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やけのはら

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「HIP HOPも好きだけど、でも基本はバンドっていう人たちが作るみたいな、アレンジやコードの動き方は、自分の引き出しからは普通には出て来ないんですよ。だから、やってる内に、やっぱり出来ることはこれ(HIP HOP的な制作の進め方)なんだなって。でも、HIP HOPが原点だからこそ、如何にそこでもがいて、エクスキューズのない音楽に作り上げるかっていうのは考えますね。HIP HOP世代としてのBEACH BOYS『PET SOUNDS』を作りたいっていうか」

 
 やけのはらが「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」から2年半ぶりとなるアルバム「SUNNY NEW LIFE」を完成させた。柔らかな陽射しが差し込むような、豊かで穏やかな日常性をそのままパックしたような音像と情景は、いわゆるHIP HOP的なサウンドとは異なったシンガー・ソング・ライター的な風情を湛えている。そして、そこからは同時に、HIP HOP的な手法の新たな可能性を感じさせる。VIDEOTAPEMUSICやDorian、キセルを制作に、高城晶平(cero)と平賀さち枝をゲスト・ヴォーカルに迎えた本作から感じる、J・ポップと言う意味ではない、HIP HOPのポップスとしての広がりと魅力を、耳にして欲しい。
 
 
■まず、前作「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」の反響はいかがでしたか?
「反響……投書とかで届くわけじゃないんで、なんだろうな……。でも、なにか実感があってもそれをどう言語化するかは難しいですね。話は進んじゃうんですが、アルバム毎にコンセプトまでは行かなくても、一枚ごとのカラーがあるモノを作りたいってイメージがあったんですね。で、前作は“夜”とか“街”って感じだったので、今回はもっとアコースティックだったり、シンガー・ソング・ライターっぽい、パーソナルなモノにしようって。それは、1stでああいったイメージを出せたから、次は今作で表わしたような内容っていうイメージが出来たっていうか。1stではワイワイ感も形としてはある程度出せたから、二作目はもっと違う方に進めたって感じですね。前回も“ YOUNG”とか“NIGHT”っていうキーワードをタイトルに入れてたんだけど、今回も“SUNNY”“NEW”“LIFE”っていう風に、タイトルに作品のキーとなるワードを入れてて。それは、そういう表現をすると、そのイメージ通りにみんな聴いてくれるんだなっていうのを良くも悪くも前作で感じたからなんですよね。なので、今回は『SUNNYですね』とか言われるかもしれないけど」
 
■その意味では、“NIGHT”から次の朝を迎えたということになるかと思うんですが。
「なので、陽の差した日曜日の昼間に部屋で聴くようなイメージだったり、そういうイメージを寄せ集めて今回のアルバムに至ったと思いますね」
 
■昼間の音楽って感触ですね。だから、個人的な印象ですが、晴れた日に、電車に乗って車窓を眺めながら聴いたときに、音像や表現がすごくしっくり来る感じがあったんですよね。そこが前作と違うところなのかなって。
「そういう平熱感はあったかもしれないですね。すごく喜んだり悲しんだりっていうより、もっとサラッとしたイメージでっていうのはありました。前回よりもクラブっぽさはないし、意識的にそういうワードは歌詞に使わないようにして。“生活”がテーマになったら、ある程度そうなるっていうのは分かってたんですが、普通に日本に生きてる人にとって、自然に意味の通じる内容にしたかったですね。単純にそういう気分だったっていうのもあるんですけど、前作よりももうちょっと穏やかなモノを作品に落とし込みたかった。それは前のアルバム以降、自分自身がそういうモードだったのかな。派手なキックや音を聴きたい気分じゃなかったっていうか。古い音だったり、しなやかな音を聴きたかった」
 
