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RHYMESTER

インタビュー:伊藤雄介(Amebreak)

「この5年間はRHYMESTERにとって“言葉”の時期だったと思う。メッセージって言っちゃうと簡単なんだけど、言葉を磨いていた時期。前とは『届けよう』ということに関して、全然意識が違う。昔はライミングに使っていた時間を、例えば情緒的な表現だったりとか、『もっと一般層に届くためには』とか、『HIP HOPタームを使わないで言えないかな』とかを考えるようになって。それまでは、『HIP HOPはこうだから』とか『HIP HOP的に面白ければ』ということに力を使っていたけど、比重のかけ方が違ってきた」--Mummy-D

 
 結成から今年で25年。頑なに自らのフォームを守り続けながらも、支持を拡げて活動を続けてきたRHYMESTERは、世界的に見ても稀有な存在だ。こんな長期間に渡って安定したキャリアを築いてきたラップ・グループは、日本だとスチャダラパーぐらいだろうし、USに目を向けてもそんなグループは数えるほどしかいない。様々な理由/事情があるだろうが、“ラップ・グループ”を続けていくというのは、それぐらい難しいことなのだ。
 
 そして、RHYMESTERが多くのヴェテラン・グループと決定的に違う部分、それは懐古主義に陥ることなく、常に自分たちなりのアップデートを施してきていることだろう。そんな彼らの姿勢がより明確になったのは、活動休止期間を経てリリースされた“ONCE AGAIN”や、同曲が収録されている「マニフェスト」以降だ。自分たちが長いキャリアで培ってきた“土台”を壊すことなく、新しいモノを生み出していくというのは、相当難しい作業だと思うし、それに加え、彼らは近年、ラップという手法で如何に広く一般層に“響く”曲が作れるかという課題にも挑戦し続けてきた。この度リリースされたベスト・アルバム「The R ~The Best Of RHYMESTER 2009-2014」は、そんな“古参”でありながらも“新参”の気持ちを持ち続ける彼らの貴重な“記録”として、後々振り返られることになる一枚かもしれない。
 
 彼らがラップを通して、この5年間闘ってきたものとは何だったのか。本インタビューでその一片でも伝われば幸いだ。
 


 
■まずは結成25周年、おめでとうございます。
Mummy-D & DJ JIN「ありがとうございます」
宇多丸「……恥ずかしいけど(笑)」
 
■恥ずかしいんですか?
宇多丸「恥ずかしいじゃん。いや、良いことなんだけどさ、自分の歳より長く活動してるグループで『●周年……マジで!?』みたいな、あの感じ」
 
■25年という年数に対しての思いや感慨はありますか?
Mummy-D「……」
DJ JIN「四半世紀……」
宇多丸「長いっちゃ長いけど、本人たちですら実感はあまりなかったりして。でも、個々の場面とか気持ちを昨日のように思い出す部分も全然あったりはする。日本語ラップのシーン全体が、(結成当初と比べると)大進歩して、『SFか!?』ってぐらいの結果になってるのと同時に、『まだこの問題か……まだここか!』っていう、出だしで抱いてたモノがまだ残ってたりして。それは良いことなんだけどね。『まだラスボスが……』というか、まだ全然ステージが進んでないという思いがあるから、実感が薄いんじゃないかな。スゲェ変化して良くなった素晴らしいところと、当時の闘いが継続したまんま感、自分たちに対してまだ出来ていないと思っている感の両方がある」
 
■JINさんは、先日Billboard Liveで『J-20』というイヴェントを催された通り、加入して20周年を迎えましたね。
DJ JIN「いやあ、続いてるなぁ、って。もちろん、嬉しいし幸運に思うことも多いけど、続いてるというより『続かせてもらってるな』というか。だから、感慨というか、感謝ですね」
 
■Dさんは?
Mummy-D「『HIP HOPも変わったモンだなあ』という風にはやっぱ思うかな、どんどん次世代が出て来るにつれ。10周年/15周年とかとはやっぱ違うよね。20年超えるとやっぱ……ホントに町並みも変わっちゃうし。自分たちが“グレイゾーン”だな、と感じ始めたときから更に10年とか経ってるから……」
 
