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JAY-Z

リリース前の話題性、リリース後の評価、そしてセールスと、流石としか言いようのない成果を達成した感のあるJAY-Zの最新作「THE BLUEPRINT 3」。間違いなく全世界中の全HIP HOPリスナーがチェックするべきこのアルバム、JAY自身もかなりの思い入れと意識の高さを本作に込めたことは間違いなく、本インタビューの発言の数々からも、彼がトップであり続ける理由が分かるだろう

インタビュー:高橋芳朗

「今まで自分はHIP HOPに世話になってきたから、今度は自分がHIP HOPを助けたいんだ。次のジェネレーションもHIP HOPをキャリアにできるようにちゃんと伝えていくのが自分の責任だと思ってる。HIP HOPは俺の人生を変えたんだ。HIP HOPをちゃんと伝承していくのは俺たちの当然の責任だよ」

 

 オートチューンを使った曲の粗製濫造とラッパーのクリエイティヴィティについて警鐘を鳴らしたリード・シングル“D.O.A. (DEATH OF AUTO-TUNE)”、そして「現在のHIP HOPでは音楽性が隅に追いやられていることを表現した」というジャケットのアートワークなどから、ネット界隈ではオーセンティックなHIP HOPアルバムになるのでは、との予想もあったJAY-Zの新作「THE BLUEPRINT 3」。だがその実体は、サンプリングを多用しながらも現行シーンのトレンドを汲むモダンなサウンド・デザインが施された、まさにJAY言うところの「ニュー・クラシック」との表現がぴったりな内容になっていた。また、“D.O.A”で発露したJAYのHIP HOPに寄せる問題意識はアルバムの所々にも反映されていて、冒頭の“WHAT WE TALKIN' ABOUT”では「俺が話したいのはTHE GAMEのことでもJIM JONESのことでもDAMON DASHのことでもない。リアル・シットや音楽そのものについてなんだ」と告げるなど、自分の戦いが新たなステージに突入したことを力強く宣言している。もちろん、HIP HOPの世界で流行について口うるさく言うのはそれなりにリスクが伴うことだし、“D.O.A”に対して「40歳のおっさんが19歳の若者とコネクトできるわけがない」とレスポンスしたDJ WEBSTERはある意味この音楽の殺伐とした現実を鋭く突いていると言えるが、以下のインタビューを読んでもらえればわかるように、もうJAYには覚悟が出来ているようだ。シリーズ前作「THE BLUEPRINT 2: THE GIFT & THE CURSE」でみずからジェイ・ゲヴァラを名乗ったHIP HOPのキングは、はたしてシーンに革命を起こすことができるだろうか?


■まず先行シングル“D.O.A. (DEATH OF AUTO-TUNE)”についてお話を聞かせてください。この曲からは単にオートチューンのブームだけでなく、現在のHIP HOPシーンのさまざまな事象に対するあなたのフラストレーションや危惧を垣間見ることができます。あなたから見て今のシーンはどのように映っていますか?
「別にフラストレーションがあるわけじゃないよ。“D.O.A”を作ったのは、シーンに対してのチャレンジって意味だったんだ。HIP HOPにおいては、トレンドがギミックに変わってしまったら排除しなくちゃいけないんだよ。HIP HOPの歴史を振り返ってみれば、例えばICE CUBEが『俺はもうメダリオンはつけない』って言ったり、ビギー(THE NOTORIOUS B.I.G.)がKWAMEのポルカ・ドット(水玉模様)について言及したり……Q-TIPがMC HAMMERのパンツに対して『もうやめてくれ』って言ったこともあっただろ?ああいうのと同じだよ。ユタ州に住んでるおばさんまでが『BLING BLING』とか言い出した時点で俺たちはもうやめるべきなんだ。つまり、自分たちの作ったトレンドがマスに到達した時点がやめどきってこと。俺たちの仕事はトレンドを作って送り出すことだけど、みんながそうしたらそれはもうクールじゃなくなってるってことだ。いまじゃウェンディーズのCMでも男の子がオートチューン使って歌ってるだろ?いい加減にしてくれって感じだよ(笑)。だから別にフラストレーションを抱いているわけじゃなくて、みんなに次のレベルに行こうっていうチャレンジの意味でこの曲を作ったんだ。それがHIP HOPが生き残っていく唯一の道なんだよ」

