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D.O

インタビュー:吉橋和宏

「“ストリートのためにストリートに贈るアルバム”として仕上げたつもり。スポンサーを気にしながら作らなきゃいけないアートでは言えないこと……ましてや情報すべてがいろんな形でコントロールされて本当に必要な情報がゲトれない状況っていうのは、ある意味あの震災のときにみんな初めて経験したと思うんですよ。そういう目の前にあるもの全部を詰め込んで、今だからこそ出来るものにしたかった」

 D.Oの4枚目「THE CITY OF DOGG」には、ここ一年半の間に彼がその目で見てきた様々な事象が綴られている。まるで開き直ったかのようなタイトルが付けられたリード曲“悪党の詩”のミュージック・ヴィデオでは、今まで通りにフザけまくった(褒め言葉)変わらぬD.Oの姿を見ることができるが、その中身はこれまでと明らかに異なっている。以前から彼の作品に深く関与するJASHWONとDJ MUNARIがそれぞれ大きくレヴェル・アップし、日本のHIP HOPを代表する存在となっていることも手伝って、D.Oがラッパーとして生きる上で意識し続ける“変化”は、顕著に本作「THE CITY OF DOGG」に現われているように思う。まずは、本作のイントロダクションを兼ねているという前回のミニ・アルバム「イキノビタカラヤルコトガアル」の話から順に、本人が考える「このアルバムが果たすべき役割」を訊いた。
 
 
■まずは、前回のミニ・アルバム「イキノビタカラヤルコトガアル」の話から訊かせてください。あの作品の制作モティヴェーションとしては、東日本大震災が大いに絡んでいると思うんですが、そこに関しては如何ですか?
「まず、あの作品を出すタイミングはあのときじゃなきゃ違うと思ったんですよ。おかげ様で僕の肌も落書きだらけになってきてるけど、この入れ墨も福島でやってもらってて。他にも福島のストリートにはドッグスがいっぱいいるし、そいつらの地元と練馬を行ったり来たりしてる最中にあの地震が起こったから他人事じゃなかった。実は僕もあの日福島に行く予定だったし、だからこそ何か違う形で今があると思ってるんですね。原発で働いてるヤツも僕は友達だし、家が流されて今も仮設住宅で暮らしてるヤツも友達だし、タトゥ・スタジオは奇跡的に被害が少なくて震災直後に炊き出しをやってたから、僕らも当然『自分たちに出来ることは何かな?』って考えたんですよ。『誰々がいくら寄付した』とかいう話も聞いてたけど、目の前で苦しんでる人たちには届いてないように見えたから、『ツレが困ってるから行かねぇ?』っていう当たり前の感じで、食料とか水とか洋服とか必要最低限のものを持ってすぐに行ったんですよね。『イキノビタカラヤルコトガアル』に入ってるのは、情報もぐちゃぐちゃだったそんな時期に書いたラップで、目の前の現実全部をそのまま伝えられるのはラッパーしかいないと思うし、『今ラッパーがそれをやらなきゃいつやんの?』ってぐらいそのときが来たと思ったんですよね」

■なるほど。じゃあ、今までのインタビューでもずっと話して頂いているD.O君の計画からすると、イレギュラーなリリースではあったということですね?
「そうですね。『JUST HUSTLIN' NOW』、『JUST BALLIN' NOW』、『ネリル&JO』……ってずっと続編のつもりでメイクしてきたけど、その構想の中でもやっぱり臨機応変に対応してフレッシュでいなきゃいけないと思う。世の中と連動してる自分を表現できなきゃ、僕のHIP HOPは違うと思ってるから。そんな意味で、今回のアルバムも含めて、僕の中では絶対に今やんなきゃいけないメイクだったんですよね」

■では、その「イキノビタカラヤルコトガアル」を出したことで得た手応えは?
「僕の中では、今作の先行シングルっていうつもりであの一枚を切ったんですけど、もちろん賛否両論あるとは思う。僕のラップをいいって言ってもらってる分、フザけんなって言われてるとも思うんで。でも、それでよくて。めちゃくちゃになっちゃった福島のストリートを僕は本当に見てきたし感じてきたつもりだから、それがちょっとでも伝わればいいなって。『みんなもこうやって動こうぜ』なんて言うつもりもなくて、考えるきっかけになればいいかなって思ってた。ヴィデオひとつ取っても予想と一桁違うくらい多くの人に観てもらえて、間違ってなかった、やってよかったっていう手応えはありましたね」

■フル・アルバムとしては、今作が約一年半ぶりのリリースとなりました。
「『ネリル&JO』を出したときは裁判もやってたし、賠償問題で企業と向き合わなきゃいけない状況もあったし、僕が不自由な間にはものすごくいろんなトラブルが勃発してたんですよ。『ネリル&JO』はその後片付けをしながら作ってたけど、発売した後もいざこざは絶えなくて、今回もその対応をしながら作った。ひっくり返しちゃった自分のアートと重ねて、ひっくり返っちゃった世の中をどういう風に上手にまとめて一枚にしようかなっていうのが一番最初のテーマだったかもしれないですね。言いてぇことは山ほどあって、直視しなきゃいけない現実も山ほどあって……解決できるか分かんないようなことだらけの状況だったけど、『ラッパーだったらどうするのかな?』とかいろんなことを考えて、その答えを自分なりにメイクしてみようと思ったんですよね」