■そんなめでたいタイミングで野暮なのは承知で訊くのですが、解散の危機とかはこれまであったんですか?
宇多丸「あるでしょ、最初の頃は。……神社で蹴り合いとかね」
DJ JIN「福島だね。福島にライヴ行く度にその話になる」
宇多丸「営業が終わって、呑み会やって最終的に朝に神社でJINとDが蹴り合ってた。理由はもう忘れたけど」
DJ JIN「元々は宇多丸とDのケンカだったんだけど、俺が止めに入ったつもりが、俺がワーッてなった(笑)」
Mummy-D「初期の頃は、もっと深刻なケンカとかあったと思うよ。ラッパーはみんな自我が強いしさ」
 
■でも、2007年の武道館公演の後に活動休止をしたときは、続けていく意志があった上での活動休止だったんですよね?
Mummy-D「『201X年、復活か?』みたいなことがもうパンフレットに書いてあったと思うしね」
宇多丸「ヤダね~、そんなの載せて」
Mummy-D「だから、辞める気は全然なかった」
宇多丸「そのときは、逆に活動休止ぐらい余裕だから、って感じだったね」
 
■これだけ続けてこれた理由は?
宇多丸「その都度その都度で、必要なことの段階を経てるってことじゃない?例えば、『えー?〈リスペクト PART 2〉でいいじゃん!』みたいなこともなく、『次はこうだね』っていう話し合いを毎回重ねてやってきてる」
DJ JIN「グループとしてガシッとやるときもあれば、メンバーそれぞれの活動も出来てたというのもあるんじゃないかな」
宇多丸「ピンでも食える、コレ大事。経済格差があるとやっぱ気まずいでしょ。JINが言ったように、ピンでもそれぞれの世界があるし、活動休止があったことで、それがより分かったんだよね。『じゃあ、グループでは何をやるか?』っていう」
Mummy-D「理由ねぇ……まあ、みんなオトナだったっていう、人間性の部分(笑)。あとは、圧倒的な意見の違いとかがないんだよね。それと、3人が集まったときが一番強いな、っていうのも分かってるから」
 
■僕はRHYMESTERの制作風景を詳しく知っているわけではないですけど、普通のグループだと衝突してしまいそうな意見のぶつかり合いも、時にはそれぞれが譲り合ってきたから上手くいってるのかな、と思っていたのですが。
宇多丸「ケンカしにスタジオ入ってるワケじゃないからさ。『この曲のここをこうした方がいいんじゃないの?』っていうところで意見が分かれたとしても、それは作品を良くするための意見だから、自分の出したアイディアが否定されたとしても、より良くするんだったら検討してみて。それってケンカじゃないじゃん?」
 
■そういったことでケンカになってしまう人たちもいるんだろうな、とも思うんです。
Mummy-D「そうなんだよね。だから、若いときにみんなバラバラになっちゃうんだよね。クルーはいるかもしれないけど、グループでここまで続いてる人たち、あまりいないもんね。活動していく内に役割分担がハッキリしてきたというのはあるかもしれないね」
宇多丸「(役割分担がハッキリしてきたのは)それこそ活動休止以降だよ」
 
■グループとして考えると、四半世紀も続いているラップ・グループというのは、世界的に見ても非常に稀です。USでもパッと思いつく限りでは、PUBLIC ENEMYやDE LA SOUL辺りは比較的コンスタントに活動を続けてきていますが。……USラップではよく“現役感”があるアーティストに対して「relevant」(適切な/当を得た)という言葉を評論などで使うのですが、RHYMESTERはそういった言葉に相応しい活動を重ねてきていて、そういった部分でも今挙げたアーティストたち以上の継続性を維持してきたと思います。
Mummy-D「まず一個あるのは、大ヒット曲がないっていうことだよね。中ヒットとか、HIP HOPシーン内でのヒットはあるかもしれないけど。一般層を巻き込んでいち時代を作ってしまうと、その後は同じような気持ち/スタンスでやってたとしても、どうしても縮小感が出てしまうし、『最盛期が過ぎた』という感じが勝手に出ちゃうと思うんだ。ヒットを出した人たちはみんなそれで悩んでるし、苦労してる。俺らはそういったヒット曲がないから、毎回一般層のお客さんの前で自分たちの持ち駒を使ってどう巻き込んでいくか、ということを考えなければいけないんだけど、それは俺らの弱みな一方、ラッキーなところでもある。もちろん毎回、ビッグ・チューンを作ろうと思ってやってるわけだから、結果的に、だけどね。その中で、常に『成長しよう』とし続けてるから、固定ファンの入れ替わりがあっても、前に常に進んでいるグループというブランディングが出来てるのかな、って」
 
