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SKY-HI

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「嬉しいくらい、このアルバムを作ってくれた自分が好きだから(笑)。っていうぐらい、このアルバムが好きですね。スゴく良いモノが出来たと思うし、リトル日高も、10代後半前後のときのオープンマイクあったら必ず握りますっていう自分も、それこそポップスとかを聴いてる自分も、HIP HOPリスナーの自分も、そういうリスナー(としての自分)が、ちゃんと喜んでくれるなって」

 
 Amebreakとタッグを組んで制作が進められ、その結実となったアルバム「FLOATIN' LAB」から2年を経てリリースされる、SKY-HIのオリジナル・フル・アルバム「TRICKSTER」。
 
 トリックスター。Wikipediaによれば「神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる人物のこと。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、全く異なる二面性を併せ持つのが特徴」。つまり、価値の紊乱と創造を促す存在として規定されるが、SKY-HIがこのキャラクターをアルバム名/楽曲名に冠したことは、作品を聴けば、非常に合点がいく内容となっている。
 
 トリックスターは自分の抱える善の心にも邪の心にも正直な存在だ。だからこのアルバムのSKY-HIは、時に彼の思う正しい方向にリスナーを導こうとするし、時に痛烈な罵倒で価値を破壊する。
 
 トリックスターは純粋さ(愚かさ)と知恵者である両面を持つ。だからこのアルバムのSKY-HIは、時にあからさまに藻掻き、時にその解決策を提示する。
 
 そして、その両義的な提示を展開する作品の中心にあるのは、当然のことながら「SKY-HI」。強烈なまでに明らかになった「SKY-HIの意識」を感じさせられる一枚だ。
 

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■今回のアルバム・タイトルは「TRICKSTER」だけど、楽曲としても同名曲がある事からも、この曲が肝になったと思うんで、まず“トリックスター”の制作から教えてくれる?
「アルバム曲が半分ぐらい出来たときに、色々トラブルがあって、その後に、“トリックスター”を作ったんですよね。そこで、また作り方が変わったりしたんで、実際にアルバムの全貌が見えたのは、“トリックスター”が出来て以降でしたね。そこでスタンスとかが改めて見えた部分が強かったです」
 
■トラブルは制作上?
「それもあるし、個人的な部分もあって。一番大きかったのは、「愛ブルーム/RULE」と、このアルバムの間に、もう一枚シングルを挟もうと思ったんだけど、そのタイミングで、親友兼スタッフみたいな存在に、「今の作り方は正しいのか」っていう根本的な問題提起をされて」
 
■それはどういった意味で?
「それまでは、ラッパーである自分がいて、トラックはトラック・メイカーが作ってっていう、いわゆるHIP HOP的な作り方をしてたんですよ。だけど、そのやり方だと、トラック待ちや、ラップを乗っけてからのブラッシュ・アップ待ちっていう時間が生まれる。もっと大きいのは、自分の思想とか、音楽的なアイディアが生まれたときに、ビートが来るタイミングが合わなかったり、ビートとのズレが生まれるって意識があって。ビートに想起されてって部分はもちろんあるし重要なんだけど、それが今のSKY-HIの作り方として、果たして正しいのかどうかっていう話になったんですよね。そこで極論なんだけど、そのスタッフから『全部自分で作れよ』って言われたんですね。それで、俺も『作るよ!』って」
 
■売り言葉に買い言葉だ(笑)。
「そうそう(笑)。それで、制作の手法を全部整理して、一新しようと思って、二ヶ月ぐらい制作自体からまったく離れたんですよね。その間に、私生活でトラブルに巻き込まれたりして、色々起こりすぎてかなりネガティヴな状況になったんだけど、それを乗り越えるために生まれたのが“トリックスター”ってタイトルだったり、楽曲のアイディアだったり。そして、実際に“トリックスター”が完成したときに、色々吹っ切れたって感じでしたね」
 