■そこから、具体的にはどういう形でまとめていこうと思われたんですか?
「やっぱり目の前の現実っていうのがテーマなんですけど、アルバムの中でも言わせてもらってる通り、“ストリートのためにストリートに贈るアルバム”として仕上げたつもり。スポンサーを気にしながら作らなきゃいけないアートでは言えないこと……ましてや情報すべてがいろんな形でコントロールされて本当に必要な情報がゲトれない状況っていうのは、ある意味あの震災のときにみんな初めて経験したと思うんですよ。そういう目の前にあるもの全部を詰め込んで、今だからこそ出来るものにしたかった」

■俯瞰的な目線で綴られたリリックが多かった前作と比べると、今回はよりD.O君から見た目線でリリックが描かれているような気がしました。
「本当にその通りで、『ネリル&JO』みたいなムーヴィーの形っていうより、今回はドキュメンタリーの形なんですね。トピックがいくつもあって、そのひとつひとつが番組として成り立ってる、みたいな。みんながビビっちゃって言えないことをラッパーもビビって言えなかったらダサいと思うから、目の前の現実をニュースの代わりに表現したっていうか。それが僕が“生き延びたからやること”のひとつだと思ってて、“くたばるまでラッパー”って語ってる以上、僕がそれをやんなきゃ嘘じゃねぇかなって思うし。でも、『原発反対!』とかそういうひとつの意見だけを言うつもりはない。現地のいろんな状況を僕は少なからず知ってるつもりだから、その全員の立場を考えて作ってる。原発がなくなっちゃって困るヤツも僕は友達だし、原発があったから困っちゃってるヤツも友達。その全部が問題になってるのが今の日本だとも思うし」

■“RAPPER IS”で改めてD.O君が考えるラッパー像を定義したのは、ここまでの話があったからこそなんですね。アルバムを作った理由が集約されているとも言えるでしょうし。
「そうですね。今のラッパー像として、僕が求める理想の形はこうだと思ってるんですよ。よく『ラッパーって何ですか?』って聞かれるから、一発目にブチ込ませてもらったっていうのもある。『まあ、これ聞いてよ』って(笑)」

■“悪党の詩”では、D.O君が今の自分の立ち位置を理解しているからこその決意みたいなものが滲み出ていました。正直、もっと聴きたい感じでしたね(笑)。
「ありがとうございます(笑)。最初はまったく違う2つの曲として考えてたけど、いろいろと並びを考えてるうちに、『何曲もこういう話をしても流れとは違うな』って。それで2曲を1曲にまとめた。だからちょっと短く聴こえるかもしれないけど、その分いっぱい詰め込ませてもらってますね。さっきの話に繋がるけど、最近いざこざが多くてバタつき倒してたから、連絡を取れてないドッグスも全国各地にいっぱいいる。先輩から後輩、地元のヤツもそう。そういう心で繋がれてるヤツらに対して、『俺、生きてるし大丈夫だからさ』っていう“『最近どうなの?』の答え”もここにあるんですよね。そういう気持ちも含めて、現実とストリートと僕のすべての連動が表現できたと思いますね」

■情景描写力や表現力といった面でもスキルが格段に上がっていると感じました。
「毎回スキルアップをするっていうのは自分に対する一番のテーマだと思ってるし、じゃなきゃやってる意味がないっていうくらい大事なことのひとつだと思ってて。毎度毎度、表現力だったりライムの構成力だったり、ブックレットからPVに至るまで、全てにおいて次の段階に行けるように心掛けてるつもりですね」

■それを実現するために意識してることもあるんですか?
「僕はライフ全部がラッパーであるようにしてるっすね。“くたばるまでラッパー”を語らせてもらってることだったり、もっと遡れば、練馬っていうフッドを語ってメイクさせてもらってることだったり……雷家族の末裔としてやらせてもらってることもそう。そういうすべての責任を意識してますね」

■ところで、某音楽番組をパロった“悪党の詩”のPVは最高でした(笑)。
「それはもう“M”の野郎が俺を呼びやがらないもんで……(笑)。僕を呼んだ場合、こういう風になって面白いのにっていう意味もあります(笑)。でも、やっぱりちょっと吹き出しちゃうような、笑ってもらえるHIP HOPっていうのも僕のアートには超重要な要素なんですよ。『俺らのライフはこんな感じ』っていう笑いの要素も忘れてないし、でもいつだって真剣だぜっていう気持ちもある。そこを上手く出せたかなって」

