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インタビュー:高木“JET”晋一郎

「アルバムの全体的にも、重苦しいモノばかりにはしたくなかった。もちろん震災以降に思わされたことも入るけど、同時にライヴやパーティって部分も自分にはあるから、“現実”と“現実逃避”の両方が欲しいなって」

 ラッパーとしての活動はもちろんだが、反原発/脱原発運動、そして反レイシズム運動と、行動者としても動き続けるECD。彼の新作となる「THE BRIDGE :明日に架ける橋」は、そういったポリティカルな部分、“NOT SO BAD”といった日常的な部分、“APP”のような音楽やパーティの部分、そして“憧れのニューエラ”のようなキャッチーな部分と、これまで以上にヴァラエティに富んだ内容構成が印象的だ。そして、スッと耳に飛び込んでくるラップとビート感は、これまでの切迫したような緊張感よりも、より耳馴染みが柔らかく、日常的な感覚を覚える作品となっている。ECDとしての全人格性が強く表われたこの作品は、ECDそのままが眼前に立ち現われたような一枚だ。
 
 


 
■アルバムのリリースに先行して“憧れのニューエラ”をネットにアップされましたが、あの曲を選ばれたのは何故だったんですか?
「そこまで意図的ではなく偶々なんだけど、あの曲と“The bridge”は既にライヴでやってて。それで、去年に池袋bedで連続してライヴがあったんだけど、妙にbedではあの曲がウケたんだよね。バンドとの対バン・ライヴとかだとそこまでウケなかったんだけど、bedでやけにウケたから、これはイケるかなって」
 
■NEW ERAのキャップを被ってる連中が多いところだとウケるという。
「話の内容も伝わるからね」
 
■今よりも「HIP HOPファッション」というカテゴライズが強かった頃が描かれていますからね。前回のアルバムは、基本的には東日本大震災の起こる前に作られた作品でしたが、震災以降、ECDさんとしても脱原発/反原発運動に関わられたりしたので、震災やポリティカルに纏わる部分が強くなるのかなと、勝手な思い込みですがそう考えていたので、あの曲がまず発表されたのが結構驚きでもあって。
「アルバムの全体的にも、重苦しいモノばかりにはしたくなかったから。もちろん震災以降に思わされたことも入るけど、同時にライヴやパーティって部分も自分にはあるから、“現実”と“現実逃避”の両方が欲しいなって。そういった意識は『Don't Worry Be Daddy』よりも強いかもしれない。『Don't Worry Be Daddy』は生活に対する悩みとか生活苦みたいな部分にフォーカスされてたから」
 
■「10 YEARS AFTER」も「Don't Worry Be Daddy」も切迫感のあるアルバムだと感じてたんですが、今回はそことはまた違ったイメージですね。
「音楽の役割というか、音楽に求められているモノを考える部分もあって。でも、今回のようなイメージになったのは、3.11以降に感じたことを考えた上でだったかな」
 
■ポリティカルな内容と、キャッチーな内容とのバランスが興味深かったのですが、それは3.11があって考えられたということですね。
「去年の7月にあった大規模な反原発デモの時に、石黒(景太)とかが企画したアフター・パーティがあったんだ。基本的にデモに参加した人のためのアフター・パーティなんだけど、内容は政治的なモノではなくて。その、昼間:デモ/夜:パーティみたいな感じに参加したことで、その両方があるのはいいし、それが欲しいなってそのときに思ったんだよね。ちょうど制作してる最中でもあったんで、この感じのバランスでアルバムも構成しようと。自分の中で政治的な意識はもちろんあるけど、音楽は、またそれとは違うんだよなとも思ったし、少なくとも反原発に関しては、音楽で伝えられることは既に大方やってると思う。あれだけの事故が起きて、既に広く知られているわけだから、そういう意味では、もう音楽を通して知らせるってことでもないと思うし。最初の頃は、そういう抗議行動があるとかってことを、音楽を通して広めるってこともあったけど」
 
■「THE BRIDGE : 明日に架ける橋」というタイトルはどこから?
「それも、このアルバムを作ってるときに、デモに多くの人が集まって、今までのデモと違う動きだなって感じ始めたときに、『みんな橋を渡ろうとしてるんだな』って思ったから。『橋を建設中』というか」
 
■もうひとつ新しいパラダイムに向かっているというか。ECDさんの中でも反原発運動に関わられたのは大きかったですか?
「タイトルに関しては、そういう運動に参加してっていう部分が関わってるかな」
 
