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I-DeA

インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)

「自分ではトラックをずっと作って世間にくっついてきたつもりでも、それが実際世の中に出てないっていうことに対するジレンマが凄かった。トラックなんて2〜3年経つと古くさくなっちゃうじゃないですか。そういった理由から、今動かないとヤバいな、って思って動き出したんです」

  2000年代中盤以降の日本語ラップの流れを決定づけた存在としてSCARSやSD JUNKSTAのメンバーたちが挙げられるが、そのほとんどの初期作品にプロデューサー/エンジニアとして関わってきたI-DeAの功績は折に触れて語られていくべき事実だろう。通称“I-DeA塾”と呼ばれるスタジオ・セッションを通しての彼の的確なディレクションの甲斐あって才能が華開いたMCの数は相当数に上る筈だ……。そんな、彼の過去数年の仕事の蓄積は、そのまま久し振りとなる彼名義の新作「UNDERGROUND RESOURCES 〜THE MIX mixed by MUTA」の参加アーティスト・リストに反映されていると言っても過言ではない。

  そんな頼れる男:I-DeAは、どうやらここ数年はその頼れる=人の良さが仇となって公私ともに波乱だった模様だが、今年の終わりにかけて注目度の高いリリースも多そうなので、今作がI-DeAの新たな快進撃への起点となるかもしれない。


■ここ1〜2年のI-DeA君の主立った仕事ってどんなものがありましたっけ?
「SCARSのEPとか、メシアTHEフライとかLIBRA周りの仕事と、あとは人の作品にちょこちょこ関わったり……なんかあんまりやってなかった気がしますね」

■あれ?D.Lさんのアルバムも関わってますよね。
「あ、やってたやってた(笑)!」

■(笑)僕らリスナーはリリース・タイミングで判断するけど、トラック・メイカー/エンジニアの目から見ると多分リスナーとの時差が相当あるんでしょうね。
「確かに、去年やってたヤツが全部今年出てる感じですかね。逆に、一昨年がそんなに仕事してなかったかも」

■でも、別にヒマしてたわけじゃないでしょ(笑)?
「そうすね、SDの仕事とかもしてたし。だけどトラックの仕事はあんまりしてなかったですね」

■エンジニアもトラックもやる人って最終的にエンジニアの方で忙殺されてしまう人が多い気がしますけど、I-DeA君はどっちに重きを置きたい人なんですか?
「プロデュースなんですよね。ただ……トラック撒いてるんですけど全然リリースされないんです。だから、今回このアルバムを作ったっていうのはあります」

■あと、ヘルニアを患って入院/手術もしましたもんね。
「完全に職業病入ってるっすね。椅子の上にあぐらかいて10年(笑)」

■じゃあ、ここ数年はI-DeA君的には結構大変だったっぽいですね……。
「いやー大変でしたね。東京出て来てから一番大変だったかも。公私にわたって萎えることが多すぎたって感じです……」

■散々ですね……。
「いろんな人の痛みを共有しすぎました(笑)」

■I-DeA君のトラックは哀愁を感じさせるものが多いですが、最近更にそれを感じるのはそういった背景もあったわけですね(笑)。
「確実にそうですね!人生が哀愁だったんで……だから、転換点にしたくて今回のアルバムを作ったっていうのはあります。俺、SCARSも辞めてるんですよ」

■あ、そうなんですか!?
「全然協力はしますけどね(笑)」

■まあ、メンバーで一番神経使うのはI-DeA君だっただろうから心中はお察しします……。だけど、そんなあれこれがあった末にこうして数年振りに自身名義の作品が出たということで!
「ちょこちょこ企画モノは出したりしてたんですけど、自身名義では5年振りくらいですね。ここ数年は外部仕事で頼まれてたのが多くてなかなか自分名義の作品は取りかかれなかったんです」

■I-DeA君的には今作は気分転換的な意味も強い?
「そうですねー。まあ、周りが動かなかったんで。今回のトラックも3分の1くらいは元々あって埋もれてたトラックなんですよね」

■アーティストたちがキープしてたってことですか?
「ですね。キープされてお金が入ってこないんだったら自分の作品で、っていう。自分ではトラックをずっと作って世間にくっついてきたつもりでも、それが実際世の中に出てないっていうことに対するジレンマが凄かった。トラックなんて2〜3年経つと古くさくなっちゃうじゃないですか。そういった理由から、今動かないとヤバいな、って思って動き出したんです」

