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田我流とカイザーソゼ

インタビュー:高木“JET”晋一郎

「バンドでやる楽しさって、1MC+1DJとは違って、『集合体全体でひとつのグルーヴを提示する』っていう醍醐味があるんですね。トラックで曲を作ってても、なんとなく『バンドだったらこういうグルーヴが出せるんじゃないか?』とか、そういうイメージが浮かんだりもするようになってたから、それを形にしたかったし、それをやるには、今がタイミング的にバッチリだと思ってて」

 
 ライヴを中心に、2014年から活動を展開してきた田我流のバンド・プロジェクトが、アルバム「田我流とカイザーソゼ」として、録音物としても結実した。田我流をヴォーカルに、TAICHIや後関好宏、中村圭作などバンド:stimのメンバーを中心に、KIRIHITOの竹久圏や、コーラスに今井瑠美子、ターンテーブルにYOUNG-Gを擁する大所帯のユニットとなった田我流とカイザーソゼ。アルバムは田我流の既発曲のリアレンジが中心となっているが、バンド・サウンドによって再構築されたトラックに対して、田我流がオリジナルとは感触の違う、重心の低いラップで丁寧に色づけしていくのが非常に興味深く、「バンド・サウンド=派手」になりがちなラップとバンドとのセッションにおいて、この作品はよりディープな音像を提示している。その意味でも、「この10人だから鳴らすことの出来る音」を試行し、それを形作っていっている。バンドとラップとの関係性はどうあるべきかということに対しての彼らなりの回答でもあるだろうし、大きな示唆に富んだ一枚だ。(※取材には田我流が代表して回答)
 
 
■今回のアルバムについて、Facebookで「製作中はあり得ない程の災難の連続」って書いてたよね。
「ホントに色々あったんですけど、まずは骨折ですね。しかも骨折した数時間後にはもうライヴがあって(笑)。それから、骨折りながら決まってたライヴをこなしていって」
 
■どれぐらいの骨折だったの?
「左足のくるぶしの両側ともやっちゃって、足を支える骨が壊れちゃったから、くるぶしから先がブランブランの状態になっちゃって。熱は出ちゃうし、手術後も寝付けないし。でも、手術の2週間後には、もうライヴが入ってて。医者はまあ『やるな』って言いますよね(笑)」
 
■当然ドクター・ストップにはなるよね。
「で、俺も『これは流石に無理かも』って思ったんだけど、一方で『でも、この状態でライヴをやるっていう試練を乗り越えられたら、またパワー・アップできるぞ』って思ったんですよね。イメージ的には『ドラゴンボール』で悟空がメチャクチャ重い服を着て練習してるシーン(笑)。“骨折”って要素も、ライヴをやったらやったで、おいしく使えるんですよね」
 
■ひとネタとして?
「そうそう。『骨折っちゃってさ〜』とか言うと盛り上がるし(笑)」
 
■「骨折っててもライヴしてくれる!」は盛り上がるよね。
「『こいつ……クレイジーだ!』って部分でもアガるじゃないですか。でも、体力は超下がるんですよね。『動けない』『歩けない』なんで、体力がありえないぐらい落ちちゃって。体力が落ちると集中力も落ちるから、生活自体がホントに大変でした。最初はレコーディングでもゼーゼーしちゃって。録りながら調子も良くなっていったんで、最終的には大丈夫でしたけど。でも、単純に座ってラップすると声も出づらいですからね」
 

田我流とカイザーソゼ@代官山UNIT(2015/8/21)
写真:山口貴裕

 
■そんな中でのレコーディングとなった今作だけど、根本的なところで、バンドとのセッションというプロジェクトはどこから始まったの?
「もともと、カイザーソゼに参加してるstimのドラマー:TAICHIさんがやってたGROUPってバンドがすごく好きだったんですよ」
 
■GROUPはトータスのフロント・アクトとかもやってたバンドだよね。
「それで、TAICHIさんの作品を知り合いの制作の人が手がけてたんで、彼伝いにTAICHIさんにコネクトしたいって話をしてたんです。それで繋げてもらったら、向こうも俺のことを知ってくれてたし、共通の知り合いも多くて。そこからTAICHIさんのやってるバンド:stimの作品に参加させてもらって」
 