■今回のアルバムは確かにそういう音像だと思うんですが、それはやけのはらさんも参加したユニット:younGSoundsでのアルバム「more than TV」があったからというのはありますか?younGSoundsの音はいわゆるHIP HOP的な派手さとは違うけど、激しかったり過剰だったりしますよね。そこでそういった衝動は吐き出したから、こういったあまり足しすぎない音になったのかなって思ったんですが。
「それはたまたまですね。younGSoundsのアルバムは、5年ぐらいかけて作った曲を、あのタイミングでまとめただけなんで。でも、平行してあったりもしたんで、自分の作品はもっとパーソナルでいいのかなってことは、ちょっと作用してるかもしれないです。でも、younGSoundsでやってる音楽は、自分の音楽の趣味を直接的に反映しているわけでもなくて、みんなで集まって、何が出来るかっていうお題性って感じもあるから……って、もうちょっとAmebreak寄りの話じゃなくて大丈夫ですか?全然HIP HOPと関係ない話ですけど(笑)」
 
■では、そのまま伺いますが、そういった「HIP HOP的な」部分って意識されてますか?今回は特にいわゆる「HIP HOP性」といった部分からは離れていると思うんですが。
「より意識してないっすね。自分の中の好きなモノとしては、もちろんHIP HOPはあるし、現行のHIP HOPでも好きなモノはあるけど、そのシーンに属して、その中で自分をどう見せようって気持ちはまったくないですね。友達の人もいたり、いちリスナーとして刺激や影響を受ける部分はあるけど。でも、このアルバム制作の最後の2週間ぐらいになって、急にTRAPが気になりだして、最後の曲“where have you been all your life?”ではそれを取り入れたんですけど。だから、アコースティックさだったり、古さみたいなモノに作品全体が寄ってたんで、その揺り返しとして、そういうのは入れたくなったのかな。そうやって、ピンとくるものもあるという意味では、HIP HOPに興味はありますけどね。でも、流行ってるスタイルに無理やり合わせるとかはないです。世代的にHIP HOPやテクノ、サンプリングという行為や質感は自分の中でベースにあるので、まったく関係なくはないし、アコースティックのような音楽的な要素を取り込めば取り込むほど、逆にHIP HOPやサンプリングから受けた影響に気付かされたりするんですけどね。自分が出来るモノだったり、好きだったモノとして、余計にHIP HOPに向き合わざるを得ないっていうか」
 


 
■今のお話の通り、このアルバムは「いわゆる」HIP HOPではないと思うんですが、でも、構造や構成という部分ではHIP HOPだと思うんですね。
「それが染みついてますからね。細かくコードが動いていくより、パート毎に展開していったり、決められたコード展開だったりっていう、HIP HOPやブラック・ミュージックの構造が。例えばceroみたいに、
HIP HOPも好きだけど、でも基本はバンドっていう人たちが作るみたいな、アレンジやコードの動き方は、自分の引き出しからは普通には出て来ないんですよ。だから、やってる内に、やっぱり出来ることはこれ(HIP HOP的な制作の進め方)なんだなって。でも、HIP HOPが原点だからこそ、如何にそこでもがいて、エクスキューズのない音楽に作り上げるかっていうのは考えますね。HIP HOP世代としてのBEACH BOYS『PET SOUNDS』を作りたいっていうか」
 
■HIP HOP的な構造を持ったまま、如何にSSW的な、パーソナリティも含めた音楽性に溶け込めるかっていうアルバムなのかなって。だから、細野晴臣の1st「HOSONO HOUSE」のような風情を感じたんですよね。
「確かに『HOSONO HOUSE』とか、真島昌利さんの『HAPPY SONGS』みたいな、ひとり感とか手作り感は頭の片隅にありましたね。具体的にそこを目指したってわけではないけど。でもちょっとブルーだったり、部屋感っていうのは思いました。“RELAXIN'”は部屋からの景色だし、全体的にも外に出てる描写っていうのはほとんどないと思うんですよね。でも、部屋で体育座りしてるって感じではないけど(笑)」
 
■今回の歌詞は、決定をしない歌詞だと思ったんですね。前回も何かを決定してたわけではないけど、今回はより何かの答えや明確な表明を保留しているというか。
「それは、なんだろうな……。全体的な性格かもしれないですね。自分の性格としてHIP HOP的な自分を大きく見せる振る舞いは合わないけど、でも、力強く何かを言うって部分のカッコ良さは分かるんです。HIP HOPだけじゃなくて、レゲエとか、ブラックネス・カルチャーに強く表われる部分で。ただ、自分の(物言いとは)それは合わないし、声高に何かを『こうだ』って言いたい性格じゃないから、っていう部分だと思うんですね」
 
