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LIBRO

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「日々、花火のように盛り上がってるような、そんな人生なんてなかなかないなって思うんですよね。それよりも、日々上り下りがあるモノだろうし、その上り下りっていうのは、真ん中、適温があるからそう感じるんだと思うんですよね。だから、上がっても下がっても、その“適温”を知ってれば、そこに戻れたり、対処出来ると思う。自分にとって音楽は、その“適温”になるためっていうイメージがあるし、そのための音楽を作りたかったんですよね」

 
 デビュー作となる「胎動」をはじめ、「三昧」やKeycoとのユニット:Fuuri、そして山仁や鬼などへのトラック提供など(個人的には彼がトラックを手がけたEELMAN & DOBINSKI“究極男”が本当に刺激的だった!)、非常に寡作ではあるものの、常に鮮烈な刺激を与える作品をリリースしてきたLIBRO。彼のソロ名義としてはインスト・アルバムとして完成した「NIGHT CANOE」以来5年振り、彼のラップが聴ける作品としては「三昧」以来11年振りとなるアルバム「COMPLETED TUNING」がリリースされた。
 
 文中でも語られる通り、“適温”や「マインドをチューニングする」というイメージで構成された本作は、LIBROのヴァラエティに富んだトラック・メイクと、多彩な客演陣によってカラフルな彩りがあるが、そのどれもが良い意味で中庸な感覚で貫かれ、リスナーの温度を平熱に戻すような感覚を覚える。
 
 LIBRO自身の、あのレゲエ的とも感じるような、メロディアスで滑らかなラップも収録された本作。古くからのリスナーはもちろんだが、この作品でLIBROを知る新しいリスナーにもしっかりと訴求できる、充実の内容だ。
 


 
■山仁さんの作品にトラック提供などもありましたが、「NIGHT CANOE」以来、5年振りのソロ・アルバムとなります。
「前作から事務所を離れて、自分でリリースまでの動きをするようになって」
 
■その動きは何故?
「自分の作りたいモノと、事務所の望むカラーがちょっと違ったんですよね。それで『NIGHT CANOE』から自主制作を始めて、イチからなんの制約もなく作ることにして」
 
■以前の事務所が求めたいたLIBRO像と、ご自身で作る作品の乖離があったと。
「そうですね。ただ、自分もその違いの部分を上手く言葉にしたり、伝えることが出来なくて、そこに齟齬が生まれたって部分もあるんですけどね、その当時。でも、そのときはそのズレがあるまま制作するのは難しいなっていうことで、事務所を離れることになって」
 
■事務所側が求めてた像は?
「キャッチーなモノと、ハードコアなモノと、その良いとこ取りみたいな」
 
■「胎動」で言えば、“対話 feat.Momoe Shimano”と “DOYTENA 2000”のようなバランスというか。
「そのふたつを、その時々で求められて、それはなんかちょっと自分の中では違うな、と。そしてそれをやると、自分がオリジナルな部分からどんどん離れてしまう気がしてしまって。今から考えると、納得いく部分もあるし、簡単なコミュニケーション不足だった部分もあったなって思うんですけどね」
 
■「器用にこなす」というのは、ちょっと違うなというか。
「幅を持たせたり、育てようと思ってくれての、そういうオーダーだったのかなと今は思うんですけど、そのときはやりたくないって思ったんですよね。それで『NIGHT CANOE』を作って、その後ももっとスピーディに動こうかなとは思ってたんだけど、ちょっと実生活的な部分で色々あって、音楽制作をやってる場合じゃなくなってしまっていて。だから、この5年の間、音楽に関してまったくノー・タッチだった時期もありましたね。そして、そういったゴタゴタが収まって、ようやく音楽制作に向かえたというか。元々、キビキビ動いて制作の筋道を自分で作るようなタイプでもないし、ポンポン作るよりは、次に作るんならアルバムかなってイメージもあったんで、それもあって時間がかかってしまった部分もあって」
 
■制作を再開したキッカケは?
「とにかく、ビートを作りたいって気持ちでしたね。加えて、本来、自分がやりたかったことが、今なら出来るんじゃないかなって。昔はやっぱり色々難しく考えすぎてたと思うんですよね。でも今はもっと余裕が生まれて、もっと自由に出来るかなって。だから、制作が終わってうっすら次の展開も見える感じもありますね。それは、今までなかった感情。だから、次に繋がるために作ったアルバムだったのかな、という感じもあって」
 