■では、今回の新作「THE BLUEPRINT 3」のトーンや方向性を端的に言うとしたら、それはどんなものになりますか?
「『ニュー・クラシック』だね。基本に戻るというか、ここでは人間の感情から音楽を作るという当然の規律に則ってる。それがこれからのHIP HOPの進むべき道である、という意味を込めてあえて『THE BLUEPRINT 3』としてリリースすることにしたんだ。最初の『THE BLUEPRINT』は自分の親の世代が聴いていたようなソウル・ミュージックをサンプルすることをベースに作ったわけだけど、今回はこれから音楽がどうなっていくかを表現したかった。なぜなら、これからの若い世代は俺たちを手本にしていくことになるわけだろ?JUSTIN TIMBERLAKEとかUSHERとかBEYONCEとか、俺たちが次の世代のMARVIN GAYEやFRANK SINATRAになっていくんだ。今回のアルバムはそういうことをベースに、今までに起こってきたことを関連付けて作っていった。それが『ニュー・クラシック』の意味するところだね」

■今回のニュー・アルバムを「THE BLUEPRINT」シリーズの続編としてリリースしようと思った経緯について、もう少し詳しく話してもらえますか?
「俺は自分自身のことをソロのアーティストだと思ってないんだ。俺はHIP HOPの一部であり、HIP HOPが今もなおフレッシュでいられる理由だと思ってる。HIP HOPが30歳を越えた今では“HIP HOP IS DEAD”みたいなことを言う人が増えてきているし、確かに新しいことはもう出尽くした感があるよね。だから、これからの30年間はHIP HOPをどうやって前進させていけるかが自分たちの課題なんだ。それを実現させるため、新しいものを築いていくためには、まさに青写真が必要なんだよ。それで今こそ『THE BLUEPRINT』を出すべき、と思ったんだ。“クラシック”と『これからクラシックと定義されていくもの』、その両方が入っているのが今回の『THE BLUEPRINT』というわけさ」

■アルバムの制作にあたって、なにかインスパイアされたものがあったら教えてください。
「シーンに対するチャレンジがいつも自分をインスパイアしてくれる。HIP HOPで一番大切なことは目新しくいることなんだ。新しいなにを買ったとか、まだ誰も聴いたことのない新しいアーティストの曲をiPodに入れて聴いてるとか、そういうことが大事だろ?逆に言うと、このビジネスで生き残るためには常に誰かのiPodに入れてもらわなくちゃいけないんだ。それには、iPodに入れたいと思わせるだけの価値あるものを作り続けなければいけない。だから、HIP HOPにおいて自分のようなキャリアを持つのはとても難しいことなんだ。何故なら、みんなが常に新しいものを求めてるわけだからね。しかもHIP HOPは競争の世界で、新しい奴が出てくれば上にいる奴を蹴落とそうとしてくるから、常に上にステイするのは本当に大変なんだよ。だけど、それこそがHIP HOPが好きなところなんだ。シーンのチャレンジが好きだし、それに打ち勝って常にトップにステイして、みんなが共感できるものを送り出せる存在でいられることを本当に嬉しく思ってる。音楽が与えてくれるチャレンジが大好きなんだよ。音楽は自分の人生の中でこれからもずっと関わっていく大切なものだからね。映画も好きだし、本も読むけど、やはり音楽面でのインスピレーションは音楽がくれるチャレンジだね。『UNPLUGGED』やR. KELLYとかLINKIN PARKとのコラボ・アルバムも含めるともう16枚ぐらいアルバムを出してるけど、それでもいまだに音楽のくれるチャレンジに動かされてるよ」

■あなたはオバマが大統領選に勝った際には“HISTORY”を、彼の大統領就任式のときには“MY PRESIDENT IS BLACK”をリリースしていますが、オバマ大統領の誕生と活躍は、あなたの音楽活動や表現にどのような影響を与えていますか?
「“HISTORY”も“MY PRESIDENT IS BLACK”も、本当は『THE BLUEPRINT 3』のために作ったんだ。別に大統領選や就任式に合わせて作ったんじゃなくって、イベントとタイミングがあったからリリースしただけだよ。“BROOKLYN GO HARD”もそうだね。もともとは新作用に作ったんだけど、ビギーの映画(『NOTORIOUS』)にちょうどいいと思って提供したんだ。アルバムの中でもオバマに言及した曲はあるけど、政治的というよりは時勢に合わせてるだけ。黒人大統領の誕生が自分の音楽になにか影響を与えているとは思わないね。自分も含めてアメリカ人の意識には影響があると思うけど、音楽そのものは変わらない。音楽は政治的なこともロマンティックなことも辛いことも怒りも、すべての感情が反映されるから、ひとつのことですべてを変えるのは難しいんだ。まあ、確かに最近はそれまで政治的な題材を扱わなかったラッパーもポリティカルなリリックを書くようになったよね。YOUNG JEEZYなんかがまさにそう(笑)。今では誰もが政治的なことを言い始めてる。だけど、根底にある痛みや怒りは変わってないと思うよ」