■作品としても、日常性の高い部分と原発や社会的な問題が同時に入っているのが、考えたら怖いことだなって。絶望するようなことと日常が一緒に起こってるんだなってことを改めて思わされて。そのどちらかに寄っていれば、その気分で聴き通せばいいんだけど、そのどちらもがあるから、複雑な気分にもさせられて。
「このバランスは、自分がそうなってるからっていうのがあるね。ファッションについて言及するのも、ちょっと前よりも少しお洒落をしたくなってたり。逆に3.11前の方がお洒落なんかどうでもいいって感じだったんだけど。やっぱり、現実が重すぎて、それを跳ね返したいって気持ちがそこに表われてるんじゃないかな。押しつぶされそうだからこそ、汚い感じになっていくのは嫌だなって。それが今のモードなんで、そのまま作品に入っていったというか」
 
■先日のRAPSTREAMでも“ラップ最前線”をOAさせて頂いたんですが、この曲を作られたのは?
「その曲がアルバムで一番最初に作った曲なんだよね。この前JUKEのコンピレーション『160OR80』に参加したんだけど、その話が来る全然前に作った曲で。とりあえずBPM80位の、JUKEっぽい曲を作ろうっていうのが曲の原点にあって。結果的にはそうならなかったんだけど(笑)。でも、上ネタ的にはJUKEっぽいものを目指したんで、歌詞でも、自分は新しいことをやってるぞって感じで(笑)」
 
■“最前線”という意味では、新進のトラックメイカーであるsoakubeatsの作品にも参加されましたね。
「粗悪君は、誰かのツイートを見てたら出てきてたからか、いつの間にか名前は知ってて。それでデモで会うようになって、去年の今頃にオファーをもらってたんだよね」
 
■という位の繋がりなんですね。密に付き合いがあったというわけではなく。
「全然なんにも。でも、あのアルバムに参加してる人は結構そうなんじゃないかな。もちろんDEKISHI君とかは元々仲が良かったんだろうけど、それ以外のOMSBとかMARIAとか、別に密じゃないと思う」
 
■そう考えると彼はすごい行動力があるんですね。
「本人を知ってるから余計そう思うのかもしれないけど、あの図々しさは本当に凄い(笑)。あんな面子のアルバムになると思わなかったもん」
 
■彼のビートは刺激的なんだけど、すごく最先端かと言ったらそうでもないし、乱暴な部分も強くて粗も少なくはないですよね。誰もが認めて求めるような最先端で整ったトラックだったらあの面子も納得がいったんですけど、発展途上のビート・メイカーにこれだけ集まるのは何故なんだろうなと思ってたんですが、その行動力も理由のひとつにあると。
「そうそう。ビートも名前の通り粗悪だよね。でも、『粗悪君にアルバム出せば?』ってけしかけたのが石黒だったっていうのもあって(笑)」
 
■同時にDJ PMXさんの“THREE THE HARD WAY feat. 宇多丸 (RHYMESTER), 高木完, ECD”もあったわけで、その振り幅もすごいですよね。
「去年はホントにそうだよね。でもPMXのアルバムもCherry BrownとかMARIAとか粗悪くんの面子は被ってたりもして(笑)」
 
■新しいビートや新しい切り口に感受するポイントっていうのはどういう部分だったりしますか?
「Cherry Brownとか聴いてると、本当は上手いのに、それを押し出さないでもっと飄々と乗っけてみせる感じを受けるんだけど、そこが面白いんだよね。サウスの連中もそうだと思うんだけど、ビートに対してシリアスになりすぎず、でも聴いてると気持ち良いっていうか。そういうのを自分でもやりたいなって。テクニックやスキルを見せびらかすんじゃなくて、難しいことやってませんよってサラッと見せるっていうかね」
 
■ECDさんにとっての今の最前線はどういったあたりになりますか?
「最近聴いた中で、テクニカルな意味でも、ラップがスムーズに気持ち良く聴こえて興味深いなと思ったのはKLOOZのアルバム『DECORATION』かな。言葉が一語一語耳に飛び込んでくる感じが、ホントに気持ちが良いなって。韻の踏み方も、ここは踏んでここは踏まないって構成の部分だったりが本当によく出来てて。OMSBとかの巧さはホントに感覚による自由自在な感じだけど、それとはまた違う巧さをKLOOZに感じて」
 
■もっとロジカルというか。
「でも、その考えてる部分を、内容的には見せない感じが面白いなって。あの軽い感じが(笑)。彼とかYOUNG HASTLEみたいな、お洒落な軽い感じはすごく好きで。“ME & THE BIZ”の頃のMASTA ACEって多分、ああいう感じだったんじゃないかって思ったりもするんだよね。普通に服の話が中心だったり、ノヴェルティっぽい感じが。そういうことを日本のラップはしてこなかったなとも思ったり」
 