■今回のアルバムは、ラップは当然だけど、トラックも制作して、ドラムもベースもピアノも弾いてっていう、かなりセルフ・コントロールされてる曲も多いけど、それはそういう理由だったんだ。
「“TOKYO SPOTLIGHT”や“Blanket”、“またね”みたいに、トラックをもらってって形ももちろんあるけど、“逆転ファンファーレ”とか、“トリックスター”みたいな、背骨になる曲は自分とCHRYSANTHEMUM BRIDGEで制作して。そういった、自分で制作する楽曲が出来た後は、トラックをもらってっていう作り方でも、感覚はかなり変わりましたね。例えれば、パズルを組み立てるときに、余計なピースがなくなったって感じ。リリックの書き方にも綿密にそれは関わってて、思ってることを形にするのに、邪念がなくなった感じですね。トレンドがどうとか、ビート・メイカーをロックしたいみたいな、そういう内側の、リスナーには関係ない部分は全然気にしなくなった。だから、CDの向こう側のリスナー、ライヴの客席って部分を、明確に意識できるようになって。ポーズじゃなくて、具体的にリスナーに向き合えるようになった。普段着てる服も変わったし」
 
■なんだそれ。曲関係ないじゃん(笑)。
「いや、ホントなんですよ(笑)。それは、より“しんし”であろうと思って」
 

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■「紳士」?。だからスーツなの?
「『ちゃんとする』って意味ではそれもちょっとあるけど、そっちじゃなくて“真摯”。発言ひとつもそうだし、言葉の遣い方、ライヴでの立ち振る舞い、っていうことは本当に考えるようになった。“RULE”の内容は、“トリックスター”とも繋がってると思うんだけど、“トリックスター”は、よりリスナーの耳に入れようと思ってるんですよね。“RULE”の歌詞って、日常会話では出てこないじゃないですか」
 
■文語的とまでは言わないけど、言葉遣いは固いし、“歌詞的”だよね。
「だけど、“トリックスター”はもっと日常のテンションだと思うんですよね」
 
■「向き合う」って部分と繋がると思うんだけど、今回のリリックは、主語が“僕ら/僕たち”、対象が“君たち”というような、曖昧な主体と客体を作らないで、“僕“と“君”っていう個別的な関係性を作ってるよね。
「正にそうですね。今やってるライヴも正にその感覚でやってて。人に言われて気付いたんだけど、俺は『何公演目』ってことは言わないんですよ。だって、自分にとっても何回かある中の『たった一回』だし、何回も観に来てくれるリスナーにとっても、その回は『たった一回』。そして、もしかしたら、それが最後の一回かもしれない。だから『自分と君たち』じゃなくて、『ひとりひとりの君と自分』で向き合いたいって思ってるんですよね。例えばSEKAI NO OWARIのFukase君と話したときに、彼もやっぱり言葉の対象が明確だなって思ったんですよね。それって、カテゴライズされた何かとか、アクセサリー的な情報に向けるんじゃなくて、自分のリスナーにどう届けるかを考えてるんだと思うんですよね。だから、シンガー・ソング・ライターの音楽の作り方に共鳴したっていうのと、このままじゃそこに負けるって思ったんですよね。届かなくなるなって。それこそ、昔KREVA氏が何かで言ってたんだけど、『友達に凄いと言われる音楽を作るだけなら勝手にやってればいい』ってことで。純粋に自分の趣味/自分のアートとして表現するんだったら、今の時代だったらネットにアップした方が、表現としては正しいと思うんですよね。でも、この時代にわざわざCDにする意味を考えたら……」
 
■もっと言えば、音楽ビジネスの中で制作とリリースをするということだよね。
「うん。音源をCDにして、何千円ってお金をもらって、リスナーの時間を一時間近く奪う。ライヴだったら、二時間近くの公演時間に加えて、そこまでの移動時間だったり、かなりの時間を割いてもらうわけじゃないですか。それくらい自分に尽くしてくれた人の、人生の時間に関わる覚悟とか、携わる意気みたいなモノを考えたら、そういう人と向き合うのって、本当に大変なことで」
 
■確かに。
「今のSKY-HIの入り口って、色んな形があると思うんですよね。HIP HOPだったり、AAAだったり、ロック・フェスだったり。だから、そこで自分に興味を持ってくれて、自分のために人生を割いてくれる人には、SKY-HIを聴いて人生が好転したとか、『何か変わる』ためのモノを作ろうと思ったんですよね。ネガティヴがポジティヴに変わったり、絶望が大きくなったら希望も大きくなるような、そういう感情を与えたかった。そして、CDっていう半永久的に残る可能性のあるモノにそれをパックするなら、そこに自分なりに出した正解のメッセージを提示して、その上で、リスナーが新たな正解を出してほしいなって。みんな、思ってる以上に自分自身に対峙してないと思うんですよね。自分の良いところと悪いところを10個ずつ挙げるっていっても、なかなか出来ないと思う。それは自分自身を怖くて見てないから。でも、そうなるキッカケになりたいって」
 
