東京でライヴした時にCDもらったMONJUはラップの言い回しとか、音もとにかくカッコ良くて、『出会った』感じはしましたね」

■最後に今後の展望を。
「大阪の人は、もう僕がどういう人間性かってのは分かってると思うんですよ。今回のアルバムを聴いた人にも、僕がどんな人間かってのは分かってもらえると思うから、次は『茂千代がどんなことをしたかったのか?』ってのをもっと見せていきたいです。今は凄い良い状態なんですけど、自分の中での“アーティスト像”ってのがあって、もっとクリエイティヴな、ひたすら音楽をやり続けていける環境を整えていきたいですね。今後の動きに関しては梟観光公式サイトをチェックしてください」


“CHANCE”の音源はコチラ!
http://amebreak.ameba.jp/media/2008/12/000590.html

 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : NIWAKA
ARTIST : 茂千代
LABEL : 梟観光, s.t.a/STASN01
PRICE : 2,310円
RELEASE DATE : NOW ON SALE