鬼 |
DATE : 2009/10/29 |
1stソロ・アルバムにして、今年のベスト・アルバム候補に見事エントリーを果たした「獄窓」をリリースした鬼を直撃!自らのディープな経験を巧みなライミングで描写する、新たなリリカル・モンスターの登場は、今後の日本語ラップの流れに大きな影響を与える可能性大だ。
インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)
「まあ、俺みたいな、自分の人生に気まずさがある人は開き直らないと出来ないことっていっぱいあるでしょ。『いいじゃん過去のことだから!俺なんだもん!』って(笑)。やるしかないからね。でも、そういうところにみんな惹かれるんじゃないかな」
先日、漢と話したときに彼が「良い経験も悪い経験もラッパーにとっては肥やしになる」と語っていたのだが、鬼というラッパーほどその言葉が相応しい人間もいないだろう。SAC「FEEL OR BEEF」(07年)収録曲の“挨拶”でシーンに強烈な印象を与えた彼は、それ以外にもSEEDAとDJ ISSO手掛ける「CONCRETE GREEN」への楽曲提供などを通して着実に注目度を上げていったが、彼がラッパーとしての評価を完全に決定付けた、鬼一家名義での「赤落」(08年)を出した頃、彼は人生2度目となる獄中にいた。そして、その獄中でしたためられたリリックを元に作られたのが先日リリースされた「獄窓」だ。
時にえげつなかったり、どうしようもないぐらい絶望的だったりするそのリリックを聴いて、思わず耳を覆ってしまう人もいるかもしれないが、彼の作詞能力の素晴らしさを否定できる人は誰もいない筈だ。今作に関わっているDJ ISSO曰く、「獄窓」は「(SEEDAの)『花と雨』に匹敵する勢い」で売れてるとのことだ。「獄窓」でも度々登場する新宿ゴールデン街の、彼が時々働いているというバー(ある意味彼を取材するには最高のシチュエーションだろう)で取材を敢行した。
■先日、“小名浜”のPVが公開されてましたけど、新作リリースのこのタイミングに敢えて前作収録曲のPVを作ったというのは、やっぱりそれだけあの曲に思い入れがあったということですか?
「いや、(YouTubeの)再生回数が多かったから(笑)。だったら作ろうかな、って。どうせ聴くなら画が付いてた方がいいでしょ」
■とは言え、あの曲は鬼君の自叙伝的な曲でもあるわけじゃないですか。
「うん。その曲にみんな共感してるっていうね。クオリティが認めてもらえたのかな。あの曲は完全にトラックにインスパイアされたね。トラックに書かされた部分が大きい」
■小名浜って、今の鬼君にとってどんな街ですか?
「地元。それ以外の何物でもないね。好きでも嫌いでも、地元は地元だから。小名浜は
『エロと港』って感じ(笑)。(小名浜から東京に)最初に出て来たのは17歳の頃。フラフラしてたね。仙台行ったり新潟行ったり。新潟にいたときに(鬼一家の)D-EARTHたちに出会って」
■どういう流れでラップという表現に行き着いたんですか?
「HIP HOP自体を聴き始めたのは17歳ぐらいの頃で、19〜20歳ぐらいからラップを始めた。それからずっとやってるね。それまではバンドやってたから、意外といろんな音楽を聴いてたんだよね。バンドではヴォーカルをやってた。ロックとかパンク」
■その流れで夜遊びを始め……。
「いや、そこは一緒にしたくないっす(笑)。音楽は純粋なモノで(笑)」
■でも、SEEDAのブログのインタビューで「(ラッパーになったのは)モテたいから」って発言してましたよね(笑)。
「動機が不純な方が長続きするんだろうね(笑)」
■でも、今歌ってる内容はディープすぎてモテとは相反する気も。
「あー、内容はね。でも、聴こえはモテそうでしょ(笑)。だから、聴きたいこともキレイに言えばいいんだ、って」
■ちなみに最初の頃のラップはどんな感じだったんですか?
「今と同じような傾向だったとは思う。元々Mummy-Dが好きだったんだよね。それで、マネしたのがきっかけ。RHYMESTERは全部聴いてるよ、『俺に言わせりゃ』(93年)から。(RHYMESTERはスタイルが)アグレッシヴでタイトだったね」
■当時の鬼君の周りのHIP HOP的な環境はどんな感じだったんですか?
「小名浜って括っちゃうと、周りにやってるヤツは誰もいなかったね。今は何人かいるけど、そこまでシーン的なものはないから」
■元々バンドやってたのに何でラップをやろうと思ったんですか?