■“ラップ最前線”での「弁解なし」っていうのは、今の音楽を象徴してますね。先に説明や理屈があってから聴くんじゃなくて、ネットなどで「そのまま聴けてしまう」っていう事実があるし、この曲はそれをダイレクトに表わしてるなって。
「それが面白いんだよね」
 
■前回のインタビューではまだ不透明なダウンロード・シーンでしたが、AKLOやKLOOZ、tofubeatsやCherry Brownがしっかりと注目を集め、フリー・ダウンロードが結果として形になり始めてますね。
「でも、まだまだだって思ったりもして。もっとドカンと行ってくれると、状況は変わるよね」
 
■“NO LG”では、複雑というと大げさかも知れませんが、“ECDのロンリーガール feat. K DUB SHINE”についての思いを形にされていますが。
「“ECDのロンリーガール”のYouTubeでのアクセス数が『え、こんなあるの!?』ってくらいの数だったんだよね。僕の他の曲と二桁ぐらい違ってて。それで、これはなんか形にしたいなって(笑)」
 
■加藤ミリヤの影響もありそうですね。
「それもあるだろうね。いまだに加藤ミリヤの“ロンリーガール”の元ネタはECDとKダブだってブログ書いてる人もいるし。エゴ・サーチするとそれが検索結果に出てくるんだよね」
 
■リリックにも出てきましたが、ECDさんがエゴ・サーチされてるっていうのもちょっと面白いなって。
「するでしょ、だって(笑)。みんな『してない』とか言うけど、してるよね」
 
■僕も恥ずかしながら時々やってます。
「モノ作ったりする人は絶対するよね」
 
■ラッパーの原点的な部分も書かれていますが、それはあえてですか?それとも流れでしょうか。
「流れですね。本では書いてることだし、隠してたことでもないから」
 
■“憧れのニューエラ”に続いて、そういったトピックが出たんで興味深かったんですが、そういうモードという感じですか?
「そうかな。確かに“憧れのニューエラ”に続いて書いた曲だったりもしたんで。同じように“ストレステスト”も確か続けて書いたかな。流れで思い出したって部分もあるし、『ラップらしいラップ』を書きたかったんで、それを形にするとこういうトピックが出てきたのかも」
 
■バック・イン・ザ・デイ的なトピックの取り上げ方もそうだし、それによるリリックの密度の上げ方というか。そして、ポリティカルな部分の話を伺うと、アルバムの幕開けである“知らん顔”は冒頭から、「遅々として進まない」という“震災以降”を感じる部分が登場しますが、そこからお子様の話になっていくのが、社会と実生活はやっぱりひとつのモノなんだよなと感じさせられました。その上で、反原発や反レイシズムに関わられたのは、お子様がお生まれになったことが影響している部分もありますか?
「逆に、子供だけを見てると、そういうことって関係ないとも思えたりもして。今はまだ、そういったモノからまったく影響されずにすくすく育ってるなって思うんだけど、“The Bridge 反レイシズムRemix”で使った写真の女の子ぐらいの年齢にあと10年もすれば娘はなるから、そういったレイシストたちの活動を見て、同じように傷ついてしまうんじゃないかって心配もある。その両方だよね。少なくとも今は子供たちは原発やレイシズムのことで辛い目にはあってないから、そのまま育っていってほしいとも思ってて」
 
■アルバムとは離れてしまうんですが、イルリメさんとECDILLREMEとして“The Bridge 反レイシズムRemix”をアップされましたが、その動きのキッカケは?
「2月9日に新大久保で嫌韓団体のデモがあって、それに対してネット上でも、彼らのヘイト・スピーチをどうにかしなくちゃっていう動きがあって、音楽方面からもそれに対抗する動きはないのかっていうメッセージもあったし、Twitter上で名指して『石田さんも』っていう発言があって。僕としても、自分でもやらなきゃなと思いつつ、KOOL G RAP & DJ POLOの"ERASE RACISM feat. BIG DADDY KANE, BIZ MARKIE & COOL V"みたいに、それを形にするならひとりだけじゃない方がいいよなって。それでどうしようかと思ってるときに、鴨田君(イルリメ)が、元従軍慰安婦が共同生活している『ナヌムの家』に、日本のバンドがその人たちを誹謗するCDを送りつけたことについて憤るツイートをしてて、鴨田君がそういったことに興味があるんなら、彼と一緒に作ろうってすぐ連絡したんだよね」
 
