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EGO

インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)

「日本のシーンが変わってると思うのは、フロウや聴こえのカッコ良いラッパーとメッセージ性の強いラッパーが、今までは結構分かれてたんじゃないかな、って。だけど、そのどっちも備わってるのが自分が考える、本当の意味でヤバいラッパー。フロウはアスリート的な部分で、リリックはその人の生き様。そのどちらともあるラッパーに自分は憧れてきたし、そういう風に自分もなりたい」

 日本語と英語を巧みに操る、いわゆる“バイリンガル”なMCたちは、日本語オンリーなMCに比べて構造面やテクニック面での研究に多くの時間を費やしている印象がある。それは恐らく、いまだ進化を続けるUSラップをより深く理解できるから、というのももちろんあるが、同時に文法/歌詞構造や発音/発声方法など、「日本語であること」に固執してしまうとどうしても越えることが難しい壁をより実感する機会が多く、また、その壁を打ち破ろうというモティヴェーションが生まれるからではないだろうか。
 
 2010年に1stアルバム「EGOLOGY」をリリースしたEGOが、海外も見てきた日本人ラッパーとしてその壁に挑み続けてきたというのは、「EGOLOGY」以降の客演やビート・ジャックなどが発表される度に印象付けてきた、自身のスキルの成長具合からも伝わってくる。これまでのEGOの活動をあまり追っていなかった人も、前作から2年半の時を経て満を持してドロップするセルフ・タイトル・アルバム「EGO」を聴けば、そんな彼のラップ観を十分感じることが出来るだろう。
 
 
■18歳からUSに住んでいたみたいだけど、その前はどんな感じだったの?
「高校生の頃とかはリリックを書いてたぐらいで、とりあえずHIP HOPのファンでした。その頃とかは、MS CRUとか好きでしたね。ライヴもよく行ってて、MSのTシャツ着てたらステージ上から漢君に『ヤバイね』って言われたのを覚えてます(笑)。それ以外にもTHA BLUE HERBとか、アンダーグラウンドなモノが好きでした」

■じゃあ、本格的にラップを始めたのは?
「それはUSに行って初めてレコーディングをしてからですね。18〜19歳だったんですけど、当時住んでた地元にいたK-BLACKってラッパーに呼ばれて。確か、そいつの前で日本語でフリースタイルしたことがあって、それが面白いってことになって録ったんだと思います。そのとき住んでたところは、ニュージャージー州の結構ゲトーなところで、黒人が20〜30人いるようなホーム・スタジオにひとりで行って、めちゃくちゃ緊張しましたね(笑)」

■住んでたところでのHIP HOPの状況はどんな感じだった?
「NYに住んでる人たちと同じようなモノを聴いてる感じでしたね。当時はG-UNITとかDIPSET、D-BLOCKとかが流行ってたときで、みんな大きい服着てました。そのときにはもうメインストリームのHIP HOPにハマってました。郊外だったからライヴとかはあまりしてなかったけど、レコーディングは結構して、ミックステープを作ったりしてましたね」

■2008年にFOURD(NY在住の日本人トラック・メイカー)とミックステープを出してるけど、それがそのミックステープ?
「それは日本に帰ってきてからですね。FOURDとかYINGYANGとかは、日本に帰ってきたから知り合いました」

■USに住んでた経験は、やっぱり今に繋がってると思う?
「繋がってますね。ラップを始めたときは、とりあえず周りがみんなすごくラップが上手くて、自分は超下手くそなところから始めたんで。あと、周りが自分のリリックを理解できないから、フロウで聴かせないといけないっていうのは、そのときからすごいありましたね。間の取り方で周りの黒人を頷かせるっていう」

■今、中ジャケを見たら辞書の“ego”って言葉の欄の画像が載ってたけど、そういえばなんでこのMCネームを付けたの?“エゴ”って言うと、ネガティヴな意味に取る人もいると思うけど。
「この名前は、さっき話した黒人だらけのところで初めてレコーディングした日に思いついて付けたんですけど、最初の一歩って、自分にまったく経験や実績がないところで踏み出すじゃないですか。そういうのって結構“エゴ”なのかな、って。根拠のない自信が一歩踏み出させてくれたから、そのときピンと来たんですよね。でもラッパーなんてエゴそのものだと思います。自分の信じてる生き方を広めることが、他の人にも良い影響を及ぼすなんて考えること自体がエゴそのものだと思うし(笑)」

■日本に帰ってきて、すぐ日本のHIP HOPシーンとリンクし始めたの?
「帰ってきたときは、ホントに日本のシーンに知り合いはいなかったですね。ISH-ONEとか、その周りの人とは付き合いはあったけど、業界の人と知り合ったのは『EGOLOGY』を出してからですね」

■ISH-ONEとはどうやって知り合ったの?
「mixiかなんかで知り合いましたね(笑)。ISHが『ST-ILL』(06年)出した直後に知り合ったんですよ。知り合った時点で彼の曲は聴いてたから、カッコ良いと思ってたし、海外生活長い者同士ですごく気が合って」

■で、2010年に1st「EGOLOGY」、ミックスCD「BREAK THE SILENCE」がリリースされて。
「正直、まだ発展途上な感じだったし、20歳頃に書いたリリックばかりだったから、社会に対する怒りや憎しみをぶちまけてましたね(笑)。声の出し方とかも今と全然違いますね。でも、周りに黒人しかいないようなところでやってた分、他の日本語ラッパーにはない間の取り方とかフロウには自信があったし、リリックの内容も他のラッパーが書かないようなことが書けると思ってましたね」

