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2WIN

インタビュー/文:伊藤雄介(Amebreak)

「“Pain Away”で『俺の痛みの代わりにRAPしてくれてありがとう/おかげで見つかった夢が』って言ってるんですけど、ほんとそのラインみたいな感じです。誰かが自分のモヤモヤしてた気持ちを歌にしてくれたからこそ、俺の心も楽になったし、俺もラップを始めようと思えた。同じように思ってくれるヤツがひとりでも増えたら嬉しいですね」 -- T-PABLOW

 
 ラップという表現そのものにフォーカスした場合、どんな生い立ち/環境から出て来た人でも、そのラッパーの力量次第で優れた音楽を作ることは可能だと思うが、音楽だけでなく、ライフスタイルや育ってきた環境から生み出されるリアリズム/アティテュードも評価基準になり得る“HIP HOPミュージック”として考えると、そのラッパーにどんなバックグラウンドがあり、どう成り上がっていこうとしているかという“ストーリー”があるというのは、大きなアドヴァンテージだ。また、逆境を自分次第で肯定することが出来るというのも、HIP HOPの醍醐味のひとつだろう。それらを踏まえると、T-PABLOWとYZERRによる双子ユニット:2WINは、近年稀に見る程、作品以外での話題に事欠かない“逸材”だ。
 
 「日本にゲットーはない。だからHIP HOPは根付かない」とは、10数年前に死ぬ程日本語ラップ・ヘイターから聞かされたような言葉だが、アメリカとまったく同じ構造のゲットーが存在していなくても、経済的格差によって貧しい/ラフな環境に身を置くことを余儀なくされている人たちは存在するし、そういった人たちの中から、ラップを救いの手段として見出した人が実際に現われているというのは、この読者なら真っ先に思い浮かぶようなあんなラッパーやこんなラッパーの名前を出すまでもなく、明らかだ。そして、2WINのふたりは、正しくラップ/HIP HOPにより救われ、ラップ/HIP HOPから更なる祝福を受けようとしている、次世代の筆頭だ。
 
 
あのコーナーに毎週いる
13歳の売春婦
悪いことを悪いと知らずに
毎晩横顔照らす赤灯と三日月
だいたい親父はいないかヤクザ
お袋手にもつ包丁やヤクが
子供傷つけ恐怖を憶えた目
物心ついたときには汚れた手

(“One Way Ride feat. ANARCHY”)
 
 
 最早HIP HOP云々を飛び越え、ひとつのムーヴメントとして成立してしまった『高校生RAP選手権』を熱心にチェックしている人なら、彼らの生い立ち/プロフィールについては既に詳しい筈だ。神奈川県・池上町、HIP HOP的に書くとSCARSらが有名にした通称『サウスサイド・カワサキ』の工業地帯で、2WINのふたりは生まれ育った。
 
YZERR「リリックで書いてる感じだと、ちょっと治安が悪い場所って思う人がいるかもしれないけど、全然そんなんじゃなくて、普通にマジメにやってる人たちもいる。だけど、あの街で中学生ぐらいから不良みたいになろうとすると、その辺りを仕切ってる“上”がいて、自分たちがいたところはその“上”が巨大なひとつのモノしかなくて、そこに従わなくちゃいけない。そこが他の街と違うところかもしれないですね」
 
 リリック検索サイト:genius.comで「product of environment(環境の産物)」という言葉を検索すると、1,000件以上の検索結果が表示されるのだが、そこに表示されるリリックのほとんどは、ゲットーのような貧しく、様々な意味で“機会”の限られた環境で育ったため、ドラッグ・ディールやギャング活動に手を染めてしまった(主にマイノリティの)若者たちによる心の叫びだ。そして、2WINのふたりから出て来る少年時代の話も、アメリカのゲットー出身で、ハスラー/ギャング上がりのラッパーのインタビューでよく出て来るようなエピソードばかりだ。
 
YZERR「グレたのは小2ぐらいの頃なんですけど、そのときツルんでた友達の家に行ったらお祖母ちゃん、お母さんからお兄ちゃんまで全員刺青入れてるんですよ。たまたま自分らの友達の家庭がそうだったってことなのかもしれないけど、そういうのを小さい頃からよく見てきた」
T-PABLOW「友達の親がヤクザだったりとかは多いですね。俺たちはそういう人たちに育てられてきたというのもある。だけど、そういう人たちは優しいんですよね。俺たちの家が大変だからって、いろんなところに連れて行ってくれたし」
YZERR「すごい良いトコにも泊まらせてくれた。最初、俺たちはそれに憧れちゃったんですよね。そういう人は、地元で凄いデカイ家に住んでてベントレーに乗ってたりするんです。だから、そういう人がヒーローだと思ってた」
 