■とは言え、例えば先日来日したNASのように、「ILLMATIC」リリース時はメガ・ヒットしたアルバムではなくても、批評家からの評価が高すぎた結果、簡単に越えられない壁が出来てしまったというケースもありますから、HIP HOPにおいては商業的成功の有無と継続性は必ずしもリンクする部分ではないのかもしれないですよね。
Mummy-D「そうだよね、昨日正にスタジオでその話してた(笑)」
宇多丸「でも、NASはその次のアルバム(『IT WAS WRITTEN』)でヒットを飛ばしてるからさ。だから、彼はステータスもセールスも両方獲ってるんだよね」
Mummy-D「NASと俺らが違うところはね、彼は最初から“完成”してたんだよ。1stアルバムがモンスターすぎたから、アレを超えるのは大変だよ(笑)」
宇多丸「『ILLMATIC』は何年もかけて推敲を重ねて“決定版”を作るつもりで出来たアルバムだし、それ以降の作品は--JAY-Zとかもそうだったけど--そこまで手をかけて作ってないから、やっぱ『1stが一番良い』って言う人も多い。俺らはやっぱ、出だしが低いところからだったから、伸びしろが目の前に広くあった。まあ、シーン全体がそうだったんだけどね」
 
■確かに、ルネッサンス期と言われる90年代前半~中盤のUSシーンと、まだまだ黎明期だった当時の日本のシーンは全然違いますね。
宇多丸「ちゃんと聴き比べて言ってるワケじゃないんだろうけど、『「リスペクト」の頃の方がよかった』とか言われると、『お前、耳どうかしてるんじゃないの?』って思うよ」
 
■RHYMESTERはその時期に応じて自らに課してきた“挑戦”があるというのが、この活動の長さにプラスに働いていると思うんですが、そういった対象を常に見据えているというのは、自分たちの活動を続けていく上で重要だったりしないですか?
Mummy-D「『もうひとつ外側のお客さんを(取り込みたい)』とか、アルバムを作ってる最中に次のアルバムの課題が見えてくるんだ」
 
■そういった課題は、毎作生まれてきたんですか?
宇多丸「『HEAT ISLAND』(06年)を作った後は、『ちょっと休まないと面白いモンが出来ない』と感じてたんじゃないの?」
Mummy-D「そうだね。あの頃に『このままで次のアルバムを作っていいのかな』みたいに感じて、最初のベスト盤(『MADE IN JAPAN~THE BEST OF RHYMESTER』〈07年〉)を出して一区切り付けたんだよね」
 
■だから、「MADE IN JAPAN」と本ベストは、全然意味合いが違うベスト盤ですよね。今回のベスト盤は、まとめてみてどういう印象を持ちましたか?
宇多丸「選曲基準は、最近ライヴでやってる曲というのがまずあって。『MADE IN JAPAN』に入ってる曲とか、最近はライヴで全然やってないし、お客さんも最近の曲を求めてる時代なんだ。『RHYMESTERで最初に何聴いたらいいですかね?』みたいなとき、無難なつもりか『リスペクト』とかいまだに言ってる人も多いからさ、『(小声で)コレコレ!』っていうベスト盤が必要なタイミングでもあるかな、と思ったんだ。あと、あまり詳しくは言えないけど、この後の流れも踏まえて、ここで一区切り付けるのもいいだろう、とか」
 
■RHYMESTERの歩んできた25年を大雑把に分けると、
 
1:結成~「俺に言わせりゃ」期(日本語ラップ「冬の時代」と、その状況下での自らのスタンス模索期)
2:「EGOTOPIA」~「リスペクト」期(ライムス/シーン共に拡大期)
3:「ウワサの真相」~「HEAT ISLAND」期(“グレイゾーン”なスタンスを自覚した上での活動期)
4:活動休止期
5:「マニフェスト」~「ダーティーサイエンス」期

