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ZORN

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「今までは正直『俺が面白いと思ってりゃいいだろ』って思ってたんですよね。自分の表現欲求があって、それをやりたいように表現するっていう。それを評価したり、聴いてくれる人がいたっていうのは、本当に嬉しいことだと思うんですけど、今回はそうじゃなくて、聴く人を意識して作るっていう方向でしたね。そういう気持ちにシフトしたのが、アルバムの原点にありました」

 
 般若の主宰する昭和レコードとディールを交わし、「サードチルドレン」をリリースしたZONE THE DARKNESS改めZORN。ニュー・アルバムは、これまでの彼らしいメッセージ性の強い構築性はそのままに、より分かりやすく、リスナーにシンプルに届く言葉で展開されている。手売りでのリリースも含め、独立独歩でそのキャリアを歩んできた彼が、昭和レコードに所属することで、こういった変化が起きたことについて、インタビューでも語られる通り、彼の心境の変化と共に、エグゼクティヴ・プロデューサーである般若のディレクションも大きかったということだが、その意味では、彼の新たなる一歩であると同時に、昭和レコードの意志性/方向性という部分も感じられる本作。様々な意味合いを感じさせる一作だ。
 
 
■まず、昭和レコード入りの経緯は?
「いきなり般若さんから連絡があって、食事に行くことになったんですね。もちろん、それまでに面識はあったんですけど、キッチリ話したことはそれまでなかったから、正直、緊張してメシの味も分かんなかったですけど(笑)。で、会話の内容的には、お互いの最近の近況であったり、四方山話がほとんどだったんですけど、食事が終わって、駅までの帰り道で、『ウチ(昭和レコード)から出さないか』って」
 
■食事のときには、特にそういう話はなかったんだ。
「だから前触れもなくって感じでした(笑)。そのときに『こういう理由でお前を誘う』っていうような説明もなくて。でも、僕自身も『何で僕を誘ってくれたのか』って質問も浮かばなかったし、一瞬だけ間がありましたけど--それは悩んだんじゃなくて、あまりにビックリしすぎてなんですけど--ほぼ即答で『お願いします』って感じでしたね。そうしたら『じゃあ、いついつにスタジオに入るから』って、その後の流れもすぐ決まって」
 
■では、理由に関して、直接は聞いてないんだ。
「般若さんのSHIBUYA-AXのワンマンで、僕が加入することが紹介されるときに、般若さんがオーディエンスに説明するのは聞いてましたけど、それだけですね。今まで、僕から直接聞いたことも、般若さんから説明されたこともないですね」
 
■でも、それじゃ不安じゃない?
「いや、そうやって声をかけてくれたってことは、自分に何かを見出してくれたんだと思うから、それだけでいいかなって」
 
■今まで独立してやってきたZORN君が、自分以外が運営するレーベルに加入/所属するということに対して、悩まなかったのは?
「昭和レコードはクールなレーベルだと思ってたし、般若とSHINGO★西成っていうクールなラッパーがふたりいて、自分がそこに入れるってことは嬉しいけど、でもそのオファーをもらうまで、『昭和レコードに入りたくてしょうがない』って気持ちではなかったからだと思いますね。だから、フラットな気持ちだったし、スッとそのオファーが入ってきたというか」
 
■ちなみに、般若という存在を知ったキッカケは?
「妄走族は出て来たときから聴いてたし、もちろん般若さんのソロも、リアルタイムで聴いてて」
 
■ZORN君に対して般若のラップは影響してる?
「自分の音楽スタイルに対して、直接影響を受けたかっていうとそうでもないと思うんだけど、『それ以前の存在』として、影響は受けてると思いますね。だから、自分のラップの基盤というか、スタンダードなところに、般若さんのラップはあると思います」
 
■ラップの根本にあるというか。
「世代っていうのもあるし、聴き始めが妄走族や般若だったんで」
 
■では、般若に対する印象は?
「常にアップデートしていく人だなって。自分がラップをしていく中で、いわゆる先輩やヴェテランと言われる人にガッカリするときも、なくはないんですけど、でも、般若さんは、常に自分をアップデートしていってるなって。そういうラッパーって日本人でも数えるぐらいだと思うし、それを音源でもライヴでも形にしながら、ずっと第一線にいるのはホントにスゴいなって思いますね」
 
■今まで、手売りも含めて完全に自主で動いてたZORN君が、誰かのレーベルに入るということ自体、ひとつの意味合いになると思うんだけど。
「このレーベルとディールすることで、また新しいステップに昇れるって思ったんで、そこは悩みもなにもなかったですね。自分自身、これから先もずっとひとりでやっていくって気持ちは特になかったし。誰からもお呼びがかからなければひとりでやってたと思うんだけど」
 