■それでは、今回のアルバムの制作で最も苦心したことはなんですか?
「常にモティヴェーションを保つことだね。いつもなら1ヵ月ぐらいでアルバムを作るんだけど、今回は何日か作業したら数週間スタジオを離れて違うことをやらなくてはならない、ということの繰り返しだったんだ。最初の『THE BLUEPRINT』を作ったときは、週末の間に9曲も作った。それは自分のなかでもかなり早いほうだけど、ふだんも2週間から1ヵ月ぐらいでアルバムを作ってる。今回はDEF JAMとの契約の問題もあったし、その間にシーンのトレンドが変わったりしたこともあって、1ヵ月も空けてスタジオに戻るとなにか違和感みたいなものを感じちゃってね。だから、集中力を保つことに一番苦労した。俺はアートを作ってるわけだからね。金のためにやってるんじゃない。自分の満足できるものを作る、というモティヴェーションを保つのが今回は大変だったよ」

■「THE BLUEPRINT 3」は通算11枚目のオリジナル・アルバムになるわけですが、これはあなたのキャリアにおいてどんな位置付けの作品になると思いますか?
「自分の全てのアルバムに言えることは、どれも真実と感情に基づいて描かれているということなんだ。だけど、今回のアルバムはこれから音楽がどうなっていくべきかを表現してみた。これからさらに先に進むため、生き残っていくためには本当に素晴らしいものを生み出していかないといけないって思いで作ったんだ。最近は誰かの真似をしているような曲ばかりだけど、本来のHIP HOPはそうじゃなかったはずだよ。例えば、おまえが黒いスニーカーを履いてるなら俺は青のスニーカーを履くぜ、っていうようにね。HIP HOPってそういうことだろ?コンペティティヴで、誰が一番フレッシュかを競うのがHIP HOPなんだ。このアルバムを聴けば、きっとHIP HOP本来のスピリッツを思い出すはずだよ」

■“D.O.A.”の内容やインパクトを考えても、「THE BLUEPRINT 3」はこれまでのあなたのアルバムのなかでも特に強い話題性と影響力をもつ作品になりそうですが、この新作は現在の音楽シーンに何をもたらすことになると思いますか?
「このアルバムは、シーンに挑戦状を叩きつけることになる。“D.O.A.”もそういう意味で出したんだ。誰かをディスしたりするわけでも蹴落とすわけでもなく、ただ単に『やろうぜ!』って訴えてるんだ。俺がこういうことを言うのはもちろんシーンのことを考えてるからであって、もうどうでもいいと思っているんだったらなにもしないよ。もっとシーンが良くなるように、みんなを挑発してるんだ。もういつまでも同じことをやっていないで、新しいことに取り組むべきだろ?ってね。このアルバムを聴いてそれをわかってもらえたらうれしいね」

■今回の新作を作り上げたことであなたが得た最大の収穫はなんですか?
「現状にチャレンジするものを送り出したってことだね。それがアートの基本なんだ。今まで自分はHIP HOPに世話になってきたから、今度は自分がHIP HOPを助けたいんだ。HIP HOPがなかったら、プロジェクトで毎日ケンカばかりしていただろうし、はっきり言って今どうなってたかわからない。だから、次のジェネレーションもHIP HOPをキャリアにできるようにちゃんと伝えていくのが自分の責任だと思ってる。HIP HOPを始めたころは、そんなことは考えもしなかった。ただ金になる手段としか考えてなかったんだ。だけど、HIP HOPは俺の人生を変えたんだ。HIP HOPをちゃんと伝承していくのは俺たちの当然の責任だよ」

■引退を撤回してから今回で3枚目のアルバムになるわけですが、引退前と現在とを比べて音楽に対するモティヴェーションや表現のスタンスはどのように変化していますか?
「『THE BLACK ALBUM』以来、自分の戦いはこのシーンをどうやって前に進めるかってことに絞られてる。30歳を過ぎて、15歳の子たちが聴くような曲を作り続けるのはちょっと違うと思うんだ。俺は今でもHIP HOPを聴くし、HIP HOPで育った世代はみんなまだHIP HOPを聴いてるだろ?HIP HOPに年齢制限はないはずなんだよ。それが『THE BLACK ALBUM』のときから自分の課題になった。それまではそんなこと考えもしなかったのにね。HIP HOPで稼がせてもらって、じゃあ自分がHIP HOPに対してどんな貢献をできるかって考えたとき、やっぱり自分の感情や真実に基づいたものを作る必要があるって思ったんだ。シーンはこんなに大きくなってしまったし、それがすべての人々に受け入れられるかはわからないけどね」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : THE BLUEPRINT 3
ARTIST : JAY-Z
LABEL : ワーナー/WPCR-13675
PRICE : 2,180円
RELEASE DATE : 9月23日

※初回限定バリュー・プライス盤