■制作を再開しての気づきは?
「音楽を作るって、本当に大変だけど、超幸せだなって。やっただけ反映されるし、自分は音楽以外のことは向いてないなって(笑)。気分的には『胎動』の頃の気持ちで制作できてますね」
 
■それだけフレッシュに制作に向かえている、と。
「自分は、HIP HOP『のみ』っていう文脈から出自してないって自覚もあるんですが、もっとHIP HOPに縛られずに、今なら作れるかなって。自分らしくある作品作りが出来ると思ってて」
 
■前作の「NIGHT CANOE」がインスト盤になったのは?
「やっぱり、『ビートを作りたい』っていう感情ですね。『自分のラップで作品作りを』っていう気持ちは、ずっとなかったんですよね」
 
■Fuuriでもラップはされてなかったですね。
「基本、ラップはやらない形にしておきたかったというか(笑)。音楽的な原点として、トラックを作りたいって気持ちがまずあったし、自分でラップをしたのは、トラックを作ったけど、ラップをしてくれる人が周りにいなかったから、自分でやるしかなかったっていう部分もあって」
 
■ポチョムキンさんのUSTに出演されたときも、そのお話をされていましたが、それは本当に驚いて。あんなにスゴいラップだったのに、実はやむにやまれずだったんだって。
「でも今思えば、『胎動』の頃はすごく良い状態だったなって。何かの文脈だったりをまったく気にせずに、ラップもトラックも、自分のやりたいように制作できて。自分のことなんて、誰も知られてないと思ってたし、注目されてもなかったし」
 
■当時は、「どこどこのクルーで」とか、そういった前提条件がないと、評価されるのが難しいときでしたね。今からすると、非常に不思議だけれども。そういった繋がり的な部分が、LIBROさんはあまり強くなかったし、サウンド的にもハードなモノが注目されていた時期だったので、「胎動」のような柔らかいサウンドは受け入れられづらかったこともあり、非常にアンダーレイテッドだったと思います。その意味でも、時代の不幸という部分もあるのかなと。
「ハハハ。でも、今でも好きだっていってくれたり、評価してくれる人がいるのは嬉しいことですね」
 
■それがあの作品の強度の確かさだと思います。
「その流れで、今作を手に取ってくれる人もいるだろうし」
 
■その意味では、LIBROさんの作品を望む声は多かったと思うんですが。
「ちょっと前、『NIGHT CANOE』出したぐらいから『あ、まだ出すんだ』って(笑)」
 
■そんなこともないと思いますけど(笑)。
「でも、それぐらいから『ラップはやらないんですか?』って声もチラホラもらって。でも、逆にこっちとしては『え、そうなの?』って。『もっと前に言ってくれればもうちょっと元気あったのに』って(笑)」
 
■タハハ。もっと前に声高に言っておいてくれと。
「ただ、自分としても、HIP HOPってモノだけにこだわってたわけじゃなかったし、もっと新しいモノを、って考えたら、HIP HOPってジャンルから離れてしまって、もっとサウンドのみを重視するようになってて。そっちにずっと寄ってた感じでしたね。日本語ラップを聴いても、そんなに意味を追わなく聴いてたり。でも、今は逆に、内容だったり、意味に重きを置くようになってて」
 

 
■それがラップ・アルバムとなった今作に繋がると。今回のアルバムは、音像的に、非常にHIP HOP的な音像になったと思うんですね。例えば「三昧」だったら、展開の多さや、サンプルの多彩さ、音が様々なところで鳴るような、つづれ織りのような繊細な構築性が印象的でした。Fuuriもそうでしたし。でも、今作はもっと分りやすく、サンプルやモチーフ、そしてラップが前にくる、分りやすくHIP HOP的なサウンドになったと感じました。
「そうですね。ずっとサンプリングには拘ってたんだけど、『三昧』ぐらいの時期は、そのサンプルしたパーツを、楽器ごととか、如何に細かくして、それを組み合わせるかってことを考えてたんですね。それは権利的な問題もあったんだけど、そういう作り方が気持ち良かった。だけど、今回は直球勝負っていうか、1〜2小節のサンプルをメイン・モチーフにして作っていければなって。だから、90年代的な手法ではあるんだけど、機材の進歩で、その扱い方によっては、すごく今らしかったり、ハイファイな音にも出来たりもして。その意味では、音楽を作るのが単純に楽しいっていう部分も含めて、『胎動』ぐらいまで感覚が戻ってるんですよね。それで、その当時って何をやってたっけなって考えたら、ジャズのレコードからフレーズで抜き出したり、音を刻んだりっていう、モロにサンプリングだったなって。そこに戻ってるんだと思いますね。それから、MAKI THE MAGICさんのネタ使いとかからも、改めて感じる部分があって」
 
