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環ROY

昨年リリースされたfragmentとの「MAD POP」をきっかけに、2008年〜09年の環ROYは自らのアーティストとしての可能性を広げるべく様々な才能と交わり、結果、彼はこれまでにない注目/支持を(特にHIP HOP外のフィールドから)得ることとなった。これらのコラボ作品が最終的にROYの作品にどうフィードバックしていくのかを占う意味でも、しっかり彼の作品は今の内にフォローしておいた方がいいぞ!

インタビュー/文:高木晋一郎

「内容云々を語るリスナーが多いってことは、何かを言ってほしい人間が多いんだなって思うんですよね。そういったメッセージ性はHIP HOPの特性ではあるから否定はしないけど、音楽ってそれだけじゃねえだろって。凝り固まる必要はないと思うし、もっとリベラルな耳を持ったアーティストやリスナーが増えてもいいんじゃないかって思うんですよね」

 

 環ROYがfragment/ECCY/DJ YUI/OLIVE OIL/NEWDEALの5人のプロデューサーと産み出したコラボレーション・シリーズからは、「美はただ乱調にある」という宣言めいた印象を感じた。ある意味では異端とも思われるサウンドを徹底して提示することで、正統や王道と考えられている「特定のシステムに恭順した発想や方向性」を無条件に良しとする思考停止や欺瞞を告発する。それは確かにラジカルに感じるだろうし、リスナーのHIP HOP観を問い詰めるような側面もあり、嫌悪を感じるリスナーがいても当然だろうとは感じる。しかし、ここで環ROYが目指しているのは、決して単なる破壊ではなく、HIP HOPを愛するが故の切実な「再生と進化への願い」なのではないだろうか。サウンドの好嫌はリスナーの生理に委ねるしかないが、少なくともこういった音楽が「存在する」ということは認識する必要があるだろう。


■この一連のコラボレーションは、最初の段階から連作にするって計画を立ててたの?
「fragmentととのコラボを作り終わってからですね。『MAD POP』を作って、いろんな奴と一緒に作ってみるのも面白いなって気付きがあって、それが原点というか。で、『MAD POP』作り終わった位にECCYと出会って、またコラボ方式でやってみようかなって」

■では、そのfragmentとのコラボはどういう経緯で始まったの?
「出会ったのはmyspaceで、そこで『一緒にやろうよ』って呼びかけてって感じですね。友達の友達ではあったんで話も早かったと思うんですけど。(fragmentの作る)ああいったちょっとエレクトロニカを通過したようなトラックが好きだったし、fragmentも俺とマインドが似てて、評価軸をどんどん広げたいって人だから感覚も合ったし」

■今回のコラボ・シリーズは、そういったいろんなジャンルのサウンドを取り込んで自分の音楽を作る、雑食的で新奇的なサウンドを提示してるプロデューサーばかりだよね。
「なんかそういうサウンドが好きなんですよね。でも、ISSUGIのアルバムみたいなオケも好きだし、どっちも好き」

■このシリーズの中にはそういう王道HIP HOPみたいなモノも入るのかなって思ったんだけど。
「やりたかったんですけどね。punpeeにも話は振ったんですけど、『PSGの制作があるんで』ってちょっと都合が合わなくて。そういうタイミングとか制作のスピードが合わなくて出来なかった企画もありますね」

■いわゆるところの王道的なサウンドの作品がなかったのは流れ上で、別にそこに対するアンチではないと。
「そうですね。どんな音でも俺は分け隔てしないで並列に聴くんで、何でも自分のチャンネルに合えばアプローチしたいなって思ってますから」

■プロデューサーを自分のアルバムに迎えるんじゃなくて、丸々一枚コラボとして制作した理由は?
「ソロはソロとして提示したいモノがあるんですよ。だけど、このコラボはトラック・メイカーのカラーも強いから、企画として作る必要があったというか。且つ、このコラボで掴んだモノを自分のソロにフィードバックしていくという、そういう感じですね。それは自分だけじゃなくて、トラック・メイカーも同様だと思うんですけど」

