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Fragment

幅広いサウンドを武器に様々な個性的なMCたちとコラボを重ね、その名を上げていったトラック・メイカー・デュオ:Fragment。この度発表された2ndアルバム「VITAL SIGNS」は、彼らがここ数年かけて培ってきた交友関係が反映されたであろう、かなり濃い面々が参加したラップ・アルバムに仕上がっている。Fragmentの名前は知っていてもまだまだヴェールに包まれているという印象を持たれているであろう彼ら。実に興味深い初期のエピソードから主宰レーベル:術ノ穴のスタンスまで、彼らの音楽を理解する手助けになりそうなキーワード多数!

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「すぐ影響受けるし、面白いことがあったら何でも取り入れちゃうし。カッコ良いサウンドを聴くとすぐ自分たちで試したくなっちゃうんですよね。それはトラック制作を始めた最初の頃からそうで、一時は『もっと枠にはめて作った方がいいのかな』とも思ったんですけど、今はもういいかなって。そういう広がりがあるのがFragmentのカラーってことで」——kussy

 HIP HOP/ブレイクビーツを基本にしながらも、テクノや様々なダンス・ビートの感覚を取り込み、クロスオーヴァーしたトラックを生み出すプロデューサー・ユニット:Fragment。08年リリースの環ROYとのコラボ・アルバム「MAD POP」によってお互いの存在感をグンとシーンの内外で高めたことは記憶に新しい彼らが、2ndアルバムとなる「VITAL SIGNS」をリリース。HIP HOP/ラップ・シーン外からの需要もここ最近は強くなっている彼らが、今作で打ち出しているのは、日本人ラッパーを多く迎えた「日本語ラップ・アルバム」であり、その意味では彼らのこの動きは「ジャンルを飛び越えた」という方向性よりも、よりコアな域に向けて今回に関しては足を踏み出している。ジャンルレスとも思われている彼らは何故“日本語ラップ”に向かったのか。そして彼らは何故“日本語ラップ”作品を作るのか。謎の部分も多かった彼らの来歴や彼らのレーベル:術ノ穴の運営方針なども含めて語られた本インタビューで、その彼らの意識の持ち様が理解されると嬉しい。


■環ROYとの「MAD POP」以降、注目度がスゴく増したようにも思うんだけど、本人たちの自覚としてはどう?
kussy(以下K)「『MAD POP』がFragmentとしてもレーベル:術ノ穴としても現在の核になった感じがありますね」

■HIP HOP外からの注目の方がより強くなったようにも感じるんだけど。
KROYのインタビューで『「何で日本語ラップにこだわってんの」って言われてムカついた』ってニュアンスの発言がありましたけど、俺らもちょっと注目してもらって以降、同じようなことをやっぱり言われるんですよ。でも、俺らは日本語のラップが好きで音楽をやってるし、こんなに面白いのがあるっていうのを伝えたいんですよね。でも、それがうまく伝わらないジレンマもあります。『HIP HOPをちゃんと知らないんじゃない?』なんて思われるときも多いんだけど、俺らはちゃんとゴリゴリのHIP HOPリスナーですし、ちゃんとそこに対する敬意があるんだよって」

■ではトラック・メイカー・コンビであるFragmentが日本語ラップにこだわる訳は?
K「俺ら、活動の最初期はラップをやってたんですよ」

■へー!そうなんだ!不勉強ながら知らなかった。
K「俺は山梨出身でdeiiは熊本で、同じ大学に入学して出会ったんですね。で、それまでは二人ともミスチルとかB'zとか聴いてたんですけど、同級生に日本語ラップが好きな奴がいて、その影響で聴き始めたんですね。時期的にも00年周辺の日本語ラップ・バブルにもぶち当たって」

■それまでに音楽的経験はあったの?
deii(以下D)「全然ないっす。大学も音楽とは全然関係ない学科で」
K「だから、音楽を演る側になるなんて考えてもなくて。で、日本語ラップにハマるに従って俺たちもラップするようになって、学園祭のカラオケ大会でSOUL SCREAMの“蜂と蝶”をカヴァーしたんですね、俺がHAB I SCREAMで、deiiがE.G.G MANってちゃんと振り分けて(笑)。そしたらそれををRUFF RHYMERSとかMIC BANKとか、タイプライターさんがやってた『黒』のメンバーが見てて、俺らに声かけてくれたんですね。そしたらHIP HOP系の友達がどんどん増えていって、MIC BANKのやってた池袋bedのイヴェントとかに出してもらうようになったり、色んなツテで月に3〜4本はライヴできるようになったんです。それで日本語ラップに完全にハマって。同時に集客ノルマ地獄にもハマりましたけど(笑)」

■「Fragment / Remix ep vol.1 タイプライター」はそういう流れだったんだね。じゃあ原点は日本語ラップなんだ。
K「そう。雑食だから色んなジャンルの音楽を聴くけど、自分の地元は日本語ラップだし、そことは決別できないですよね」

