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環ROY

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「生活で考えてることを突き詰めていくのが今回の作業でした。前作でエゴや屈折を解放したんで、その次は己を知ろうって思ったのかな。そっちの方がスケールの大きいことを書けるんじゃないかなって思ったし、自分を掘り下げるなり内省的な部分を明らかにすることで、リスナーの生活の中に入り込めるんじゃないかなって」

 フラストレーションであったり喜びであったりと自分の中の様々な表情を渾然と表わし、サウンド的にもクロスオーヴァーした部分を提示した「BREAK BOY」から一年強を経てリリースされる環ROYのニュー・アルバム「あっちとこっち」。インタビューでも語られる通り、「BREAK BOY」という“エゴ”を通過した後に制作された本作は、日常性や生活を中心とした、ある意味では小市民的な「誰でもあって誰でもない」リリックに、行間であったり余白を多く組み込み、多くの人間の“乗りしろ”のある作品として成立し、今回の彼自身のテーマであったという“作詞家的”手法が強く押し出された作品として完成した。しかし、それと同時に“ラッパー”としての自己認識も随所からあふれ出す部分に、環ROYというアーティストの面白さと誠実さを感じさせられ、今作でも彼の希有な存在感は光っている。


■まず今回のアルバムなんだけど……。
「……今回はぶっちゃけ(アルバムに関して)話すことなさすぎて、すげえ困ってるんですよね」

■いきなり(笑)。それはまた何故?
「『BREAK BOY』は若気の至りを結晶化して出すみたいなアルバムだったと思うんですね。そうしようとも思ってたし、そのための実験だったとも思う。でも、そういうギャンギャンした強い感情はあそこで完結してて。前回にあったような“エゴ”が減って今回の内容になったんだと思うんですよね」

■全体を通して、前回のような外に向かうベクトルよりも、内に向かってく力の方が強い気もしたんだけど。
「他のインタビューで超内省的って言われたんだけど、でもそんなつもりもなくて。それよりも“みんなの内省”をオーディナリーに、普遍的に表現しようとは思いましたね。自分の内面ではあるんだけど、同時にもっと多くの人の内面でもあるっていう。仮に『環ROYオーディナリー化計画』があるとしたら、自分に最も近い表現が出来るのは自分じゃないですか」

■その上で自分を普遍化するからこそ、自分を表現するという。
「だから、普遍的な架空の話をして人を納得させることがまだ出来ないっつうか、まだそこに不安があるから、自分の内面を切り取ってそれを普遍化する作業になったんだと思いますね。その上で『個人的なことを個人的じゃない、非個人的なモノに翻訳』していくというか」

■それは「BREAK BOY」がオーディナリーなものではなかったという認識の上に立ってるの?
「普遍的じゃないでしょ、あのアルバムは。でも、今回の動きはそれに対するカウンターってわけでもないんですけどね。もっと言えば、このアルバムはHIP HOPでもなくてもいいと思ってるんです。ラップじゃなくてもいい。なんでもいい(笑)」

■確かに、前回よりもラップのフォーマット的なモノからは離れてるよね。
「特に前半に作った曲はそうなってるっすね。そもそも、ラップが経年することによってまとってきたフォーマットであったり文脈っていうのは、そんなに多くの人が興味があるモノなのかなって疑問が着想点なんですよ」

■それは、ラップが生まれてから現在に至るまでに、そこに付託されたルールであったり様式ということだね。
「そう。で、『ここで韻を踏んで』とか、そんなにみんな気にしてないだろうなって思うんですよね、多くのリスナーは。その前提の上で前半は作ってみたんですよね。それに“ポップ化”するっていうのは、そういうことだと思うんですよね。例えばパソコンを使うときに、『このプログラムは誰々が発明して』とか考えないじゃないですか。電車に乗るにも初めて蒸気機関車を発明したのは誰々で……とはなんない。ポップ化ってそういうことだと思うんですね」