■なるほど。fragmentとの制作はどういう風に進めたの?
「作り方としてはワンループのオケをもらえるだけもらって、その中でピンときたトラックにラップを乗せてfragmentに渡して、それをエディットしていって、ってパターンが多いです。今回の制作は大体そういう感じで」

■その意味では声は素材というか。
「そうですね。3ヴァース分ラップを入れても、エディットする段階でトラック・メイカーが1ヴァースいらなかったから消したっていうのもアリで。声をエディットで刻まれても全然OK。それによって自分の出来ない“鳴り”を提示してくれるわけじゃないですか、俺じゃない人物が。それがこのコラボにおいて重要というか」

■ではfragmentとのコラボで掴んだモノは?
「うーん……、作ってるときに、自分としては『これは超オーセンティックだろ』って思ってたんですけど、結果と反応は全然違ったってことかな(笑)。ただ、あのアルバム以降HIP HOP外のブッキングが爆発的に増えましたね」

■そういったHIP HOP外に訴求することで得たモノは?
「ライヴに対する価値観が全然違うところにコミットするので、現場だけとってもスゲーいっぱいありましたよ。『COPYDOGS』なんてHIP HOP内の人は全然評価してくれなかったけど、外だとすごく評価が高かったんですよね。リスナーもそうだし、例えば□□□の三浦康嗣とか七尾旅人みたいなアーティストの側からも」

■そういうことに対して日本語ラップ・シーンへの苛立ちはやっぱりあった?
「どうしても生まれちゃいましたね。価値観が一元的だし、トレンドが生まれたらみんなそこだけに飛びついちゃうしってことに違和感を感じて。でも、それはHIP HOPが好きだからこそなんですよね。鬼君のアルバムもKREVAさんのアルバムもすごい好きだし」

■ブログで「般若さんのライヴにくらった」って書いてたけど、そういったいわゆる日本語ラップの本流にも感動できる感受性は当然あるっていうのも面白いなって。アーティストによっては一旦ジャンルから離れたようなことをやるとそのまま離れっぱなしになってしまう場合があるけど、ROY君は実はそうではないよね。
「好きな音楽がいっぱいあるってことなんですよね。それだけです」

■なるほど。ECCYとの作品「more?」はどのようにスタートしたの?
「クラブで会って、そのときにトラック聴かせてよって言ったらかなりの量を送ってくれて、それならfragmentとの作品みたいにコラボで制作しようかなって」

■この5作の中では一番HIP HOP度数を高く感じるけど。
「最近はそうでもないみたいだけど、当時、ホントにHIP HOPを直感的に作る人だったんですよ。それでそういう雰囲気になったのかな。全体の雰囲気をイノセントな感じにしたくて」

■ROY君のラップも粘りのあるフロウ・アプローチが顕著だよね。
「そこはもう直感ですね。オケの雰囲気に沿わせたらそうなったって感じで」

■ちなみにリリックはフロウが先?それともリリックが先?
「言葉(リリック)が先ですね。オケに対してこういう歌詞を書こうっていうのが最初で、そこからニュアンスを決めていって」

■なるほど。DJ YUIとの「COPYDOGS」は、ローカル・ビートの持つ歪さみたいなのが、より変な風に翻訳されて相当面白いことになってるよね。
「そこが分かってもらえると嬉しいっすね。勘違いしちゃった日本人が真似してやったら、より変なの出来ましたっていうのをやろうっていうノリのコンセプトで。バカなことを真剣にやりつつ、絶対売れないと思ってやってた(笑)。でも、振り返ったときに『スゲーことやってたんだな』って気付く人がいるってことは確信してますね。マジで聴いたことのないHIP HOPだと思うし、概念がないなって」