■前回は視点を描写する側面が歌詞に強かったとしたら、今回は内面を描写する部分が強いですよね。
「より観念的ではありますね」
 
■観念的で心の世界や心情を書くんだけど、それなのに「こう思う」っていう決定をしないのが面白いなって。「俺はこう思う」ってことを声高に言うことは、HIP HOPのテーゼとしてあると思うんですが、それに対する、アンチまでは言わないけど、カウンターという部分はありますか?
「そういう物言いは自分には合わないし、音楽を続けてきた中で、自分に『合う』『合わない』は分かってきたので、それを踏まえて、自分のやり方でやってるって感じですね。ただ、ラップってヴォーカル技法でも、こういう表現があってもいいんじゃない?って気持ちはありますけどね。ロックにしてもどんなジャンルにしても、一個の技法とか思想に関わることによって、『こうしなきゃいけない』って、意識って生まれちゃうとかもあるじゃないですか。それに対するアンチでもないけど、それとは違う表現があってもいいのかなっていう意識はあります。且つ、自分のパーソナルが、そういう外的な決まりによって左右されるのが嫌だなって。だから、ラップって技法を使ったら急に威勢が良くなるんじゃなくて、ラップであっても、自分のパーソナルをそのまま出したいなって。そういう意味では、HIP HOPだったり、サンプリングってモノに対して、昔よりドライに接してるのかもしれないですね。別にHIP HOPを背負ってるわけではないから」
 
■“JUSTICE against JUSTICE”も、価値相対主義的な部分も強いから、「“絶対”を提示するラップ」に対するカウンターなのかなとも感じたんですが。
「でも、これは中立性の曲じゃなくて、どんな争いにも正当性はないって曲だから、むしろ一番明確に意志を示してるんですけどね。これは、尖閣問題とか、石原慎太郎がマチズモ的な発言を繰り返してたときに思ったんですよね。“国”や“民族”っていうことを掲げて、その大義名分によって関わってる人を扇動するっていう、石原的なマチズモに対して、それは違うんじゃないかなって。それに、これだけ情報が多い世の中なのに、石原みたいに『いつでも戦争してやる』ってことを平気で言う人をなんで多くの人が支持できるんだろう?って疑問もあって。そういうムードに煽られたら、なびいてしまうような雰囲気も感じたんで、それは嫌なんで、という曲です」
 
■そういう明らかな意識があるのに、それを形にしないのは?
「繰り返しになりますが性格ですね。明確に『ファック石原』みたいなことを言うのは性格的に合わないし、そういう内容にすると賞味期限が短くなっちゃいますし。でも、“JUSTICE against JUSTICE”のような構成だったら、10年20年経っても、『戦うことに対する意識の曲』として聴けるかなって。直接的な曲をもし作ったとしたら、そういう曲はSoundcloudとかに上げた方が、意味があるかなって思います」
 
■このアルバムに描かれた、こういう日常って、東日本大震災前は普通に享受できた生活ですね。そこに戻るという感覚ですか?
「いや、それは僕の意図とはまったく逆ですね。3.11が起こって、これまで連綿と続いてきた日本の社会構造やシステム、経済性ってモノの綻びがより明らかになったと思うんですね。どちらかといえば、このアルバムでは、そうやって続いてきたサイクルを続けるんじゃなくて、新しいライフ・スタイルや、考え方を見つけようよってイメージですね。前回のアルバムは、街に出て楽しむっていうのがひとつのテーマにはあったけど、それは3.11以降は無邪気に同じノリでは作れないなって。でも、楽しむのがいけないってわけではなくて、もっと、いち人間、いち大人として、もっと『地固め』をしたいなって。震災以降に表面化したことや、クラブの摘発に付随して風営法だったり、改めて考えなければいけない事態が増えましたよね。そういう今まで当たり前にあったモノをもう一遍知ったり、自分にとってどんなモノなのかを考えたり、そういう、自分の生活に纏わるモノを改めて見つめ直して、そこから地固めしたいなって意識はありますね」
 