■今作にも再収録されている“√20”だね。バンドとコラボレーションした作品を作りたいっていうイメージは、もともと持ってたの?
「ありましたね。自分自身、昔バンドをやってたのもあるし。バンドでやる楽しさって、1MC+1DJとは違って、『集合体全体でひとつのグルーヴを提示する』っていう醍醐味があるんですね。トラックで曲を作ってても、なんとなく『バンドだったらこういうグルーヴが出せるんじゃないか?』とか、そういうイメージが浮かんだりもするようになってたから、それを形にしたかったし、それをやるには、今がタイミング的にバッチリだと思ってて」
 
■というと?
「自分でイニシアティヴを握れるかなって。ラッパーって、やっぱりフロントマンだと思うんですよね。そうすると、バンドと組むときに、バンドに対してもある程度のイニシアティヴだったり、イメージを伝える作業が必要になってくる。『ここは抑えてくれ』とか『こういう鳴りが欲しい』とか」
 
■前面に立つってだけじゃなくて、バンマス的な役割も果たすというか。
「且つ、バンド内でそういうことを提示したときに、ちゃんと説得力が出せるようになるまで、今までのキャリアや経験、時間が必要だったと思うんですよね。ラッパーとバンドがセッションしたときに、いまいち噛み合わせが悪くて、『これだったらバンドだけ、ラップだけでいいじゃん』ってなってしまう場合も時々あるように感じるんだけど、それは、そういう『伝える作業』が出来てないからだと思うんですよね。ちゃんとしたヴィジョンを持って、それをバンドに伝えて共有できるコミュニケーション能力が必要だと思うし、それが出来るだけの経験は今までしてきたかなって」
 
■作品の全体のトーンとして、テンション的に上がり切らない温度になってるよね。バンドとラッパーのセッション作品は、どちらもテンションが突っ込みがちになる場合も多いし、それも魅力のひとつだけど、今回のアルバムは、ラッパーとバンドが良い距離感と間合いを保ってるよね。
「それは最初から意識してましたね。感情を入れたりはもちろんするけど、一歩距離を置いた感じで組み合いたいなって。超簡単に言えば“バランス”を大事にしました。演奏も超上手いし、みんなスペシャリストだから、全体のバランスや、押し引きの妙みたいな部分をしっかり形にするっていうか。音的には良い意味でイナタい、LOW重視のパンチのある音にはしっかりなってると思うんですけど」
 
■それは田我流とカイザーソゼのライヴでもそういう感じ?
「ガンガンに盛り上げるんじゃなくて、酒呑んで聴くって感じは、イメージとしてありますね。立ってても座っててもしっかり響くけど、その場の“ムード”を大切にしてるというか。だから、俺らはその場の空気をコーティングする役割っていう感覚ですね。歳とってくると、嗜好も変わるじゃないですか。俺自身がそういう志向になってるし、お客さんも心の中は動いてると思うんだけど、アクションとしては反応もおとなしい場合が多くて。だから、単にアッパーにさせるのを目的にするのは、もう自分の役割としてはちょっと違うと思うんですよね。もう『乗れ!』とか『騒げ!』って命令するのが面倒くさいし、それぞれのリスナーが、それぞれに好きなように愉しめばいいじゃん、って。そういう、『それぞれの見方』を大事にしたいんですよね」
 
■それはソロの田我流としてのライヴでも?
「そうっすね。足の骨折を経て、更にそういう意識になってきて。そういうライヴの進め方に対して、自分で恐れてたり不安だったりしたら、その不安感が伝染しちゃって失敗するかと思うんですけど、そこに対して自信があるから、堂々ライヴできるし、そういう表現でも、リスナーは楽しんでくれてて。……なんていうか、恋愛も20代は喋りがちだけど、30代になると沈黙も悪くないって思うじゃないですか(笑)。そういう感じですよね。ライヴが終わった後、反応が和やかなのも嬉しいし、柔らかい爽快感があると思いますね」
 
