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K'NAAN

ソマリア生まれ/US育ち、現在はカナダ在住という異色な生い立ちが興味深いK'NAAN。AIと共演したヴァージョンの“WAVIN' FLAG”がコカコーラのW杯キャンペーン・ソングに選ばれたことで、日本での認知度も急速にアップしてきているが、実際その注目に相応しいだけの才能/個性を持ったアーティストであることは間違いない。そして、この度満を持して最新作「TROUBADOR」の日本盤がリリース、彼の生い立ちから音楽に対する姿勢まで、興味深い発言多数のインタビューが実現!

インタビュー:高橋芳朗

「シーンは徐々に変わり始めてるね。ひとりでいくつもこなすマルチなアーティスト性が認められるシーンになり始めてる。メロディアスな曲とハードなHIP HOPを同時にできるアーティスト、そしてそれが矛盾じゃないんだって言えるアーティストになれたらいいね」

 “WAVIN' FLAG”がサッカー・ワールドカップ南アフリカ大会をサポートするコカコーラのグローバル・キャンペーン・ソングに選ばれたことにより、ここにきて一気に露出が急増しているK'NAAN。その“WAVIN' FLAG”を含む彼のA&M移籍第一弾作「TROUBADOUR」(2009年2月全米リリース)は、ここ日本の一般的なHIP HOPリスナーに積極的に聴かれたとは言い難いものがあるけれど、EMINEMともたびたび比較される彼のラップ・スキル、そしてNAS & DAMIAN "JR GONG" MARLEY「DISTANT RELATIVES」にも影響を与えたTRACK & FIELDらによるサウンド・プロダクションは、このまま素通りするにはあまりにも惜しい新鮮なひらめきに満ちあふれている。AIやWILL.I.AMをフィーチャーした“WAVIN' FLAG”のニュー・ヴァージョンを収めた新装版が出たこの機会に、ぜひとも一聴をおすすめしたい。

■「TROUBADOUR」がリリースされてから1年以上が経過しましたが、周囲のリアクションはいかがですか?
「アメリカでの発売からほぼ1年半だね。お陰で最高の年になったよ。いろんな人がアルバムを気に入ってくれてる。ポジティヴな評価ももらってるし、全米チャートで初登場で32位に入れた。でも、『TROUBADOUR』はまだまだ新しい作品だと思ってる。これからさらに成長していくと信じてるよ」

■では、改めてあなたのバックグラウンドについてお話を聞かせてください。ソマリア出身のあなたはNYに出稼ぎに出ていた父親から送られてくるCDを通じてHIP HOPを聴くようになったそうですね。
「あの頃、僕はソマリアのモガディシュに住んでいた。で、ある日どこからか馴染みのない音楽が聴こえてきて、ニューヨークに住んでいた親父に電話して訊いてみたんだ。その曲の真似をしながら『これなんて曲?』って。そうすると親父が『それはラップっていうんだ』って教えてくれたんだ。その後、NYからCDを送ってくれてね。それがERIC B & RAKIMの『PAID IN FULL』だった。僕が初めて聴いたHIP HOPアルバムだよ」

■その後、あなたは13歳のときにソマリアの内戦の激化によってアメリカに亡命することになります。当時の状況は“PEOPLE LIKE ME”の曲中でも歌われていますね。
「13歳っていうととても影響を受けやすい年齢だろ?その頃、僕にとっては仲間だけが唯一の支えだった。でも、そんな仲間や愛する人たちとお別れしなくちゃいけなかったんだ。想像できないかもしれないけれど、本当に別れたくなかったよ。でも、国からは出なくちゃならない。僕たちは生き残りの見込みがある家族として、国を出るチャンスをもらった。そこで矛盾が起きたんだ。愛する人とは別れたくない、でも国を出なきゃならない……曲の中でも歌っているけど、とても仲良しの従兄弟がいた。あいつの母親は出産中に死んでしまったんだ。だから彼を養子に迎えて、僕らと一緒に暮らすことになった。もう僕の兄弟同然さ。一緒に生活して、一緒に大きくなって、一緒に食事をして……で、ある日僕の家族は国を出るチャンスをもらった。だけど母親が買える航空券は限られている。僕の分を買うか、従兄弟の分を買うか……あの曲はその瞬間について歌ってる。母親が、従兄弟にその知らせを告げる瞬間。『お前だけが国に残らなくちゃいけない』ってね。そういう経験をすると、人とはちょっと違った人生を送ることになるんだ。物事についてじっくり考えるようになるね。10代のころは、自分の身に起きてることなんか全部無視して生きようと思った。だからそのころの記憶は思い出せないんだ。ただ憶えているのは、なにもかもを忘れようと努力したこと。でも、忘れようとしたけど忘れられないものがあって、僕はそれをラップにすることに決めたんだ。だから、自分はユニークな視点で音楽が出来るんだと思ってる。強烈な経験をしてきたからこそ、軽い思いではラップできない。ちゃんとした目的意識を持つようにしてるよ」

