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AKLO(前編)

インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)

「周りのヤツが助けてくれて上がっていくような甘えたシステムじゃないし、自分で上がっていくしかないんです。だから、自分が上がっていかなきゃいけない理由を自分で作る。俺は自分のスタイルが、HIP HOPをもっと大きなものにする上で必要だと思っているんです」

 2000年代からアンダーグラウンド・レヴェルで活動を重ね、2009年にはギタリストの空と「AKLOと空」というアルバムをリリース。しかし、シーンからの支持を得られなかった彼は再び地下に潜り、当時の国内シーンにおいてまだストリート流通で“発売”されるのが主流だったミックステープ・アルバムを、フリー・ダウンロードという形式で発表(「A DAY ON THE WAY」「2.0」)。感度高いリスナーやアーティストからの支持を得てフィーチャリングも激増。……AKLOのここ数年の経歴を簡単に書くとこんな感じになるだろうか。在米経験もあることから、堪能な英語力を駆使して、US産ラップを大胆且つスムーズに日本語ラップとして取り込んだそのラップのスキルはもちろんのこと、そんな彼の成り上がりの“物語”も込みで、ここ数年最もスリルを感じさせるMCのひとりだ。

 そんなAKLOが、ついにBACHLOGIC主宰レーベル:ONE YEAR WAR MUSICからデビュー・アルバム「THE PACKAGE」をリリースした。

 先日、AKLOが『RAPSTREAM』に出演した際、KREVAが映像メッセージを寄せてくれたのだが、そこでKREVAは「昔Zeebraのアルバムを聴いてたときに感じたような『自分が強くなった気になれる』アルバム」と評していて、個人的に印象に残っている。

 実際、筆者は今作やAKLOのここ最近の活動を見ていると、95〜96年頃のZeebraを思い出すのだ。キングギドラ「空からの力」で、US HIP HOPを大胆に“訳”し、構造面を深く理解した上で再解釈することで日本語ラップの表現の幅を拡げたことも、現在のAKLOの活動に通じるものがあるし、AKLOがblock.fmにてMCを務めている番組『INSIDE OUT』で行なっているUSラップ解説を通した啓蒙も、Zeebraが90年代中盤にFRONT誌で連載していた『WORD IS BOND』で、それまでの日本盤の対訳とは一線を画した「ラッパー目線の“生きた”訳」を提示して、当時のシーンを啓蒙していた姿勢を彷彿とさせる。

 その「勝ちあがり方」やHIP HOPに対するスタンスなどから、AKLOを“新世代”“次世代”と評することは多いし、それは間違っていないと思う。だが、「THE PACKAGE」は、斬新に聴こえる様々な仕掛けと共に、几帳面なまでに練り上げてきたからこそ可能な、クラシカルな趣も感じさせる内容となっている。彼は、新世代的な軽やかさや感覚的な動きと同じくらい、保守的なまでにラップのメソッドに関してはストイックな姿勢を貫いているし、そういった意味では前述の「空からの力」と地続きであるとも言え、95年当時Zeebraが提示した価値観を再提示したものという捉え方も出来る。それぐらい、「THE PACKAGE」でのラップは彼のこだわりが徹底して組み込まれているし、彼が“バイリンガル・ラップ”ではなくあくまで“日本語ラップ”として評価されることを望んでいるのもそう考えると納得がいく話だ。

 “新世代”“次世代”と括るとどうしても下克上的な旧世代との対立構造や、過去との断絶などをイメージする人がいるかもしれない。実際、“RED PILL”でも“破壊”と“再生”というフレーズが出て来るが、AKLOが日本語ラップにおいて挑戦しようとしていることは、“破壊”ではなくむしろ“再生”の方に重きが置かれているのかもしれない。もちろん、筆者は現在の日本語ラップ表現が過去に比べて衰えているとは思わないが、それぐらい前進しようとする姿勢がAKLOにはあるということだ。日本語ラップにおいて“ルネッサンス”と呼べるようなタイミングはこれまで何回かあったかもしれないが、「THE PACKAGE」もそんな転機となり得るアルバムだ。

(本インタビューは前後編に分けて掲載されていますが、特に後編は「THE PACKAGE」収録曲のネタバレ的な内容がかなり含まれているので、是非「THE PACKAGE」を聴きながら読んでみて下さい!)