■ちなみにそのときもFragmentって名前?
D「いや、恥ずかしい名前ですが5人ぐらいで“将軍”って名前でした」

■リアル『SRサイタマノラッパー』だ(笑)。ラップやってたって結構驚かれない?
D「ポロッと話してますけど、実は今まで隠してて(笑)」

■そのときはどんなラップをしてたの?
K「最初はBUDDHA BRANDとかLUNCH TIME SPEAXみたいなスタイルで、でも、ケツメイシみたいなパーティな感じもやってみたり、THA BLUE HERBが出てきたらすぐアブストラクトに走ったり」

■影響受けやすすぎでしょ(笑)。
K「俺らって芯がなさ過ぎるんですよ」

■すごい言い切りだねそれ(笑)。
K「すぐ影響受けるし、面白いことがあったら何でも取り入れちゃうし。カッコ良いサウンドを聴くとすぐ自分たちで試したくなっちゃうんですよね。それはトラック制作を始めた最初の頃からそうで、一時は『もっと枠にはめて作った方がいいのかな』とも思ったんですけど、今はもういいかなって。そういう広がりがあるのがFragmentのカラーってことで」

■では、その2MCがトラック・メイクを始めたキッカケは?
K「KREVAが『BBOY PARK』のMCバトルで3連覇(01年)したりして、フリースタイル・シーンが熱くなったじゃないですか。それで俺らもやってみたんだけど全然ダメで、それまで何となくラップやってたけど『ちゃんと考えたら俺らそんなにイケてなくねえ?』って思っちゃって。それでサンプラーで曲を作ってみたら『……俺ら天才じゃん!』と(笑)」

■……自信喪失と獲得の振れ幅が極端すぎる(笑)。
K「すぐ勘違いするんですよ、俺ら(笑)。それで作り始めて一週間ぐらいなのに、そのテープをSHINGO2に渡したり、ANTICONが来たら彼らにも渡して。あと、浅野忠信にも渡したな。そういう行動力だけはあるんですよ(笑)。で、ラップからトラック・メイクに移行したって感じですね」

■そのときはどんなトラックを?
「DJ KRUSHさんやO.N.Oさん、DJ KLOCKさんとかに傾倒してたんで、アブストラクトな感じだったり、エレクトロニカっぽい感じだったり。それからMERZBOWにも影響受けてたんで、ノイズみたいなのもやってましたね」
D「街の音を録ってコラージュしてみたり」
K「そういうのをバンバン作ってたから、正直HIP HOPから離れた時期もありましたね。ただ、俺らはサンプリングでしか曲が作れないし、どこまでいってもHIP HOPがやっぱり凄いって感じるときが多かったから、ロックの奴にもテクノの奴にも聴かせてカッコ良いって思わせるHIP HOPトラックを作ろうって思い直したんですけどね」

■具体的にはどういう風に曲を作ってるの?
D「お互いに同じ機材を使ってるんで、そこでデータを交換しながらブラッシュ・アップしていく感じですね」
K「感覚としてはお互いの出したベースになるトラックをリミックスして、それをさらにリミックスし返してって感じで」
D「ただ最近は最終的には俺が上ものを組んで、kussyがドラムを組んでって、何となく分業的にはなってますね」

■使用機材はちょっと内緒にしておくけど、でもMPCみたいにHIP HOP界隈ではメジャーな機材は使ってなくて、PCでの制作でもないんだね。
K「PCは最後に音を整理するので使うぐらいで、基本的にはハードでやってますね。使ってるネタだったりサンプル・ソースの選び方は他の人とそんなに変わらない筈なんですけど、組み立て方はHIP HOP的なモノとはちょっと外れてるかもしれないですね。でも『そういう枠から外れたことが出来る俺らの方がB・ボーイじゃね?』とか思ってます(笑)」

■自分たちの手がけるレーベル:術ノ穴の立ち上げは?
K「7年前に『繋 e.p.』ってアナログを作って、それを流通に乗せるときに便宜的につけたのが“術ノ穴”ってレーベル名だったんですよね」

■名前の由来は?
K「……それもまあ深みのない話なんですけど、何となく以前から“術”って漢字のフォルムがカッコ良いなと思ってたんですね。それでリリースできるって話が来る直前に『マルコビッチの穴』って映画を見てて、それでその二つを合体させて“術ノ穴”。……付けてから後悔してたぐらいですね、ちょっとダサイなって(笑)。そうやってとりあえず付けたレーベル名で今に至ると」
D「Fragmentっていうのも部屋に貼ってあったポスターに載ってた言葉で、とりあえずそれで行こうと」
K「そういう『とりあえず』とか『なんとなく』で今に至ってる感じは多分にありますね」

■なんかもっとロジカルな人たちかと思ってたけど、話聞く限りそうでもないんだね(笑)。結構直感型というか。そうやって立ち上げたレーベルが自分たちだけのレーベルじゃなくて、キリコや空也MC、DOTAMAなど、アーティストを抱える形のレーベルになったのは?
K「元々友達から関係は始まったりはしてるんですけど、みんなどうやってリリースするのかってノウハウがないから、とりあえず出し口として使っていいからリリースすればって。そういう感じだったから『会社として』みたいな意識は薄かったですね。そうこうしてたら『MAD POP』が結構売れてくれたんで、それからちゃんとレーベルとして機能させてこうって。それまでは全然レーベルの色とか考えてなかったです」