「ラップの方が売れそうだから(笑)。あんまり考えてそうしたってワケじゃないんだけど。自然と好きになれる要素がいっぱいあったんだと思う。言葉/リズム/歌い回し/ライミングとかが」
■アルバム・タイトルはその名もズバリ「獄窓」ですが、そのタイトルに反してシャバの話の方が多いですよね。
「シャバに対する思いとか、出ちゃうんだよね。アルバム・タイトルは、単純に(牢獄の)中で書いたってだけで」
■中で書いたリリックと外で書いたリリックって、違いますか?
「中で書いた方が素直だね。人目を気にしないから。シャバで書いたリリックは『あ、コレ勘繰るヤツいるな』とか考えちゃう。まあ、でも書いちゃうんだけどね。閉ざされた空間だからこそ(獄中の方が)言いたいことが言える」
■刑務所に入ったラッパーに話を訊くと、獄中でリリックを書ける人と書けない人でハッキリ分かれる気がするんですけど、鬼君は結構書けるってことですね。
「うん、だって1日2小節書けばいいじゃん?1日2時間はヒマな時間があるから、書けるよね。でも、周りに俺がラッパーだってことを知ってもらわないとダメで、そうしないとみんな協力してくれないから。独居房じゃないからね」
■「赤落」を出して、知名度が上がってきたタイミングで刑務所に入ってしまったわけですけど、悔しくはなかったですか?
「いや、ない。出たら(『赤落』の売り上げの)金もあったし」
■ドライですね(笑)。でも、それぐらいの感覚だから今作も結構幅広い内容を歌えてるのかな、って気もしますね。二度の懲役で学んだことはありますか?
「人付き合い。人は人の中にいなきゃいけないんだ、って。ダイアモンドはダイアモンドにしか磨けない」
■アルバムを通して表現したかったことは?
「『踊ろう』ってこと」
■それだけですか?
「うん。俺の中でダンサブルな音だけでやってみた」
■実際そういうトラックは多いと思いますけど、リリックはそうじゃないですよね。ある種ダンス・ミュージックとして機能させるには聴き流しやすいラップにするというのが手法としてありますけど、そういうラップではないですよね。
「チャラい感じ(笑)?踊れるからって踊れるようなことしか言わないっていう必要はないし……(色々なことに)とらわれない!」
■色々あるけど取り敢えず踊って忘れろってことですね。鬼君のラップ・スタイルは文学的と評されることも多いと思いますけど、その影響源はどんなところにあるんですか?
「本を読むぐらいかな。具体的には性癖とかバレるから言いたくない(笑)。官能小説とかバイオレンス系とか、何でも読むね。本を読んでるとああいう(リリックの)書き方になるでしょ。ちゃんとしたモノを読んでれば、表現の仕方は『こういう風にすればいいんだ』っていうのは分かるはずだよ。俺もマンガ世代っちゃマンガ世代だけど、そういう世代には分からないのかもね」
■フィクション/ノンフィクション入り交じっているとしても、「獄窓」のリリックは自分の人生をベースにしたものですよね。
「うん、今はその方が良さそうだから。まだみんな俺の人となりが見えてないでしょ?それを知ってもらった上で『じゃあ俺これやりたい』っていうコンセプトをアルバム毎に毎回変えていきたいんだよね。基本、踊れるのが音楽だと思ってるんで、じゃあ1stはそこ、って感じで」
■じゃあ、リリックはもちろん大事だけど、それ以上に音楽的な側面を押し出したい、と。
「結局音楽だからねぇ。いつまでもサグサグ言ってるわけにもいかないでしょ、皆さん(笑)」
■「赤落」以上に、全編に渡って鬼君の破滅主義的な側面がリリックに出てるような気がしました。
「まあ、俺みたいな、自分の人生に気まずさがある人は開き直らないと出来ないことっていっぱいあるでしょ。『いいじゃん過去のことだから!俺なんだもん!』って(笑)。やるしかないからね。でも、そういうところにみんな惹かれるんじゃないかな」
同僚の店員(以下T)「俺が『獄窓』聴いて思ったのは、本人の詞も混沌としてるんだけど、世の中も元々混沌としてるから、そういうことを歌ってるのかな、って。だから、聴くヤツも勝手に考えるじゃないですか。『これ、俺にも言えることだなぁ』って」
「いろんな目でそのときの描写をするのが俺のスタイルだから、それを真剣に聴くとなんとなくそのイメージに入っていけるから、そこじゃねぇかな。逆に聴いても『何言ってるのの?この人』っていうラッパーもいるワケじゃん?」
T「そういうことはないだろうね」
「“精神病質”とかよく言われるもんね。『何かの引用ですか?』って。違う違う。ボスみたいに引用はしないから(笑)」
■ボスっていうことで言うと……“ばちこい”は明らかにILL-BOSSTINOに向けたディス・ソングですけど、実は「獄窓」でHIP HOPシーンやHIP HOPシーンの人間を対象にした曲ってこの曲ぐらいですよね。
「特にみんなと共有してる世界だけを表現する必要はないかな、って思って。俺には俺の世界があって、それを表現すればいいだけ。で、こっちの世界に興味を持ってくれればゴールデン街にも来るだろうし。(“ばちこい”を作った理由は)ただ好きじゃないからだよ」
■具体的にILL-BOSSTINOの何が好きじゃないんですか?