■なるほど。では、具体的な制作についても聞きたいんだけど、今回は田我流君の既発曲のカヴァーがメインになってるよね。その元曲をバンド・アレンジに変えていくのはどのように進めていったの?
「バンドと一緒にリハに入って、鳴りの感じとか小節を提示して、バンドとセッションしながらそこにメンバーがどんどんアイディアを出していって、それを精査して形にしていくっていう。アイディアやサウンドを重ねたり、引いたりしながら作るって部分では、HIP HOP的な作り方ではあったと思います」
 
■バンド側からの提示は?
「ミックスのときには多少あったけど、基本的にはセッションの中ですり合わせていく感じでしたね。だから、よっぽど間違えない限りは、言葉ではなにも言われないっす(笑)」
 
■トラックでラップするのと、バンドでラップすることの違いは?
「やっぱり、バンドのオケはグルーヴが一定ではないから、同じフレーズでも引っかかるときもあるし、すごくハマるときもあるんですよね。その揺れや“ゆらぎ”みたいなモノがすごく人間らしいと思うし、楽しいんです。コミュニケーションから生まれるマジックみたいな部分は、バンドならではかなって」
 
■選曲はどのように?
「『この曲をバンドでやったら楽しいかな』っていうのを、まず俺の方で提示させてもらって、それを更にバンドと一緒にふるいにかけて」
 
■“Tasty”と“誰かの夢”はこのアルバムのオリジナル曲だけど、ゼロから作るトラックはどのように作っていったの?
「この二曲もジャムりながら、良いフレーズやコード感が来たら、『これをベースに行きましょう』って決めて、そこからまたセッションしていった感じです」
 
■“Tasty”は現在の田我流君の年齢の話に通じる部分が強いよね。
「30代には30代の音楽やHIP HOPがあっていいかなって思うんですよね。やっぱりこの歳になると、正直リリックを理解できたり、共感できる部分が少なくなっていったり、『今はそういう気分じゃないな』って思うことも多くなって。そういう揺れる気持ちを形にしていって。30代になって、俺自身『これはいつ息が抜けるんだ』ってぐらい忙しくなって、色んな責任も生まれてきて。そういう部分とどう折り合っていけばいいのか、ってことを書きたかったんですよね。自分で自分の内面を整理して、自分を救って、あわよくば誰かも救えればって思った曲です」
 
■田我流君の息抜きとしては釣りがあると思うけど、メチャクチャ釣りしてるよね。
「忙しいときほどしてますね(笑)。仕事とまったく別のことだからこそ、それをやることで浮かんでくることもあると思う。リリックでも言ってるけど、遊びと仕事って分ける必要がなくて、実は地続きだと思うんですよね。仕事で行き詰まった脳を活性化させたり、スランプだったらそれをリセットさせて客観視させる瞬間を作るために、趣味や遊びは必要かなって。だから、どっちも繋がってると思うんです。それが俺にとっては音楽作りと釣りの関係かなって。だから、釣りのときは釣りのことしか考えないんですよね。逆に、それが良い影響を与えてるんだと思う」
 
■“誰かの夢”は意味深な内容だよね。
「だいぶ深い意味合いがあるんで、敢えて言葉で説明する必要はないかなって。この曲に関してはノーコメントで」
 
■聴く人によって光景の受け取り方が違う曲だから、提示者としてはそれを説明はしたくない、と。
「ま、幻想小説的な感じですよね。いろんなところに、いろんなイメージを隠して、それを表現するっていう。新しい自分の書き方かなって思います」
 
■ちなみに、「田我流バンド」から、バンド名が「田我流とカイザーソゼ」になった理由は?
「まあ、そこら辺もみんなに考えてもらって」
 
■フフフ、それは理由がないパターンのような気がするんだけど(笑)。
「名前をみんなで呑みながら考えてたんですけど、何回やっても100個ぐらい出てきて、大喜利みたいになっちゃって。それで、最終的に落ち着いたのがこれでしたね」
 


