INTERVIEW[インタビュー] RSS

ECD

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「『TEN YEARS AFTER』の頃は子供はまだひとりだったけど、今は二人になってどんどん自分の時間もなくなって、楽になる部分はひとつもない。それでも『アルバムを作りたい』と思ったわけだから、その意味でも今回の方が腹を括ってるかもしれない。今回のリリックは全部震災前に書いたモノなんだけど、今回のアルバムで表現したかった『キツいけどなんとか過ごせてる生活』自体が、震災以降に起こったことによって脅かされてるんだよってことを感じてもらえるとって思うんだよね」

 ECDのニュー・アルバム「DON'T WORRY BE DADDY」は、「DON'T WORRY」という名付けではあるが、例えば植木等のような「心配するな」という内容ではない。むしろ、淡々と描かれる家族を養うことに対する心配や、自身の歳の重ね方、そして不透明な未来や将来といったリリックを自分に置き換えた時、不安でたまらなくなる。しかし、インタビューでも語られているとおり、何度も聴き直すうちにそこから感じられる「腹の括り方」と「決意感」は非常にたくましく、実直に自分の言葉を書き続けるECDにしか書けない力強さを感じさせる。改めてECDの描く「生活者のリリックの力」に驚かされる一枚だ。


■まず、ラップ・アルバムであった「TEN YEARS AFTER」の反響はいかがでしたか?
「ネットでエゴ・サーチしてチェックするぐらいだけど(笑)、評判が良かったから単純に嬉しかった。それから『HARDCORE FLASH』に呼んでもらったときに、Zeebraが買って聴いててくれて『3回ぐらい続けて聴いた』って言ってくれたのは嬉しかったな」

■ご自身として振り返られるといかがですか?
「00年代の僕は日本語ラップ・シーンに向けて作品を作ってなかったけど、あのアルバムは僕自身からも『HIP HOPリスナー』に向けて作ったって気持ちがあったから、その層からも反響がちゃんとあったのはよかったなって。そんなことやっても無視されるかなともちょっと思ってたんで」

■前回のインタビューではフリー・ダウンロードにも言及されましたが、今作収録の“RECORDING REPORT”でもそういった現行の、そして進行形のシーンについての思いを形にされていますね。
「2年ぐらい前にAKLOやCHERRY BROWNたちが出てきたときに驚いたのは、彼らって『HIP HOPが今一番イケてる音楽だ』って思ってるってことで」

■そうでしょうね。
「でも、よくよく考えたらHIP HOPは生まれて既に30年近く経つ音楽だよね。僕みたいな70年代のロックから入った人間からすると、その当時から50年代のロックンロールを振り返ると、完全に終わった音楽だなって思ってたんだよね、20年しか経ってないのに。でも、生まれて30年経つHIP HOPを今でも一番イケてるって思ってる連中がいて、それをやってるっていうのは凄いことだし、その秘密はなんだろうなって。それに結局、僕だって現行のUS HIP HOPを面白がって聴いてるわけだし、USだってHIP HOPが一番フレッシュだと思ってラップしてる若い連中がいっぱいいるわけで、全然HIP HOPが終わったって感じはない。今回もラップ・アルバムになってるのは、“RECORDING REPORT”でも書いてるように、彼らのような若い世代の存在が直接の動機になってる。今回のリリックを書いたのは一年半ぐらい前なんだけど、その時期に書いた歌詞が今でも全然通用してるとも思ってる。それから、ネットやフリー・ダウンロードによって音源が発表できるようになって、ヴェテランだろうが若手だろうが、音源をアップロードすればそれが全部並列に、フラットにリスナーに受け入れられることになる。そこに自分を置くことが楽しいと思えるかどうかが、これから重要になるんじゃないかなって」

■今回収録の楽曲の多くは、ECDさんのSOUNDCLOUDにCDの音源とほぼ同じ物を自らアップされていますよね。それはそういった事象に対するECDさんからの回答ですか?
「回答と言うより、そういう形で表現して、それにレスポンスをもらわないとやってる気がしないっていうか。それに、リリースまで時間がかかっちゃったから、とにかく聴いてほしかったんで(笑)」

■アップロードするという手段が今のHIP HOPのシステム/土俵のひとつだから、そこに自分も乗らないと並列に判断されないと。
「そうそう。反応ないと面白くないから。それに、フリー・ダウンロードで『結果どうなるか』が分からないままみんなやってるでしょ」