■「自分ひとりでやることで、クリエイティヴ・コントロールを自分で」っていうような気持ちは、そこまで強くなかったんだ。
「いや、もちろんその気持ちもあるし、正直、オファーもいくつか頂いてたんですけど、それに乗るよりは、自分でやった方が納得いく作品作りや動きが出来るって思う場合が、今まではほとんどだったんで、ひとりでやってたんですね。だから、一緒にやるのは誰でもいいって気持ちはまったくなかった」
 
■それが一緒に出来るのは般若だった、と。
「そうですね。だから、般若さんに今回はエグゼクティヴ・プロデューサーを務めて頂いて、作品作りに関してもガッツリ意見してもらって。作品作り全体を、般若さんを主導に、レーベル内で常に話し合いながら進めましたね。それは、アルバムの内容から方向性、何から何まで。トラック選び、ラップについて、リリックの書き方、この後のライヴ、アーティストとしての意識の問題とか、関わる全てを、般若さんと僕と、エンジニアさんやスタッフと常に話し合いながら進めた感じです。だから、スタジオも常に全員がいるって感じでしたね」
 
■根本的なテーマ性はZORN君の方から提示して、それを般若含め、みんなでブラッシュアップしていくというか。
「作り始めるときに、作品全体のヴィジョンみたいな部分が、自分の中ではそこまで明らかではなかったんですよ。漠然と『今までよりは分かりやすくなるかな』ってぐらいのイメージで。それがディスカッションの中で、明確になっていったという感じはありますね」
 
■「分かりやすく」は当初の意志としてあったんだ。
「そうですね。それはやっぱり『聴いてくれる人』を意識したかしないかが、一番の大きなポイントになったかもしれないですね。それが今までの作品との違い。今までは正直『俺が面白いと思ってりゃいいだろ』って思ってたんですよね。自分の表現欲求があって、それをやりたいように表現するっていう。それを評価したり、聴いてくれる人がいたっていうのは、本当に嬉しいことだと思うんですけど、今回はそうじゃなくて、聴く人を意識して作るっていう方向でしたね。そういう気持ちにシフトしたのが、アルバムの原点にありました」
 
■その気持ちで作るのは難しかった?
「いや、意外とすんなりいけましたね。とにかく、広い層に聴いてもらわないと話にならないなって。いつまでも……って表現は正しいかどうか分からないけど、自主制作で、アンダーグラウンドで、そこで続けて行く美学は分かるけど、自分がこの先どこに行きたいかってことを考えたら、そこにこだわるよりも、広いところにアピールしたいし、それが出来るチャンスだと思ったんですよね」
 
■それは昭和に入ってから思ったの?
「昭和に行くってことが決まってからですね。そういう環境を得て、視野が開けたというか。そうじゃなかったら、今回ももっと閉じた表現をしてたと思う。だから、昭和に入ったことで、可能性をもっと信じていいんじゃないかなって思えたんですよね。それは般若さんから、昭和に迎えてもらったってことが自信に繋がったっていうのもあるし、般若さんやシンゴさんがやってることも、コアに響かせながら、もっと広い層に届く動きをしてるんだなって思うんですよね。だから、そこに参加するからには、自分もその可能性を進めるんじゃないかなって」
 
■そういうマインドの変化が書き口に大きく影響したというか。
「素直になりましたね。ラッパーはやっぱり“今”を切り取る存在だと思うし、今、自分がそういう方向性や思いになったから、分かりやすい表現にすんなり移行できて。これが無理矢理やるんだったら難しかったと思うけど、自分の中でそういった心境の変化があったから、自然に形になりましたね」
 
■般若からはどういったディレクションが?
「まず最初に指摘されたのは『言葉数が多い』ってことでしたね。だから、そこから引き算で作っていくっていうのが、今回と今までとの一番の違いだし、それによって余裕も出来たと思うんですよね。今までは、その言葉数が多かったりっていう“エゴ”を、自分の中で理論武装してたんですよ。沢山の言葉を、沢山の言い回しで、難しく表現してたと思うし、そういう表現の方が質が高くて『深いだろ』って思ってた。でも、自分の意識としても、般若さんからのアドバイスとしても、作品を分かりやすく、引き算で作っていく中で、シンプルにしながら、メッセージをちゃんと伝えることが、実はスゴく難しいってことが分かって。だから、その部分では非常にチャレンジでしたね」
 
■芯の要素はぶらさないままに、それをシンプルに見えやすくするという。
「そうですね。それから『ラップの間』も指摘されましたね。デリヴァリーの仕方だったり、『ここで一拍空けよう』とか、ヴァースを丸々削ったり書き直しとか」
 
■それに対して明確な説明はあるの?
「あります。『ここはこうだから、こうしよう』っていう理由も説明してくれるし、優しく教えてくれて。もっと男塾な感じかと思ってたんですけど」
 
■問答無用でカットされたりとかではなく。
「そういうのではまったくなかったですね。基本的には般若さんがいる場で録って、それを般若さんが聴いて『ここはこうしよう』『トラックはこう展開させよう』って、その場でアドバイスしてくれて。そこでアドバイス通りに変えると、こんなに変化が生まれるんだなって改めて気付いた部分も今回は多くて」
 
