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B.I.G. JOE

オーストラリアでの長い獄中生活を経て、ついにB.I.G. JOEが帰ってきた。ジェイルにいる間に作られた「LOST DOPE」や「COME CLEAN」はクラシックとなったが、最新作「RIZE AGAIN」は現在の自由を謳歌している様子が素直に伝わる、あらゆる意味で「開かれた」素晴らしい作品となっている。「LOST DOPE」辺りから彼の音楽にハマッたリスナーは、今作でB.I.G. JOEというラッパーの更なる可能性を感じることが出来るだろう。Amebreak初取材、思う存分語ってもらったロング・インタビューだ。

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「出所する間際って、出られるという希望と、出てからの不安が入り交じった不安定な心境になるんですね、多くの受刑者は。でも、僕の場合はホントに不安は皆無で、このアルバムも含め、その先の“道”が見えてたんですよ。だからその道を進んで、自分のあるべき姿を見せればいいなって」

 

 「RIZE AGAIN」。B.I.G. JOEがニュー・アルバムに名付けたこのシンプルなタイトルには、非常に様々な想いが込められているだろう。それはこのアルバムで表現された、まさに千変万化と言うべきアプローチからも感じることが出来るし、実際にリスナーの目の前に柔らかな恋愛から硝煙の匂い、うらぶれた街角から煌びやかな夢、そして彼自身の経験まで様々な光景をラップを通して映し出していく。そしてそうした世界観を、dj hondaやSKY BEATS、BUNといったトラック・メイカーがしっかりと支える。そこから表われる、このアルバムに通底するポジティヴィティからは、彼が再び大きな一歩を踏み出したことを改めて感じさせるだろう。


■Amebreakでは初の対面インタビューになりますので、まず帰国されての心持ちから伺いたいのですが。
「帰国して一年位経つんですが、この一年間でリハビリというか社会見学をしてみて、やっぱり(この環境は)失いたくないなって、もう二度と。人との出会いであったり仕事での充実感、それから好きなときに好きなモノを食べられるっていうことを本当にありがたく思いますね」

■オーストラリアの刑務所では、どれぐらいの“情報”、特に音楽の情報を得られたんですか?
「僕のいたところは、普通の雑誌だったら割と自由に差し入れが出来るんで、一週間位はタイムラグがあるけど、そこで知り得るぐらいの情報は得られましたね。だから、どういう人が活躍してて、誰がリリースしてっていう情報はアップデート出来てました。CDに関しても、オーストラリアで正規リリースされてる音源だったら、刑務所内からオーダーすることが出来るんですよ。だから、日本のモノやマニアックなモノは難しいけど、USのメジャーどころのアーティストの作品はチェックできてましたね。そうやって買ったCDを刑務所内でシェアもしてて。『あいつLIL WAYNEのCD買ったから、俺のJAY-Zとシェアしようぜ』って。それからラジオもあったから、どんな曲がリリースされて、流行しているのかは把握できてました」

■そういった部分はかなり日本の刑務所とは違いますね。JOEさん自身の作品の反響も分かってましたか?
「MIC JACK PRODUCTIONS(以下MJP)の仲間がレビューが掲載された雑誌とか、ショップにCD並んだのを写真に撮って送ってくれたりしたんで、何となくは掴めてましたね。それから、MJPのホームページに来たメッセージを送ってくれたり、2ちゃんねるで僕について書かれた部分をプリントして送ってくれて、ディスられてるのにムカついたり(笑)。そういうのが支えになった部分は強いですね」

■日本の刑務所よりもコミュニケーションの手段はかなり自由が利くんですね。
「まず電話があるっていうのが大きいですよね、それでレコーディングも出来たし。それから、僕が向こうでは外国人だったから、向こうの刑務官は僕宛に送られてきたモノをすぐにチェックできないワケですよ。日本語だから読めないし、『もしかしたら裁判に関わる重要な書類かもしれない』ってことで、ほぼノーチェックで届いていたんですよね」

■なるほど。コミュニケーションと言えば、「COME CLEAN」のリリースの際に、『CDジャーナル』で書簡インタビューをされていましたね。そしてその中で「返り咲く」という言葉を使われていました。そして今回のアルバム・タイトルが「RIZE AGAIN」。その意味では、その時点で今回のアルバムのイメージは出来上がっていたんですか?
「そうですね。それは間違いない。今回の作品は多くの部分が日本に帰る間際に書いたものなんですよね。そしてそれを帰ってきて録ったんだけど、それだと結果的には『ジェイルで作ったアルバム』になってしまうから、そうじゃない表現をするために、録りながらまた客演やアレンジを加えていって。だから今回のアルバムは『出るときに思ってたこと』と『出た後に感じたこと』のアルバムですね」