 
と言った感じに、5つに分けられると思うんです。で、その“第5期”に当たるこの5年間の活動をベスト・アルバムにまとめたというのは、すごく腑に落ちますし、取ってつけたようなベスト盤とは違うと思います。この5年間を、キャッチフレーズ的に一言で表わすと、どんな言葉になりますか?
Mummy-D「……もう一個後にフェーズが挟まってれば、また客観視できるんだろうけどなー」
宇多丸「そうだね、まだこの時期が続くのかもしれないし。でも、一言で言うなら『リセット成功』じゃないのかな。さっき言ったように、ライヴで演る曲は『MADE IN JAPAN』以前の曲じゃなくても全然成立するし、むしろそっちの方が盛り上がる。だから、結構なサヴァイヴァルをやってのけたというのはあると思う」
 
■懐古主義に陥らずに済んだ、と。
宇多丸「そうだね。代表曲をこの5年間に作れたというか」
 
■僕は、この5年のRHYMESTERの活動を一言で表わすと、“強化”という言葉になるのかな、と思ったんです。例えば、「マニフェスト」ではRHYMESTERにとってのHIP HOPの再定義を試みていて、それは宇多さんが言うような“リセット”でもあるんだけど、同時に自分たちなりのロジックを強化しようとしていたようにも思えます。そして、「POP LIFE」以降はラップの“伝え方”自体を強化しようとしてるんじゃないか、という。
Mummy-D「“質”という意味では、それ以前と比べ物にならないぐらい上がってると思うんだ。曲の緻密さとか」
宇多丸「手軽に書いてた良さもあったと思うんだけど、たまに昔の曲を演ったりすると『何故コレをアリにした、お前!』って思ったりする。……でも、今の目で見るとそう見えるけど、そのときはそのときで模索しながらそこに行ってるんだよな。だから、単に苦労を忘れてしまっているだけなのかもしれない」
Mummy-D「力の入れ方が昔と違うかな。例えば、面白いライミングにすごい力を入れてる時期とか--『J-20』で演るから“BIG MOUTH”(04年)とかを歌いながら、『バカだなー。でも、練られてるなー』とか思ったし。俺は、この5年間はRHYMESTERにとって“言葉”の時期だったと思う。メッセージって言っちゃうと簡単なんだけど、言葉を磨いていた時期。前とは『届けよう』ということに関して、全然意識が違う。昔はライミングに使っていた時間を、例えば情緒的な表現だったりとか、『もっと一般層に届くためには』とか、『HIP HOPタームを使わないで言えないかな』とかを考えるようになって。それまでは、『HIP HOPはこうだから』とか『HIP HOP的に面白ければ』ということに力を使っていたけど、比重のかけ方が違ってきた」
 
■「産みの苦しみ」ということで言うと、以前よりここ数年の方が苦しかったりしますか?
宇多丸「以前とは“苦しみ”の質が違う気もする。今の方が合理的な苦しみ方をしてる気がするね。『何のために、何で苦しんでるのか』っていう。一回も楽にやってたことはないんだけど……」
Mummy-D「……全部、苦しかった……」
 
■スゲェ暗いインタビューになってきた(笑)。
Mummy-D「“B-BOYイズム”作ったときだってメチャクチャ苦しかったし」
 
■でも、僕も比較的早い時期からRHYMESTERの作品を聴いてきたから思うことなのかもしれないですけど、そういった苦労や努力が作品に滲み出てるからか、前回のベストも本ベストも、アッパーな気持ちだけでは聴けなかったりするんですよね。
Mummy-D「あっけらかんと曲は作ってないから、そう感じて普通だと思うな。そういった(アッパーな)部分は、若手に任せた方がいいじゃん?自分たちなりの質の高め方として、こういう方向の時期だったんだと思う」
 
■RHYMESTERなりの、日本語ラップにおける“役割分担”の意識があった?
Mummy-D「なくはないかな。HIP HOPは、“フレッシュ”であることが非常に大事な音楽だけど、長くキャリアを積んでくると誰だって“フレッシュ”でい続けることが難しくなってくる。だったら、“フレッシュ”さに関しては若手に任せるけど、その後の自分たちのアートの深め方という部分で、少しでも後輩たちの参考になれば、とは思うよ」
 