 
多額の借金抱えた母子家庭
怒鳴り散らしてるヤクザの取り立て
真夏なのに布団かぶって震えてた
あの日描いた夢は崩れてない
ひたすら環境を恨んだ
そんな俺育ててくれたグランマ
その優しさ裏切りグレた反抗期
盗んだバイクまたがりすする缶コーヒー

(“Pain Away”)
 
 
 小学生の頃に悪事を覚え、中学生の頃には集団を率いる「札付きのワル」となったT-PABLOWとYZERR。彼らが没頭していった裏の世界は、ひと度足を踏み入れると殆どの人間が抜け出すことの出来ない“沼”のようなものだ。だが、そんな状況にいた彼らが悪行以外で初めてハマったのがラップだった。
 
T-PABLOW「最初、『ラップをやりたい』っていうのは(足を洗うための)“言い訳”だったんですよ。でも、学校みたいに簡単に抜け出せる世界じゃないし、一回決めたらその後の道から戻って来れない。その道に進むかどうかのタイミングでラップに出会ったらハマっちゃって。イヴェントを主催して、みんなの前でラップやったりすると気持ち良かったし、第一回目の『高校生RAP選手権』に出たときに、一気にライトが当たった感じというか、『俺らでも輝けるんだ』って思ったんです。一時期、クラブ・バーで働いてたんですけど、朝まで働いた後に12時間ぐらいぶっ続けでフリースタイルをやってたとき、『俺、マジでラップが好きなんだ』って思いましたね」
 
 
ZEEBRA OZRO 般若 AK SCARS ANARCHYが流れた溜まり場
俺の痛み代わりにRAPしてくれた
ありがとう おかげで見つかった夢が

(“Pain Away”)
 
 
YZERR「ラップを始めたばかりの頃は、まだ悪い人たちとも付き合ってて、むしろそっちの方が本業みたいな感じだったけど、その頃ライヴしてたイヴェントで初めて真木蔵人さんに会って、それで『高校生RAP選手権』(第一回目)に声をかけてもらったんです」
 
 文字通り、彼らの人生の転機となった『高校生RAP選手権』出場の経緯を、YZERRはこう語る。そして、第一回目の大会でT-PABLOWがK-九名義で優勝し、一躍名を上げることになるわけだが、不良の世界と縁が切れていなかった彼らは、トラブルを回避するため大会直後に地元を離れることとなり、それによって第二回目〜第三回目の大会に出場することが出来なかった。そして、第四回目でカムバックし、T-PABLOWが優勝。第五回目大会ではYZERRが念願の優勝を果たす。
 
YZERR「地元を離れていたタイミングで、友達が死んじゃったんですよ。それで、上の人にお願いして地元に帰らせてもらって、葬式に行ったんです。そうしたら、そのタイミングで第四回目の応募が始まった。友達が亡くなったのにこういうこと言うのも何だけど、正直、タイミングだな、って。『コレ、神様が(応募しろと)言ってるんだ』って。どう考えてもそういう流れになってるんじゃねぇか、って」
 
 
負けたらそこで終わりのバトル
だから常に殺す気で罵倒
無理やりもらうぜお前のバトン
スキルだけならダメだろ

(“In My Blood”)
 
 
 “運命”と書いてしまえば簡単だが、追い詰められていた彼らだからこそ本能的に感じ取った何かがあったのだろうし、そのチャンスを掴もうとするハングリーさも、他の出場者と段違いのモノがあったことは、彼らの境遇を考えると想像に難くない。『高校生RAP選手権』は、MCバトルであると同時に、TV番組のコンテンツでもある。エンターテインメント性を強調するために人間性やバックグラウンドなど、様々な面で「キャラの立った」ティーンエイジャーMCが登場してきたが、ここまで「人生を賭けた」少年が現われ、一回目から優勝してしまうとは、番組スタッフ/関係者も予想外だったのではないだろうか。何故、彼らは兄弟でそれぞれ優勝を手にすることが出来たのか、T-PABLOWはこう分析する。
 
T-PABLOW「俺たちは、取り敢えず学歴がないんですよ。だから、ここでミスったらどういう道に進んでしまうか分かっていたし、だからこそ賭けていた想いが違った。俺らがラップをやらなかったら、普通にマジメに生きることさえも許されないような状況にいたんです。第四回目とか、優勝しなかったらヤバかったですよ、正直。周りから『優勝したらいろんなオトナが絶対味方に付いてくれるから』って言われたけど、確かにその通りになりましたね。ラップで変えることが出来た」
 
