INTERVIEW[インタビュー] RSS

AFRA

ご存知日本で一番有名なビートボクサー:AFRAが3rdアルバム「Heart Beat」をリリースした。「口で鳴らされた音だけでアルバムを作る」という、分かりやすくも物凄く難易度の高いテーマを今作では設定。結果、これまで誰も聴いたことのない、オリジナル極まりないHIP HOPアルバムが完成した!

インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)

「声だけで出来たアルバムっていうのは今までの僕の理想だったし夢だったから、僕の中ではコレが一個の完成形なんですよね。ビートボクサーの絶対数が決して多くない中でアルバムが出せるということも、今後のビートボクサーにとってステップになると思うんですよね」

 「自分の声だけで楽曲を作ってみたい」という欲望は、恐らくヒューマン・ビートボクサー全員に共通するものなのだろう。彼らビートボクサーは自らの声に可能性を見出しているからこそ口でビートを刻み続けるのだろうし、そんな彼らが自分の口だけで楽曲制作を完結させてみたいと思うのは必然だ。だがその一方、ビートボックスはその性格上テクニックの上限がそのままその時点での演者の肉体的限界と直結してしまっているが故に、自らの限界点も痛感しやすいとも言える。「口だけでアルバムを作る」というのは、言葉の響き自体は物凄くキャッチーだけど、そんなに軽々しく口にして制作に取りかかれるものではないのだ。

 だが、タブーとは言わないまでも、ある種ビートボクサーにとってこれまで不可侵領域だった「口(声)だけで作るアルバム」にこの度チャレンジしたのがAFRAだった。ソロ名義では3作目となる「Heart Beat」は、その前代未聞のコンセプト通り、これまで誰も聴いたことのないサウンドに仕上がっている。例えば音色のパターンや音圧など、ビートボックスが他の楽器に敵わない要素は絶対にあるし、その点が今作で完全にクリアされているとは思わないが、個性的な客演陣の助けやアイディアの豊富さによって、非常にエンターテイメント性の高い作品に仕上がっている。何より、このアルバムからはAFRAの、ある種「スクラッチだけでアルバムを作る」「日本語のラップだけでアルバムを作る」といった概念に近い、プリミティヴで純粋な衝動に満ちていて、そんな感覚は近年のダンス・ミュージックではなかなか感じることの出来ない、尊いものだ。


■これまでにAFRA君名義では2枚、INCREDIBLE BEATBOX BAND(以下IBB)でも2枚のアルバムを出していて、2004年のアルバム・デビュー以降物凄いペースでアルバムを出してるよね。
「今回初めてプロデュース的な立ち位置でアルバム全体を作らせてもらったんですけど、今までは他のプロデューサーにお願いしたりとか、個々の曲によって制作者が違ったりしたので、そういう経験が積めてやっとここに来れたかな、と思いますね。いきなり今回のアルバムのような内容は無理だったと思うし、アルバムを作っていく内に、『声だけで作りたい』という思いが募ってきたんですよね」

■レコーディング・アーティストとして活動を始めた時点で、今作のような「声だけで作る」アルバムを作りたいという目標はあったんだ?
「それはありましたね。『出来ることなら声で演りたい/演れるんじゃないか』という想像はしてたけど、やっと今回形になりましたね。今までもやろうとしたことはあったけど、アルバム単位としては難しいかな、と思ってて」

■具体的にどういう部分が難しいと?
「やっぱりこれまではサンプリングだったりキーボードのような楽器が入ったり、自分以外の意志が入ってたから。今回はやっとエゴイスティックに出来たというか」

■今作を作ろうと思うに至った経緯は?
「IBBの2ndアルバム(『WORLD CLASS』)を出した段階でソロ・アルバムは作りたいと思ってて、グループでやってたときはやりたいことが3分割されていたから、次ソロをやるからにはより自分のやりたいことをやりたいという気持ちがありましたね。で、『どんなアルバムがいいかな?』ってスタッフと話し合ってるときに『声だけで作る』っていう案が出て、それは自分の中でもあった案だったけど、なんか今まで現実感がなくて実現できずにいたから、ちょっと遠い目標だったんですよね」

■敢えて避けていた部分だったりするの?
「不可能ではないのかな?とは思っていたんですよね。海外のRAHZELとかSCRATCH、KILLA KELLAのようなビートボクサーのアルバムを聴いても、ビートボックスはいち要素として入ってるぐらいで、全体としては『ビートボックス・アルバム』ではないな、って思ってて。ライヴを観ると口一本でやってるやん、っていう矛盾はリスナーとしても感じてたし、ちょっとガッカリな部分でもあったりしたんですよね。そういうことを考えるとやるべきだな、って。ビートボクサーとしての到達点というか」