■OLIVE OILとの「WEEKLY SESSION」は、アルバム・トータルとしての作品性が強いよね。この提案はどっちから?
「OLIVE OILからですね。提案……っていうか、録ってたら『よし、見えたわ』ってOLIVE OILから謎の言葉があって、そしてこうなったというか(笑)。制作としては彼の家に1週間泊まって、フリースタイルを録ってって感じですね。何曜日とかよく分かんないビートニクみたいな生活でした」

■これは曲の途中に少しだけラップが入ったり、あんまりラップラップした作品ではないけど、そういう構成になったのは?
「そうすることで聴いたことのないサウンドになってるし、カッコ良いからそれでアリ。収録時間も短いからそこに文句言う奴もいるけど、サンプリングの量も膨大だし、すごい情報量が詰まってる作品だから、『短い』って言う奴はちゃんと聴いてないと思うんですよね、ってOLIVE OILが言ってた(笑)。ただ、鳴りはポップな気がしてて。俺もOLIVE OILもドープなモノをどうポップに聴かせるかって感覚を共有してると思うんですね。上質なポップ・ミュージックは実はドープな感覚を内包していて、それがポップ・ミュージックの最終形だと思うんです」

■それはポップ・ミュージックをやりたいって気持ちがあるってこと?
「長い目で見たらそうですね。ポップ・ミュージックって世の中に溢れてるけど、カッコ良くサマになった形で表現するのが一番難しいジャンルだと思うんです。だから一番高度(なセンスが要求されるん)だと思うし、そこを目指してみたい。」

■最新作のNEWDEALとの「the klash」のトラックは完全にテクノだよね。
「テクノにかっちりラップを乗せるっていうのはやったことがないからやってみたかったっていうのが一番の原点なんですけど、俺の彼女の友達の彼氏がNEWDEALで」

■ものすごく個人的だなー(笑)。
「で、クラブで会ってアカペラの音源を渡したら、スゲーカッコ良いフィジットになって戻ってきたから、お互いに作ってみようかって話になって」

■リリックの内容自体は相当にシンプルだし、言葉も破裂音が強く出てるよね。だから言葉というよりも、音としての機能性って方に重点が置かれてると思うんだけど。
「踊るためのテクノだから主張とかうざいでしょ。だから何も言ってないし、刻みが良い言葉でラップをダンス・ミュージックに同化させていくっていう方向性で。中身がないって言われるけど、ワザと中身がないんだよバカって感じっす(笑)。でも、ソロの場合は言葉とその内容メインで考えてるんで、曲によって言葉の重要度を変えてるって感じですね」

■フィジットをやってみたいって気持ちはあったの?
「フィジットって言葉を最近知ったんですよ(笑)」

■別にダンス・トラックの潮流を意識してではないんだ。
「あんまり俺そういうの知らないんですよ。英語分かんないし。ただ、ハイブリッドな音を作りたいんですよね。それによって広がりが産まれると思うし、それが俺の日本語ラップでの役割。新しい感覚を取り入れられないモノは、整ってたとしてもやっぱりダサいなって、特にシーン外から思われてしまうと思う。例えばKREVAさんの『心臓』もハイブリッドだと思うんですよね。例えばKANYE WESTみたいなUSのメインストリームを意識しながら、それをJ・ポップとハイブリッドできてるからホントすごいなって」

■ハイブリッドにするってことは、シーン自体の許容度や感受性を広げることにもなるよね。ただ、そういったラジカルな発想や行動は、日本語ラップ・リスナーに受け入れられない現実も残念ながらあるけど。
「全然そうですね。だから今の日本語ラップ・シーンはちょっと狭すぎるなって。マックス2万枚って言われちゃってるし。シーンとしては確立してるけど、今までの歴史の文脈の上で作られた価値観のみで進んでると思うんですよね」

