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SHIZOO

一度は投獄された身でありながら、HIP HOPの力を借りてSHIZOOはいちアーティストとしてアルバムをリリースするという状況にまで自ら変えていった。ゆえに、彼のそのモティヴェーションの原動力となったHIP HOPは、彼にとってものすごく尊いものだということが、発言の端々から感じてもらえるだろう。

インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)

「アルバム・タイトルの『P.R.A.Y.』というのは、成功するための“PRAY”でもあるし、今の環境から抜け出したいとか、助けてほしいとか、そういう意味での“PRAY”でもある。宗教どうのこうのじゃないけど、“祈る”ことの大切さを伝えたかった」

 SHIZOOというアーティストを語る際、どうしてもドラッグ・ディーラーとしてマイアミで投獄されたことがあるというイリーガルなイメージが先行してしまうのは、彼が実際に楽曲で隠すことなくリリックに書き留めている以上、仕方のないことかもしれない。だが、時にはHIP HOPを神聖視すらする彼のラップは、他の多くのサグ/ハスラー・ラップと呼ばれる作品よりも強い純粋さを放っているということも理解しておくべきだ。人生のどん底からわずか数年で、それこそテレビのような世間の表舞台に顔を見せるまでになった彼の、ラッパーとしての事実上の第一歩目が本作「P.R.A.Y. (PEOPLE'S RESPECT AROUND YOU)」。彼の“祈り”がリスナーにどう伝わるのか——彼は今HIP HOPに試されている。

■SHIZOO君の幼少期はどんな感じだったんですか?
「まず、家庭がボロボロで、物心ついたときから片親で、オフクロが女手ひとつで育ててくれて。“LIFE'S SO HARD”って曲でもちょっと触れてるけど、中学生の頃、オレの実の兄貴がシャブ中で、毎晩家で暴れるような感じで、普通の人間じゃ理解できない言葉を言うし、オフクロも血だらけになったりオレも殴られたりして」

■“どうせ育ちは貧乏団地”って“タシカニ”でも歌ってるけど、貧乏だった上、家庭環境も崩壊していたということですね。
「ホントこの悪夢がどれだけ続くんだろうって、常に思ってましたね」

■プロフィールによると、HIP HOPには93年頃に出会ったとのことですが、自分の苦しい環境の救いをHIP HOPに求めていたというのはありますか?
「それは全然ある。HIP HOPがなかったらホントヤバかったと思う。ホント普通の人には理解できないかもしれないけど、家に悪魔がひとりいるみたいな状況で生きてたから。結局兄貴はその後病院に入って今は静かになって平和になったけど」

■SHIZOO君がドラッグ・ディーラーとしてマイアミに行って……という話は結構有名だと思うんだけど、ドラッグ・ディーラーの道を選んだ理由は?
「その頃他にもいろんな仕事してたんだけど、何も続かなくて。借金とかも、親の借金も増えちゃってて。で、どうするってなって手っ取り早くディールの方に行った」

■でも、コロンビアまで取引に行くということは、普通のプッシャーじゃないですよね?
「最初は普通のプッシャーだったけど、どんどん話がデカくなってって、そういう話になってきたんですよね」

■ハスリングをしていた頃のSHIZOO君とHIP HOPの距離感はどのくらいだったんですか?
「相当離れてましたね。ラップは当時もしてたけど、なにがなんだか分からなかった。当時はMICROPHONE PAGER、キングギドラ、RHYMESTER辺りを聴いてたけど、リリックの書き方とか全然分かんなくて、結構ジブさんとかに似ててオリジナリティもなかった。遊びでしかやってなかったし、まさかラップで食っていくなんて思ってもいなかった」

■で、98年にマイアミで逮捕される、と。
「ちょうど20歳のときにパクられて。(刑期は)2年9ヶ月。英語も全然喋れなかったから仲間に辞書送ってもらって勉強して。刑務所は……生きていくのがやっとって感じでしたね。英語は喋れないし、日本人はオレひとりしかいないからどうすればいい?ってことになって。もう、(刑務所の中は)『プリズンブレイク』のまんまでしたよ」

■マイアミの刑務所は場所柄ラテン系のような黒人以外のマイノリティも多そうですけど、映画『アメリカン・ヒストリー・X』で描かれてるような刑務所内での人種間の対立というのもありましたか?
「あるある。まず人種で分かれるから。逆に俺は日本人がひとりしかいなかったっていうのがあってみんなにかわいがられたっていうのはあった。だから、日本人で逆に助かったのかも、って……。刑務所の中ではラップなんかやめようぐらいに思ってて、アジア人がラップをするのはやっぱり無理だと、実際にアメリカに行って思わされたんだけど、日本に帰ってきてから『やっぱりやらなきゃいけない』って衝動に駆られてまたラップをやり始めた」

■じゃあ、刑務所でラップを書いてたりはしてないんですね。
「英語で1ヴァースもいかないぐらい。でも、やっぱダメでしたね、集中できなくて。ラッパーというよりはひとりの日本人青年って感じだったから、そんな余裕はなかった」

■なんで日本に帰って来てからラップを書きたいと思うようになったんですかね?
「それが分からなくて、神がかってる部分だと思ってて。もうオレはラップをやらないって心に決めて帰ってきて、HIP HOPもまったく聴かないでいたんだけど、ある日やっぱり聴いてみようと思って聴いてみたら、神の声がかかったみたいに『そんな経験してるのにここで何やってるんだ。もっと伝えなくちゃダメだ』って感じちゃって、その日からリリックを書き続けて『S.H.I.Z.O.O.』(05年)や『UNRELEASED』(06年)を出した」