 
 2WINのふたりは、その「HIP HOP(リスナー)受けする」バックグラウンドのみならず、几帳面なまでのハード・ライミング・スタイルからも伝わるラップ基礎体力の確かさ、その端正なルックスとファッションへの拘りの強さ(彼らはその理由を、晴れ舞台で派手にカッコつけようとする“ヤンキー・メンタリティ”が影響していると語る)、そして“双子”であるという、持って生まれたオリジナリティなど、一般的な10代と比べるとかなりキャッチーな“素質”に溢れている。そして、その“素質”が持つ可能性に、『高校生RAP選手権』ではコミッショナー/審査員として関わってきたZeebraが注目したのも必然だ。2WINは、大会で結果を残した後、Zeebraも所属する事務所:I&I PRODUCTIONSに誘われ、結果的にGRAND MASTERの所属アーティストとなる。
 
 
どこでも成績表なら5がつく 完璧にこなす全教科
100点満点 誰もが認める俺が勉強家
でも裏口入学とかの噂 非常識も甚だしいな
結果を残してきた結果 Grand Masterに進学

(“School Of Hard Knocks”)
 
 
T-PABLOW「ジブさんに『初めてプロデュースしたいヤツが見つかった。それはお前なんだよ』って言われて。その瞬間、『全てを掴んだ』みたいな気分になりましたね(笑)。出れなかった第二回〜第三回目の頃、自分はそのとき出てた同世代のヤツらにヘイトしてたんですよね。『俺だったらもっと出来るよ。あんなヤツらクズだ』みたいに、陰口ばっか叩いてた。そんな状態で第四回目に出て、優勝するために全てを賭けて出たんだけど、全試合で俺に札が上がったぐらい、スカッと優勝出来ちゃって。あまりに呆気なく勝てちゃったから、ちょっと『燃え尽き症候群』みたいな感じになっちゃったんです。だから、ジブさんから誘われたときも『燃え尽きちゃった感』みたいのがあって。こんなんで満足しちゃったら“小物”なんだろうな、って思うんですけど」
YZERR「自分らが15歳ぐらいの頃に思い描いていたラッパー像で、『良い家に住む』とか『良い車に乗る』とかっていうモノを抜きにしたら、夢はほとんど叶っちゃったんですよね。ジブさんと一緒に何かやるとか、ANARCHYさんと曲やるとか」
T-PABLOW「挨拶行っても、いろんなラッパーから『知ってるよ。お前らカッコ良いよ』って言ってくれたりすると……」
YZERR「そこに向かってラップしてたもんな。雑誌に出るのだって夢だったし」
T-PABLOW「Amebreakに載るのも夢だったよな(笑)」
 
 
 イリーガルな世界にしか将来を見出だせていなかった彼らが、突如受け取ったスターダムへの切符。フリースタイルのスキルは高かったとは言え、まだ本当の意味での楽曲制作にまで手を出していなかった彼らは、GRAND MASTERに加入することで1stアルバム「BORN TO WIN」の制作に入る。
 
Zeebra「基本としては、“王道”のアルバムにしたいっていうのがまずあって、本人たちもなんとなくそういう意識だった。あと、ふたりでやるってこと自体が初めてだったから、やってみないと分からない部分も多かった。やってみて気づいたことに毎回対処していったというか」
T-PABLOW「ジブさんからも『この年齢の数ヶ月〜半年は成長が早いから本当に大事だ』って言われてたんですけど、こうやってアルバムを作ってそれが分かりましたね」
 


 
 ZeebraとT-PABLOWの発言が象徴しているように、「BORN TO WIN」は良くも悪くも“発展途上”の要素が強いアルバムだ。扱われているトピックは、確かに“王道”なHIP HOPアルバムには欠かせないものが多いし、そういった要素をこなすことはラッパーにとってある種の“通過儀礼”なのかもしれないが、一方でここまで可能性のある“原石”を活かすには、もっと挑戦的な内容でもよかったのでは?と、筆者は先行シングル“Fire Burn”を聴いた際に感じたのが正直なところだ。彼らの決意表明であるデビュー・シングルであり、フロアにも対応した“Fire Burn”は、彼らの地力を手堅く見せた一方、“平凡”な曲にも聴こえた。また、双子ということ自体はキャッチーで興味を惹かれる要素ではあるが、ルックスが似るだけでなく、同じ景色/同じ人生を歩んできたふたりだけに、如何にキャラ/ラップを差別化して見せていくかという、双子デュオならではの課題も浮き彫りになったと言える。
 