■それこそ以前からD.O君がおっしゃっている、「視覚も含めた全部で楽しめる新しい形のHIP HOP」のひとつという感じですね。ところで今作はスキット的な曲が多いですが、これにはどういった狙いがあるのでしょう?
「大体は次の曲を繋がりで分かりやすく説明させてもらってるとか、アルバム全体の流れに合わせて考えてあるけど、他にもいろんな意味を込めてるんですよ。僕の中では、アルバムの曲すべてをシングルにできるくらいのつもりでやってるけど、逆に“ガマン印のHIGH GRADE DELIVERY”は僕の中ではスキットだったり(笑)。もちろん一曲一曲はちゃんと仕上げてて、それぞれがスキットでもあり曲でもあるっていうか。形にはこだわらずに、僕のアートとしてまとめられたと思います。繋がりから曲間まで、1ミリの隙も見せないで作らせてもらいました」

■アルバムとしても36分という短めの作りですが、そこも形にはこだわっていないという。
「いや、もうT2Kにも『40分超えなきゃアルバムじゃねぇ。お前のは短すぎ』なんつって散々言ってたんですけどね。自分で『これで完璧だな。で、何分あるんだ?』って見てみたら、36分しかなかったっていう話(笑)。時間としては短いけど、アルバムとしてまとめようと思ったらこの形が一番良かったんですよね」

■なるほど。JAZEE MINOR氏との“SEVEN DAYS WAR”は、今までのD.O君にはなかった感じの楽曲ですよね。
「はい。このビートは自分だけじゃ100%選べないビートだったけど、JASHWONと(DJ)MUNARIは『これを絶対に入れろ』と。『お前のアルバムに足りない音はこれだ』って言ってて。自分の世界としてはまったく考えてなかった感じだったから、正直作ってる間ですら『上手くハメられるかな?』って思ってたけど、ラップを乗せて作り込んでいくうちに、細かい部分まで研ぎ澄まされて考えられたビートだってことに気付いたんですよ。この曲のおかげで2012年の現行HIP HOPのアルバムとして、さらに胸を張れるなって思いますね」

■新しい挑戦という意味では“Bye bye”もそうなのかな、と思いました。「ライフ全部をラッパーとして表現している」からこそ、“悪党の詩”などで出ている人間味とは違う、プライヴェートに近い人間らしさは今まであまり見えてこなかったのかなって。
「あ、間違いないですね。そういう意味でフレッシュに感じとっていただけたら、それはものすごく嬉しいですね」

■すごく偉そうな言い方になってしまいますが、そういう意味でも今回のアルバム全編を通して、新たなD.O節みたいなものが確立してきたのかな、と。言葉にするのは難しいですが、今までD.O君のHIP HOPで取り上げやすかったのがリリックのエグさや面白さだったとしたら、そうじゃない部分もすごく表に出ていると思うんですよ。真面目な時とフザける時の振れ幅が両極端で、リリックの書き方や質感みたいな部分が独特で……っていうか。
「いや、でも本当にそうなんですよ。今回は、最初から最後までそれを一枚にまとめたいって超思ってたし、それが上手に出来たんじゃないかなって。そういう点でも確実にネクスト・レヴェルに辿り着けるように常に考えさせてもらってるっすね。それが僕にしか出来ない立ち位置だとも思うし」

■最後の曲“最終警告”が、ほぼインストとして構成されているのも意味深長ですね。
「この曲で使ってる音は、本当にあの地震や津波のときの音なんですよね。アルバムの最後で、今決断を迫られてる日本人を表現したかった。アルバムを全部聴いた後に考えてもらって、『その考えを持ったら、今度はお前の番だぜ』っていう意味で」

■では、アルバムを完成させて改めて今思っていることは?
「今回、初めてレコーディングからミックスまで全部をI-DeAにやってもらったんですけど、大正解でした。ものすごく密に相談させてもらったし、ヤツがいなきゃこのアルバムは出来なかったと思う。スタジオにはJASHWONにもMUNARIにも来てもらって、一緒に制作することもできたし。僕は自分のHIP HOPとストリートのこと、あと自分が描いてるラッパー像のことはものすごく考えてるし、それは自分ひとりでも表現しきれると思ってるんですね。だけど、音楽的なことでより世界的な視野を持ってるのがJASHWONとかMUNARI、I-DeAなんですよ。今回はヤツらの力をものすごくアルバムにも入れてもらいながら一曲ずつ作れた。一緒にセッションしながら、『ああでもない、こうでもない』ってお互いに同じ空間で考えて……それをいつもより濃く出来ましたね。超がっちり制作できたから、自分が形にしたかったアートにちょっとずつ近付けてるっていう確信、『THE CITY OF DOGG』はこの形で行こうっていう確信を持てたんですよね」

■今後の動きとしては、どんな予定がありますか?
「今“Bad News”のヴィデオを作ってる最中なんですけど、今回はヴィデオが結構あるんで、もうちょっと画をまとめたものをDVDとして出しながら次のタイトルを作れればと思ってますね。たぶんみんながこのインタビューを読む頃には、僕の執行猶予もおかげ様で解けてると思うし、今まではやれなかったビジネスも少しずつまたやれるようになってくるから、そういうビジネス展開ももっと考えていきたい。まあ、僕ならではのHIP HOPをメイクしていくのみですね」
 
 

Pickup Disc

TITLE : THE CITY OF DOGG
ARTIST : D.O
LABEL : VYBE MUSIC/VBCD-0062
PRICE : 2,600円
RELEASE DATE : 5月23日