■でも、ガッカリする一方で、同業者だけに「何故ビートボックスだけでアルバムが作られてないのか」という理由も理解できちゃったりしたでしょ?
「そうですね。でも、今回はあえてそれを超える壁として設定したんですよね。ビートボクサーとしてもこのアイディアは面白いと思ったし、ビートボックスをやってないスタッフからも面白いんちゃうか、という第三者的な意見もあったんで、それならやるべきだな、と思ったんですよね」

■実際に作るのは大変だけど、アイディアとしてはすごくキャッチーだもんね。これまで作られてなかったアルバムだけに、参考になる作品もなかったわけで、AFRA君の中で今作の青写真は作り始めのときにどの程度見えてたの?
「トラックが既にあるとかではないから全体像が見えていたわけではなくて、作りながら(フィーチャリング・アーティストたちと)話し合いながら作っていったんで、不安と言えば不安なんやけど、一緒に演ってくれたアーティストたちがみんな信頼してる人たちだったし、『何か面白いものが出来そう!』っていう期待があったから、自信もありました。コレをひとりだけでやれ、ってなったら不安で仕方なかったと思いますけどね」

■作ってる過程のどの辺りで不安が自信に変わってきた?
「いきなりですね。(Mummy)Dさんとの曲(“The Voice, The Noise”)が最初に取りかかった曲なんですけど、この曲の声が乗っかってフックが出来たときに『アルバムの1曲目が完成したな』って思ったんですよね。IBBだともっとダンス・ミュージック寄りの要素が入ってたけど、今回はHIP HOPを土台にしたベーシックなアルバムにしようと思ってて、一発目に取りかかったDさんとの曲が自分の中でHIP HOPらしいスタンダードな曲調になったことで安心感が生まれたんですよね。芯が通った曲が出来たことによって、ここからなら逆に他の曲でより自由に出来るな、って気持ちになりましたね。しかも声について歌ってる曲だから、アルバムの柱が(最初に)出来た」

■アルバムということで言うと、AFRA君の音楽は常にクロスオーヴァーな要素が入っていたし、HIP HOP外の人からの評価も高かったわけで、何故今回意識的にHIP HOPを土台にしようと思ったの?
「ずっとそれ(クロスオーヴァーなアプローチ)をやってきたからじゃないですかね。制作に関してやっと自分で本当にハンドルを握れたというのがデカいですね。これまでクロスオーヴァー的な動きがあったからこそ、立ち返って自分のベタに聴いてるモノとかの影響を音に出したかったし、より『AFRAはこういう音が好き』というのを分かってもらいたいというのもありますね」

■確かに、今作は「ベタな」アプローチが多いよね。元々AFRA君の持ってる趣向と言えるのかもしれないけど、"MY ADIDAS"や"BEAT IT"をカヴァーしていたり、"WILD BOUNCE"は"WILD STYLE"のシーンから着想を得ているし、Dさんのヴァースもオールドスクールな言い回しから始まる。それ以外にも随所に80's/オールドスクール・オマージュが多いアルバムだけど、その点は意識した?
「そうですね。ヒューマン・サンプラーとしていろんな音楽をクラブで聴いたりして一番グッとくるものがこの辺りなんだと思います」

■それこそこのアルバムで引用されているような定番ブレイク・ビーツの数々はHIP HOPビーツの中で最も原始的な音であるし、最もHIP HOPの快楽原則に忠実なビートなわけだけど、それらのビートとこれまた原始的なビートボックスは相性が良いのかな?って思ったんだ。
「確かに。いろんなビートボクサーがいると思うけど、僕はそうですね。HIP HOPの定番ブレイクとかを口で演って、その上でフリースタイルのラップが乗ってきたりする瞬間がすごい好きなので、意識してなかったけどそういう部分は確かに今回出てますね」

■ところで、AFRA君はラップもやるしDJもやるわけだけど、ビートボックスをしてるときはどっち側に近いと思う?
「それは僕もよく考えるんですけど、両方に近いと思うんですよね。マイクを持ってる瞬間はラッパーに近いけど、ビートボックスをやってる瞬間はDJになって曲で人をノセることが出来る。DJ的なアドリブも入れられる一方、言葉も乗っけられるし。だから、DJとラッパーの間の子みたいな気がしますね。でも、(DJ寄りかラッパー寄りかは)ビートボクサーによるかもしれないですね」

