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やけのはら

昨年リリースされた七尾旅人との“ROLLIN' ROLLIN'”がクラシックとなったやけのはらの初となるアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」が素晴らしい出来!本人の意識としてはそこまで“HIP HOP作品”を目指して作られた作品ではないようだが、彼の独特な感性から生み出されたビートとリリックは、それ故に昨今のコアな日本語ラップにはない普遍性とフレッシュさがある。このアルバムを聴かないと今年の夏は終われないよ!

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「日本で日本人がラップをすると、何かしらの意識をしない限り、HIP HOPを好きな人に向けた音楽になると思うんですよね。それよりも——HIP HOP/HIP HOPじゃないっていうよりも——音楽が好きな人に向けて、音楽として普通に耳に入るようなものを作ろうって意識の方が強かったですね」

 DJ/トラックメイカー/リミキサー……と様々なアプローチを通して表現活動をしてきたやけのはらが、初の自身名義のアルバムとなる「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」を完成させた。このアルバムには、黄昏を感じるような一抹の寂しさと同時に未来をしっかりと感じさせるような、未分化で同時に不安定な、みずみずしい感覚を覚えさせられた。それは音楽的なスリルというよりも、もっと自分の音楽的根本を見つめさせられるようなどこか懐かしい感覚であり、それはこのアルバムから感じるやけのはら自身の誠実な音楽的態度によるだろう。改めて音楽にワクワクしよう。


■まず作品の話に入る前に、やけのはらさんの音楽的なバックグラウンドからお伺いしたいんですが。
「まず一番最初に興味を持ったのはHIP HOPとテクノで、中学生の頃ですね。で、HIP HOPを掘ってる内にブラック・ミュージックやレゲエなんかに拡散していった感じですね。今はバンドの人がクラブ・カルチャーを吸収してアグレッシヴなことをやってる場合も多いけど、90年代は打ち込みやダンス・ミュージックの人の方がイキがよかったし、キッズだった頃の皮膚感覚として、UKロックとかよりもDJ PREMIERとかの方が面白いことをやってる気がしたんですよね。あとは単純にサンプリング・コラージュみたいなのが好きでしたね。音楽経験がなくてもTVの音楽番組なんかを通して小学生でも『音楽はこういうもんだ』って意識があるじゃないですか。だけど、人の曲をつぎはぎして音楽を作るっていう手法を中学生で知ったときは、子供心にアバンギャルドだなって思ったのを憶えてますね。だから結構サンプリングって手法に引っかかったのかも」

■音楽を自分で始めたのは?
「これっていうキッカケはないんですけど、ラップ的なこと——今でも“ラップ的”なことなんですけど——を始めたのは、地元の友達と近所のスタジオに入ってセッション……までも行かないような『音を出す』っていうプリミティヴな遊びをしてたんですね。で、僕は楽器が出来ないから、喋る担当になって最初はPUFFYの替え歌とかしてたんですけど(笑)、最初はそうやってワーギャーやってても、だんだん曲っぽくしていかないと飽きてくるじゃないですか。それで曲っぽくなっていくに従って、詳しくは憶えてないんですけど、いつの間にかラップっぽくなっていって。それが中3〜高1ぐらいですね。遊びのノリの延長線上で始まったというか。でも、今でもそうなんです、あんまり“ラッパー”みたいな意識はあんまりないんですよね」

■“ラップ”をしても「ラッパーである」という自己意識が生まれなかったのは?
「性格的な問題ですかね。あんまりラッパー的な振る舞いや、ラッパー的なトコでのし上がってくってことが自分の性格には合わないなって、なんとなく思って。自分の中に、あんまり誰かを倒そうって感情が生まれないし、そういう情況になったら『じゃあ、僕はいいです』って思う方だから。だから、ラッパー的なメンタリティと共有できる部分が少なかったんでしょうね。ただ、昔はそういう部分での葛藤はありましたけどね。『もっとラッパー的なところで戦うべきなんじゃないかな』って。特に5〜6年ぐらい前、まだDJとしての土台も今ほどしっかりしてなかったときは、ラッパーとしてもサヴァイヴする可能性もあった気がするし、そのときの方がどうしようかなって考えていましたね」

■アルファベッツで「なれのはてな」(03年)をリリースされたときはそういう感情だったと。
「今より気にしてたと思いますね。日本人のHIP HOPの歴史の末端にいるって今より感じてたと思うし。でも、前にって気持ちも人より上にって気持ちもないし、プラス、拝金主義的な思想もないから、メンタルとして“ラッパー”と同じ土俵にすら立つことが出来ないっていうか。だから、『お前土俵違うから』って言われたら『そうっすよね』って(笑)。ただ、ラッパー的メンタルは別にしても、ラップを書いたりラップするってこと自体は楽しいし、人との制作の中で点々とはラップをしてきて、自分の興味のあることのひとつとしてはラップは続けてはいたんですが」

