[EVENT REPORT] |
DATE : 2008/01/23 |
今大会の優勝候補本命と目された百戦錬磨のフリースタイラー:大阪代表HIDADDYと、超絶フロウを武器に東京代表の座を掴んだBESとの対戦は、DJ KAZZ-KがチョイスしたZEEBRA“STREET DREAMS”(!)ビート上での1本目が始まった瞬間から、筆者にとっては凄まじい衝撃の連続だった。
キレまくりのフロウと対戦相手をまるで意に介さないような不敵な佇まいで言葉を連ねていくBESと、持ち前のエンターテイナー性を全面に押し出しつつも、随所にテクニカルな押韻とユーモアを織り込み、会場を沸かせるHIDADDY。前年大会の名勝負、HIDADDYとFORKの一戦のように、同じベクトルのスタイルを持つ両者のせめぎ合いではなく、決して交わることのない異種格闘技の闘いを見るような、まるで異なるスタイルのぶつかり合いは、この日最もスリリングなひとときだった。
会場全体がこれまでに判断基準のない、未体験のバトルに決着をつける事を躊躇するかのような空気の中、お約束の如く度重なる延長へともつれこんだ死闘は結局の所、BESの勝利に終わったのだが、その勝敗は例えば、この日選ばれた陪審員の1人がクジ引きの結果により入れ替わっていれば逆の結果になったかもしれない、そう思わせるほどに、極めて僅差のジャッジだった。それでもあえてBESの勝因を挙げるとするならば、会場に集うオーディエンス、その殆どがこれまでに「見た事のない」スタイルを提示した新鮮味に尽きるのではないだろうか。実際、筆者もMCバトルにおいて、単にフロウの凄まじさのみで地鳴りのような歓声が上がる光景を見るのは初めての体験だった。
しかし、ネット上ではこの試合の結果をもって、「押韻スタイルの敗北」とする論調もあるようだが、それはあまりに早計だ。HIDADDYは単なる「押韻」のみを売りにするフリースタイラーではなく、一流のフロウ巧者でもあることは周知の事実だろうし、BESとて「フロウ」のみを武器とする訳ではなく、言葉選び、貫禄十分のステージングなど、総合的に見た上でもタフなフリースタイラーだと言えよう。この日、たまたまHIDADDYの開けた引き出しが様々な偶然の要素も加わった結果、BESに敵わなかった、それだけの話だ。
しかし、そうした「バトルは水もの」との前置きを踏まえた上で、筆者がネット上の意見にも一理あると感じたのが、この日のオーディエンスは出場MCがいくら4文字、5文字でテクニカルに踏もうが、その言葉がバトルの中の即興、生きた言葉として適切なタイミングで、ストレートな格好良さを感じさせるスキルと共に放たれなければ全く反応を示さなかった点。近年、全国的にフリースタイラー達が急激に進化している点についてはここで語るまでもないが、観衆の耳もそれに呼応するかのように進化を遂げている事実は、筆者にとっても大きな驚きだった。こうなると実情はどうあれ、事前に用意したかのように見えてしまう押韻や、表面上の揚げ足取り、言葉遊びだけでは勝てない段階に来ている、それが今大会で証明されたはずだ。そうした意味で、「中身のない押韻スタイルの終焉」とするのならば、筆者にもなんら異論は無いところ。裏を返せば来年以降、表面上ではない高度な押韻スタイルを武器とするHIDADDYやFORKのような実力派MCが今回の結果に対し、どんな回答で次の次元を示してくれるのかが楽しみだ。
白熱の1回戦を終え、続いては2回戦、4試合。
仙台代表JAG-MEと沖縄代表KILLHAの勝負は、初出場とは思えぬスムーズなフロウで高度なフリースタイルを展開したJAG-MEの勝利に終わったが、今大会最年少、KILLHAの健闘も光る一戦だった。そして北海道代表、S-SENSEはYOUTHを下す番狂わせ、派手さこそないが、相手の長所を徐々に封印していくような闘いぶりは見事だった。地元横浜代表、丸は激戦区を制したことも頷ける堅実なスキルでBESに応戦するが、この日ばかりは相手が悪かった。「さっきの奴はトンでもなかったが君が相手なら俺は平常心」との痛烈なライム、1回戦同様に持ち前のテクニカルなフロウで会場を沸かせたBESの勝利。青森代表、PEDALも独自の言葉を持つ、優れたフリースタイラーだったが、GOCCIのセコンドをいじる試合巧者ぶりと重みある言葉の前に敗退、2年連続ベスト8で姿を消した。
1回戦と比べると淡々とした印象で進んだ2回戦4試合だったが、この時点でBESとGOCCIのヴァイブスは他の参加MCとは一線を画している印象を受けた。そして、その勢いは続く準決勝でも止まらない。
GOCCIが今大会の台風の目、フロウ、言葉選び両面で高い技術を披露したJAG-MEを圧倒的な熱量で押し切る形で決勝進出、そしてBESは「お前のメッキ剥がれる」とのS-SENSEのラインに「オマエ一つだけ間違ってる、メッキなんかねえ、オレはオレ」とのいかにも「らしい」パンチラインで快勝、決勝へと駒を進めた。
よって決勝はGOCCI対BES。
結論から言うと、この日行なわれた新旧、2人のMCによる決勝のバトルは、筆者がこれまで目にした「HIP HOP」と名の付くあらゆる事象の中でも最も美しく、感動的なものだった。
この一戦まで自らのスタイルを決して崩さず、必要最小限のアンサーを除いては、まるで相手と同じ土俵に上がることなく勝利を積み重ねてきたBESだったが、GOCCIの鬼気迫る程の熱気の前に、最終的にはリスペクトと共にこの日、はじめて真正面からのアンサーを返してしまう。バトルに「もしも」はないが、ここでもBESがGOCCIのメッセージを受け流し、自らのスタイルを崩さなければ全く違う結果が得られたのかもしれない。しかし、BESが真正面からGOCCIに相対して放った、「頭は下げてもシッポはふらねえ」との切り返しには心底、胸が熱くなった。
この決勝戦を目にして細かな技術論が意味をなさなかったことはこの日、会場に詰めかけたオーディエンス、その全てが理解できただろうが、それは単に「熱いだけ」のフリースタイルが勝利したということではない。35歳にして昨年とは見違えるスキル面での上積みを見せ、背負っている物の重さを浪花節ではなく、ストレートな格好良さを備えた「HIPHOP」として伝えたGOCCIの姿は、確かな技術を備えた上での「その先にあるもの」を明確に示していたはずだ。
一応、最後に触れておくが、この日のイヴェントは歓声を測定する機械の明らかな不備、入場曲の間違いといった初歩的な進行上の不手際など、決してスマートなものではなかった。しかし、そういった些細なトラブルを補って余りある、世界中を見渡しても他に類を見ない、極上のピュアなHIPHOPの姿がここにあった事は断言しておこう。小手先の技術で相手を貶めるのが目的ではなく、単純に自らの信念に基づいた最高のHIPHOPを見せつけ、オーディエンスをロックした者のみが勝ち残った今回の結果は、かつて筆者がどこかで聞いた、HIP HOPが間違った方向へと向かった際に自然と発動するといわれる「浄化作用」なる言葉を思い出させてくれた。“HIP HOP IS BACK”、そんな言葉が似つかわしい、心底素晴らしいと思える一夜だった。
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