■そうなんだ。異端って部分で括られがちなアーティストが多いから、そこはそういう方向性付けなのかとも思ってたけど。
K「偶然ですね。でも俺らは色んなことに影響を受けまくってきて、その度に色んな方向に向かってきたから『揺らぎない、確固たる何か』みたいなモノがなかったせいか、シーンに居場所がなかったんですよ。で、キリコもDOTAMAもそういうタイプだと思うし、そういう居場所のない奴らが集まったのが術ノ穴なのかなって思いますね。それもあるから、アーティストのやりたいことを優先にして、あまり俺らは主宰者だからってリリースする作品のクオリティ・コントロールせずに、ちょっとアドバイスをする程度にしてますね。でも面白いことをやってるって自信はあります」

■Fragmentの新作の「VITAL SIGNS」だけど、基本として「ラップ・アルバム」だよね。そういった作品を作るのは?そしてラッパーに海外勢だったりを迎えないのは?
K「もう純粋に『日本語のラップが面白い』し、こんなに面白い音楽は他にないだろうって思いを形にしたくて。だから日本のラッパーと作りたいんですよね」
D「アーティストの選択としては『聴いてヤラれたアーティスト』っていうのがまず前提ですね。イケててこれからも面白いことやるだろうなって人たちと一緒に作りたいなって。それから当然トラックにもよりますね。例えば“母ちゃん”だったら、あのトラックに神門ならスゴく濃い内容をじっくり乗せてくれると思ったし、“lycanthropy”だったらあの速いビートにMIDICRONICAがスキルフルに乗せてくれるなって。そうやって選んでいったアーティストに今回は参加してもらって」

■ラッパーに対してピンとくるポイントは声?フロウ?内容?
K「昔は内容が強かったですね。だからキリコとかDOTAMAと一緒に作ってたし。でもここ最近は環ROYやS.L.A.C.K.みたいに、外人が聴いてカッコ良いフロウとの化学反応も起こしたいって強く感じるようになったし、今回はそういったバランスがよく取れたと思いますね」

■内容に関してはどれぐらいディレクションするの?
K「そんなにしないですね。よっぽど変なモノが来ない限りは。且つ、ラップを乗っけてからもトラックをかなり変更するんで、その相互作用で曲を高めようってのは考えてます。アーティスト側からもトラックへの意見をもらうこともあるし」

■テーマに関しても?
K「こっちからテーマ出ししたのは“母ちゃん”だけですね。あの曲だけテーマも内容もしっかりと神門に伝えて」

■では“母ちゃん”を作った訳は?
K「ウチの母ちゃんがちょっと体調を崩しちゃって、それがあって俺らも音楽をやってるからには、ちゃんと親が聴ける曲も一曲ぐらいは作らないと後悔しそうだなって。で、そういう内容を任せられるのは神門しかいないし、『そういう個人的なことがキッカケなんだけど一緒に作ってよ』って伝えて。そしたら『じゃあ、その思いを作文してきて下さい』って言われて(笑)、こういうことを歌って欲しい、こういうエピソードがあったっていうのを全部文章にして神門に送って、それを神門がブラッシュ・アップして出来上がったんですね。ただ、テーマ的にも重くなりがちだから、ちょっと神門も悩んじゃって一度は止まっちゃったんですけど、この曲を入れないとアルバムを作る意味がないって曲だったから、そこは頑張ってもらって、なんだかんだで一年以上かかって出来上がりました。だからシングル・カットもスゴく悩んだんですよ。あれをシングルとして切ることはセルアウトって思われても仕方ないし、『なに、売れたかったの?』って実際に言われたりもして。でも神門は『ちゃんと真っ直ぐ作ったんだから、自信もって真っ直ぐ出しましょうよ』って言ってくれて。歳下にしっかり励まされました(笑)」

■一方で“優しいおとな” みたいなアクの強い曲もアルバムに入ってるのは面白いね。もう次のアルバムの制作にも入ってるってことだけど。
K「そうですね。それからMIDICRONICAのリミックス・アルバムと、術ノ穴からYAMANEとFragmentのコラボ盤を計画してます。それから、年明けから術ノ穴は5ヶ月連続リリースをやります。第一弾はDOTAMAで、その後は元DELiGHTED MINTのVALのアルバムをリリースします。そうやってレーベルとしてもしっかり地盤固めとしていければなって」
D「Fragmentも術ノ穴もなんやかんや言いながら二人で育てていけてるから、このまま続けていければ良いですね。レーベルとしては、もっとヘンテコな奴らの音源を出したいですね。居場所のない奴らの」
K「Fragmentはずっと続けていきたいですね。50歳になってもフレッシュなCOLD CUTみたいに、常に貪欲に動けていければ良いですね」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : VITAL SINGS
ARTIST : Fragment
LABEL : 術ノ穴/SUBE-012
PRICE : 2,300円
RELEASE DATE : 11月17日