■超初期のコアなユーザーしかいなかった頃は考えたかもしれないけど、今はまったくないだろうね。
「そういう意識を持ち続ける人がいるのも大切なんだろうけど、ポップ化すると、そういう原典的なところは多くの人が興味がなくなるし、それでいいと思う。今回はそういう意識の上で、その上で必要な歌詞や構造を考えたんですよね。でも、『やっぱりケツで韻踏んだ方がカッコ良い』って気づきがあって、後半ではそういった方向に戻っていったりもして。そういう過程でもありましたね」

■なるほど。話はちょっと戻るけど「今回はあんまり話すことがない」ということを考えると、前回は言うことがいっぱいあったわけだよね。実際に、前回のインタビューは作品に関して丹念に説明してくれたわけだけど。
「エゴの塊でしたからね、前回は。だけど、今回はもう『環ROYじゃなくてもいい』ぐらいなんですよ。だって自分、どうやったって凡人ですもん。東京に住んでるいち人間の歌詞でいいなって。且つ、それを受け入れた上で出来る表現はなんなのかってことが今回のテーマでもあって」

■歌詞にシンガー・ソング・ライター的な“主体”がないというか。
「『JUST ANOTHER PEOPLE』でいいかなって。自分の曲ではあるけど、『誰かが誰かの曲を歌ってる』っていうか」

■つまり、「環ROYの歌詞」というより、もっと“作詞家”としての歌詞に向かったってこと?
「うん。そうですね。作詞家っぽくするのが今回の制作でトライしたこと。それがHIP HOPを日本で再解釈したときに、生まれ得るひとつの選択肢だと思って。特に“GOD ONLY KNOWS”はそれを意識してみた。まだまだ全然至ってないんですけどね」

■前々からROY君はKREVAの歌詞はスゴいって言ってたけど、KREVAのリリックっていうのも非常に作詞家的であるわけで。そういった作詞構造を意識したってことかな。それはフォロワー的な意味じゃなくて、作詞家的な構造をもったラップ・リリックを書けるという意味で。
「例えば“瞬間SPEACHLESS”の作詞構造とかスゲえ解析しましたよ。あの曲ってヴァースごとに起承転結があって、全体でも起承転結がある曲で、こりゃスゴいことになってるなって」

■“瞬間SPEACHLESS”が出てきたのは非常に象徴的だな。“瞬間SPEACHLESS”って“状況”を事細かに書くけど、物語の主人公の“心情”ってほとんど押し出されないよね。で、「あっちとこっち」の歌詞構造っていうのもそれに近いと思うんだよね。大文字の核心を言わないで、周辺を書くことで核心を浮かび上がらせるというか。そして、だからこそ、そこに多くの人が仮託できる構成になってると思う。
「だといいんですけどね。でも、それは俺ひとりでは全然出来てなくて、三浦康嗣(□□□)にスゲえダメ出しされたり、色々教えてもらって。例えば、太田宏美の“木綿のハンカチーフ”の歌詞構造を一緒に解析したり、その歌詞を書いた松本隆の歌詞を宿題で読み解いたり、阿久悠の作詞術の本を読んだりして。っていうのは、HIP HOPは初期衝動とかパンク性で発展していくにはそろそろ限界なのかなって。それは良い悪いじゃなくて、カルチャーとして30年を超えたんだから、当然の帰結だと思うんですよね。あと自分の年齢ってのもある、歳相応の役目果たさないとな、みたいな」

■初期衝動を保てる人はいいけど、そうじゃない場合は他の作詞法を参考にするのも当然だよね。その意味では、ROY君は「日本のポップスの作詞法」を考えたってことだよね。
「うん。まず日本人にしかキャッチ出来ない感性ってあるわけじゃないです。日本で生まれ育った日本人なので、そこを発展させるのが自然かなって思うようになったんですね」

■「BREAK BOY」収録の“BGM”は、仲井戸麗市の“BGM”をモチーフにしてたけど、その意味では例えば忌野清志郎やTHE BLUE HEARTSみたいなアーティストではなく、阿久悠や松本隆という、「歌謡曲の作詞家の文法」を学んだのは何故だったの?
もちろん、二人ともかなりエクストリームな作詞家であることは間違いないんだけど。

