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KREVA

KREVAが「傑作を作る」と自らに課して作り上げた最新作「心臓」は、日本語ラップ、ポップスなどのジャンルの括りに関わらず、極めてオリジナルで優れた作品となったことは間違いない。彼が長年HIP HOP/ポップス・シーンで戦ってきた末に辿り着いた境地と言っても過言ではないこのクオリティ。KREVAの発言を通してこの完成度の高さの秘密を探ってみよう。

インタビュー:高木晋一郎

「ベスト・アルバムよりベストな作品って言ってくれた人がいたんだけど、そういう作品かな。何か一枚アルバムを買うんだったら『心臓』がいいよってみんなが言ってくれる作品になるといいね。リスナーには『買って良かったな』って思ってもらいたいのは当然だけど、それに加えて『これはこうなってこうなって……なるほど!』みたいな(気付きのある)作品になってほしいし、“CDアルバム”っていう作品形態もいいなって思ってほしいね」

 

 KREVAという全身音楽家が到達したひとつの極みになるであろうニュー・アルバム「心臓」。これまでにも作品を通してポップ・フィールドにHIP HOPの存在をアピールし、彼自身の存在感と共にHIP HOP自体の認知度を高めることに成功してきた彼だが、この「心臓」は、ポップであるとかHIP HOPであるとか(無論、本作が純然たるHIP HOPであることは疑いようもないが)、そういったエクスキューズを越え、「純粋に素晴らしい音楽アルバム」という、単純ながら越えがたいハードルを飛び越し、すべての音楽リスナーに聴かれるべき作品として完結した。

 そして、その音楽的強度を支えているのは、他でもない「最高度までに磨き上げられたKREVA流のHIP HOP」であり、その痛快な事実はHIP HOPはHIP HOPのままで、より多くの人に驚きを与え、引き寄せることが出来るということを作品として提示している。今作の彼の鼓動を感じるか否かで、音楽的な意識や経験値はガラッと変わってしまうだろう。それだけ重要な作品だということは断言してもいい。

■今作はすごくソウルフルというか、フィジカルなアルバムになっていますね。
「アルバムの前半、左心室の方はソウルフルな感じにしようとは思っていたね。でもフィジカルって言うのはどういう部分から感じたの?」

■全体の雰囲気として、KREVAさんの頭に鳴ってる音や言葉が、そのまま作品として構築されているように感じたんですね。その意味ではあまり計算高くはない作品だなって。そういう部分がフィジカルだと感じたんですが。
「あー、なるほど。確かに今までよりも作品を形にしやすくなってるし、歌詞に関してもあまり書き直しをしなかったから、その影響かなとも思うね。ただ、パパッとリリックを書いたわけではなくて、例えば彫刻家が材木の前に立って、完成型をイメージできたら『見えた!』って削り始めるように、リリックの全体像が見えるまで書かないで、見えたら一気に書きあげるって形をとったんだよね。且つ、今回は録り終わっても少し寝かせる時間をとって、改めて聴いてからOKかどうかを判断するようにしたんだよね」

■それは方法論的な意味でですか?
「いや、このクオリティに辿り着かせるために必要な工程だったからだね。制作の途中からこれは傑作にするって思ってたし、そういう意味でももうひとつ上の段階で作る必要があったと思って」

■サウンド面で伺うと、今回はビートの隙間でグルーヴを産み出すというより、音同士の組み合わせによってグルーヴを産み出すといった、豊潤な音世界に進んでますね。
「確かに。音を足していくことに関しては今回は止めなかったかな。それは自分がサンプリングや打ち込みで組み立てた音が、バンドだとこういう風に表現されるんだっていうのを見たからかもしれない。前作から今回までの間に『MTV UNPLUGGED』をやらせてもらったり、他にもいろんなイヴェントで自分の曲がバンド・アレンジされるって経験があったんだ。で、バンドの人が曲のアレンジについて話し合ってる中で、バンドの人との共通の言語がーー例えば“コード”みたいな音楽的な言葉がーー俺にはないから、頭の中で音が鳴っていてもそれを上手く伝えられないもどかしさがあったんだ。だけど、同時にHIP HOP的な制作の仕方/アプローチにバンド側の人はすごく興味を持ってることを知って、だったら俺の基本である『サンプリングとMPC』で作り上げるっていうスタイルをもっと極めて、もうひとつ上の段階に行くっていうことをやろうと思ったんだ」

■その意味では、今回はサンプリングはサンプリングらしく強調されていますね。
「やっぱりバンドで俺の曲を再現するとなるとすごく大変なんだ。その度に『サンプリングってやっぱりすげえな』って思って。それでもう一回サンプリングに重点を置いてみようって思ったんだよね」