■それってI-DeA君に限らず日本のHIP HOPシーンが構造的に持ち続けてる問題で、同じような悩みを抱えてるトラック・メイカーは多いんじゃないんですかね?日本のトラック・メイカーの多くは、スタジオでアーティストと一緒にセッションして作る的な人より、基本トラックをストックしてその中から選んでもらうスタイルの人の方が多いですよね。それって凄い負担だよなー、って前から思ってたんです。
「そうですね。仕事にしちゃうと結構大変ですね。まあ、みんなにマネージメントがついてればいいんでしょうけど、今はほとんどがインディもしくは自主制作だからアーティストがマネージャーを兼ねてたりしてて」

■今作のアルバム・タイトルに込めた意味は?
「そのまんま、アンダーグラウンドのリソースですね(笑)。まあ、地下にリソースがいっぱいあるよ、的な感じにしたっす」

■地下にはこれだけの水脈があるぞ、と。ミックス・アルバムにした理由は?
「何曲か制作中の曲もあったし、一曲単位で入れていくよりはミックス形式にした方がいいかな、って」

■そういった曲が“RESOURCE SAMPLER #●”といった形で入っているわけですね。ミックスをMUTA君に頼んだ理由は?
「MUTA君は以前からブッダのミックスCDをやってたりしたし、前から彼のミックスCDのミックス(TD)を自分がやってたんです。彼のSCRATCH LIVEを使ったDJプレイを見て『ヤバいな』って思って。自分が考えていたこと以上のSCRATCH LIVEの使い方をしてたんですよね。あと、自分のミックスCDはあまりホストMCがシャウト入れて、みたいな感じにはしたくなくて、そういった意味でもMUTA君のスタイルが合いましたね」

■参加MCの人選のポイントは?
「鎮座DOPENESS君以外は、なんだかんだで過去に何かしら絡んだことのある人ばっかでしたね。時間もあまりなかったからどんなスタイルか自分が把握している人を選んでいった感じです」

■既に渡してたんだけどまだ日の目を見てなかった曲も入っているんですよね?そういった曲は既に渡してた人に完成してもらったんですか?
「そうですね、あとは回収したヤツとか(笑)」

■今作で、元は違う人に渡してたんだけど、別の人に渡って逆に息を吹き返したと感じたトラックは?
「SHIZOO(“LOVE NO CHANGE”)ですね。この曲は過去3人のラッパーの手元に渡ってはリリースされて。それでSHIZOO君に渡ってやっとリリックが載ったんで、個人的にはこの曲が一番思い入れありますね」

■トラック面でこれまでと違うアプローチや試みはありますか?
「トラックを作る上ではサンプリングの進化を追求してるっす。細かいところで常に何か探ってます」

■その部分はこれまでとも一貫してると思うんですが、具体的に言うと?
「全体のバランスとドラムラインですかね。自分の色を残しつつ進化を……ちょっと前までは展開が多いループが多かったですね、最近はまたシンプルになってきてるかもしれないけど。ドラム・ブレイクのチョイスだったりとかに自分の視点を意識してるかもしれないです。特徴あるフィルをピンポイントで使ったりとか……MUTA君のDJミックスに影響されて、サンプリングするときにターンテーブルを前より活用するようになりましたね。逆回転とかスクラッチ音、ターンテーブルを止めるときの“ビュン”っていう音とか、今はコンピューターでも出来るけど、それをアナログでやって取り入れたり。DJ的なエディットに影響を受けてて、最近のトラックはそういった面が反映されていますね」

■OKI君との“INSPIRE”とかは結構派手ですけど、全体的にはこれまでの作品以上に渋い作りだと感じました。
「それは結果的にで、ハードなトラックは(現在制作中の)K5Rのアルバムに行ってるんですよね」

■なるほど!それも気になってた点で、個人的にはK5R君の参加がアガったし、彼のアルバムをI-DeA君が手掛けるらしいという情報は噂レヴェルで以前から流れてましたよね。
「彼とは昔から一緒にアルバムを作ろうって話をしてたんですよね。彼のソロ・アルバムに入ってる“MAKE MAKE MAKE”って曲があって、それに食らったんです。いま一生懸命がんばってますんでしばしお待ちを(笑)」

■あー、SEEDAも好きって言ってましたね、その曲。
「確か俺がSEEDAにヤバいって言って聴かせたんだと思います。あの曲の存在が大きいです。彼とは4年ぐらい“文通”してたんですけど、それもデカかったですね。トラックが出来たら『こういう曲』っていうのを出来るだけ具体的に文章にして伝えたりして。『BPMは60だから、時計の秒針がカチカチ言う音を参考にしてくれ』とか」

■えー、そんなやり取りしてたんですか(笑)!
「何拍目にキックとハットが入って、とかを何ページにも渡って。で、向こうもリリックを書いてきたのを見て『こういう表現はいい』とか(手紙上で)ディスカッションして」