“たしかに feat. BES〜それでも”

■諭吉RECORDSからのリリースというのはちょっと意外だったんですが、リリースに至るまでの経緯は?
「DJ ISSOとは『CONCRETE GREEN 4』に曲を提供したときに知り合ったんだけど、NORIKIYOとか(グラフ・ライターの)KANE君とは昔から知り合いだった。それこそオレが練マザファッカーに入る前からNORIKIYOやISSOは『SHIZOOのためだったら金を出してもいい』って嬉しいこと言ってくれてたから、諭吉からのリリースは自然なことだった」

■昨年出したミックスCD「STREET NECKLACE」には、今作に収録されている楽曲の原型ヴァージョンが多く収録されてたけど、「STREET NECKLACE」の頃にはほとんどの曲は出来上がってたんですか?
「07年頃から作り溜めていて、途中練マザファッカーのアルバムを作らなくちゃいけなかったりして止まってた時期はあるけど、基本作り続けてた」

■加入という言い方が正しいかは分からないけど、練マザファッカーにはどういった経緯で参加することになったんですか?
「これも結構神がかってて、コンピ『JAPANESE RAP STA ON BOOTSTREET』(07年)の制作でD.Oと知り会って仲良くなって、その数ヶ月後にPIT GObに電話して近況を話してたら、彼が『これからTBSに行く。SHIZOOも来る?』って言って付いて行ったらそれが『リンカーン』のオーディションかなんかで、オレもそのメンバーに入れられてあの撮影に参加することになったんですよ。その後、営業のときも自然とオレの名前も入ってるようになって、みんなと行動を共にしてる内に自然にいつの間にか練マザファッカーの一員になった」

■マイアミ以降のSHIZOO君の動きは偶然が重なっててかなり興味深いですね。
「ホントそうで、一回の失敗——パクられたとかでなかなか社会復帰が出来ないヤツには、本当に頑張れってエールを送りたいですね。『一回失敗してもHIP HOPが守ってくれるよ』って。オレが実際にそうだったから」

■オフィシャルなリリースとしては初のアルバムとなるわけですけど、一枚の作品として今作で目指したかったものは?
「映画的というか、ひとつの物語——喜怒哀楽のひとつひとつが出てるようなアルバム——最初から最後まで聴いて一曲みたいな感じにしたかった。アルバム・タイトルの『P.R.A.Y.』というのは、成功するための“PRAY”でもあるし、今の環境から抜け出したいとか、助けてほしいとか、そういう意味での“PRAY”でもある。宗教どうのこうのじゃないけど、“祈る”ことの大切さを伝えたかった」

■全編を通して感じられたのがSHIZOO君が持ってるハングリーさで、いろんなことに飢えててそういった部分がラップにダイレクトに反映されてると思ったんですね。
「それはあるっすね。それがHIP HOPだと思うしね。貧しい環境から抜け出すために頑張るとか、這い上がっていく下剋上的な部分もあるし、やっぱりハングリーさが原動力になってますね。逆にそのハングリーさがなくなっちゃったらオレはなにを書くんだろう?ってのが不安だったりしますね。オレは別にエンターテイナーになりたいとか、有名になりたいとかじゃないから。ひたすらオレみたいなヤツがいるわけだから、そういうヤツらがオレの曲を聴いて立ち上がってくれれば幸せですね」

■先ほどから「神がかる」って言葉を使ってますけど、SHIZOO君の曲には他の日本のラッパーと比べると“神”という言葉が多く出て来ますよね。
「『アメリカかぶれ』とか言われるかもしれないけど、でも、本当に神の存在を意識せざるを得ない状況だからこそ言ってるわけで。例えばオレが高校卒業して大学出て……っていう人生だったらオレはそれを伝えるけど、そうじゃなかった。家庭はボロボロだったりしたけど、そんなオレを支えてくれたのがHIP HOPだった。しかもいろんな神がかってることもあったし。なにか導いてくれたものがあるからオレは今ここにいると思ってる」

■SHIZOO君は“神”をどう定義します?
「いろいろあると思うけど、自分のやらなければいけないことに対して信念を貫き通すために信じる力みたいな……オレの場合HIP HOPを信じて救われてきたけど、それはそのまま神に置き換えることが出来るんじゃないかな。オレはHIP HOPを強く信じ続けてきたからこそHIP HOPがお返ししてくれたんじゃないかな、って思ってて、それをどうやって人に伝えるかをいつも考えてますね」

■じゃあ今はラップで食っていくとかっていうことよりHIP HOPに対する使命感みたいなものの方が強い?
「全然そうです。日本が不景気とかでこんな風になっちゃってるのも悔しいし、若いヤツらをHIP HOPで変えられたらな、って。もしかしたらHIP HOPのせいで悪い方向に行っちゃうヤツもいるかもしれないけど、反対に助かってる人もいっぱいいる。HIP HOPを知らないで『オレどうしたらいいんだろう?』って悩んでるヤツはいっぱいいると思う。そんなヤツがオレの曲を聴いてくれて『オレ、イケるじゃん』って思って動いてくれればいいな、って」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : P.R.A.Y. (POWER RESPECT ATTRACT YOU)
ARTIST : SHIZOO
LABEL : YUKICHI RECORDS/YRC-010
PRICE : 2,415円
RELEASE DATE : 6月3日