■そのサンプリングの強調が、今回だと左心室(前半)の方に強く表われていますよね。左心室は今作でいうとラヴ・ソングを中心にしたパートで、親和性としてはいわゆるポップス的な歌詞世界に近いと思います。でも、そういった世界観の曲であるにも関わらず、そこにHIP HOPならではのサンプリングという手法を強調して導入しているのが印象深いですね。
「俺は『SEEDAからミスチルまで』一緒に共演してきたわけだけど、そんな俺しか出来ないことっていうのは、こういうことになるのかなって。そして、その両方(のアーティスト/リスナー)に良いって言ってもらいたいんだよね。サウンドはもろにHIP HOPでありながら、こういったラヴ・ソングっていうのは他にはないと思うしね」

■改めて今回の構成について伺うと、今回はラヴ・ソング・サイドの「左心室(前半)」、そしてラップ・サイドの「右心室(後半)」のふたつのセクションで構成されていますが、こういった構成の理由は?
「『良いアルバム』っていうのは、ひとつのムードを全体に保ってる作品じゃないかなって思うんだ。いきなり全然違う雰囲気の曲が入ってきちゃって、慌ててスキップを押さなくても済むようなね。でも、俺って人間の性質上、いろんなタイプの曲を作りたくなるから、ひとつのトーンにはアルバムをまとめられないんで、イケイケとメロウってせめてふたつのトーンにはしようって。それで二部構成になったんだ。で、普通のアルバムだったら勢いのある“ACE”からスタートさせるんだろうけど、『このアルバムは他とは別のことをやりたいんだろうな』っていうのを明確にするために、メロウな右心室から、そして“K.I.S.S.”からスタートさせたんだよね」

■左心室と右心室の制作は並行してですが?
「いや、“中盤戦”とか“キャラメル・ポップコーン”は1年ぐらい前には作ってたし、右心室の曲はアルバムを意識せずに作ってた曲がほとんどかな。だから、アルバムを作るぞってモードになってからは左心室の曲を作ってたって感じ。で、左心室がほぼ出来上がった時に、“ACE”や“中盤戦”のDさんのパートを録ったり。そういう感じかな」

■左心室は“愛”が中心になったパートになると思いますが、このテーマを中心に置いた理由は?
「“瞬間speechless”が左心室の中では早めに出来た曲で、この曲は自分としても大事にしたい曲だなって思ってたし、この曲からひと続きになるような作品群にしようかなって思ったんだよね。それでテーマが“LOVE”になったって感じ」

■今回の“愛”の表現って、“ゲット”するような能動的な愛ではなくて、もっと“落ちる”というか、自分ではどうにもならないような不安感も含めた“愛”の表現だと思うんですが。
「やっぱり“愛”は“恋”と違って、不満と不信みたいな負の要素も付いてくると思うんだよね。それが愛だと思うし、そういう要素も含めて書ければいいなって。愛を歌うときに男女の話は外せないし、若干痛いところも含めて歌うのがいいんじゃないかなって。それから、女性の視点っていうのを考えたからかもしれない。女性っていつも不安を感じてるんだなって気付きがあって、そういう感情も作品に入れたかったんだ」

■左心室は言葉自体も少ないし、想像力が必要になる歌詞が多いですよね。その意味ではリスナーを信用してるからこそこういう作品に出来たのかなって。
「それはあるね。ライヴするとさ、ラヴ・ソングから何から何まで熱唱してる男子とか、渋い曲で楽しめてる女子とかいろんなリスナーを見てるから、この人たちだったら自分のやってることをしっかり受け取ってくれるんだなって思えたから、自信を持ってこういう作品を作れたんだと思う」

■今回のリリックは話の中心を直接的には書かないで、中心に至るまでのプロセスや周辺状況を丁寧に表現することでその中心を浮き彫りにするという形が強いですね。そして、リスナーがその状況を想起、補完することで、つまりリスナーが聴くことで初めて作品自体が完結するという性格があると感じました。
「それが今回は必要かなって。作品に広がりを持たせたいって意識は当然あるんだけど、それには超ミクロであっても超リアルな一点に集中するのが重要だと思ってるんだよね。広がりというとどうしても広くテーマを設定して、なんでも全部受け止めるみたいな曲になりがちだけど、それでは薄すぎてみんなすり抜けていっちゃうと思うんだよね。それよりは針の穴のような小さなリアルでも、それをしっかりリスナーに受け止めさせることが出来れば、その先の広がりは無限っていうか。以前にラーメンズの小林賢太郎氏が『リアリティとリアルの違い』ってことを話してて、薄いリアリティはどこまで行ってもリアリティなんだと。例えば、テレビで見たような(記号的な)表現は、それをどれだけ提示してもリアリティ(リアルらしいもの)で終わってしまう。だけど、『みんなの中のリアル』を喚起する表現が出来れば、それはしっかりとしたリアルになっていく。例えばコンビニのコントをやる場合に、コンビニのセットを組んで『ここはコンビニ』って宣言すれば、分かりやすいけどそこで終わってしまう。だけど何もない舞台でもコンビニを想像させられるリアルな表現が舞台上で行なわれれば、見てる人間の想像力を刺激して、見てる人間にとってのリアルなコンビニがそこに表われるわけだと。それを聞いてなるほどなって。だから、俺のリアルをより深く表現することで、そのリアルがみんなにフィットするんじゃないかって。そういう意識でリリックを今回は組み立てようって思ったんだよね」