■携わるからには、なにか良い変化を与えたいと。
「それ以外の、『これはこうだから凄い』『これはああだからクールだ』って言うような、付加情報的な部分は全然考えなくなりましたね。だから、もしAmebreakがこのアルバムをHIP HOPじゃないって捉えて、取り上げてくれなくても、何も思わなかったと思うんですよね。自分が向き合うべきは、コミュニティやシーン、メディアじゃなくて、リスナーだから。アンダーグラウンドとオーヴァーグラウンドの架け橋とか、HIP HOPとポップスの架け橋っていうことも、今はまったく考えてない」
 

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■そういう部分が、「FLOATIN' LAB」と今作との違いだよね。「FLOATIN' LAB」は、HIP HOPの内部だったり、構造的な面白さやゲーム性を、日高君の視点から体験的に切り取ったものだとしたら、今回は、もっと日高君の主体的な視点という感じだから。
「いちラッパー、いちミュージシャン、ひとり間ってことですよね」
 
■この作品の対象は、“いちリスナー”ってことだって話だったけど、それでも、例えば中高生とか、そういう層に響かせたいのかなって思ったんだよね。
「その層に向けてるってことはないんだけど、色んな選択肢や表現の幅が生まれたときに、“リトル日高”がどっちにワクワクするかな、ロックできるかなってことを考えたんですよね。中学生のときにバンド聴いたり、餓鬼レンジャーやRHYMESTERを聴いたときに感じたワクワクした感じ、そういう表現をしたい、そうじゃなくちゃダメだと思ったんです。ロジックが分からない中学生が聴いても、ドキドキワクワクするモノっていうのを考えて。それは無条件の反発みたいな感情も含めて」
 
■だから、アルバムの感情的には、モヤモヤしてるし、フラストレーションもあるし、藻掻きもあると思ったんだよね。
「悩みの大きさって、大小はないと思うんですよね。学校が嫌だ、会社が嫌だ、人間関係、恋人関係、親子関係、社会……って色んな悩みがあるけど、それによって人生の一部が蝕まれてしまう感覚や、思うように一日が過ごせないことって意味では、それは同じだと思うんですよね。それがネガティヴ、絶望っていう形になっていって苦しむっていうのは誰にでも起こることで。そして、そのひとりひとりのネガティヴが解消されない、そこにみんな目を背けてしまうっていうのは、本当に問題だと思うんですよね。社会派になりたいわけじゃないけど、今の日本の自殺率の高さっていうのは、そこに起因してる部分が絶対にあると思って。だから、目を背けるんじゃなくて、ネガティヴと向き合って、相対して、ひっくり返すしかないし、そのキッカケを作れるのは音楽なのかなって。そういう感情が“RULE”から“トリックスター”への変化だと思いますね。そういう、自分の内面とか思想みたいな部分を、照れなく、正直に、でも暑苦しくならないように書こうと思いましたね。それが真摯に取り組むってことと同義かなって」
 
■その意味でも、スゴく実存性のしっかりあるアルバムだと思うんだけど、一方で、SKY-HIはAAAの日高光啓でもあって、本名の日高光啓でもある。「FLOATIN' LAB」は、このアルバムのような実存性よりも、もっとHIP HOPゲーム的な内容だったから、SKY-HIというキャラクターでその内容は構築できたと思うんだよね。でも、こういった実存性が高い内容になると、SKY-HIであると同時に、本名の日高光啓の部分も強くなるわけで、そこで書かれる表現と、アイドルであるAAAの日高光啓との齟齬も生まれると思うんだよね。具体的には、“Blanket”とか“Dialy”なんだけど、あの内容は、アイドル/偶像としての日高君が書くとなると、かなり刺激の強い内容だと思うんだ。
「生々しいですからね」
 