■この5年間にリリースしたアルバムに関して、それぞれのアルバムで目指したモノと、達成したと思うモノをそれぞれ挙げて下さい。まずは「マニフェスト」(2010年)から。
Mummy-D「簡単に言ったら『次のRHYMESTER』を目指してたってことなんだけど。最初から『オモシロ曲を入れるのはやめよう』って言ってたんだ。だから、こういうベスト盤が出るための“下地”、新しいカラーを作ったということだと思う。HIP HOPシーンに守られてなくても、外に出て行って『闘える』アルバム。HIP HOP用語が分からない人でも届く情緒だったりエモーション、曲調--『(精神的に)“青い”ところが良い』という甘えは止めて、本当に質の高いトラックを集めたり--そういうとこじゃないかな。そういった部分は達成できたと思う」
 
■「POP LIFE」(11年)は?
Mummy-D「『POP LIFE』は、『マニフェスト』で得たその達成感の中で作り始めたんだよね。『マニフェスト』直後だったから“連作”に聴こえるように作ったし、最初に取り掛かったのが“WALK THIS WAY”だったから、達成感の中で得たポジティヴな感情をHIP HOPに落とし込めないかな、と考えながら作ったんだ。ブルージーなサブジェクトだったり気分だったりは、HIP HOPでやりやすいけど、世の中に死ぬ程ある“ポジティヴ・ラップ”とは違う、もっと人生の“光”の部分を歌に出来ないか、というところから始まっていったかな。作るのが大変だったアルバムだけど」
 
■「マニフェスト」で手応えを感じたまま進めていったのに、いざ作り始めたら苦労したんですよね?それは何故?
Mummy-D「『マニフェスト』は、活動休止後にメンバーがそれぞれ得て来たモノを最初にバーッと出すタイミングだったから、それは良いモノになるに決まってるじゃん?初めてトラック外注もやってみて、みんなが『RHYMESTERだったらコレだ!』ってトラックを送ってくれたし、今考えると『よくこれだけ名曲だらけのアルバムになったな』って思うモノが出来たけど、『POP LIFE』はその直後のアルバムだったから、必然的に『そのままじゃいけないよな』ってなった」
 
■手応えを感じた一方で、そこで胡座をかいたらいけない、という切迫感もあったんですね。
Mummy-D「チャレンジもしなくちゃいけないし、やっぱ同じモノは作れないからさ。『“言葉”を重視する』という点では、更に磨いたモノを目指してたと思う。『マニフェスト』は『RHYMESTER イズ・バック』でイケたワケじゃん?だけど、『POP LIFE』の時点ではもうバックしちゃってるから、大仰な『キングが帰ってきたぜ!』というスタンスよりも、もっと“私生活”というか、ひとりの生活者という気分で書いてたんだ」
 
■苦労を感じながら作っていって、最終的には達成感のあるアルバムになりましたか?
Mummy-D「手応えは、(リリースした)後だね。『POP LIFE』というタイトルを付けたというのもあるんだけど、『RHYMESTERにしては軟弱なモノを作ってるんじゃないか』みたいに感じた人もいるみたいだし、違和感があった人も多いみたいで。“HANDS”とかも賛否両論が凄かった。だけど、『俺たちは今、一回こういうことをやってから次に行かなきゃいけないんだ』っていう気持ちがあったんだ。で、リリース直後に震災とか色々あってから、『アレは良いアルバムだ』ってよく言ってもらえるようになったし、ライヴで『POP LIFE』の曲を演ったりすると『あ、コレはちゃんと“機能”する曲だな』って思った。だから、後から達成感が出て来たんだ」
 
■「ダーティーサイエンス」(13年)は如何ですか?
Mummy-D「『ダーティーサイエンス』は、最初からサウンドの志向性が決まってたんだよね。今までは『インテリに思われたくない』みたいな気持ちがどこかにあったけど、野蛮なサウンドの上でインテリジェントな部分を大解放しちゃえ、というコンセプトが最初から明確にあった。HIP HOPにはコンシャスな時代もあったけど、そんな時代は本当に一瞬だったじゃん?その後は、もっと“フィジカル”な時代になっていったと思うし、インテリジェンスみたいな部分は隠さなきゃいけない部分になってきたというか。ハイファイなサウンドはその前の2作でやってたから、だったらここら辺でド汚い音に“知”をぶつけてやろう、って」
 