■トピックに対してもディレクションはあったの?
「トピックやテーマに関しては、もちろん全部自分で考えたんですけど、ヴァース単位で入れ替えだったり、『この部分をもっと掘り下げて他を全部書き直そう』とか、そういったディレクションはありましたね。自分自身、人と作品を作ったり、人に制作に関して言及されることが初めてだったから、それによって客観性が生まれたのは、本当に大きかったですね。逆に、今までの作品を、よくみんな聴いてくれてたなって(笑)」
 
■ハハハ。
「客観性自体、必要のないモノだと思ってたから。アート(主観)とエンターテインメント(客観)は真逆のモノだと思ってたし、自分のやるべきは、アートだと思ってて。でも、今回はそういうアートの感覚でありながら、ちゃんと客観的に、広く受け入れてもらえるモノをっていうのは考えましたね」
 
■その意味では、今回は曲ごとに何が原動力になっているのかが分かりやすい構成になってるなって。その中でも、焦燥感や不安感みたいな部分が強く出た“Window dancer”が一曲目に来てる部分も合わせて、全体的に“焦り”や“ジレンマ”、それから“ペシミスティック”みたいな気持ちが、書く気持ちの根本にはあるのかなって。
「ああ、そうですか」
 
■“Delivery”も、緩急の“急”の部分は、そういったスリリングな部分が担保してる部分からもそう感じて。
「結構、僕からするとそれは意外な反応ですね。もちろんそういう感情もあるんだけど、今回に関しては『普通の日常』『普通の感情』を基に書いたって感じですね」
 
■それは今の生活がそうだから?
「そうですね。今は、9時には寝て、朝6時に起きてるんで」
 
■リリックにも「朝は6時夜は9時早寝早起き」(“Japanese Hiphop 不適合者”)って出てくるけど、そのままなんだ。
「ホントにそうなんですよね。だから普通の人と変わらない生活をしてるんで、全体のトーンとしては、そこから出てくるものが形になったし、普通の人に届けたいなって。だから、ポジティヴな感情が表に出てると思いますね」
 
■確かに、焦燥や刹那、虚無を形にしても、それを最後はポジティヴな形で回収してるなって。
「昭和レコードに入る前に、私生活としても心境に変化のあることがあって、日々満たされているんですよね。前みたいにパクられるようなこともまったくない生活をしてるし。その中で、今はラップで何をしたいのか、何を求めてるかって考えたら、“共感”なんじゃないかなって、今は思うんですよね。じゃあ、自分の普通のことを歌おうかなって」
 

■確かに“2 Da future”や“WAKE UP”はそういう部分が強いなって。
「“2 Da future”は、かつての自分みたいなヤンチャな人間や、家で引きこもってしまってる人とか、ムシャクシャしてるような若者に伝えたかったというか。『それでも、未来は開けるよ』って」
 
■最終的にはそういう結論に達するんだけど、でも冒頭では「未来は暗いぜ」って言ってしまうのが、スゴく印象的で。
「実際に、自分がその当時そういう風に思ってからですね」
 
■そこを隠さないで書くっていうのは誠実だなと感じて。
「その思った気持ちは消えないですからね。誰の青春も、それなりに苦いと思うんですよね。でも、みんな大人になるし、その先は明るくあって欲しいなって」
 
■そういった中で“Japanese Hiphop 不適合者”は、ラッパーとしての自分といった部分に、フォーカスを当ててると思うんだけど。
「常々、自分が不適合者だと思うんですよね。だから、ひとりでやってたのかなとも思うし。でも、自分がおかしいのかなって思うぐらい、シーンがおかしいって思うんですよね。なんか……気持ち悪いなって。僕自身、HIP HOPっぽいノリとか、そういうメンタリティを、持ち合わせてないと思うんですよね。僕の根本にあるのは、地元の仲間のノリなんで。だから“HIP HOPシーン”を、どうでもいいと思ってるんですよね。歳下も歳上も。だから、不適合と言いつつ、ホントにシーンなんてどうでもいいと思ってる。その気持ちは、曲を聴いてもらえれば分かると思います」
 
■多分、般若も同じようなスタンスだと思うし、その意味でも、昭和に入ったのは必然だったのかなって。
「確かに(笑)。この後はライヴですね、とにかく。このアルバムを作ったことで、ライヴに対する思いも変わったし、もっとプロフェッショナルなライヴを見せられればなって。そういうレーベルに入ったんで、自分も当然、そこはしっかり形に出来ればなって。そうだ、“SKIT”の英語でまくし立ててるのは、実は田我流なんですよね、そこもちゃんと聴いてくれると嬉しいですね。クレジットもしてないんで、これを読んだ人には知ってほしいです(笑)」
 
 

Pickup Disc

TITLE : サードチルドレン
ARTIST : ZORN
LABEL : 昭和レコード
PRICE : 2,300円+税
RELEASE DATE : 4月16日