■今回のアルバムは、多くの部分に希望感を感じさせられる作品になってると思います。それは「出られる」という状況によるものだったんですか?
「それは大きいですね。出所する間際って、出られるという希望と、出てからの不安が入り交じった不安定な心境になるんですね、多くの受刑者は。でも、僕の場合はホントに不安は皆無で、このアルバムも含め、その先の“道”が見えてたんですよ。だからその道を進んで、自分のあるべき姿を見せればいいなって。自分のこれまでの経験も含めて、自分の存在自体が何かのメッセージになると思ってたから、悲劇を歌うんじゃなくて(刑務所という)迷路の中で培ったモノを、ポジティヴなパワーに変えて表現しようと思ったんですね。それが使命だろうなって。だからそういったことを感じる作品になったのかもしれないですね」

■制作について伺うと、今作はTRIUMPH RECORDSからのリリースですが、このレーベルについて教えて下さい。
「僕の個人的なレーベルですね。今回はそこからのリリースです。それは、自分で自分をプロデュースしたかったからなんですよね。介入する人をなるべく排除して、出来るだけシンプルに、自分の力を多く出してってことをやってみたかった」

■極端な言い方になりますけど、そういった実務レヴェルのことまで携われるというのは、「自由の身になったから」可能になったことですよね。
「うん。ただ、“今”はそれがやりたいって感じたからやったんだけど、もしかしたら次のアルバムや、別のプロジェクトではまったく誰かにお任せして、自分はアーティストとしてだけ動くかもしれない。だけど、今回は自分が直接手を伸ばしたり、直接コンタクト出来る範囲で作ってみたかったんですよね」

■今回のトラック・メイカーはどのように選ばれましたか?例えば「COME CLEAN」は、JOEさんのラップ/デモをDJ DOGGさんに渡し、それをトラック・メイカーがエディットし、そして作品として完成させるというという過程を踏まれたということですが、その意味では、JOEさんにトラックの選択権はなく、そしてラップとトラックとの整合性などについてもJOEさんはタッチすることが難しかったということになりますね。その意味ではこの6年間は、いわゆる「トラックを聴いて、そこにアプローチしながらラップを乗せて作品を完成させる」という、ごく普通の制作手法は取れなかったことになりますが、今回そういった「通常の制作」をしてみての心境はどういったものでしたか?
「やっぱり楽しかったですね。『COME CLEAN』ではみんなにデモを振って、それがどんな風に料理されるかなっていうのが楽しみのひとつとしてあったけど、どうしても僕の感じてる温度と、トラック・メイカーの感じた温度に差が出てしまうことは避けられなかったと思うし、その差も面白味だったと思う。だけど今回は、今までに得た経験と、新しい出会いと、トラック・メイカーのエッセンスとで完成させたいなって。今回の多くの曲はジェイルの中でデモを作ってたんですけど、録音の段階で僕がオファーしたプロデューサーからもらったトラックを選んで、それに乗せてって形ですね。その計画は最初期の段階で立ててたんで、デモはあくまでデモとして、完結はさせなかったですね、わざと。帰ってきてから作るアルバムだから、フワフワした状態にしておいて、出てからガッチリと作ろうって。ただ、制作の時間がすごく多かったワケじゃないから、どうしてももらったトラックに合わない曲もあったんで、そういう出会いのなかった曲は自分でトラック・メイカーとして具現化して作りました。トラック・メイカーの人選としては、ジェイルにいるときから(B.I.G. JOEとしての)MySpaceを始めてたんで、そこで出会った人も多いですね。例えばSKY BEATSとは会ったことがないんだけど、MySpace上で知って直接オファーさせてもらって」

■リリック面で伺うと、“MIND PLAY”の2ndヴァースは日本で書かれたものですか?
「いや、これは向こうですね」

■そうですか。このヴァースは音楽シーン論的な部分や、HIP HOPゲームへの意思表示的な部分も強いので、戻ってきて感じたことなのかなと思ったんですが。
「当然HIP HOPゲームは見てますよ。常に見てるし、一番気になるところだし、そこで自分は何が出来るのか、どうすればオリジナルなモノを提示できるのかは、常に考えてますね。それに、そういう部分には世の中も反映されると思うんですよね。だからHIP HOPだけじゃなくて、世の中の流れや若者のあり方や生き方って部分も含めて考えてますね。そうやって、アーティストは(世の中の情勢に)敏感だからこそアーティストでいられると思うんですよね。ピュアに今起こってることを表現出来るっていう、それがアーティストとして重要な要素だと思うんですよね」

■なるほど。
「“MIND PLAY”は自分でも好きな曲ですね。刑務所に入ってるときに師匠とも言えるような人との出会いがあって、その人は僕に料理も、格闘技も、哲学も教えてくれたんですね。その人のおかげで色んなことが分かったんです。その人が言うには、全ては“脳”次第で、脳次第で暗示にもかかるし、何もないはずなのに、“有る”と錯覚してしまったりする。それに例えば、『墓地は恐いところ』って子供の頃から信じ込んでるから、お墓にいったらなんか胸がざわついたりする。でも、自分に活を入れて精神統一して、そういう“恐い”や臆病な気持ちを断ち切れば、まったくそういった恐怖感はなくなるわけで。そういう、『全ては自分次第』だってことを表現したかったんですよね。自分のマインドは誰かに支配されるんじゃなくて、自分でコントロールしなくちゃいけないっていうことを」

