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鎮座DOPENESS

先日リリースされた待望の1stソロ・アルバム「100%RAP」は、鎮座DOPENESSならではの解釈に基づいた彼のラップが思う存分楽しめる作品に仕上がっている。彼の現在のラップ観に行き着いた過程から、本作で目指した方向性やフリースタイル観まで、発言の数々はラッパー:鎮座DOPENESSを理解するためのキーワードに満ちている。

インタビュー:高木晋一郎

「路上ライヴをやってて思うのは、B・ボーイの方が足を止めないってことなんですよね。逆に子供とそのお母さんとか、お爺ちゃんお婆ちゃんだったりの方がよく見てくれて。そう考えると“HIP HOP”ってイメージを持ってないけど『何か面白い』ってフラットに思ってくれる人に届くような、どんな状況でも合わせることの出来るアルバム作品にってことを、自然と意識したかもしれないですね」

 

 MCバトルやフリースタイル、そして様々な客演作品で強烈な印象を残しつつ、昨年はKOCHITORA HAGURETIC EMCEE'Sでのアルバムをリリースし、そのポテンシャルの高さを見せつけた鎮座DOPENESSが、待望の初ソロ・アルバム「100%RAP」を完成させ、ついにその全貌を顕わにした。そしてこの作品の持つ言葉そのものをグルーヴさせ、「日本語をいかに日本語としてカッコ良く発するか」という鮮烈な提示は、日本語によるラップ・フロウをもうひとつ上の段階に押し上げることになるのは間違いないだろう。また、このインタビューでその一端が明らかになった試行錯誤とロジックは、このフロウが決して一朝一夕で完成したものではなく、才能に加えて努力と分析の賜物であることを教えてくれた。インテリジェント・モンスター:鎮座DOPENESSの見せる新世界をご賞味あれ!


■まず、そもそも鎮君と音楽との出会いはどういうところから始まるの?
「特に音楽的な習いごとはしたことがなくて、一番最初に音楽をいっぱい聴いたって記憶は、小学校5〜6年のときに聴いたチャゲ&飛鳥ですかね」

■じゃあ、入りは歌謡曲だったんだ。
「そうですね。でも音楽を演りたいと思ったのはHIP HOPを聴いてからですね」

■ではHIP HOPとの出会いは?
「中2のときですね。当時バスケをやってたんですけど、NBAのビデオのBGMにHIP HOPが使われてて、それが最初の出会いで。音楽的にもそうだけど、ヴィジュアル的にもカッコ良いなって。ウータンなんかヒーロー戦隊みたいだったし(笑)。そこから色んなラップのコンピを買ったりしてハマっていった感じですね」

■HIP HOPのエレメンツの中でラップって表現を選んだ理由は?
「なんだろう……サッカーと野球だったら野球を選んじゃう感じ?(笑)。グラフィティはちょっと敷居が高いけど、他の3エレメンツの中でラップを選んじゃうっていうのは……(人間的な部分で)なにかありますよね。サイプレス上野君とかダースレイダーさんとかも同じ匂いを感じるんですけど。憧れたラッパーは……、METHOD MANはそうかもしれないですね。動きもカッコ良いし、大人数の中でもスッと目立ってたり」

■そのときにはどんなリリックを書いてたの?
「えーと……エコとかかな。エコラップ(笑)。で、HAGURETICのSABOとは同級生だったんで一緒にグループを組んだりして、その後はのらりくらりと今に至るというか」

■鎮君ってその“のらりくらり”の部分が結構謎に包まれてるよね。
「例えば意外な誰かとグループを組んでたとか?そういうのまったくないっすよ(笑)。でもアングラデラってグループを組んでたときは横浜で結構活動してて、そこでサ上とロ吉に出会ってたり。だからHIP HOP関係では横浜の友達が多かったですね。でも基本的にはひとりで色々研究してたって感じですね」