■2010年にドロップされた「2.0」から現在までの流れを振り返ってどう?
「基本的にはアルバムを作る時期でしたよ。ただ、震災があって考えさせられて一回全て止まっちゃいましたね。そんな中でも震災前に作ったフィーチャリング曲が震災後に出たりとかもあったから、動き的には止まってるようには見えなかったかもしれないですけど。そういう意味では2年以上開いていたとは思えないような活動は出来てたかな、と。だけど、自分的にはもうちょい早くアルバムを出したかったなー、とは思いますね。やっぱり制作ペースが早いっていうのも自分の売りとしてあったので」

■じゃあ「2.0」から震災までの時期は?
「アルバムを作りたくてトラックを集めてる時期でした。自分でアルバムを作ろうとしてて」

■そうすると、その時点では自主でアルバムを出そうとしていた?
「まあ、そうですね。取り敢えず制作だけやっちゃおう、みたいな」

■結果的に自主ではなくONE YEAR WAR MUSIC(以下OYWM)からアルバムがリリースされることになったわけだけど、どういう流れでBACHLOGIC(以下BL)君と最初にコンタクトを取ったの?
「OYWMは基本的にBL君とJIGG君のプロデューサーから成ってて、彼ら主導でラッパーをプロデュースするっていうのが基本的な形なんですけど、彼らがレーベルを立ち上げて新しいラッパーを探しているときに、SIMON君の“DOWNLOAD”でJIGG君とレコーディングしたんです。その後、JIGG君が実際にBL君に自分のことを推薦してくれて。BL君も俺が“I REP”のビート・ジャックをやってたのを聴いててくれたみたいで。で、それまでアルバムを作ってたということもあって、いろんなことをクリアにした上で最終的に彼らの全面プロデュースでアルバムを作ることになりました」

■ということは、「THE PACKAGE」前にある程度出来てた曲があるということか。
「そうですね。だけど、この体制でやった方が面白いっていうことが分かったんで、それまでお世話になっていたプロデューサーの人たちには申し訳なかったけど……」

■やっぱり自分でいろんなトラック・メイカーからトラックを集めて作るのと、「THE PACKAGE」でのBL/JIGGトータル・プロデュースで作るのとでは全然勝手が違った?
「全然違いました。あと、自分で動いてやるのは超大変だったから(OYWMが手を挙げてくれて)本当にありがたかったですよ、正直」

■今の話を訊くと、「2.0」を出して注目度が上がってた時期は、AKLO君的にはストラグルの時期でもあったわけだね。
「そうですね。ミックステープで出来ることって……意外と凄いんですよ(笑)。こんなことまで出来ちゃうんです、みたいな。だって、トラックもUSのプロデューサーが作ったトラックとかから自由に選べるわけだから、なかなか国内でミックステープ以上のクオリティの曲を作るのが逆に難しくて。それを考えたとき、BL君とJIGG君っていう布陣だったらそれが可能だと思いました」

■フリーで音源を発表するようになって2年ほど経つわけだけど、ここまでの展開としては予想通りだった、ってわけではない?
「まー、本当はもっと早い方が理想でしたけどね。ヘッズを喜ばせるって意味だったらもっと早い方がよかったと思うけど、もっと多くの人に聴いてもらうために素晴らしいクオリティを求める、ってなるとこれぐらい時間がかかっちゃうし、仕方がないかな、って」

■制作していく内にそういう風に頭を切り替えたっていうことか。じゃあ、OYWMで制作するようになってAKLO君の中で自分の視野が広がったっていうのはある?
「それはあると思いますね。とは言っても『一般の人に響く歌詞』とか、そういうことはあまり考えなかったです。自分から(一般層に)近づく方法と突き抜ける方法、ふたつあると思うんですけど、俺は突き抜ける方でいきたいっていう気持ちが強いので」

■「2.0」を出した時点でAKLO君が思い描いていた理想のプランはどういうものだった?
「その当時OYWMは存在していなかったし、別に有名なトラック・メイカーじゃなくてもよかったんです。ただ、俺がUSのトラックに日本語でラップを乗せて形になるものが出来るっていうことを証明したかった。USメインストリームに近い音楽性をフィールしてくれるヤツらが増えて、新しいシーン/新しい価値観が『2.0』をきっかけに出来ればな、って思ってました。理想としては『AKLOみたいなラッパーが出て来るのを待っていた!』みたいに凄腕プロデューサーが出て来る!みたいなこととかがあればいいのにな、とかぼんやりとしたイメージで思ってはいましたね。俺だけじゃなくて『2.0』で刺激を受けた人たちがそういう風になっていけばスゲェ面白いのにな、って思ってました」