「学ぶってほど大袈裟なもんでもないんですけど……自分から距離が遠いからだと思うんですよね。且つ『苦手だからこそやった方がいい』って康嗣くんがアドバイスしてくれたのもあって。清志郎にしてもTHE BLUE HEARTSにしても、HIP HOPとの距離はまだ近いし、自分としてもそういうのはめっちゃ好きなんだけど、好きだから今はいいかなって。それよりも歌謡曲的な『俺には全然引っかからないな』ってモノの方を研究した方が、得るモノが多いと思ったんですよね。そして、そういう曲にある“行間”を自分の歌詞の中にも取り入れたいなって」

■さっき「ラップでなくてもいい」って発言があったけど、例えば「ラップするたびに答えが増える“(きっと一緒)”」ってリリックからは、ラップへの信頼を感じたんだけど。
「でも、それはラップじゃなくても成り立つんですよ。例えばそのラップって部分は、料理人だったら“料理”でも成り立つし、高木さんみたいなライターだったら“書く”でも成り立ちますよね。そういう風に成立する歌詞にしたかった」

■そうだね。だけど、ROY君がそこで“ラップ”を選択したのが面白いなって。且つ、そこからは“言葉”で表現出来ないモノも、“ラップ”なら出来るんじゃないかって意識があるのかなって。
「ああ、なるほど。俺としては俺はラッパーだから、あの部分はラップだな、って単純な理由なんですよ」

■その意味では色んなパターンの答えがとれるし、それがポップ化とも近づくのかもね。それから「はやくラップに火を入れな(“フルメタルラッパー”)」っていう歌詞も珍しく熱くていいなって。
「あの曲超いなたくていいっすよね。いなた過ぎて逆にカッコ良いみたいな(笑)。俺の歌詞も超ダサいし」

■そういう意識だ(笑)。でも、すごく意外な曲でもあったし、アルバムの中でかなり異質だよね。そうやって、「いなたさ」みたいなのは自覚してるんだろうけど、でも真顔だなって思った。
「超マジで作ってますからね。こういう楽曲を作りたかったし、自分の言える『HIP HOP的なモノ』を形にしたらこうなったというか」

■ROY君のリスナーってもちろんHIP HOPリスナーも多いと思うけど、それ以外のジャンルを好むリスナーの比率も多いと思うんだ。そういうリスナーにとっては、この曲は変な言い方だけど「わ、ラップだ!」って思われる可能性も高いと思うのね。
「うん。『まあ、今回は一曲ぐらいこういうのも入れさせてよ』って感じっすね。でも、俺全然HIP HOP的な人って捉えられてもいいんですよ。だって自分は激しくHIP HOPだと思ってるし、誰かの解釈上、そう思われないときもあるかもしれないけど……」

■例えば、すごくハードなHIP HOPのみをHIP HOPと捉える人にとってはそうなるかもね。
「でも俺は、俺をHIP HOPだと思わない人のこともHIP HOPだと思うし、自分もHIP HOPであると。そういう感じなんですよね。だって“フェイクMC”とかって言うけど、フェイクとかリアルってホントにあるんですかね。フェイクがいなくなったら、俺はリアルだぜ!って言えなくなるじゃないですか。俺がリアル!って言えるのは、フェイクのおかげでもあると思うんですね」