■正にタイトル通り“ダーティー”な“サイエンス”を。RHYMESTERの作風の変遷や振れ幅を語る際、よく「振り子理論」という言葉が使われますよね。そういった意識が「POP LIFE」以降ということで働いたという部分はありますか?
Mummy-D「あー、『振り子理論』は本当はいけないんだよね、って俺たちは思ってるんだけど(笑)」
宇多丸「あれ、そうだったけ?『振り子理論』って良くないんだっけ?」
Mummy-D「宇多さんがそう言ってたよ。あまりカウンターにカウンターを働かせると、リスナーが付いていけなくなっちゃうから」
宇多丸「ああ、そうか」
Mummy-D「でも、『POP LIFE』を作りながら、HIP HOPの持つ“攻撃性”とか凶暴さとかを我慢してた部分もあって、そこを一気に解放して『お前ら、結局こういう音好きなんだろ!オラ!』みたいな感じで、そこに質の高い歌詞を載せようってことだったかな。だから、最初から制作陣にIllicit Tsuboi君の名前は挙がってたし」
 
■他のアルバムに比べて、リリースされてまだ日が浅いアルバムですが、達成感という点では如何ですか?
Mummy-D「“THE CHOICE IS YOURS”も出来たし、“IT'S A NEW DAY”みたいな新しいアプローチの曲も出来たから、よかったんじゃないかな」
 
■“IT'S A NEW DAY”は、RHYMESTERにとってどういった部分で新しかったんですか?
Mummy-D「まず、あんなキレイなピアノ使ってる曲なんかやったことなかったしね。あと、『黒っぽくない』というか。俺らはやっぱ、どこかでファンク臭とかソウル臭がしちゃうんだけど……その当時、『白い』モノに興味があったんだよね。HIP HOPのネタ使いも、最近のKANYE WESTとかブラック・ミュージック的じゃなかったりするからさ。そういった部分でツボイ君のフィルターが通ってるから、現行のHIP HOPともリンクできたかな、って」
 
■「POP LIFE」リリース時のインタビューで、Dさんは「HIP HOPを超えたい自分」と「HIP HOPでありたい自分」とのジレンマに苦しんだと語っていました。今は「HIP HOPを超えたい自分」と「HIP HOPでありたい自分」のどちらに考えが寄っていると思いますか?
Mummy-D「今はその座標軸がなくなってるかもしれない。違う座標に変わってるのかもしれないな……」
 
■つまり、HIP HOPというモノが座標の中心にあった上で、どこに振れるかということではなくなっている?
Mummy-D「今は何なんだろうな……まだ(次作を)作ってる最中だからね。だけど、そういったことを今はあまり考えてない。……さっき、25周年を迎えての感慨について『HIP HOPも変わったな』って言ったけど、自分のラップを書いたり録ったりすると『あー……やっぱ俺のラップは“オールドスクール”だなあ』と思う瞬間もすごいあるし、『あ、でもそれでもいいのかな。この方向で質を高めるしかないのかな』とか思う一方で、『新しいフロウもやりたいな』とかも色々考える……でも、それは『HIP HOPを超える』とかそういうことではない」
 
■先ほど、宇多さんが「『まだこの問題か……まだここか!』っていう、出だしで抱いてたモノがまだ残ってる」と仰ってましたが、そういった話に通じる話題が先日Twitter上でありました。元・陸上選手の為末大さんが以下のようなツイートをしていたんですが:
 
「悲しいかな、どんなに頑張っても日本で生まれ育った人がヒップホップをやるとどこか違和感がある。またアメリカ人が着物を着ても最後の最後は馴染みきれない。私達は幼少期の早い時期にしみ込んだ空気を否定できない。」
 
これは「憧れの罠」というテーマでのツイートの流れから出て来たツイートですが、前後のツイートも含めて、皆さんに読んで頂きたく。
宇多丸「(ツイートを読み終わり)……まあ、単によく知らないっていうのもあると思うし、最後に例で挙げていたジャズの話なんて、日本でHIP HOPをやることそのものなんだし。多分、為末さんはちゃんと分かってれば、日本のHIP HOPをすごく理解できる立場の人なんじゃないかな」
 