■渡米後、あなたはNASやRAKIMのCDを聴いて英語を学んだというエピソードを聞いたことがありますが……それは事実なのでしょうか?
「ある部分ではね。もちろん本も出来るだけ読んでいたけど、HIP HOPが英語を学ぶ主な手段だったのは事実だよ。NASに関しては、僕にとって言語以上の刺激だった。可能性を与えてくれたんだ。どんなことが自分に可能なのかってことを思い描かせてくれた。その世界をヴィジュアル的に僕に見せてくれたっていうかね。もしNASがアメリカで黒人の生き様について話せるなら僕はアフリカについて同じことができるはずだって。NASはそれが可能であることを僕に証明してくれたんだ」

■マルチシラビック(多音節)ライムを駆使するあなたのラップ・スタイルはEMINEMと比較される機会も多いですよね。
「僕のライムの作り方がEMINEMと比較されるっていうのは光栄だよ。彼は確実にトップ・レヴェルのリリシストだからね。正直に言うと僕はラッパーになろうとして音楽をしてるわけじゃないんだ。むしろラッパーの型にはまらないようにしてる。でも、どうせやるなら上手くやりたいからね。ほとんどのラップのリリックは一行の最後の単語だけを次の行とライムさせる。でも僕は、最後の単語もその前の単語も、そのまた前の単語も連続でライムさせるんだ。二つ出来るなら三つ出来るってね。EMINEMは同じことをやってる数少ないラッパーのひとりだよ」

■そんなあなたがリリカル的に最も気に入っている曲はどれになりますか?
「『TROUBADOUR』に入ってる“15 MINUTES AWAY”だね。この曲は国際送金についてラップしてるんだ。ウェスタン・ユニオンっていう国際送金ができる店でお金が出てくるのを待っている人たちのこと、その間に起こるあらゆることについて。例えば、こんなラインがあるんだ。“Sometimes when I'm in a meeting/And everyone else is eating/I feel so awkward asking/So I pretend like I'm fasting”(ときどき仲間と集まって/みんながメシ食い始めても/俺は断食してるんだって見栄を張った/乞いたくはなかったから)……本気でひもじい思いをしている瞬間さ。だけど、それをどうにかおかしく伝えようとしているんだ」

■ではその「TROUBADOUR」に関してですが、前作の「THE DUSTY FOOT PHILOSOPHER」を踏まえて、あなたがあのアルバムで目指したこと/重要視したことはなんですか?
「質の高い音楽だよ。それが『THE DUSTY FOOT PHILOSOPHER』に最も欠けていた部分だね。あのアルバムが発売になったのと同じ頃には、たしかKANYE WESTの『THE COLLAGE DROPOUT』もリリースされてるんだ。リリックの面で言うと、『THE COLLAGE DROPOUT』も『THE DUSTY FOOT PHILOSOPHER』も同じくらいに出来が良かった。ヴァースにしてもメタファーにしてもね。じゃあ何が違ったかというと、クオリティの差。KANYEのアルバムを聴いた後では、僕のアルバムは聴けなかったよ。クオリティが違いすぎてた。まるで巨人の横に立ってる僕はミニチュアのチビ同然だった。悔しかったよ。ピュアな音楽ってことでは、KANYEと同じくらい巨大だったはずだから。それってやっぱりお金の問題だったのかな?質の高いレコーディングするためのお金は当時の僕にはなかった。それが納得いかなくて、ずっとモヤモヤしていたよ。最終的には、次は絶対良いものを作ってやるって気持ちになれたけどね」

■「TROUBADOUR」ではMULATU ASTATKEをはじめとするエチオピアのジャズやファンクをサンプリングした曲が多く収録されていますが、これらにはなんらかの意図/メッセージが込められているのでしょうか?
「エチオピアの音楽をたくさん使っているのは、たとえばアフリカン・ルーツを強調したいとか、そういうわけじゃない。たまたまそれがサンプリングする曲として他のよりも優れていただけさ。もちろん僕がアフリカ出身だからってこともあるのかもしれないけれど。一番しっくりきたのがあの曲だったから。そこが最も大切なことさ。一番良いと思うものをサンプリングすること。そういえば、TIMBALANDがLAに来たときに僕のスタジオに寄ってくれたんだ。何か1曲聴かせてくれっていうから、エチオピアのジャズをかけてみた。そうしたら、イントロをかけた瞬間に彼が『そこをもう一回聴かせてくれ』って言うんだ。そのあとも同じ箇所をずっと聴いてたんだけど、『こりゃあすげぇ!』って驚いていたよ。『これがどれだけ天才的なサウンドか、みんなは分かっちゃいない!』って。TIMBALANDのような最高のプロデューサーさえも唸らせる音楽なんだよね。だから、エチオピアのジャズとかっていうのは単なる文句に過ぎなくて、やっぱりそれ以上にすごい音なんだなって思ったよ」