 
■バンドと制作したことでの発見はあった?
「手応えは本当に強くあるけど、実験って部分がそこまで出来なかったんで、次はもっとそういう部分を強くしたいですね。例えば、スネアの鳴りひとつだったりっていう、音響的な部分にも手を突っ込みたい。でも、実験ってお金かかるじゃないですか」
 
■しかも、成功が約束されてない実験は厳しいよね。
「音楽だけじゃなくて世の中的にもそうだと思うんですよね。『今のミュージシャンは機材を減らして、短い期間で録れて当然』みたいな話も聞くけど、クリエイトすることは道具作るわけじゃないんだから、それは違うだろって思うんですけどね。確かに、メンバーも多いし、スタジオ代も高いし……完全に時代と逆行した作り方をしてるなとは思うんですけど、でも、それをやせてもらえたのは自分にとってすごく大きいかったですね。だけど、次にこのユニットでやるときはもっとお金をかけたいし、もっと時間もかけたい。だから、みなさんのサポートが必要です!(笑)」
 
■一方で、田我流としての新作はどうでしょう?
「一宮のビート・メイカーでFALCONってヤツがいるんですけど、それと一緒にユニット・アルバムを作ってますね。それは来年の春ぐらいには出したいなって。スゴい面白い感じになると思いますよ」
 
■「B級映画のように2」の後に、stillichimiyaで「死んだらどうなる」が出て、リスナーとしてはすごく振り回されたから、正直予想がつかないんだけど、もう少しヒントをくれる?
「グッド・ミュージックを追求した感じですね。『こういうのが欲しかったんだよ!』『この質感でこういう展開の聴きたかったよ!』っていうツボを突いた感じになってると思います。もっと具体的に言えば、HIP HOPにある、俺の色んな好きな要素をどんどん詰めた感じですね。オールド・スクールもあれば、チキチキ系も、G-UNITみたいな鳴りも最高だし、KANYE WESTが全盛期を迎えたかと思ったら、DR.DREが急にアルバム出したり……。そうやって歴史の流れだったり、HIP HOPが細分化、多様化する中で、自分の好きなエッセンスを色んなところから抽出して、それをまとめて形にしたいなって」
 
■いわば田我流君のHIP HOP観、王道感が反映される作品になりそうだと。
「そうなると思いますね。でも、ソロじゃなくてFALCONとのタッグ作なんで、ふたりの中でああでもない、こうでもないってディスカッションして、更に磨き上げられると思います。まだリリックは全然書けてないですけど(笑)」
 
■では、ソロとしての田我流作品は如何でしょう?
「うっすらは浮かんでますね。でも、まだ口に出せるような感じではないです。自分の中ではリリースに至るロード・マップがあって、その中には、バンドとのセッションも、FALCONとのコンセプト・アルバムも計画してあって。そういった段階を越えていった後に、ソロとしての3rdアルバムが出来るって感じですね」
 
■その意味では、3rdアルバムに至るまでのキャリアを整理しながら進んでるんだ。
「そうですね。総合的な経験値を溜めて、その先に3rdがあると思います。だから、今はその理想に追いつくまでの道筋。『よっしゃ!!出来た!!』って言えるモノを作りたいし、そのための修行ですね」
 
■最後に、このアルバムのリリースの直後には、田我流とカイザーソゼでのワンマン・ライヴが控えてるね。
「会場でしか伝わらない部分もあるんで、是非見に来てもらって、経験、体験して欲しいですね。これからも機会があれば田我流とカイザーソゼで動いていくので、期待してほしいです」
 
 
LIVE INFO
WWW 5th Anniversary 田我流とカイザーソゼ
 
日時:11月7日(土)19:00開場/20:00開演
場所:渋谷WWW
料金:前売り 2,500円
(問)WWW:03-5458-7685
プレイガイド:
ローソンチケット http://l-tike.com/(Lコード:77267)

 
 

Pickup Disc

TITLE : 田我流とカイザーソゼ
ARTIST : 田我流とカイザーソゼ
LABEL : Mary Joy Recordings
PRICE : 2,268円
RELEASE DATE : 11月4日