■なるほど。今回の客演ではMummy-Dさん、将絢さんといったHIP HOPサイドのアーティストに加えて、古内東子さん、そしてさかいゆうさんといった、シンガー・ソングライターでありながらプレイヤーでもあるアーティストの参加が印象的ですね。
「今回参加してもらった人は、トラックを組み立てた時に、みんな“声”が聞こえてきた人なんだよね。だから、自然にオファーさせてもらったって感じかな。それから、ゆうと東子さんに関しては、自分として『鍵盤を弾いて曲作りが出来る』って憧れがあるからだったりするんだ。ゆうの場合は俺のイメージを伝えるとそれを『こうでしょ』って的確に、かつドヤ顔しながら弾いてくれるし(笑)、東子さんは俺が2本指〜3本指で弾いてた音を両手に広げてアレンジしてくれて、それは制作的にも経験的にも大きかったね。左心室は東子さんの影響が大きいし、右心室はゆうの影響が大きい。やっぱり二人は天才だね」

■一方、アルバム後半、右心室はもろHIP HOPサイドですよね。
「そうだね。もろラップ」

■そこからは「良いラップ」みたいなモノをKREVAさんとして提示したい気持ちがあったのかなって。例えば、左心室的なリリックを好む人の中には、そこまでラップの上手/下手にこだわらない人も多いと思うんですね。だけど、ラップの上手/下手は確実に存在するんだよっていうのを、前半があの形だからこそ提示しておきたい気持ちもあったのかなって。例えばDさんとの“中盤戦”の倍速ラップが一番顕著にそれを表現してると思うんですが。
「そうそう。まさにそうなんだよね。左心室で入った人でも、右心室にさしかかったら『こういうのもカッコ良いな』って思ってほしくて。そしてこのラップを聴いて、それはアイドルがやるようなちょっとしたラップとは根本的に(スキルが)違うってことを感覚的に掴んでほしいなっていうのはあったね。しかも、それをポップに響かせるっていうか、さっきの例えで言えばミスチル・サイドの人にも分からせなきゃいけないじゃん。だから、単に『カッコ良いラップ』ってだけじゃなくて、どうそれを表現して(非HIP HOPリスナーにまで)聴かせるかは考えたね」

■だから、前半は歌詞は普通のリスナーにも受け止めやすいラヴソングだけど、トラックは完全にHIP HOPオリエンテッドで、後半はテンポも速めでポップな雰囲気が強いけど、その実はバリバリにラップしてるっていう。そこからは言い方は変ですけど、結構意地悪なバランスの上に立ってるアルバムだなって思いましたね。
「フフフ、確かにそうだね。単にポップってだけで終わるようなのは好きじゃないし、作るつもりもないからさ」

■後半で重要だなって思ったのは“成功”なんですよね。それこそ、明確に“成功”を収めた人間が、それを作品として宣言することで辿り着くべき場所を見せたという意味合いがあると思うんですよね。シーンの中で細分化が進んで。なにがゴールなのかが見えづらくなった現状だからこそ、こういう作品は必要なのかなって。
「俺としてはいつものノリで作ってるんだけど、俺の場合は、こういう曲を作ってもちゃんと評価して、それをシングルでリリースさせてくれるスタッフやレーベルがあることがまず嬉しいね。それから、『もうちょっとみんな頑張ってくんね?』って気持ちは確かにあった。SEEDAが『くレーベル祭り』のときに言ってたけど、もうひとりぐらいスターが必要なんだと思う。だから、『俺はデカいステージに立って』ってことを作品で言うことで、それを意識してくれる人がいるといいなって」

■最後に、このアルバムはKREVAさんのディスコグラフィにとってどんな作品になったと思いますか?
「ベスト・アルバムよりベストな作品って言ってくれた人がいたんだけど、そういう作品かな。何か一枚アルバムを買うんだったら『心臓』がいいよってみんなが言ってくれる作品になるといいね。リスナーには『買って良かったな』って思ってもらいたいのは当然だけど、それに加えて『これはこうなってこうなって……なるほど!』みたいな(気付きのある)作品になってほしいし、“CDアルバム”っていう作品形態もいいなって思ってほしいね。でも、この先どうしようかなって感じだよね。今のところ考えられなくて。それはツアーの後に見つかるのかな。それだけ出し切った作品だって自負してるね」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : 心臓
ARTIST : KREVA
LABEL : ポニーキャニオン/PCCA-05555(初回盤)/PCCA-05556
PRICE : 3,360円(初回盤)/3,150円(通常盤)
RELEASE DATE : 9月8日

初回限定盤はCD+DVDの2枚組