■考えてみればそうですね、特に日本のシーンの場合は、フリー・ダウンロード発から圧倒的なスターになった人はまだいない。
「そう。フリー・ダウンロードがステップ・アップになるかどうかなんて、現状の日本のシーンでは誰も分からない。みんなフリー・ダウンロードに賭けてるけど、よく考えたらホントに賭かってるのかさえも怪しい(笑)。でも、分からないけどやってるところが、きっと何かを変えると思うんだよね。後から振り返って『あれって凄いことだったんだね』って思えるんじゃないかって、希望的観測として思ってるんだ。逆に『こうすればこうなる』が分かってたら、僕もやってないと思う。でも、表現の原点ってそういうとこでしょ。ターンテーブルで二枚使い始めた人は、いずれターンテーブリズムが生まれるなんて思ってなかっただろうし。そういう『(結果は分からないけど)突き動かされてやってる』のが面白いなって。なんでも効率化とか合理化して、原因と結果が直結するのを求める世の中で、こういう(不合理な)行動こそ意味があると思うんだよね」

■なるほど。話は変わって、先ほどリリースが遅れたというお話がありましたが、その原因は?
「一昨年の10月〜11月には僕の方の制作は終わって、全てのファイルをILLICIT TSUBOI君に渡して、ミックスと追加の作業をお願いした時点では11年の5月リリース予定だったのかな。それで進めてたんだけど、震災があって工場が被害を受けたりして物理的にリリースを延ばさざるをえなくなって。それで、ツボイ君もそこで出来たモノを一回チャラにして、もう一回作り直したんだよね。僕の作った土台は同じなんだけど、ツボイ君のアディショナルがガラッと変わって」

■それはどれぐらい変わりました?
「それは前のやつを聴いてもらわないと」

■っていうぐらい変わったということですね(笑)。
「でも、こっちの思惑や意図を汲んで手を加えてくれるから、メッセージ的には変わらないモノになっていて」

■ECDさんの土台はどれぐらいの分量が?
「基本的にドラムに上モノにラップって感じかな」

■今回はサンプリングの比率が前作よりも高まってると思いましたが。
「僕がツボイ君に投げた段階では、サンプリングの比率はこれの半分ぐらい」

■あと半分はツボイさんからだったんですね、凄い(笑)。話は変わりますが、今回のアルバムに「DON'T WORRY BE DADDY」と名付けられた理由は?
「育児とかめちゃめちゃ忙しいけど、アルバムぐらいは作れるよっていうことだね。実際、自分の時間を家庭のことに割かざるをえないけど、でも、それでもラップのアルバムは出来るから、子供を作ることをそんなに恐れなくてもいいんじゃないかなって」

■それは、前作に対するカウンターでもありますか?前作はそういった家庭の事情に翻弄されるという部分が散見されましたが。
「ああ、そうかもしれない。まだ、そういう時期だったかも。『TEN YEARS AFTER』の頃は子供はまだひとりだったけど、今は二人になってどんどん自分の時間もなくなって、楽になる部分はひとつもない。それでも『アルバムを作りたい』と思ったわけだから、その意味でも今回の方が腹を括ってるかもしれない。そういう変化はあるかもね。だから『天国よりマシなパンの耳』から『TEN YEARS AFTER』、そして『DON'T WORRY BE DADDY』まではグラデーションになってると思うな。『天国よりマシなパンの耳』は『結婚して子供も出来るけど、そうなりたくない!』って気持ちがあったけど、そこからどんどん丸くなってきてるというか(笑)。でも、今回のリリックは全部震災前に書いたモノなんだけど、今回のアルバムで表現したかった『キツいけどなんとか過ごせてる生活』自体が、震災以降に起こったことによって脅かされてるんだよってことを感じてもらえるとって思うんだよね」

■書いたときとはまた意味合いが変わってきたと。
「これを作ってる段階では『キツいけどこの生活を守らなきゃな』って思ってたけど、震災を経て、よりそれをより強く守らなきゃなって思った。だから軸はぶれてない。だけど、震災以後、放射能の問題が起こったりして、この状況下で本当に子供を作っていいのか、子供を産んでいいのかっていう、原発事故以前は考えなかったことが起こってるから、その部分では意識が変わったかもしれない。だけど、そういう『ダディになること/マミーになること』っていうのにプレッシャーがかかるってこと自体をはね除けないといけないなって。そういう生きる根本を脅かされるようなことは、どうしても何とかしたいっていうのは、原発事故直後にYouTubeで発表した“EXODUS 11”でも思ったことだったし」

■原発の問題に関しては改めて後半でお伺いさせて頂きます。今作は家族ということでは、2曲目の“まだ夢の中”からそういった部分が色濃く表われていますね。
「あの曲のタイトルの意味は、『これから色んなことあるだろうけど、今はまだ何も知らないで、子供たちは幸せそうな寝顔でいる』ってことだね」