■では今作の制作はいつ頃から?
「ビートに関しては、古いのは2〜3年前ぐらいですね。それで、制作のイメージが進んでから今回参加してくれたラッパーに声をかけて、去年末ぐらいからレコーディングが進んだ感じですね」
 
■今の制作環境は?
「ableton Liveと、AKAIのmidiパッドですね。それまでは、MPCとハードディスクMTRでって感じだったんですけど、MPCがリタイヤしたタイミングで、PCベースに移行して。ただ、取り込み先がPCになったってぐらいで、基本的にはサンプリングをベースに、Liveでちょっといじるぐらいで。PCベースになると出来ることも限りなく増えるんで、自分の中で一定のルールは決めててるんですよね」
 
■そのルールとは?
「ザックリ言うと『ターンテーブル二台とミキサーがあれば出来るような』ってことは意識してますね。制作的に迷ったときには、そっちのルールに準じるというか。暴走して作ったり、過剰な編集みたいなことをやっても全然いいんだけど、それはまだ手として取ってあるっていうか。それよりもシンプルにという感じですね」
 
■今回のラッパーの人選は?
「同世代の人に関しては、一緒に仕事をしたことがあったり、縁のある人ですね。下の世代は、G.O.は僕のミックスCD『MIND TUNER』の制作をサポートしてくれたりっていう繋がりもあったんですが、小林勝行君、SMITH-CN、OJIBAHは今回のアルバムを作るにあたって、初めてお願いした人で。下の世代は、リスナーとして、純粋に熱いなって思ってた人たちですね」
 
■なるほど。ただ、その「熱い」と感じられてオファーされたLIBROさんより下の世代は、共通項のようなものはあまりないですよね。その意味では、「熱い」と思われた理由は?
「小林君なんて特に独特ですよね。彼に関しては、アルバム『神戸薔薇尻』を聴いてて、『これは尋常じゃないな……』と(笑)。ものすごい熱だし、オリジナルだし、そういった部分が気になって。彼のブルージー感は、山仁に共通してるモノがあるなと思うし、そういう系譜やセンスを感じるんですよね。それでオファーさせてもらったんだけど、どんな作品が出来るかは、自分でもまったく想像がつかなかった。でも、大きく化けるだろうなっていう予感はあったんですよね。そしたら、案の定こんなスゴい曲になって」
 
■正直、一聴目はなんの話かさっぱり分らなかったですね。
「聴いた人、100%そう言いますね。何人かから問い合わせもあり。(笑)。だから、分からないって言われると逆に安心する(笑)」
 
■聴き続けると、歴史と輪廻転生の話だったんだって判明して。その設定もぶっ飛んでますよね。
「手塚治虫の『火の鳥』とか、楳図かずおの『イアラ』みたいな。そういう爆発感がとんでもないなって。でも、単にぶっ飛び過ぎた内容だったら、OKしなかったと思うんですけど、最後は現代に戻ってくるから、作品として成立してるなって」
 
■OJIBAHにオファーした理由は?
「OJIBAHに関しては、まず彼のフロウが好きなんですよね。クールに聴かせる声に生活感のあるリリックとのバランスが素晴らしくて、真っ直ぐ来る感じがあって。なんというか……良いヤツっぽいなって(笑)」
 
■ハハハ。でも、今回のラッパーの人選って、表現や表出の部分では捻くれたりしてるけど、芯の部分はすごく真っ直ぐな人たちって感じですよね。
「そうそう。ホントにそうで。その感覚が、『マインドをチューニングする』っていう、アルバム全体のイメージと合うなって。山仁は『どうしようもねえ連中ばっかだな』って言ってて、『あなたはその筆頭ですよ』って思ったけど(笑)。SMITH-CNも今回のアルバムのポジティヴな面を支えてくれて。このビートの上で、彼の明るい面を振り切って出してくれたのが嬉しかったですね」
 