■そういったメンタリティの人の1stが“ラップ・アルバム”になったのは面白いですね。
「ラップをメインにアルバムを作ることで、自分の出し口の中で一番ポップ・ミュージック的になると思ったんですよね。やっぱりダンス・ミュージックを作る方が自分にとっては楽だけど、それはどうしても聴く人を選ぶところがあるというか、単純に言葉があるっていうのはコミュニケーションの可能性が高いというか、自分が出来る中で一番ポップな形になるんじゃないかなっていう気持ちはありました」

■先ほどから“ラップ的”という発言がありますが、それは自分のやってることは「ラップではない」という認識の元ですか?
「う〜ん……難しいっすね。誤解を招きそうなんだけど、自分の認識としてはラップはしてるけどHIP HOPミュージシャンではないって認識はありますね。でも“ラッパー”っていうとさっきも話した通り自分としては違和感がある。だから『ヴォーカルをラップでしてる』って感じですね。いわゆる“ラッパー”ってイメージじゃなくて『ラップをやってる人』みたいな(笑)。たとえばロック・バンドの人が曲によってはラップをするみたいな、ヴォーカル技法のひとつとしてのラップですね」

■その意味では、ラップに拘ってるわけではないと。
「こう言っちゃうとあれかもしれないけど、拘ってるわけではないです。HIP HOPってことで言っても、自分をHIP HOPのミュージシャンって認識で音楽を作ってるわけではないし、今回もHIP HOPアルバムって意識でもない。ただ音楽を作っていて、その中に自分の好きなモノの中のひとつとしてHIP
HOP的なエッセンスがあるっていうか。ただ、僕はヴォーカリストとしてすごく歌が上手く歌えるとかじゃないし、ヴォーカリストとして(ラップ以外の)他の表現に向かうとは今のところあり得ないのは事実なんですが。だから、HIP HOPをすごく好きな人はどういう反応なんだろうってのは気になりますね。日本で日本人がラップをすると、何かしらの意識をしない限り、HIP HOPを好きな人に向けた音楽になると思うんですよね。それよりも——HIP HOP/HIP HOPじゃないっていうよりも——音楽が好きな人に向けて、音楽として普通に耳に入るようなものを作ろうって意識の方が強かったですね」

■今の言葉と、先ほどの「ポップ・ミュージックとして成立するためのラップ」という言葉と合わせて考えると、このアルバムはポップを目指したということになりますか?
「ポップっていうのもこれはちゃんと注釈付けてほしいんですけど、俺が思うポップっていうのは“開かれたモノ”っていうか、例えばTHE RONETTESやCURTIS MAYFIELD、STEVIE WONDERや山下達郎みたいな、ジャンル云々じゃなく、文脈や共通言語を必要としないで、普通の兄ちゃん姉ちゃんが聴いても分かるモノを想定してるんですね。その意味においてのポップです。いわゆる、今一般的に言われるJ・ポップとかを意識しているわけではなくて」

■なるほど。話は変わりますが、今作の制作はいつ頃から?
「録り始めたってことで言えば足かけ5年ぐらいですね。楽曲提供やリミックス、DJと平行しながらソロとしても作品を出したいなって気持ちがあって、それでちょこちょこと作ったり直したりしてて」

■じゃあ、何かしらのイメージの元に作るというよりは、ぽつぽつと作っていってって感じですね。
「ですね。で、2〜3年前にこの『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』というタイトルが浮かんで、自分的には方向性や着地点がそこで見えたって感じですね」

■それぐらいスパンの長い制作ということは、今の時代性を反映したモノというよりは、自分にとって普遍性のある音楽を作ったということになりますか?
「まあ、そうですね。自分の中でボツにならなかった音楽が残ってるので。ただ、そういうかかった期間を抜きにしても、『今このビートが』っていうよりも、普通の音楽知識がない人でも引っかかってもらえる可能性のあるモノを作ろうって頑張りました。だから、すごくボンヤリしてるんだけど『良い曲を作ろう』って。その“良い曲”って枠は、俺の中ではジャンルとか時代じゃないんですよね。だからラップも『今の時代の中でカッコ良いラップを』って文脈での発想はなくて、『良い曲を作るためのラップ』を頑張ったって感じですね」

■そう考えた理由は?
「ホントにボンヤリした人みたいな答えになるけど、状況的にも色んな情報が細分化と飽和してく中で、僕も僕なりに年齢を経て、新しいジャンルや手法、打ち出しってトコで戦っていこうって気があんまりなくなってきたっていうか。逆にもっと立ち返って、あと100年立ってもBEATLESやSTEVIE WONDERは聴かれてるような気が——想像だけど——するから、その意味で、ボンヤリしてるけど『ただ良い曲を作る』ってトコで頑張るしかないなって。(七尾旅人×やけのはらで)“ROLLIN’ ROLLIN’”を作ったときはそう思ってましたね。化粧で勝負するよりは、普通のコードに普通のビートで良い曲を作るしかないなって」