■USではミックステープでブレイクしてからの成功の道というのが実際のストーリーとしていくつも例があるわけだけど、AKLO君もミックステープを作っていた頃はそういった道のりをイメージして作っていた?
「自分のラップに関して自信はすごくあったんです。なので『ビビるんじゃないかな?』っていうのはあったけど……」

■だけど、明確な戦略や目標を設定していたわけじゃなかった?
「『A DAY ON THE WAY』に関しては『自分が存在してるんだよ!』っていうのが言いたかっただけだし、『2.0』を作った理由は『A DAY ON THE WAY』を出してファンが出来たことに対する“嬉しさ”なんですよね。『2.0』は『A DAY ON THE WAY』からのスパンが超短いんですけど、インスタントでお金がかからないものっていうのがミックステープの魅力としてあると思ってて、それで大きくなれれば最高じゃないですか。だから、そういう部分にはこだわりましたね。『(ミックステープを出して)上手くいけばいいな』とは思ってたけど、『上手くいく』って具体的にどういうことなのかまでは分かってなかった」

■「THE PACKAGE」は、ある意味究極まで自分を追い込んだ作品だな、という風に感じてて。これまではクラウド上に浮かんでいた自分の音楽が、こうして実体を伴った作品として世に落とされる……“S.H.O.T.”で「This is my chance right?一生に一回/ここでかまさなきゃプランは失敗」って歌ってるけど、それぐらいの覚悟を作品全体から感じました。
「そうですね、そこは勇気を持って言ってやろうと思って。『これでかまさないと俺のプランは失敗なんだ』って作品で言い切れるヤツはいないでしょ。でも、それを言い切れるぐらいの本気度はありました。今回のアルバムを作る上で、ライヴァルがいたわけではないので、自分との戦いだった気がします。だから……追い込んでったかなー」

■現役で活動しているラッパーで、現行のUS HIP HOPの流れを意識している人なんていっぱいいると思うんだけど、そういった人たちとAKLO君のスタンスの違いってどういう部分なんだと思う?
「ただがむしゃらにやってるヤツよりも、自分には狙いがあると思うんです」

■ただの憧れじゃないってこと?例えば、漠然と「LIL WAYNEのラップってスゲェなあ」って思うだけじゃなくて、実際に解剖して実践しようとしている姿勢というか。
「LIL WAYNEで言うと、彼の魅力って自分の中ではフロウじゃなくて言葉遊びにあると思ってて、その言葉遊びの面白さを日本語でも上手くサンプリングできないかな?とか考えてますね。良いラッパーがUSにいっぱいいて、その人たちを自分なりに分析することが出来るし、でも『じゃあ俺のラップはUSの猿マネなのか?』って言ったら絶対違うと思う。ただ、英語が出来るおかげでリリックを理解できるというのは大きいですね」

■そういうUSラップの聴き方っていつ頃からやっていたことなの?
「LUPE FIASCOの1st『FOOD & LIQUOR』(06年)が出た頃かな。あのときに『優れたリリシストだな』ってことを本当に意識させられて。『こんなすごい人いるんだ!』って、リリックに興味を持って。それまでは適当に口ずさんでいたのを、もっと構造を意識して聴くようになりましたね」

■そういう聴き方をするようになって、ラッパーとして変わった?
「変わりました。LIL WAYNEもそうだけど、面白いリリシストが増えたことによって自分のラップもすごく刺激されて、自分なりにいろんなメタファーを作ったと思います」

■さっき僕が言った「自分を追い込んだ作品」の話の続きなんだけど、個人的には「何もそこまで気負わなくても……」って思わず感じてしまったぐらいで(笑)。
「責任感も出て来ますよ、そりゃやっぱり」

■それぐらい「自分のやり方を貫いて得る成功への渇望」がムキ出しのアルバムだな、って。
「それは超あると思います。そのスタンスが自分のカッコ良さのいち要素だと思うんで」

■OYWMでアルバムを作ったのはそういう意味では理想的だよね。クリエイティヴ・コントロールを上手くやりながらメジャー感ある音が作れただろうし。
「そうですね。自分のスタイルが確立されればされるほど、フィールドが上がっても出来ることが自分(主導)になるんですよ。だから、ミックステープで俺のスタイルがある程度BL君とJIGG君に伝わっていたからこそ出来た『THE PACKAGE』だし、もし今後俺がメジャーで作品を出すことになったとしても、それは“『THE PACKAGE』以降”だから、ただの新人が売れる曲を作るっていう感じとは違う。『THE PACKAGE』を聴いた上で契約してくれないと意味がない」