■それは解釈と立ち位置の問題だからね。
「ホントそうっすよね。でも、だからみんな仲良く出来ればいいと思うんすけどね。理想論でしかないんですけどね」

■今回の作品って非常にメタファーが多いと思うんだけど、それって、情報量が多いから核心をそのまま突けるラップというフォーマットとは相反する部分も少なくないと思うのね。『解決策以外の言葉じゃ意味がないって言うならば/このラップは無意味だな(“街並み”)』ってリリックからも、そういった直線的な物言いと、自分の打ち出す作詞スタイルとの距離を感じてるのかなとも感じたんだけど。
「うん。だからこそ(メタファーの多い歌詞を書くのは)難しいと思うし、そういったことが出来る人がスゴいと思うんですよね。でも、HIP HOP原産国のUS直系みたいな、オリジナルをそのままトレースするのもスゴいと思うし、その両方が仲良くできると、もっと発展できるんじゃないかなって。このアルバムで言いたかったのは、全てのモノはコンテクストや文脈の上に成り立ってるじゃないですか。例えば原発の問題にしても、今まで自分の親やその上の世代が選択してきた流れの上にあるし、つまりは自分の問題で、自分たちにも責任がある。それは全部のモノに当てはまると思うんだけど、その文脈を完全に断ち切って変えるってことはあり得ないじゃないですか。だから『引き継いだ上で壊す/変える』ってことが重要だし、その意味では『再解釈する』って言葉が相応しいのかもしれない。だからこのアルバムは『そろそろ再解釈を始めようよ』ってことを言いたいのかな。それはHIP HOPに対してもだけど、あわよくば自分を取り巻く様々な事象に関しても再解釈して積み上げ直したいって思いが詰まったアルバムってことかもしれないですね」

■ビート的な部分で言うと、今回は前作で言う“バニシングポイント”みたいな、速いビートはなくて、いわゆるHIP HOPらしいビート帯ではあるよね。
「もっと遅くしたかったぐらい。ラップって基本的に早口じゃないですか。極論はただのリズミカルなおしゃべりだし。だったら、速いビートじゃ聴きづらいから、ゆっくり喋りたいなって。それによって、歌詞とか表現の機微を聴かせたかったんですよね。その上でシンプルに、歌詞ももっと『引いて』いくことを考えてますね」

■その上で成り立った歌詞は、非常に生活に密着してると思うんだけど。
「そうですね。生活で考えてることを突き詰めていくのが今回の作業でした。前作でエゴや屈折を解放したんで、その次は己を知ろうって思ったのかな。そっちの方がスケールの大きいことを書けるんじゃないかなって思ったし、自分を掘り下げるなり内省的な部分を明らかにすることで、リスナーの生活の中に入り込めるんじゃないかなって」

■今回もプロデューサー陣が幅広いね。
「いっぱい聴かせてもらった内から選んだらこうなったって感じっすね。でも、JIGG君とSHIRANUI君に関しては意図的にHIP HOPな人を導入したいなって思ったりはしてました。王道だったり異端だったりって文脈はどうでもいいんだけど、それでもそう思われてるモノを混在しうる土壌を自分の声で作りたいなって。例えば三浦康嗣やECCYとY.G.S.P.が一緒に入って、接点が出来れば面白いじゃないですか。BUNさんなんて芸大出身ですからね。どんな音楽でも譜面に起こせるっていう」

■“接点”とか「仲良くする」って言葉が今回のインタビューでは肝になってるようにも思うんだけど、そういう“コミュニケーション”が今興味あることなの?
「うん。改めて『コミュニケーションが面白い』っていうのも、なんも面白みもないけど(笑)。でも、90年代の終わりまでそれなりに世の中が経済的な面で豊かだったから、分化していくことでそのバラバラの末端にまで色んなモノが流動できて、別れることの方が合理的だって構造があったと思うんですよ。でも、今はもうそれが成り立たないし、バラバラでいることが最善って感じでもないっぽいんですよね。最近仲良くしましょうって言いまくってるんだけど、それは本当は2000年から求められてた筈なんですよね。最近やっと気付きましたよ。それは同じ属性を持った人が固まるってことじゃなくて、色んなバックグラウンドやベースを持った人たちが、同じ目的地に向かっていけるようになれるといいなって。このアルバムの根本にはそういう感情があるし、震災前に作ったアルバムだけど(ROYは仙台出身)、震災後もちゃんと聴くことが出来る作品になってるって言ってもらえる。それって普遍性を獲得できてるってことだと思うし、自分でもそれが出来たって信じたいんです」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : あっちとこっち
ARTIST : 環ROY
LABEL : POPGROUP RECORDINGS/POP-129
PRICE : 2,600円
RELEASE DATE : 5月4日