■まあ、日高君もいい歳だからこんな経験があるのは当然だろうし、そこでのリスナーのショックはそこまで強くないかもしれないけど、でも、ショックはショックだと思うんだよね。
「いや、そもそも実話とは言ってないでしょ(笑)。でも、それも真摯にってことだと思うんですよね。自分のリスナーにちゃんと向き合ったから、自分の実存が露わになったと思うし、こういうリリックやトピックを書くことこそが、大事なんじゃないかなって。アイドルだったら書かないんじゃないか、ラッパーだったら作らないんじゃないかっていうのは、やっぱりロジックだと思うんですよね。それよりは聴いて楽しいかどうかが判断でしたね。でも、“Diary”はもうちょっと描写が生々しかったんですよ。だけど、リトル日高が『それは自己満足だ』って判断したんで、そこはもう少しエンターテインメントにしていって。そういうバランスは当然だけど考えましたね」
 
■だから、アイドル的な「これは自分のことかな」っていう、自分を仮託できる書き方ではないことをやってるよね。
「でも『自分のこと』ではないけど『自分の歌』には出来るかなって。そうなって欲しいんですよね」
 
■そういった意味でのポップ・センスはあるよね。
「うん。でも、あえてポップにしようとか、『このフックは女性シンガーで』みたいな構成は作りたくなくて。俺だけの武器で、突き抜ける面白みを書きたかったし、俺が書ける面白みを追求したかった」

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■でも“愛ブルーム”はベタをやったと思ったんだ。あのテンポ感、あのラップのスピード感っていうのは、「FLOATIN' LAB」でスゴくシーン的な、“メタ”なことをやった上の反動とも思える、“ベタ”を感じたんだよね。マキタスポーツさんの言うところの「メタからベタへ」を、ラップ的文脈で感じたんだ。でも、そういう意識ではなかったんだ。
「それではまったくなかったですね。それよりも音楽として良くあろうって思ってた。ここ最近、PHARRELLのアルバムをよく聴いてるんですけど、あんなにラップ・マニアで、そこまで歌も上手くないのに(笑)、歌ってる曲も多いじゃないですか。でも、それって、当然なんだけど、その曲を表現するには、歌の方が相応しいって判断をしたってことだと思うんですよね。“愛ブルーム”がああいった構成になったのも、単純にそういう意識だった。だから、“愛ブルーム”は人によっては歌とも、ラップとも言われるけど、そこが重要なんじゃなくて、『楽しい』とか、『耳から心臓まで(達する)距離が近い』ってことを大事にしたんですよね」
 
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■サウンド面で訊くと、“TOKYO SPOTLIGHT”や“ILLICIT LOVE”のように、現行のサウンド性も強いよね。
「それもトレンドを意識してるんじゃなくて、そうじゃないと楽しくなかったっていうのが、大きいかな。単純に、サウンドとしてフレッシュっていうのは、重要だと思いますね。キャッチーがあるからエッジがあるっていう両面性と、そのバランスは大事だと思うし、そういう部分の自分のサウンド・センスは信じてますね。且つ、自分の制作チームもそういった部分を判断してくれるし、信頼してるっていう意味でも、それを基準にするのが正しいんじゃないかなって」
 
■今回のインタビューは、「FLOATIN' LAB」のときより自信を感じるね。
「だって、嬉しいくらい、このアルバムを作ってくれた自分が好きだから(笑)。っていうぐらい、このアルバムが好きですね。スゴく良いモノが出来たと思うし、リトル日高も、10代後半前後のときのオープンマイクあったら必ず握りますっていう自分も、それこそポップスとかを聴いてる――BiSも聴きますよ(笑)――って自分も、HIP HOPリスナーの自分も、そういうリスナー(としての自分)が、ちゃんと喜んでくれるなって。“トリックスター”みたいな作り方が出来た自分にも自信があるし、自分のヴェクトルの判断として、これが良いって言えると思うんですよね。精神的にセルアウトがないのに、ポップでキャッチー、伝えたいメッセージは形に出来たけど、でもメッセージに溺れてないっていう、バランスが良く出来たなって。だから、もう新しい作品を作りたいんですよね」
 
 

Pickup Disc

TITLE : TRICKSTER
ARTIST : SKY-HI
LABEL : avex trax
PRICE : 3,675円(CD+DVD)
RELEASE DATE : 3月12日