■排他性が強くなってると。
「それに、以前は『韻踏んでる/踏んでない』が評価の対象になってたり、『リスナーの耳が良くない』ってイメージがあるんですよ、正直。アーティストもだけど。批判をするときに『歌詞に内容がない』って言ったりするけど、内容がなくてもカッコ良い曲なんて山ほどあるじゃないですか。そうじゃなくて内容云々を語るリスナーが多いってことは、何かを言ってほしい人間が多いんだなって思うんですよね。そういったメッセージ性はHIP HOPの特性ではあるから否定はしないけど、音楽ってそれだけじゃねえだろって。凝り固まる必要はないと思うし、もっとリベラルな耳を持ったアーティストやリスナーが増えてもいいんじゃないかって思うんですよね。俺は朝起きたらレイハラカミなんかを聴いて、天気が良い日にドライヴするんだったら『WOODSTOCK』の頃のロックが聴きたいし、ガンガン踊りたいんだったらテクノを聴く。俺はそうやって音楽を消費してるから、それが自分の作品にも表われてるし、そういう感覚でHIP HOPを作る奴が出てきてもいいと思うんですよね」

■でも、そういった雑食性っていうのはHIP HOPの特性だから、ある意味ではROY君の行動はすごく“保守的”だよね。
「日本語ラップ・シーンは大嫌いだけど大好きだから。次のソロはそういう人たちにも分かってもらえる内容にしようと思ってますね。尖ってて攻撃的だけれども、レンジの広いアプローチっていうバランスの取れたモノにしたいと思ってて。プロデューサーはRIOW ARAIやNEW DEAL、□□□の三浦康嗣、punpee、OLIVE OIL、などなどって感じで動いてますね」

■すごい面子だなー。想像が付かない。
「日本語ラップの本流といえば、ホントはBACHLOGIC君ともやってみたいんですけどね。いくら位なんだろう?高そうで話も振れないけど(笑)」
 

DISC GUIDE

「MAD POP」/環ROY × fragment
 このコラボレーション・シリーズの原点となった作品。ド熱いドラム・ブレイクとラップで構築された“primal scream”にぶっ飛ばされたリスナーも多かろう。全体的に「ビート感」に重点が置かれ、トライバルな雰囲気も感じさせる都市民俗音楽といった趣の一枚。リミキサーにはEVISBEATSやSKYFISHらが参加。

「more?」/環ROY × Eccy
 「NARCOTIC PERFUMER」などのアルバムをリリースし注目を集めるECCYの産み出す奥行きのある音像に、ROYの粘度の高いラップが絡み、このシリーズの中ではいわゆるHIP HOP性感度は一番高めな一枚。入り口の“HUNTER”は不穏さが漂うモノの、“散歩と太陽と音楽”や“最終日”では穏やかな表情が表れ鮮やかに響く作品。

「COPYDOGS」/環ROY × DJ YUI
 ボルティモア・ブレイクスやグライムといったローカル・ダンス・ビートを基礎にしながら、それを綺麗に整えた形ではなくかなり直情的に取り込んだためか、より異物感の強い喉ごしの悪く出来上がった一枚。しかし一度飲み込めればアラ不思議、新しい音楽感覚が自分の中で生まれること間違いなし。リミックスには鎮座DOPENESSやpunpeeが参加。

「WEEKLY SESSION」/環ROY × OLIVE OIL
 この作品のタイトルは、ROYがOLIVE OIL宅に一週間泊まり込んで制作したことから名付けられた模様。ROY曰く「狂った絵本。リリックもビートニクに近い」と話すように、リリックの全編がフリースタイルによって構築されている。それに絡むOLIVE OILの音像もドープそのもので、筆者高木、聴いてると脳みそがグニュっとする感覚に襲われ酔ってきます(笑)。

「the klash」/環ROY × NEWDEAL
 このシリーズの中で最もダンス指数の高い一枚。テクノ系アーティスト:NEWDEALとのコラボによって産み出された本作は、日本語によるラップが他ジャンルとハイブリッドすることでその可能性は確実に広がっていくという事実であり、蛸壺化を打破するためのひとつの方法論を提示しているだろう。……なんて分析よりも、踊るしかないでしょ!