■実は、僕が「口だけで作られたアルバム」というコンセプトを音を聴く前に伝えられたときに思ったイメージと、今作の実際の音はだいぶ違ってて。それこそ2ndアルバム(「DIGITAL BREATH」)的に口から発せられた音をひとつの素材として割り切って細かく切り貼りするのかな、と思ってたんだけど、今作はむしろそういう要素は皆無で、基本ループによって構成されてるよね。
「そこは意識しましたね。ビートボックスはライヴでも声だけで演ることによってビックリされたり面白がられたりするんで、作り込むとライヴ感が失われると思ったんですよね。ビートを切り刻みすぎると機械っぽくなりすぎて、それはそれでカッコ良いものもあるんだけど、今回目指したものはより人間がやってるという臨場感を残したかったんですよね」

■錚々たる面子がフィーチャリングに起用されてるけど、人選の基準は?
「NYに帰ってきて東京に住み出してからの交友録というか、今まで活動してきた中で出会った人たちであり、HIP HOPをテーマにした場合の人選でもありますね。やっぱり自分がすごい面白いと思う人たちで、みんな個性が強い」

■このアルバムって、共演者を信頼していないと作れないアルバムだろうな、って思ったんだけど。
「個々のキャラがちゃんとあるんで曲作りもやりやすかったですね。まんべんなく同じような曲を作るんじゃなくて、曲にその個性がガチッとハマるような曲が出来たと思います」

■日米問わず、HIP HOPの歴史を見渡してもビートボクサーが5枚もアルバムをリリースしているというのはAFRA君ぐらいだと思うけど、ここまで作品を作ってきて改めて「ビートボクサーの作るアルバム」とはどういう作品が理想だと思う?
「声だけで出来たアルバムっていうのは今までの僕の理想だったし夢だったから、僕の中ではコレが一個の完成形なんですよね。アルバムの音をライヴに還元させたかったというか、ライヴとパッケージされたCDの差でちょっと残念に感じてたところは今まであったし、音源で聴いて良いモノはライヴでも感じたくて、別モンにしたくなかったんですよね。もちろん別モンで面白いモノもあると思うけど、やっぱりビートボックスで作る以上ライヴでも表現できるようにしたくて、そういうところは以前は離れてたけどだいぶ近づいてきました。ビートボクサーの絶対数が決して多くない中でアルバムが出せるということも、今後のビートボクサーにとってステップになると思うんですよね」

■絶対数は今も多くないかもしれないけど、AFRA君が以前出たコピー機のCMなどがきっかけでビートボクサーの数は爆発的に増えたよね。その状況についてはどう思う?
「いやー、ヤバイなー、って(笑)。焦るやん!って。やっぱすごい上手いヤツも増えてきたし、日本におけるビートボックス・シーンというのは確実に根を生やしてきてると思います」

■太華君は、先日Amebreakで行なったインタビューでHIP HOP の要素が感じられないビートボクサーが増えたと語っていたんだけど、 AFRA君はビートボックスとHIP HOPとの距離感についてどう思う?
「日本に帰ってきて、ダース(レイダー)君主催の『FUNKY FIESTA』ってイヴェントで初めてライヴをやったとき、周りがみんなHIP HOPアーティストな中、自分がビートボクサーとして出たら、『自分がビートボックスがやってるのって、すごいHIP HOPやな』って思って。HIP HOPの中のいち要素としてレペゼンしてるな、って自分は思ったし今も思ってるんだけど、今はビートボックス自体が世界に広がって、ハウスばっかりやるようなビートボクサーがいたり、ヴォイス・パーカッション的なコーラスの一部としてやるスタイルもあったり、ヒューマン・ビートボックスという言葉自体はHIP HOPから出てきたものだけど、具体的にそれを使ってる人は全員ヒップホッパーじゃないというか。例えばラップはHIP HOPから出て来たものだけど今は別にロックの人もやるし、手法としてラップを取り入れる人もいるわけで、ヒューマン・ビートボックスだからHIP HOPとは限らないんですよね。だから、良い悪いの話じゃないんだけど、HIP HOPというカルチャーから生まれてきたということを知ることは自分のオカンが誰なのか知ることと同じやと思います」

■AFRA君が目指してきたものが今作でついにひとつの形になったわけだけど、このアルバムを作ったことで見えてきたものはある?
「声だけで作ることが出来たから、もう不可能はないかな、って。今後は逆にいろんな楽器とかとコラボレーションも出来るけど、『Heart Beat 2』というか、この延長線上でよりドープなものを作りたいですね。今回カッコ良いものを作ったって自信はあるんですけど、より引き込ませられるようなアルバムを作りたいですね」
 

INFO
YouTubeのチャンネル「AFRATube」では様々なAFRA関連動画を続々UP中!
http://www.youtube.com/user/afratubetube

 
 
 

Pickup Disc

TITLE : Heart Beat
ARTIST : AFRA
LABEL : RHYTHM ZONE/RZCD-46350
PRICE : 3,059円
RELEASE DATE : 10月28日