■そうですよね。むしろRHYMESTERとか凄い好きになる可能性があるんじゃないか、と僕も思いました。
Mummy-D「為末さんは言葉が足りてないだけだと思うよ。『日本で生まれ育った人がヒップホップをやると』の“ヒップホップ”の前に“まんま”って入っただけで全然違う」
宇多丸「だから、為末さんの言ってることは前後を読めばある程度理解できるけど、このツイートに対して『ふざけんな!』って言う人と『俺もそう思う。禿同です』って言う人もいて、後者の人に関しては『もう……どこから説明すればいいんだ!』っていう……」
 
■こういった話は、それこそ10数年前に宇多さんがよく言っていた、日本における“たらこスパゲッティ”や“カレー”の発展の喩え話を持ち出すまでもなく、RHYMESTERが25年間ずっと闘ってきたことだと思います。
宇多丸「まあ、偏見と闘うということとはまた違うけど、自分たちの表現の質を高めるのが第一にあった上で、ある時点までは『日本社会とHIP HOP』という部分にもすごい意識的で、啓蒙の意識があったんだけど、あるところでそういった部分は『もう達成したな』みたいな気持ちもあったんだ。でもねぇ、そういった啓蒙も、質を高めることも、両方継続してやらないとダメなんだな、って。ただ、それを継続していくのが昔から同じ面子だからちょっと疲れてきちゃうんだけど。まだまだ外に向けて働きかけていくという意識をシーン全体で持たなくちゃいけないという考えは、終わったワケじゃないんだよな、って思う」
 
■一方、千原ジュニア氏はラジオ番組でMCバトルにハマっていると語っていたようで、彼はMCバトルの持つ即興性やHIP HOPの持つ頓智的な部分を理解した上で評価しているようなんです。一方ではそういう人も増えている。
DJ JIN「流石だね」
宇多丸「それは嬉しいなー」
 
■お笑いの世界では、いまだに「チェケラッチョ」的な捉え方でステレオタイプなラッパー像をネタにすることは多いですが、そことは違う価値観も確実に生まれてきていて、それはRHYMESTER含め、パイオニアたちが蒔いた種の成果なんだと思います。だけど、いまだに為末氏のツイートのような意見が議論の火種になってしまう2014年現在において、こういった意見にHIP HOPアーティストが音楽を通して反論するとしたら、どういったラップをすることが“正解”だと思いますか?
宇多丸「それはさ、『日本のラップはなんであんなに親に感謝してばっかなんだ』とかよく言われるけどさ、『ちょっと待て、それは“GRATEFUL DAYS”の話でしょ?』って思うし、でもなんでいまだにそんなことを言われるかっていうと、端的に言うとそれ以来“ヒット”がないからだよ。“DA・YO・NE”と『東京生まれヒップホップ育ち』以来、『みんなが知ってる日本語ラップ』がないからなんだよ。だから、それは『マニフェスト』以降の俺らの意識じゃないけど、『俺、カッコ良いでしょ?』っていう段階を卒業して、『今まで培った技術を持って、外に“刺す”にはどうすればいいか?』という意識を持った/そのレヴェルに達したアーティストがもっと増えるべきだし、そういった闘いをまたやらなくちゃいけないんだと思う」
 
■RHYMESTERが自身の音楽を通して世間にラップ/HIP HOPの凄さを伝えていくというのは、今でも目標のひとつですよね?
Mummy-D「そうだね、一生それだけをやる感じじゃないの(笑)?」
 
■で、それはまだ伝えきれてない?
Mummy-D「伝えきれてないんだろ?そこまで大成功もしてないから、まだ課題があるってことだよね。もしかしたら、俺らのラップだってまだまだ歌うのは難しいのかもしれないし」
宇多丸「そうなんだと思うよ」
Mummy-D「昔より、相当整理して書こうとしてるんだけど、それでも『まだ難しいのかなー』とか思うし」
宇多丸「USでも、今はスキル至上主義的なモノはあまりポップじゃないワケで、繰り返しのフレーズやほぼ全編フックみたいな感じが多かったりするよね」
Mummy-D「でも、物凄いカッコ良いモノとして突き抜けちゃうという方法が、もしかしたら早いのかもしれないと思うこともある」
 