■今みたいなフロウ・スタイルはその当時から開眼してたの?
「2002年ぐらいに『どんなビートにでも対応出来た方がいいんじゃないか』ってことで、DJと俺との一対一でジャズもロックもテクノも何でもかけて、2時間ぐらいずっとフリースタイルをし続けるってことをやってたんですよ。で、そうやってずっとフリースタイルをやり続けてると、“韻”とか“言葉”って言ってる場合じゃなくなるんですよね。それを考えてるとフリースタイルを続けてられなくて。でも、そうすると自分に制限がどんどんなくなってきて、思うことを思うままに出来るようになってくるんですよ。そこで、言葉を選ぶっていうよりも、『どんな言葉でも自分のニュアンスでカッコ良くしていく』って方向性に気付いて、それを磨いていって今のフロウに至ると」

■延々フリースタイルをし続けるっていう、そういう行動に至った訳は?
「俺にはKREVAスタイルやILL-BOSTINOスタイルが出来る兆しがまったくなく(笑)、とにかくフリースタイルをやりまくって自分の道を見つけるしかなかったから。だから曲を制作するより、自分が面白いと思うラップを見つけるための行動に重きを置いてましたね」

■なるほど。話は変わって今回のソロ・アルバムだけど、初期段階ではどんなイメージを持ってたの?
「親に聴かせられるアルバムというか、聴かせて共感させられるような作品は考えましたね」

■それは、ある意味ではB・ボーイ・リスナーよりももう少し広い層へのアプローチを考えてるってことにも繋がると思うんだけど。
「そうですね。路上ライヴをやってて思うのは、B・ボーイの方が足を止めないってことなんですよね。逆に子供とそのお母さんとか、お爺ちゃんお婆ちゃんだったりの方がよく見てくれて。そう考えると“HIP HOP”ってイメージを持ってないけど『何か面白い』ってフラットに思ってくれる人に届くような、どんな状況でも合わせることの出来るアルバム作品にってことを、自然と意識したかもしれないですね。例えば“オラハラッパー”だったら、内容に共感してくれるB・ボーイがいてくれても嬉しいし、逆に“パ”の発音と場所を追って聴いて、音として楽しんでくれてもいいしって。それから、なるたけ聴き取りやすくしたかったですね。言葉が聴き取れないって今までは言われがちだったけど、今回は言葉や音の潰れない、聴き取りやすいけれども変なフロウであるってことは意識しましたね」

■でも、それって相当難しいよね。聴感を良くすると言葉が埋もれてしまったり、逆に言葉を聴きやすくするためにフロウが犠牲になる場合は多々あって、それはラップに限らず——例えば桑田佳祐の楽曲はそういう部分が強いけど——英語ベースから翻訳された邦楽自体が抱えてる構図だと思うのね。且つ、内容が強すぎるとパーティ感が損なわれてしまったりっていう問題もあるから、“言葉”と“音”と“内容”ってすごく難しいバランスの上に成り立ってると思うけど、その折り合いって鎮君はどう考えてるの?
「すごく曖昧だけど、やっぱり“も”とか“は”とかの接続詞の使い方だったり、発声自体なのかもしれないですね。そこを意識することで、カッコ良いフロウでありながらも聴き取りやすく表現することは出来るんじゃないかなって。もしくは言葉が潰れそうだったら、言葉を増やしたり細かくしてリズムにトントントンと載せるとか、そういうのを自分で録りながら研究して作り上げてくって感覚ですね」

■完全に直感っていうよりも、試行錯誤の上で曲を決着させるというか。
「でも、『どういう言葉は滑りが良いのか』とかって感覚はフリースタイルで掴んだ部分が強いですね。例えば“あ(母音a)”はアタックが強い音だし、“お(母音o)”は伸びてフロウできるしっていう感覚は、フリースタイルで掴んで体に憶えさせたっていうか。俺としてはそういう『言葉の音としての特徴』は韻よりも重視してますね。でも、ラップの精度を上げていくのは当然だけど、今はラップよりももっと楽曲としてのトータルの高さを目指してますね。今回でいえば、ソロ・アーティストとして一枚アルバムを作るときに、いろんな感覚をバランス良く入れたかったんですよね。ひとつの感情をシャウトアウトするんじゃなくて、喜怒哀楽のすべてが入っていればいいなって思ったし、且つ“怒る”でも怒るだけじゃなくて、“怒りきれない”みたいな、“言い切らない”部分も含めて作品にしたかったんですよね」