■“適温”であったり、「マインドをチューニングする」ということを求める理由は?
「自分がそういう性格っていうのが一番大きいけど、日々、花火のように盛り上がってるような、そんな人生なんてなかなかないなって思うんですよね。それよりも、日々上り下りがあるモノだろうし、その上り下りっていうのは、真ん中、適温があるからそう感じるんだと思うんですよね。だから、上がっても下がっても、その“適温”を知ってれば、そこに戻れたり、対処出来ると思う。自分にとって音楽は、その“適温”になるためっていうイメージがあるし、そのための音楽を作りたかったんですよね。世の中、温度を上げるための音楽ばっかりじゃないですか。だけど、適温の気持ちや音楽ってあるよねっていう。HIP HOPのキワキワの楽しみ方っていうのももちろん分かるんだけど、自分はそうじゃないHIP HOPを形にしてもいいのかなって。このアルバムに関しては、まず“Tsumetai soul feat. 山仁”を作ったんだけど、その“適温”っていう感覚をを上手に表現してくれたから、全体としても、その適温が形に出来たかなって」
 
■“適温”や「マインドをチューニングする」っていう概念は細かく説明するんですか?
「いや。でも『マインド・チューニング』っていうザックリとしたテーマを投げたら、みんなそれに相応しいラップを返してくれたんで、間違ってなかったなって。言葉にすることは難しい概念だけど、言葉で100%説明できるんだったら、それは曲にする必要はないって思うんですよね。だから、説明できないし、ハッキリ言えないから、音と言葉にして、伝えるっていうか。その言葉の部分を、ラッパーはちゃんと、こちらが思ってた以上にくみ取ってくれて」
 
■ラップ・トラックとインストとの分別はありますか?
「ちょっとあるんだけど、今作に関してはほとんどないですね」
 
■ラップ・トラックもインストも、今回は情報量で差があまりないですね。
「そうですね。今回のインストは、ラップが入る前の、デモ的な、まだ構築されきってない感覚のトラックかもしれないですね」
 
■今作では“Mind tuner”と “マイクロフォンコントローラー”でLIBROさんがマイクを取られてますが。
「最初からラップをしようとは思ってなかったんですよ。『ノったら入れようかな』ぐらいの気持ちで(笑)。で、大概そういう場合って、入れない場合が多いと思うんですが、人のレコーディングに立ち会う中で、グッと背中を押されたというか。特に、“マイクロフォンコントローラー”のレコーディングで、今まで漢があまりやってこなかったようなビートなのに、それに対しても彼らしさを出しながらラップしているのを見て、改めてスゴいなって思ったんですよね。で、録り終わったときに、漢から『入れなよ』って言われて、じゃあ入れようかなって」
 
■もともと入る気はなかったんですね。
「そうですね。だけど、今回の制作で感じることもあったし、制作に入るまでの鬱憤もあったんで、深く考えるよりも、自分らしさ爆発でやってみようかなって。それで、良い意味で適当にやったら、すごくスッキリした部分もあって。だから“Mind tuner”もその流れでラップを入れたし、どっちも超軽い気持ちっていうか」
 
■は〜。そうなんですね。
「だから、すごく大きい意味があるってわけではなくて。でも、リリックの『やるか/やらないか』みたいな感情は、今回の制作に向かったときの気持ちと似てるかなって。だから『自分はやってみたよ』っていうメッセージですね」
 
■その意味では、この後はコンスタントに動く感じですか?
「自分だけのソロ作品も作ってみたいし、今回参加してくれた面子の作品にトラックを提供する話もいろいろあったり」
 
■山仁さんのアルバムをフル・プロデュースするという話も聞きましたが。
「あれ、それどこで知りました?」
 
■山仁さんが一ヶ月ぐらい前にTwitterで書かれてましたよ。
「ちゃんと話したの昨日なんだけどな(笑)。でも、種はだいぶ寝かしていたので実現させたいですね、今回の制作のおかげでまた仕事したいと思ったり、思ってくれたりのお誘いも増えたんで、自分のソロを中心にしながら、外部仕事も進めていきたいですね。……全然タマはないんだけど(笑)、そう宣言しておこうかなと。有言実行の方がカッコ良いですから」
 
 

Pickup Disc

TITLE : COMPLETED TUNING
ARTIST : LIBRO
LABEL : AMPED MUSIC
PRICE : 2,800円
RELEASE DATE : 5月7日