■HIP HOPの持つぶっ飛び具合を押し出した、極端なまでにラップのエッジを利かせたモノ程、他ジャンルの人とかが面白がるんじゃないのかな、と思うこともあります。
宇多丸「実際90年代後半は正にそのやり方で“一点突破”したワケだからね。だけど、あのときは『日本語でも“上手い”ラップというモノがあるのか!』という衝撃があったワケじゃん?で、今は『カッコ良いラップがどこぞにあるんでしょ?』というのをみんなが知ってる上で、そこを上回るショックを与えないといけないから、難しくはなってる。でも、さっきのMCバトルの話じゃないけど、フリースタイルで驚かせようとか、それこそ“一点突破”の方向のひとつだと思うよ。誰が観たって面白いしビックリしちゃうしさ。アレはHIP HOPという言語を用いた“一点突破”のやり方のひとつだよね」
 
■今日話して頂いたように、まだまだ日本語でラップをする上での課題は数多くあると思うのですが、RHYMESTERとしては目指すべき方向は確固たるモノとして定まってますか?
Mummy-D「……模索してるよ、全然。全然定まってない。ある程度の到達点までは行ったと思うけど」
 
■でも、この数年やってきたことを全部ひっくり返してまで、違う方向に行こうとは思ってないですよね?
Mummy-D「そこまでは思ってないけど、もっと平易にしなきゃいけないのか、メロディの力を使わないといけないのかとか、もっとカッコ良くなきゃいけないのかな?とか」
 
■カッコ良く、というのは?
Mummy-D「だから、やっぱり“フレッシュ”な、現行の流れを意識してとか。俺たちはブレてないけど、それは結果ブレてないだけで、常に色々考えながら続けてるよ」
 
■RHYMESTERの場合はそういった試行錯誤を、ソロじゃなくてグループで試み続けてるのが、改めて考えると凄いことだよな、って。
宇多丸「まぁねぇ……と、同時に『これしか出来ない問題』というか(笑)。普段も録ってて、良いのは出来るんだけど『……RHYMESTERっぽーい……』っていう瞬間がいろいろあって」
 
■その呪縛から離れたいという思いもあるんですか?
宇多丸「いや、そういう時期もあったかもしれないけど、やっぱコレがこのグループにおける最大の“武器”だな、と思う瞬間もあるんだ。『コレだけは誰もマネ出来ないもんね』っていうさ。(今のスタイルに)胡座をかいてもダメだろうし、かと言って本当に良い部分を見失ってもダメだし。『伝家の宝刀はたまに抜くからいい』っていうのもあるじゃん?だから、ここは難しいな……。俺らの中でも『やっぱコレだよね』期と『もう飽きたね』期があるからさ」
 
■今はどっちなんですか?
宇多丸「作ってる曲のコンセプトにもよるけど、昨日録ってた曲に関しては『やっぱコレだよね』感だね。多分、今の若いモードの子も『コレには勝てないだろ』というか、オッサン臭くても『でもカッコ良いな』という風にならざるを得ない感じというのは、曲単位としてはあるよ。でも、それとは全然違う方向--さっきDが言った“メロディ”寄りの試みで良いのが出来たと思う曲もあるし。それは、まだ初期段階で曲を並べてる段階だから、トータルとして何を示すモノかというのは、もうちょっとしないと見えてこないかな」
 
■では、次作に向けての制作は進んでるんですね?
Mummy-D「うん、おかげさまで折り返し地点は見えてきたな、って」
 
■ツアーも11月から始まりますし、諸々楽しみにして待っています。
 

 

 
 
TOUR INFO
KING OF STAGE VOL.11
The R Release Tour 2014

11月4日(火)@川崎CLUB CITTA' ※特別追加公演(公開リハーサル)
11月9日(日)@名古屋Zepp Nagoya
11月14日(金)@大阪なんばHatch
11月21日(金)@福岡DRUM LOGOS
11月28日(金)@東京Zepp Tokyo
12月7日(日)@札幌PENNY LANE 24
MORE INFO:http://www.rhymester.jp/

 
 

Pickup Disc

TITLE : The R 〜 The Best of RHYMESTER 2009-2014〜
ARTIST : RHYMESTER
LABEL : ki/oon Music
PRICE : 4,104円(初回生産限定盤)
RELEASE DATE : 9月24日