 
■話は変わって、今回は制作はどのように進められましたか?
「ケース・バイ・ケースなんですけど、VIDEOTAPEMUSICとの曲は、彼からデモをもらって、そこにビートを足したり 、楽器を足したりって感じで作っていきましたね。それ以外の曲は、自分でベーシックとなるビートやコード、音を足していって、そこで作っていきました。そういう普通の作り方ですね。普通の作り方にどんどんなっていってます。今回は、奇を衒った音やアレンジよりは、サラッとしたかったんで、基のイメージからスッと作ったって感じで。自分が今聴きたい音楽のイメージがそれだったから。打ち込み的にも、ハイ・エンド/ロー・エンドが強いものが気分じゃなかったんで、それよりももっと丸みのある音を中心にして。そこで、サンプラーを通った音とレコードの音が好きなんだって改めて気付いたんですよね。あのミッドが出てる音が好きなんだなって。加えて、空気感もテーマだったんですよ。音的 に、隙間がミッチリ詰まってない感じを形にしたかったんですよね。アナログの質感というか、ノイズの豊かさのようなニュアンスを入れたいっていうのが、全体のトーンとしてあって。だから“Air check”はテレコを使って、空気感の面白さを残せたらなとか」
 
■“TUNING OF IMAGE”はラジオのイメージですね。スキット的だけども、そのアナログ感を象徴してますね。
「古いラジオの、『チューニングを合わせる』っていう観念が面白いなって。そういうアナログ感だったり、レコードの溝から音が出るような、空気を介して音を出すっていう、ロマンティックなモノをすごく形にしたくて」
 
■最後に、このアルバムを作ったことでの気づきは?
「アコースティックなことを基本にしたことによって、逆に、俺の出来ること/出来ないことが分かったっていうか。達者に歌は歌えないなとか、ギターだけで一曲聴かせるってことは出来ないなって、アコースティックな音像で作った分、思い知らされましたね。今回は、こういう気分を形にしたんで、次は違うモノを作ることになるとは思うんですが。でも、自分のアルバムを、ラップを聴く人がどれぐらいの割合で聴いてるのか、見当がつかないんですよね。5割以上ってことはないと思うし。でも、聞いてくれるなら嬉しいですけどね」
 
■例えば、A-THUGとやけのはらを一緒に買う人は、ゼロではないにしろ、想像するのはちょっと難しい気もしますが、キリンジや流線型とかと一緒に買う人は普通に想像できますね。
「なるほど。でも、そういう、ポップス的に聴かれたいってイメージはありますね。特定のジャンルや文脈をターゲットにするというよりは、ただ音楽としてアピールして、チューニングが合う人が、手にとってくれればなって。そういう意味では、すごいボンヤリしてるけど、ボンヤリ色んな音楽を聴く人をターゲットにしてますね(笑)」
 
 
EVENT INFO
Erection presents
YAKENOHARA「SUNNY NEW LIFE」 RELEASE PARTY supported by felicity
 
日時:5月3日(金)18:00開場/開演
場所:代官山UNIT
料金:前売り 2,500円(前売り特典付き)/当日 3,000円(各ドリンク代別)
LIVE:やけのはら/LUVRAW & BTB/THE OTOGIBANSHI'S
GUEST:VIDEOTAPEMUSIC/DORIAN/MC .sirafu/LUVRAW/高城昌平 (cero)/平賀さち枝
DJ:高城昌平 (cero)/shakke
(問)
プレイガイド:
チケットぴあ http://t.pia.jp/(Pコード:196-364)
ローソンチケット http://l-tike.com/(Lコード:73399)
e+(イープラス) http://eplus.jp/

 
 

Pickup Disc

TITLE : SUNNY NEW LIFE
ARTIST : やけのはら
LABEL : felicity/PECF-1069
PRICE : 2,500円
RELEASE DATE : 3月13日