■“BEAST MODE”では「今までかまし続けたハッタリもリアルになっていくぜやっぱり」って歌ってるけど。
「俺のミックステープ聴けば分かると思うんですけど、結構いろんなのありますよね。例えば女の子に『この夏どこ行きたい?ギリシャでもスペインでもいいよ』みたいな。でも、俺の中のスワッグ感って“リアルネス”が重要だから、そういうことはあまり言わないようにしてるんです。だから、自分の言えるスワッグ感って限られてて、逆に自分のステータスが上がれば上がるほど面白いことが言えるようになってくる」

■つまり、ステータスをどんどん上げていかないとラップのネタも尽きていく危険性が……故に上がっていかないといけないっていう必死さに繋がってくるのか。
「俺の持ってるスワッグ--今や(AKLOのラップを)スワッグ・ラップって呼んでくれてもいいです、って感じですけど--って上がっていかないといけないし、上がれば上がるほどパワフルになる。今のKANYE WESTのラップがパワフルなのってそういうことだと思うんです。『俺ら今やパリでニュースだぜ』とか、凄くなればなる程そういうことが言えるカッコ良さがある」

■VERBAL氏も以前同じようなこと言ってたね。「HIP HOPは今の自分よりでっかくなっていくべきもので、下に下がっていくものじゃない」って。
「“Pain(痛み)”とか、そういうテーマばかりが集中していくとHIP HOP的には縮小してしまうんじゃないかな、って思っていて。周りのヤツが助けてくれて上がっていくような甘えたシステムじゃないし、自分で上がっていくしかないんです。だから、自分が上がっていかなきゃいけない理由を自分で作る。俺は自分のスタイルが、HIP HOPをもっと大きなものにする上で必要だと思っているんです」

■さっき話に出て来た“スワッグ・ラップ”に関して詳しく。
「いろんな考えがあると思うんですけど、自分は“共感ラップ”とは真逆にあるものだと思ってて。他人が共感できないことを言うことこそがカッコ良い。『音楽って共感できるからいいよね』とか……」

■日本人は言いがちだよね、それ。
「よく言いがちだと思うんですけど、それとは真逆。だから、俺は自分を追い込んで自分を貫き通すしかないんです。真逆のところにいる俺が近づく余地がない」

■“LIGHTS AND SHADOWS”の「スキルある分俺なら群れたくない」っていうラインに繋がる話だね。
「今着てるT・シャツに書いてる文“Don't talk about style 'cause I embarrass you”はKANYE WESTのライン(“COLD feat. DJ KHALED”)なんですけど、『(俺の前で)スタイルのことは語るな、お前が恥かくから』っていう意味で、今のKANYEだから言えることなんです。パリコレに自分のコレクション出すラッパーって彼ぐらいしかいないじゃないですか。だから、『それは共感できねぇよKANYE!だけどスゲェ、カッケェ!』っていう感覚が重要で、そういうことがカッコ良いと思える感覚ってこれまでの“共感ミュージック”とは違うじゃないですか。『そんなこと言ってみてー、カッケェ!』って。俺はそこを突き詰めてるんです。俺のHIP HOPだけが正解ってわけじゃないけど、HIP HOPにおいては重要なパートだと思ってます」

■僕もHIP HOPの入り口はUSのギャングスタ・ラップだったけど、確実に共感したからハマったわけじゃないよなー、っていつも思ってる(笑)。今AKLO君が言ったことは、USのラップを聴く人にとっては理解しやすい話だと思うんだけどね。
「そうそう。だから、そういう意味ではMSCの漢君のラップとかも“共感”じゃないじゃないですか。でもスゲェカッコ良い、聴いてるとタフになった気になるっていう」

■リスナーに媚びる方が簡単なわけだけど、そこを突き放してもなお支持を得るのは難しいと感じることはない?
「そこに関しては自信があるんです。根拠のない自信じゃなくて実感してるんです、みんながこういうスタイルを求めてるって。少なくとも日本のHIP HOPヘッズは。共感を求めるようなHIP HOPがあっても全然いいんですけど、そうじゃないモノがもっとあってもいいんじゃない?って」
 


 
 

Pickup Disc

TITLE : THE PACKAGE
ARTIST : AKLO
LABEL : LEXINGTON CO.,LTD., ONE YEAR WAR MUSIC/OYWM12004
PRICE : 2,835円
RELEASE DATE : 9月5日