■“The Bridge 反レイシズムRemix”の楽曲の発表や、野間易通さんの『レイシストをしばき隊』への同調という部分でも、反レイシストの活動に関わられての思いはいかがですか?YouTubeやTwitterでもいわゆるネトウヨからの攻撃も受けてるようですが。
「似たような経験はイラク戦争のときに、自分のウェブサイトの掲示板で起こったので、覚悟はしてて。だから日に一回ぐらいはYouTubeチェックして、『わー、アンチ・コメントと低評価が増えてるわー』って位かな。言われることも予想の範疇だったし、リリックの内容に対して、ちゃんとした批判があるわけでもないから」
 
■批判できない構成の内容ですからね。
「『だったら韓国は/中国は』とかネトウヨは言うけど、あの歌詞はどの国のどんなレイシズムに対してもカウンターになる歌詞だからね。でも、そういう部分は鴨田くんと打ち合わせてないんだけど、ちゃんと鴨田君はそういう部分を汲んだ歌詞だったから流石だなとも思ったし、それで、この曲は広く通用するなって。いま起きてる『この感じ』について、話し合わなくてもこのふたりはちゃんと同じ意識を持ててるなっていうのは、より多くの人にちゃんと届くって思えたんだよね。それはすごく力強かったし、もっとアクセスも、賛同者も増えてけばいいかなって」
 
■“今日昨日”や“遠くない未来”で反原発について形にされていますが、運動については如何ですか?
「今は、動いてるのは原発が2基だけなんだけど、それが9月に止まるから、他に再稼働がないとなると、9月から稼働する原発がまたゼロになって。だから、運動としては盛り上がるのは難しいのかもしれないから、地道にずっと廃炉に向けてデモを続けるしかないかなって」
 
■ただ、先日もネズミ一匹で福島第一原発の制御が出来なくなるなど、恐ろしい状況には変わりありませんね。
「息の長いことになるだろうし、粛々と続けるしかないよね」
 
■“The bridge”でラップされてる通り、「戻れやしない」からこそ、やるべきことは多いんだなとも思わされました。一方で、サウンド的にもビート的にも、前二作のような切迫するようなハットの打ち方という部分はそんなに強くないので、もっと日常的に聴ける作品だなと感じました。
「あ、いいですね。でも、僕の最初のトラックは、結構ハットが強いんだけど、そこはツボイ君が(笑)。僕の元々のビートはチキチキした感じだったんだけど、ツボイくんのアディショナルによって、ドラムがブレイク・ビーツに差し替わってたりして、こういう感触になったんだよね。でも、今回の方が残ってる部分は残ってるかな。僕が作ったトラックが却下された、一切僕の音が入ってない曲もあるんだけど」
 
■(笑)差し替えられてるってことですか?
「もう一切。リミックス(笑)。“toilet toilet”なんだけど、僕が作ったのは、TYGA“RACK CITY”っぽい感じだったんだ」
 
■それがツボイさんを経由すると、ああいうロッキッシュな感じになってきたと。
「でも、その方がラップがカッコ良く聴こえたりもしたから、それは流石だなと」
 
■トラックに手を加えられることに対して怒ったりはしないんですか?
「今回はないな」
 
■ということは、あるときはあるんですね(笑)。
「全然ないってことはなくて、ツボイ君の提示に違和感があって、ちょっとどうしようかって話にはなったことはある。でも、そうなるときは、僕もツボイ君もあんまりピンと来てなかった曲だったりする。でも、今回は僕の方でも結構トラックをキッチリ作り込んでたりもするんで、それも機会があれば聴いてもらいたい。この後もまた5月ぐらいから次の制作を始める予定で、今はネタを集めてて。今度は粗悪くんの曲でやったみたいな、自分じゃないキャラクターだったり、自分語りじゃないラップをやって見てもいいかなとも思ってて。同じ人物を描くにしても、その見る角度が普通とは違ったり。KENDRICK LAMERがそういうのやってるよね」
 
■ご自身の作品の他にも、soakubeatsのように若手からのオファーでも、興味があれば参加するという感じですか?
「いくらでもやりたいですね」
 
■どういう才能が出てきたら嬉しいですか?
「う〜ん……女の子かな。超お洒落な女の子のラッパーとか出てくると、シーンの風通しが良くなるかなって。……とか言ってるウチにとすぐ出てきそうだけど」
 
■ECDさんとフィーチャリングするかも?
「え〜、その辺は照れるな(笑)」
 
 

Pickup Disc

TITLE : THE BRIDGE -明日に架ける橋-
ARTIST : ECD
LABEL : Final Junky, P-VINE/FJCD-014
PRICE : 2,415円
RELEASE DATE : 3月27日