■その言い切れないモヤモヤした部分にある情緒というか情感というか。そう思った理由は?
「高田渡のアルバム『ごあいさつ』を聴いてですね。あのアルバムは全曲が喜怒哀楽のバランスが整ってて、しかもロマンティックでとにかく凄いなって。そういうのはあまりHIP HOPで感じたことのなかった部分だったから、そこに衝撃を受けて、自分もそういう作品を作りたいなって。『何かを言い切る』っていうのはHIP HOPの醍醐味のひとつではあると思うんですけど、逆に『言い切れない』っていう感情の表現の面白さとか、そこに共感したりだとか、そういう微妙な表現をしたかったんです」

■高田渡の他にも鎮君のフェイヴァリット・アーティストとして忌野清志郎と細野晴臣の名前が挙がってるけど、このアルバムを聴くとその3人を尊敬してる理由が雰囲気として伝わってくるよね。
「清志郎さんのタイマーズでの痛快な部分だったり、作詞家としての歌詞の書き方もすごく好きでしたね。HIP HOPのリリックより好きだったかもしれない。細野さんはとにかくジャンルを限定しない音楽の追究心の高さと、それを自分でも実践する行動力に尊敬してますね。」

■その3人って音楽的な枠を飛び越える自由度の高い人たちだよね。鎮君のラップもそういう自由度の高さを持ってると思うんだけど、それでも例えば『ULTIMATE MC BATTLE』みたいなHIP HOP性ゴリゴリなバトルに出場する理由はどういう部分になるの?鎮君のラップは相手をやりこめるようなフロウではないし、その意味では『バトルのラップ』とはちょっと違うベクトルを持ってるから、同じ土俵で戦っても、バトルするラップとは同じ評価軸で判断するのも、もしくはされるのも難しさがあると思うんだけど。
「やっぱり、ラッパーとして出とかなきゃっていう、漠然とある『ラッパーだったら出るっしょ!』感かな(笑)。それから、2005年のUMBにあったような、出てくる全員がオリジナルのスタイルを持って戦うっていう、スタイル・ウォーズならではの素敵さもありましたよね。でも、一方でバトルもブームになって、多くの人が『バトルに勝つためのラップ』っていうのに向かっちゃってると思うんですよね、今は。要は『バトルに媚びを売るラップ』がバトルのスタンダードになって、それを勉強してしまってる気がして。だから、そういう感覚に対するカウンターでもありたいし、面白くしたいなって。フリースタイルにしてもそれ自体が目的になっちゃって、『パーティで自然発生して、よりパーティを楽しませる』モノではなくなってますよね。『やります!』とか『やらなくては!』みたいな固いモノになってしまってて。そうじゃなくて自然に『やっちゃってた』みたいな感覚でありたいんですよね。それでどんどん輪が広がっていくような。そういう『セッションとしての』フリースタイルやバトルをやりたいんですね。そしてそこから作品が生まれるような。『シーン全体』ってまでは考えてないけど、そうやって日本語ラップ・シーンも、特にそこにいるアーティストたちが好きだから、そこを楽しくはしたいと思いますよね」

■究極的な質問だけど、鎮君にとってラップって何?
「よく訊かれるんですけど、言い様がないんですよね。『これがラップだ』ってことはしっくり表現できないっていうか。音の鳴り方なのかな……。でも規定はないに等しいですよね」

■音の鳴り方ってことは楽器としてのラップってこと?
「いや、リリックも内容も大事だと思うし、一概には言えないですね。でも、だから『HIP HOP的にどうの』ってことは今回考えなかったし、最近は口にも出したくないなって。それよりも自然にラップがして、自分の音楽で楽しい場所を提供できればいいなって。このアルバムを聴いて『お、パクれる!』と思った人にはサクッとパクって頂いて(笑)、そこから新しいスタイルを産み出す人が出てきたらそれはそれで面白いですよね」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : 100% RAP
ARTIST : 鎮座DOPENESS
LABEL : EMI/TOCT-26859
PRICE : 2,500円
RELEASE DATE : 9月16日