 
 だが、「BORN TO WIN」を通して聴くと、彼らが楽曲単位で着実にスキルをモノにしていっている様をリスナーも感じ取れるぐらい、粗い部分と洗練された部分が混在していて、興味深い。先行でMVが発表された“Pain Away”などは、拙い部分と基礎スキルの高さ、クールな情景描写と熱さを感じさせるポジティヴィティといった相反する要素が程よく共存していて、それ故により大きな感動を呼ぶ曲になっていると思うし、彼らだから作れた名曲だ。
 

 
YZERR「俺はMACCHOさんとANARCHYさんが好きです。ANARCHYさんは、自分のようにハードな環境から這い上がって自分の経験を歌にしてるところに喰らったし、MACCHOさんは……『あんなこと言えるようになりたい』というか、世界観も含めて凄い人だな、って思います」
T-PABLOW「日本語ラップはすごい好きなんですけど、フロウとかってなるとUSのラッパーからの方が影響は大きいですね。最近だとLOGICとかKENDRICK LAMARとかBIG SEAN、T.Iとかも好きだけど、最近は誰も知らないような深いトコのアーティストしか聴いてないんですよね。YZERRは男らしい感じのラップが好きなんですよね。俺はもうちょっとオシャレな感じが好き」
 
 
 彼らがそれぞれのスタイルを追求する上で影響を受けてきたラッパーは?という質問の回答が上記なのだが、こういったラップに対する価値観の違いは、アルバム収録曲を聴くと徐々に実際のラップの違いとなって現われてきている。例えば大雑把に書くと、“熱”っぽい部分をYZERRが担い、“クール”な部分をT-PABLOWが受け持つといった具合に、立ち位置を更に明確に分けることが出来たとき、2WINのデュオとしての真価が更に発揮されるのかもしれない。
 

 
 「BORN TO WIN」は、聞くところによるとGRAND MASTERスタッフが嬉しい悲鳴を上げるほど、直販のオーダーが殺到しているようだし、2WINも所属する川崎のクルー:BAD HOP(彼らについては、改めて別の機会に取り上げさせて頂きたいと思う)が2013年にリリースしたストリート・アルバムも、手売りレヴェルで2,000枚売り上げたという。CSとは言え、テレビ(とYouTube)の影響力の大きさが窺えるが、ネガティヴな環境から這い上がってきた彼らの“ストーリー”に共感/憧れを抱いてファンになったリスナーも大勢いる筈だ。2WINのふたりは、正に彼らが憧れていたZeebraのような、キッズたちの“アイコン”になろうとしている。
 
Zeebra「俺も同じように、向こうのHIP HOPを聴いて『コイツらしか俺の気持ち分かってくれねぇ』って思ったからこういう風になったワケで、そのおかげで自分もそれまでとはガラッと変わって、生産的な人生を歩めるようになった。そういった経験を、同じようなヤツに還元できることが一番大切だと思ってやってきたんだ。それこそANARCHYにも同じようなことを言ってもらったことがあるけど、今はANARCHYも下の世代に影響を与える立場にいるって意識があると思う。だから、今後は2WINもそういう立場になっていくし、既にリーダーという目線で歌詞を書いてる部分もあると思う。そういうことは常に繋がって受け継がれていくモンなんだよね」
YZERR「自分にファンがどれだけいるのか分からないですけど、地元に行くと小学生に囲まれたりする。だから、自分がラップで救われたように、同じ境遇の人たちにも届けばいいな、という想いを込めてますね」
T-PABLOW「むしろ今作は、そこ(自分たちの周り/同じ境遇の人たち)にだけ届けばいい、ぐらいの感じかもしれない」
YZERR「クラブでかかるようなノリの良い曲も当然必要だと思うけど、まずはそういう人たちに向けて、自分がHIP HOPを聴いて『ヤバい』と思ったようなことを詰めたかもしれないです」
T-PABLOW「“Pain Away”で『俺の痛みの代わりにRAPしてくれてありがとう/おかげで見つかった夢が』って言ってるんですけど、ほんとそのラインみたいな感じです。誰かが自分のモヤモヤしてた気持ちを歌にしてくれたからこそ、俺の心も楽になったし、俺もラップを始めようと思えた。同じように思ってくれるヤツがひとりでも増えたら嬉しいですね」
 
 

Pickup Disc

TITLE : BORN TO WIN
ARTIST : 2WIN
LABEL : GRAND MASTER
PRICE : 2,500円
RELEASE DATE : 7月2日