■じゃあ、「EGOLOGY」から現在の間の2年半はどんな期間だった?
「2ndアルバムを作ってる2年半というよりは、思い描いたアルバムを作れる自分になるための期間だったって感じです。全ての面においてもっとレヴェルを上げたかった。2ndアルバムは外国人が聴いてもカッコ良いと思わせながら、日本人にも内容が分かりやすいものにしたいと思ってました。取り敢えず2年半、練習しまくってましたね。聴く音楽が変わってきたのも大きいです。それまではDIPLOMATSとか超聴いてたのが、サウスとかをどんどん好きになってって。サウスのビートにラップを載せるのと、NYのビートに載せるのとでは違うところがある。単調なラップだと、サウスのビートではラップが映えないんですよね。そういったビート上でフロウをキレさせる、っていうのは練習しましたね。2年半は我慢の期間だったけど、2ndは『EGOLOGY』から圧倒的にレヴェルが上がったって分かるようなモノにしないと意味がないと思ってたから、取り敢えず作りまくってました」

■「EGOLOGY」から更に成長する上で、特に高かったハードルはどういった部分?
「やっぱり声の出し方とか、トラックとキーを合わせたりわざと外したりとか。あとは、フロウをキレさせることですよね。『EGOLOGY』の頃のフロウって、その頃聴いてたD-BLOCKとかDIPLOMATSに影響されてて、モッタリしてるっていうか、後ノリ/隙間で楽しませる感じだったけど、最近はそういうラッパーってほとんどいないじゃないですか」

■「キレさせる」っていうのは具体的に言うと?
「言葉で説明するのは難しいんですよねー」

■じゃあ、最近のUSラップで言うとどの辺りにインスパイアされた?
「RICK ROSS、LIL WAYNE、MEEK MILLとか……簡単に言ったら、前よりもっと言葉を詰め込んでるかもしれないですね」

■“REAL FELLAZ”とかも、間を空けつつも、ラップしてる部分は文字数多いというか、メリハリが前よりあるよね。
「そうですね。今まではただ書いてただけだったのが、もっと音楽的にフロウを捉えて、曲としてのバランスだったりを意識しましたね」

■話は逸れるんだけど、TwitterでよくUSラップの歌詞を自分で訳して載せてるよね。
「やっぱり日本って、世界では珍しいぐらい英語が苦手な国で、やっぱり歌詞が分からないと、今USのHIP HOPでどういうことを言ってるのかとか、予想や想像とかでしかなくなっちゃってると思うんです。だから、ニュアンスだけでも伝わってほしい。自分はもちろん日本語ラップ・シーンで活動してると思うけど、HIP HOPってやっぱり世界のモノだから、自分の中では世界を見て活動したいと思ってるし、日本のHIP HOPももっとそういう視点でやる人が増えた方が面白いと思ってます。例えば今だったら2 CHAINZとか出て来て、日本人が彼を見てどこを判断するかって言ったら、服装とかキャラとか、感覚で判断すると思うんだけど、そうすると『リアルじゃないな』みたいな感じになるかもしれない(笑)。だけど、リリックが分かってたらすごい面白いこととかも言ってて、そういった部分がもっと伝わればいいな、って」

■これもTwitterだけど、「すべての面で負けたくない。日本人だからとか全く関係ないから」ってつぶやいてて、世界万国のHIP HOPヘッズが共通して評価する、っていうのはEGO君の中で重要?
「そうですね。日本以外の人が聴いたら、多分自分が何言ってるかは分からないだろうけど、フロウだったりキャラだったりビートだったりで、分かる部分もあると思う。最近自分、韓国のHIP HOPとか聴くようになって、DOK2ってラッパーのファンになっちゃったんですよね。彼をきっかけに韓国のHIP HOPだけじゃなくて韓国っていう国自体にも興味が出て来て。日本でも、もしそういうことが出来るラッパーがもっと出て来たら、もっと日本のことを誇りに思えると思うんです」

■“バイリンガル”ってよく括られると思うんだけど、バイリンガルであることは、EGO君の中でどれだけ重要?
「アメリカ英語が一番HIP HOPにしっくり来ると思ってるんですけど、そのアメリカ英語を上手く日本語に取り入れて言葉をハネさせて、US HIP HOPに近づかせるのはバイリンガルの方がやりやすいと思うし、そういうところでは有利なんじゃないかな、って思いますね。ただ、それをやりすぎて日本人が何を言ってるか分からないようなラップになるのは避けたい。でも正直、“バイリンガル・ラッパー”ってカテゴリーがあるのも日本ならではだし、韓国だってかなりのラッパーが英語喋れるっていうのが見てても分かるし、ヨーロッパはほとんどの人が英語喋れるんでバイリンガル・ラッパーが多いですよね。日本のシーンが変わってると思うのは、フロウや聴こえのカッコ良いラッパーとメッセージ性の強いラッパーが、今までは結構分かれてたんじゃないかな、って。だけど、そのどっちも備わってるのが自分が考える、本当の意味でヤバいラッパー。フロウはアスリート的な部分で、リリックはその人の生き様。そのどちらともあるラッパーに自分は憧れてきたし、そういう風に自分もなりたい」

■「EGO」を出して、今後はどういう動きを考えている?
「また次のレヴェルに行けるアルバムを出したいし、次のアルバムはフロウやデリヴァリーの面でUSのラップに本当の意味でまったく負けてないものを作りたいです。それプラス、英語を減らしてリリックをもっと分かりやすくしたいですね。自分の思い描いているそのバランスが日本で出来てるラッパーってまだひとりもいないんです。それを成し遂げたい……自分の“エゴ”ですけど(笑)」
 
 

Pickup Disc

TITLE : EGO
ARTIST : EGO
LABEL : BREAK THE SILENCE/BTS-007
PRICE : 2,500円
RELEASE DATE : 10月12日