「いや、勘違いしてるし。『ラッパーは光/言葉は影』って、それ逆だから。言ってること違くない?って」
■でも、歌ってる内容に同意できないラップなんて他にもいっぱいあるでしょ?
「意外とないんだよね。アレは音楽じゃない、ただ喋ってるだけでしょ。1stが出たときから思ってたよ」
■とすると、作品を聴いた上で、ってことなんですね。
「そうそう」
■鬼君は自分の人生で見て来た様々な風景を言葉にしてきてますけど、そういったことをリリックにすることによって過去を思い出そうとしてるのか、忘れようとしてるのか、どっちなんですか?
「結局一緒だね。ライヴで歌えば思い出すし。書かないよりは(自分の辛い過去を)書いた方がいいよ。自分に対する戒め。『あのとき結構苦しかったけど頑張ったんだな、俺』っていうのにもなるし。(アルバムの)最後の方は、辛いからしょげてるんじゃなくって、『辛いから頑張りましょうよ。辛いなら踊りましょうよ』って言いたいんだ」
■でも、ポジティヴなことはハッキリと言葉にはしてないですよね。そこまでは明らかにしない理由は?
「『そういったこともあったけど、こうやって歌ってる自分もいます』ってことかな」
■今こうしている自分が答えというか。
「うん。そういう風に聴いてもらえるといいかな」
■鬼君がもしHIP HOPに出会ってなかったらどうなっていたと思いますか?
「ハハハハ。俺なんて良いとこシャブ中で懲役かホームレスじゃない?それか普通に女に殺されてるか」
T「俺もそう思う(笑)。でも、『マイクがなきゃ鬼畜か畜生』って言ってて『上手いこと言うよねー』って言ったらちょっと傷ついてたよね(笑)」
■そういえば、「赤落」には“スタア募集”のような政治的な歌も歌ってましたけど、今後はどんなことを歌っていきたいですか?
「分かんないね。気になったことだけを曲にする。だけど、次のアルバムでやりたいことはもう決まってて。もっと老若男女問わず日本人の持っているアイデンティティを刺激できるメッセージを作らなければいけないと思ってる。そのためには俺ももっと勉強しなくちゃいけないんだけど」
■その言葉をものすごく単純に受け取ると、「右翼的な」曲ってこと?
「ぶっちゃけそういう表現も出て来るよね。そうしていかないとつじつまも合わないし、それをちゃんと表現していかないと日本のアイデンティティも生まれてこないのかな、と思う。ただ、“右”ってどの国にもいるじゃん?じゃあ例えば日本とアメリカのそれを比べてみて、そこで(日本だけが)出っ張ってる部分、それがこっちの武器だと思うから、それを刺激してあげれば多分良い音楽/良いメッセージになると思う。それを俺みたいな30代前半の若者が、下の世代の人間が興味のある音楽で歌うっていう。俺、実は50代のファンが多いんだけどね」
■それは何でだと思います?
「『昭和だったらお前みたいなヤツいっぱいいたよ』って言われる。あと、表現がラップ一辺倒じゃないって言われるね」
■次作が今話したような内容だとすると、今作よりもっと外に向けた曲が多くなりそうですよね。
「そうだね。でも、そのアルバムの前にもう1枚アルバムが出来ると思う。今度は逆に踊れないようなアルバムになると思う、そういうトラックが集まってきてるから。その後に今話したようなアルバムを作ろうと思ってる。踊れるアルバムっていうのは1stだけのテーマで、もっとシリアスなものも作りたいんだよね」
■あ、「獄窓」は鬼君の中ではシリアスじゃない?
「シリアスではないね」
■でも、ジョークでもないですよね?
「ジョークではないけどね(笑)。コレは俺にとってただの“思い出”なんだ。リアルタイムの話は“精神病質”ぐらいで。そうじゃない、リアルタイムの思いを込めた、『泣きのアルバム』も今後は作りたい」
■それは……相当重そうですね(笑)。
「枚数いかねぇんじゃないかな(笑)」

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