■話は前後しますが、「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」というタイトルを発見して、このアルバムの内容が固まっていったということですが。
「そうですね。“若者”とか“夜”、“夏”を描いたモノにしようって。夏っていうのはいわゆる季節の“夏”ってわけではなくて、もっと比喩的な表現なんですけど。例えばロックでいうところのウッドストックの頃を呼ぶ“サマー・オブ・ラブ”、そしてイギリスでアシッド・ハウスを中心にした“セカンド・サマー・オブ・ラブ”ムーヴメントだったり、そういう意味での“サマー”ですね。意味としては“ヤング”に近いんですが」

■ムーヴメントが起こってそれがまだ成熟やスポイルされていない状態というか。
「自分の中のヤングとかってのはそういうことなのかな」

■HIP HOP的にいえばフレッシュってことですよね。意味としては近いと思うんですが。
「そうですね。そして都市の若者の日常を描いたロードムーヴィーや青春映画みたいなことが全体的なテーマですね。且つ普通の若者の日常。だから(強烈な)トピックを無理矢理作ったり、突出したモノを描くんじゃなくて、普通の都市の若者の風景を描こうって」

■リリックに関してはあまりパーソナリティが強く出てませんよね。
「歌詞としては忌野清志郎さんとかTHE BLUE HEARTSみたいな日本のロックに影響を受けてて、そういう文脈の末端という認識の上で歌詞に取り組んでますね。このアルバムの最後に作った”GOOD MORNING BABY”はそういう意識が一番強く出てて。そういうところを自分としてはもっと進めるべきかなって」

■この曲は特にそうですけど、歌詞の温度自体は結構高いですよね。強く個人が出てるわけではないけど、あんまりシニカルだったりドライな目線ではない。
「意図的に考えたこととして、あまりシニカルな方向には行きたくないなって。ちょっと疲れたりすることもあるけど、もう少し頑張ろうってところに最終的には着地させようとしましたね。リリックの内容としては僕が見た景色や感じたことが中心になってるんですけど、押し出し方としては『俺がこうで』っていう方向には性格的にならないというか。だから一人称といえば一人称なんだけど押しが弱い(笑)。ただ、フロウで聴かせるとか、言葉遊びで聴かせるっていうようなHIP HOP的な作り方はしてなくて、普通のOLとかが聴いても言ってる意味が分かったり、何のことを言ってるか分かるように書こうっていう、そういうところは丁寧に作りましたね。もちろん、そういうラップが嫌いってわけではないですけど」

■1stアルバムということで、やけのはらさんのこれまでの動きからすると、もっとジャンル的には全方位方の作品になるかとも思ったんですが。
「確かに僕の活動を知ってくれてる人は、そういう風に思ってくれる部分も強かったと思うんですが、ごちゃごちゃ混ざっちゃうと、ブレるし聴きづらくなっちゃうから、今回のエネルギーの進む先はラップなのかなってことは最初から思ってて。だから最初から全方位方ではない作品を想定してましたね。それに1stで例えば(フロア・ライクな)インストで12曲とかってアルバムを出しちゃうと、『完全にDJの人になったんだな』とか、ラップやポップスのフィールドでやらないって思われちゃうだろうなって考えてたんで、『そこも俺はやるぞ』っていうのを先に出しておきたいなって。それに先にDJベクトルの作品を出しちゃうと、その次に自分を出せなくなっちゃうと思うんですよね。まだ(自分を出した作品を)やり残してるし、もっとやりたいって気持ちがあったから、順番はラップの作品が先になりましたね。今のベースにDJ活動があるのは間違いないんだけど、自分としても(そういうDJ的な作品を作ることで)道筋が決まっちゃうのもつまんなかったし、だからこそラップのアルバムを出したいなって」
Amebreak伊藤「ただ、フィーチャリングとしてヴォーカルを迎えての作品であったりでもやけ君の作品として出せたと思うんですけど」
「ですね。でもこの作品に関してはラップ・アルバムとして作ろうって前提があったから。ただ、別のタイミングでプロデュース・アルバム的な作品もやってみたいし、性格的にはそっちの方が向いてるかもしれない」

■最後に、この作品以降の一手はみえてますか?
「全然見えてないっす。真っ白っす。教えてほしいです(笑)。今回は客演のラップを呼ばなかったから、人と一緒に作ってみたいとか、ポイントでは『こういうのを試してみようかな』って言うのはあるんだけど。あと、さっき言ったようにDJの人になったって思われるのが嫌だからラップのアルバムを作ったんだけど、『こういうアルバム一枚作ってDJの人になるんだ』って思われるのも癪なんで、俺のラッパー活動はまだ終わらないぞ!とは言っておきたいですね(笑)」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : THIS NIGHT IS STILL YOUNG
ARTIST : やけのはら
LABEL : felicity/FCT1003
PRICE : 2,500円
RELEASE DATE : 8月4日