■あなたはアルバムのサウンド・プロダクションや方向性にどの程度関与しているのでしょう?
「ほとんどの曲のプロダクションに関わってるよ。最後まで関わった曲もあるし、最初だけ手をつけた曲もある。ほぼ全曲、最初は僕が手をつけてるね。でもどうしても仲間のヘルプも必要で、友だちのプロデューサーに助けてもらってる」

■そういえば、あなたはNAS & DAMIAN "JR GONG" MARLEYの「DISTANT RELATIVES」で2曲に参加していますね。あのアルバムにはMULATU ASTATKEの曲をサンプリングした曲(“AS WE ENTER”)がありますが、これは「TROUBADOUR」にインスパイアされたものなのでしょうか?
「“AS WE ENTER”でサンプリングされているMULATU ASTATKEの“YEGELLE TEZETA”は、実は『TROUBADOUR』で僕が使おうと思ってた曲なんだ。でも結局、彼らのアルバムで使ってもらうことにした。『DISTANT RELATIVES』と『TROUBADOUR』では雰囲気の似てる曲が結構あるよね」

■今回、「TROUBADOUR」に収録の“WAVIN' FLAG”はワールドカップをサポートするコカコーラのグローバル・キャンペーン・ソングに選ばれたほか、ハイチのベネフィット・ソングとしてもリメイクされてカナダのナショナル・チャートで1位になりました。もともと違う意図で作った曲がこのような広がりを持ったことについてはどのように受け止めていますか?
「“WAVIN' FLAG”にはまるで新しい生命が宿ったみたいだよ。昨晩ちょうど友達からメールがきて『“WAVIN' FLAG”の調子はどうだい?』って聞かれたんだけど、僕はこう返事したんだ。『あの曲はもうひとり歩きしてる。自分ひとりでどこへでも行きやがるんだ!』って(笑)。ホント、まるで子供のようだよね。自分が育てた子供なのにいきなり有名人になって、親元を離れて遠くへ飛んで行っちまうみたいな……もう電話すらしてきてくれないんだ(笑)」

■「TROUBADOUR」のリリース後、あなたはBOB DYLANやFELA KUTI、BOB MARLEYらのトリビュート・ミックステープ『THE MESSENGERS』をリリースしましたね。この3人のアーティストのどんな点に影響を受けましたか?
「3人には共通点があった。それは『自分のやっていることを信じていた』ということ。それから3人とも偉大な詩人にしてミュージシャンだということ。僕の音楽人生もそうだと思うんだ。彼らの考え方、生き方、音楽の作り方に共感するし、頑固でメインストリームの音楽になんて見向きもしないところもいい。それって僕の生き方に似てると思ってる。彼らのこと、心の底から敬愛してるんだよ。だからこそ、『THE MESSENGERS』で彼らの世界に触れてみたくなったんだ」

■そのあたりも踏まえて、あなたはこのシーンのなかでどのようなアーティストになりたいと考えていますか?
「僕はただ僕らしさを受け止めてほしいだけ。良い音楽は正直に良い音楽だって言えるような世界にしたいね。実は先日、あるアワードでまったく別の3つの賞にノミネートされたんだ。ひとつは“ARTIST OF THE YEAR”、もうひとつは“HIP-HOP ALBUM OF THE YEAR”、最後が“SONGWRITER OF THE YEAR”。で、そのうちの“ARTIST OF THE YEAR”と“SONGWRITER OF THE YEAR”で受賞することができた。珍しいと思うのは、僕は“HIP-HOP ALBUM OF THE YEAR”にノミネートされながら“SONGWRITER OF THE YEAR”を受賞できたってこと。このまったく異なる二つの部門でノミネートされるって、稀だと思うんだ。シーンは徐々に変わり始めてるね。ひとりでいくつもこなすマルチなアーティスト性が認められるシーンになり始めてる。メロディアスな曲とハードなHIP HOPを同時にできるアーティスト、そしてそれが矛盾じゃないんだって言えるアーティストになれたらいいね」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : TROUBADOR
ARTIST : K'NAAN
LABEL : UNIVERSAL MUSIC/UICA-1055
PRICE : 1,980円
RELEASE DATE : 6月2日
TITLE : ウェイヴィン・フラッグ コカ・コーラ(R)・セレブレイション・ミックス~世界に一つの旗 with AI
ARTIST : K'NAAN
LABEL : UNIVERSAL MUSIC/UICA-5015
PRICE : 1,000円
RELEASE DATE : 5月26日