■丁寧ですねー。今作で他にI-DeA君的に気に入ってる曲は?
「STICKY(“RESOURCE #5”)とかは、やさぐれ感が相変わらずでやるな、って思ったし、(サイプレス)上野君(“NEW DAYS”)は……彼のアルバムのリリースが近かったからあまり催促しないでいたら、だんだん連絡がつかなくなって……最終的にはちゃんと書いてきてくれてラップも良くて(笑)。あ、あとYAN-MARKも。彼は将来性があると思ってます。SMITH-CNも最近神がかってるんですよねー」

■CN君も新作出すっていってなかなか出ないですね……。
「そうなんですよー。リリックも良くなってるし上手くなってるんですけど。来年ちょっとやらかそうと思ってます(笑)」

■前作から5年というこの期間を振り返ると如何ですか?
「全体としては良い5年間だったと思ってます。2006年ぐらいからSCARSやSD JUNKSTAといった、自分が深く関わってきた人たちがみんな認知されたんで、自分がやってきたことは間違ってないっていうのは振り返ってスゲェ思いますね」

■みんな確実に巣立っていってますよね。こういうことを思い出すと結構ホッとするんじゃないですか?
「そうですね、やった甲斐があったって思うっすね」

■では、プロデューサー/エンジニア的視点でここ最近の日本語ラップをどう見てますか?
「制作のレヴェルに関しては5年前とかと比べてクソ上がったと思いますね。ラッパーもそうだし、俺みたいにエンジニアとトラック両方やる人も増えたし。最近はヴォーカルにエディットを入れることも多くなったじゃないですか。ああいう処理って昔はエンジニアが主にやってたけど、今はトラック・メイカーもラッパーもパソコン使えるから自分たちでやるようになりましたよね」

■ただ、一方でセールスが厳しくなり制作費が厳しくなってきたり、無料配信といった低コストの最たる例も増えてきて、そういったところのネガティヴな面のしわよせが一番来るのって、I-DeA君のような職人気質のプロデューサー/エンジニアなんじゃないかな、って思うんですけど。そういった部分でのクオリティの低下に対する懸念はないですか?
「相当あります。やっぱ、値段とクオリティって関係あると思ってて、みんな機材が扱えるようになった反面誰でもレコーディングが出来ると勘違いしちゃってるとこがあるんですよね。エンジニアじゃないヤツが録ってたりするパターンって結構あって、ミックス用に来たデータのヴォーカルのクオリティがめちゃくちゃ悪いとか、そういうのは感じますね」

■本当に基本的なマイクの位置とかレヴェルの調整とか、そういうところですよね。
「DJをやってきたヤツがそのままPro Tools使ってエンジニアできるってわけじゃないじゃないですか。1万円で録れるスタジオで録ったら最悪だった、とか。そういった部分の懸念はすごいありますね。もしかしたらそういった部分も俺が育てていかなくちゃいけないのかな、って思ってますね。俺は幸いにもスタジオを通ってきた人間なんで、プロダクションの進め方とかデータの受け渡しとかも学んできたけど、それすら出来ない人も多いですからね」

■ここ最近で注目しているMCはいますか?
「そうですねー、ここ最近のMACCHO君は本当外さないですよね。実はMACCHO君とはIQさんのアルバムで一緒に仕事してるんですよね(笑)。若手で言うとZEUSが最近一番好きっぽいですね」

■そういう趣味は一貫してますね(笑)。
「好きなんでしょうね、渋いのが」

■トラック・メイカーで注目してる人は?
「うーん、PUNPEEとか。やっぱそういう感じになっちゃいますね。あと、YOUNG G(stillichimiya/おみゆきCHANNEL)とかも好きです」

■絶妙なところいきますね。技巧派というよりはセンス重視という感じがしますね。
「そうですね。ドラムラインがグルーヴしてる人のトラックが一貫して好きだったりしますね」

■今明かせる範囲で予定している仕事は?
「お盆過ぎからK5R君の制作を集中的にやっていくので、年内には彼のアルバムを出そうと思ってます。ICE DYNASTYや鬼君にもトラックを渡してますね。A-THUGのアルバムは何曲か録りをやったぐらいなんですが、何曲か聴いた感じ相当キテましたね。アゴが外れるかと思いました(笑)。ダテにSCARSのリーダーやってないな、って」
 
 
 
 

Pickup Disc

TITLE : UNDERGROUND RESOURCES 〜 The Mix mixed by MUTA
ARTIST : I-DeA
LABEL : P-VINE/PCD-93426
PRICE : 2,415円
RELEASE DATE : 8月3日