■今回はこれまで以上にリリックの内容が明確ですね。
「今回は自分のスキルを見せつけてるんですけど(笑)」

■確かにそうですね。それはすごく感じました。
「自分はラップも出来るし、歌も唄える。ギターも弾けるし、トラックも作れて、物語も……って、そういうマルチな感じで色んな人に届けたいって気持ちがあるんですよね。そういうのが自動的に、『この曲はストーリーテリングで』『この曲は歌も入れて』『この曲は自分の熱くたぎる部分を込めて』って、自然にヴァラエティ豊かになってく作用をしてるんだと思うんです。表現の場だから、それは見せつけてナンボだとも思うし。ピッチャーも出来るしキャッチャーも出来るしみたいな」

■でも、このアルバムはホントに一人野球じゃないけど、打ったと思ったら自分で捕ってたみたいな(笑)、ひとりなんだけど非常にマルチっていう作品ですね。それから、今回の中では「グアンタナモ・ベイ」であったり、「ムジャハディーン」というワードが登場しますね。
「刑務所の中にはイスラム教の人もいるわけですね。で、ムスリムの言葉で、ムジャハディーンはファイターのことを指すんですけど。それはただ戦うんではなくて、ジハード(聖戦)のために戦う人たちのことを表わすんです。それから、グアンタナモはキューバにある収容所なんですけど、当然、刑務所の中でもそれは話題になるんですね。だから、第一にはそういった言葉が身近だったし、もうひとつはそういったことがあることをリスナーに知ってほしいから、こういった言葉を使ったんです。イスラム教徒というと日本では“テロ”というイメージで語られがちだけど、本当はスゴく穏やかないい人たちだし、間違った人はごく一部の急進的な人だと思うんですよね。逆に深くイスラム教を分かってる人たちの方がピースフルで。そういう文化にも俺は触れられたっていうことで、あえて使わせてもらったんですね。みんなにちょっとだけそういう世界があるってことも知ってほしいなって」

■抽象的な質問になりますが、リリックを書くときにインスピレーションとなるのは?
「基本的にどんなトピックを投げられても形にしてやるって気持ちはあるんですけど、ソロの場合は『そこで何が言えるか』が大事になりますね。僕はちょっとだけメッセンジャーなんですよ。そうだって自分で信じてるし、これはこういうトピックで、こういうメッセージをみんなに投げることが出来るって感じたときに、ピンと来ますね。だからどの曲にも必ずひとつ以上のメッセージを込めてるんですよね。自分の信じた範囲ですけど」

■その意味では気付きを与えたいというか。
「そうですね」

■それはJOEさんがラップをする意味にも直結します?
「僕はラップをおかしな動機で始めたんですよね」

■その動機は?
「『ラップで人を泣かせたい』ってところからスタートしたんですよ。どうにかラップで人の目から涙粒を落とさせたいって動機で16歳ぐらいからラップを始めたんで、どうしてもホロッとさせるようなことを書きたいなって」

■それは、自分がラップで泣いた経験があったからそうなりたいと思ったんですか?それとも逆に泣いた経験がないからこそ、誰もやってない方向としてそういうモノを作りたいと思ったんですか?
「涙が出るような音楽には出会ったけど、HIP HOPで涙を流したことがないから、HIP HOPでもそういう作品を作りたいっていうのはありましたね。今でもそれだけがモティヴェーションってワケではないけど、原点としてはそういう感情がありますね。色んなアーティストがいると思うけど、ピュアな感性を持ってる人が多いと思うし、歌でなら普段言えないようなことも表現できるし、それを口ずさむだけで普段は出てこないような存在意識が出てきて、それが普段の自分にも、周りの人にも作用すると思うんですね。そういう、ピュアになれるキッカケに自分の曲はなれればいいなって。水のように。音楽ってそういう作用があると思うんですね」

■最後に、この作品でどういった影響を与えたいですか?
「前から思ってたことは、僕が作品を作ることで偏見をなくしてくれたり、何かを知るキッカケになってほしいですね。知ることで偏見もなくなるし、知ったら好きになったり理解することが出来るかもしれない。そして、それがその人にとっての新しい道になったり、新しい鍵になるかもしれない。そうやって、少しだけでもいいから、知って、“リアライズ”するキッカケになってくれると嬉しいですね。視野が広がるようなね。MJPの3rdアルバムも制作に入ってるし、新人のリリースも控えてるんで、それも当然期待してほしいですね」


 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : RIZE AGAIN
ARTIST : B.I.G. JOE
LABEL : TRIUMPH RECORDS/TRICD-002
PRICE : 2,940円
RELEASE DATE : 3月3日
TITLE : COME CLEAN TOUR
ARTIST : B.I.G. JOE
LABEL : TRIUMPH RECORDS/TRIDVD-001
PRICE : 2,000円
RELEASE DATE : 3月3日