■僕としては、ECDさんはここで決意深く子供を育てるということを歌詞にしてるけど、これまでに“BIG YOUTH”という“夢”をメッセージにしたECDさんが、その気持ちを持ったままどう子供を育てるかってことかと思ったんですね。だから「まだ夢の中」なのかなって。
「ああ、そういうことじゃないです(笑)」

■そうでしたか(笑)。ただ、そう思ったのは“SIGHT SEEING”があったからなんですね。
「ああ、なるほど」

■“SIGHT SEEING”からは、まだ家族という現実を受け止めきれないという部分があるのかなとも感じたんで、そこから“まだ夢の中”を聴くとそう思ってしまって。
「でも“SIGHT SEEING”に関してはそうかな。リリックにも書いたように夜中に目を覚ますと、自分の子供や妻がいるってことに、これが自分の現実だと思えないときがあるんだよね。思いたくないっていうわけじゃなくて。でも、最近やっとなくなったけどね」

■この曲の最後に、ビートルズの“TOMORROW NEVER KNOWS”のような旋律が入るじゃないですか。そこからもこのアルバムの結論が「明日は明日の風が吹く」ってポジティヴな意味にも、「明日はどうなるか分からない」っていうネガティヴな意味にも取れて、最後まで安心はさせてくれないなって。
「最後のラップ・ヴァースもそういう感じだしね。いま言った音色に関しては、あれはツボイ君が入れた音なんで、最終的にはツボイ君に聞いてもらわないと、そして聞いてもそんな種明かしはしてくれないと思うけど(笑)。でも、そういう感情はあるかもね。あの部分は完全に震災後に作ったモノだから」

■全体的にも、震災後のECDさんのリリック/ラップと、震災後のツボイさんのアディショナルということになりますね。
「うん。だから震災を挟んだ作品にはなってるんだと思う」

■その意味では、より前の段階が興味が沸きますね。
「前の段階は、結構普通のサウスみたいな感じだったんだけどね」

■今回のラップの内容は前回よりも具象的になってますね。
「実はラップってそういう方が向いてるのかなって。ちゃんと目の前にあるモノを形にしていくのが。具体的なモノを描写した方が字数が稼げるし(笑)」

■ハハハ。でも、前回のインタビューでもその話が出ましたが、00年代のECDさんは抽象性の高いリリックを形にされていましたね。
「割とそうだったし、何かを具体的に描写する頃はあまりしなかったんだけど、それだとスカスカなんだよね。埋めきれないっていうか(笑)」

■今回は、ECDさんの生活を具体的に、淡々と描く部分も強いですね。
「それを書くのが楽しいかな。結局、僕がネタにするのは自分のことだから」

『働けECD』『ECD家の窓』などで、前作の段階ではそこでの切り口はお金が中心でしたが、ここ最近はより“生活”を詳らかにされていますね。
「あの動きは自分だけではやっていないし(妻で写真家の植本)一子がやってる部分も強いので、僕は観客というか(笑)。僕としては客観的かな」

■では客観として見られて如何ですか?
「面白いからいいかなって。でもオジー・オズボーン(のリアリティ・ショー『オズボーンズ』)みたいな感じにはならないから(笑)」

■また話は戻りますが、反原発活動に携わられたのはどういった経緯だったんでしょうか。
「デモでラップしたのは昨年の6月11日の新宿が最初だったんだけど、デモがあったら参加しようっていうのはラッパーとしてではなく、いち市民として思ってて。ただでさえ生活が大変なのに、それを脅かすなんて何てことをしてくれてんだっていうのが最初の動機で」

■ YouTube にアップされた“RECORDING REPORT 反原発REMIX ”や、SOUNDCLOUDに“ベビーカーとプラカード”“2012 2/20 経産省前原発再稼働抗議”をアップされていますが、そういった内容を盤として制作される予定はありますか?
「必要に応じてやっていくと思う。でも、今度出る田我流のアルバムに収録された“STRAIGHT OUTTA 138”で、原発問題についてはラップしてるんで、それを聴いてほしい」

■最後に、“にぶい奴らのことなんか知らない”は音楽シーン的には非常に希望を感じる曲でしたが、この流れの上にこの後の作品もありそうですか?
「1年半前の歌詞だから『MySpace』とか古い部分もあるし、それだけネットやシーンの流れは速いなって思うんだけど、それでも、そういう気持ちを持ち続けることが出来るのが今は面白いなって。この感じの中で作り続けたいし、目を逸らすわけにはいかない。『TEN YEARS AFTER』と『DON'T WORRY BE DADDY』が完全に連作なんで、次作はまたちょっと違う展開が出来ればなって思ってるね」
 
 

Pickup Disc

TITLE : DON'T WORRY BE DADDY
ARTIST : ECD
LABEL : FINAL JUNKY/FJCD-006
PRICE : 2,415円
RELEASE DATE : 3月7日